都心ではちょっと前にロードショー上映されていた映画ですが、先日、『黄金のアデーレ』を見てきました。ナチスによって没収され、オーストリアの美術館に展示されていたクリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」(黄金のアデーレ)を、所有者の相続人(マリア・アルトマン)が、オーストリア政府を訴えて、2006年に取り戻したという実話に基づくストーリーです。ナチスによるオーストリアの併合後、オーストリアでもユダヤ人に対する財産没収やホロコーストが行われたという時代背景や、オーストリアやアメリカでの裁判シーン、ウィーンに親を残してアメリカに逃げたマリアの人生(両親はその後収容所で死亡)、マリアの親戚でマリアを助けるしがない弁護士の人生などが描かれていて、なかなか良い映画でした。印象に残ったことを4点ほど。

1.子供のマリアが「アデーレ・ブロッホーバウアーの肖像」を見ながら、絵のモデルの叔母のアデーレに、「どうして金ピカなの?」と聞くと、アデーレは、「だってクリムトだからよ」と回答。クリムトのことはあまり知りませんが、そんなに金箔が好きだったのか???と思っていましたが、後で知人から、クリムトは金箔工芸家の一家に生まれ、金箔工芸士をしていたと教わりました。どおりで、という感じですね。

2.アメリカ連邦大法廷で、オーストリア政府の主権免責の主張について、合衆国政府が「もしアデーレの主張を認めると、オーストリア以外にも他国との関係で問題が発生します。」との趣旨の意見を言ったところ、裁判官が、「アデーレさん、あなたの主張を認めると、多くの国際紛争が起こるとアメリカ政府が言っています。」と(何をアメリカ政府はバカなことを言っているのか?)という感じで話しかけたところ。アメリカの裁判映画やドラマを見ていると似たようなシーンはよくでてきますが、日本の裁判所では(少なくとも私は)経験ないですね。

3.マリアを助ける弁護士は、ロースクールでの借金に追われ、独立してもうまくいかず、大手法律事務所に再就職しますが、マリアの件にのめりこむようになってその大手事務所も辞めます。最終的に、この件で大金を稼いだようなので良かったですが、アメリカにおける弁護士稼業も大変ですね。

4.マリア(80歳ちかい女性です。)は、アメリカ暮らしが長いわけですが、着るものもしっかりしているし、なんとなく気品があります(もちろんそういう役だからですが。)。女優は「クイーン」でエリザベス女王を演じたヘレン・ミレンだそうです。

その他、
オーストリアで裁判をすると多額の手数料がかかるのに対し、アメリカでは数百ドルですんだこと(たぶん「黄金のアデーレ」の評価額からして日本で裁判をしても多額の手数料がかかるように思います。)、②他国を民事裁判の被告にすることはできないという国家免除の例外要件が議論されていたこと、③最終的に、(やっぱり裁判は時間がかかるということで)オーストリアの仲裁手続きを利用したことなど、法律の議論がけっこう出ていました。

裁判をとおして正義を実現するという感じの映画は、マット・デーモンの『レインメーカー』、ジュリア・ロバーツの『エリン・ブロコビッチ』などがありますが、『黄金のアデーレ』もお勧めだと思いました。

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