カテゴリ:投稿者別 >   弁護士 鈴木 萌

 近年ますますグローバル化が進み、家族の中に外国籍の人がいる方や、家族が外国に資産を持っている方も増えているのではないでしょうか。

 このような場合、家族が全員日本国籍で、資産も全て日本国内にあるという方とは違う、難しい問題が起きる可能性があります。

 

 まず、法の適用に関する通則法第36条には次の定めがあります。

「相続は、被相続人の本国法による。」

 

 「本国法」とは、原則として、国籍国の法のことを言いますので、被相続人が外国籍の場合は、その国の法に従って遺産が相続されることになります。

 例えば、韓国籍の夫、日本国籍の妻、日本国籍の子という組み合わせの家族がいて、夫が死亡したという場合、残された妻や子が全員日本国籍であっても、夫の相続については韓国法が適用されることになります。この場合、遺産相続について揉めたりすると、日本人である妻や子が、遺産相続について韓国法がどのような定めをしているのかを確認しなければならなくなりますし、この問題を日本の裁判所と韓国の裁判所のどちらに持ち込むのかといった問題も出てくるため、家族全員が日本国籍者の場合に比べて問題が複雑になります。

 

 また、被相続人が日本国籍の場合は、日本法に従って相続がされることになりますが、その場合でも、被相続人が海外に資産を持っていると、現地の裁判所等で一定の相続手続を取らなければならない場合があります。

 例えば、アメリカのプロベイト手続が代表的ですが、アメリカに不動産や預金を持った状態で亡くなった場合、その人がたとえ日本国籍だったとしても、登記名義や口座名義を変更するには、アメリカの裁判所でプロベイトと呼ばれる手続をしなければならないことがあります。

 

 このように、家族の中に外国籍の人がいたり、家族が外国に資産を持っていたりする場合には、日本国内で完結している場合に比べて、相続の際にややこしい問題が出る可能性が高くなります。

 

 相続の問題は、一般的に、できるだけ問題が起きないように生前に対策しておくことが重要になりますが、特に上記のような方は、事前に家族で話し合ってプランニングしておくことが重要になってきます。また、いざという時にその国の専門家等を探せるよう、その国に詳しい人と繋がっておくことなども重要かもしれません。

 こういったプランニングには時間がかかる場合も多いですので、お心あたりの方は、お早めの計画・対応をおすすめいたします。

 皆様、先日のNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20190602)をご覧になりましたか?ネットでもかなり話題になり、再放送もされたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
 この番組は、安楽死を希望する日本人女性が、スイスで安楽死するまでの過程に密着したもので、彼女が亡くなる瞬間も含めて放映されています。私もこの番組を見ましたが、実際に人が安楽死するまでの過程を映像で見るとかなり衝撃的で、改めて多くを考えさせられました。

 

 ところで、安楽死には、「積極的安楽死(直接的安楽死)」、「間接的安楽死」、「消極的安楽死(尊厳死)」の三種類があるとされています。
 積極的安楽死(直接的安楽死)とは、患者を苦痛から解放するために、患者の意思により生命を断つこと、間接的安楽死とは、患者の苦痛の除去・緩和が間接的に死期を若干早めること、消極的安楽死(尊厳死)とは、無益で苦痛をもたらすにすぎない延命措置を中止すること、のことを言います(山口厚「刑法総論 第3版」177ページ)。
 上の定義で言うと、NHKスペシャルの事例は、積極的安楽死(直接的安楽死)に当たりますね。

 

 法律の世界では、安楽死は、死に関する自己決定をどこまで尊重すべきかという文脈で登場することが多く、具体的には、安楽死を実行したり助けたりした医療従事者・家族等を処罰することができるかという形で問題になることが多いです。

 

 日本には、現在、安楽死に関する明確な法制はなく、関連するいくつかの判例があるにとどまっています。
 代表的なところでは、最判平成2112 7日(刑集 63111899頁)、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)、名古屋高判昭和371222日(高刑159674頁)などがありますが、例えば、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)は、安楽死が許容される要件として、①患者に耐え難い激しい肉体的苦痛が存在すること、②患者について死が避けられず、かつ死期が迫っていること、③患者の意思表示があること(間接的安楽死の場合は推定的意思で足りるが、直接的安楽死の場合は明示の意思表示に限る。)を挙げています。

 

 もっとも、上記いずれの事例についても、患者本人の意思に基づくとは認められないなどの理由で、結果的に被告人(医師)には罪が成立するとされていますので、一般論として、安楽死許容の要件は挙がっているものの、具体的にどのような状況であれば、安楽死を実行・手助けしても刑事責任が問われないのかは、はっきりとは分からないままになっています。
 この点は、今後、明確な法制やガイドラインを作るなどして、医療関係者等が混乱しないようにしていく必要があるように思います。

 

 なお、最近、時たま作成の依頼をいただくことがあるのですが、現在、公証役場で作成できる公正証書の類型に、「尊厳死宣言公正証書」というものがあります。(http://www.koshonin.gr.jp/business/b06/q0603
 これは、公正証書の嘱託人が、将来病気にかかり、回復見込みのない末期状態に至ったときは、尊厳死を望む、すなわち死期を延ばすためだけの延命措置を差し控え、中止する旨等の宣言をし、公証人がその宣言を公正証書の形にするものです。
 この公正証書があることで、患者本人が尊厳死を望んでいることが明確となるため、医療現場としても尊厳死を容認しやすくなると言われています。将来的に、尊厳死を望まれる方は、この公正証書を作成することも検討されると良いのではないかと思います。

 

 今回、番組を通じて社会で話題になったこともあり、安楽死に関しては、今後、日本でもますます議論が進んでいくと予想されます。まだご覧になっていない方には、ぜひNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」のご視聴をおすすめします。

 働き方改革関連法に続き、影響が大きそうな法改正として、民法(債権法分野)の改正を行う「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)の施行日が迫ってきています。

「民法の一部を改正する法律」は、201762日に公布され、施行日は202041日を予定しています。(一部例外もあります。)

 民法の債権法分野は、1896年(明治29年)に制定されて以降、実質的な内容の改正が行われないまま、今日まで来ました。ですが、流石に100年以上の時が経つと、現在の社会や経済の状況に合わない規定も出てきます。そこで、今回、債権法分野について大規模な改正が行われることになりました。

 ちなみに債権法分野と簡単に言っていますが、「債権」とは「特定人(債権者)が他の特定人(債務者)に対して、一定の行為(給付)を請求することを内容とする権利」(デジタル大辞泉)のことを言い、民法の債権法分野には、この債権の発生・変更・消滅等に関わる様々な規定が含まれます。一口に債権法分野と言っても、その範囲は非常に広いのです。

 さて、「民法の一部を改正する法律」による改正項目は多岐に渡りますが、法務省は、主な改正事項として次の24個を挙げています。(http://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf

1.消滅時効に関する見直し                                  2.法定利率に関する見直し

3.保証に関する見直し                                              4.債権譲渡に関する見直し

5.約款(定型約款)に関する規定の新設                 6.意思能力制度の明文化

7.意思表示に関する見直し                                       8.代理に関する見直し

9.債務不履行による損害賠償の帰責事由の明確化   10.契約解除の要件に関する見直し
11.売主の瑕疵担保責任に関する見直し                     12.原始的不能の場合の損害賠償規定の新設

13.債務者の責任財産の保全のための制度                 14.連帯債務に関する見直し

15. 債務引受に関する見直し                                         16.相殺禁止に関する見直し

17.弁済に関する見直し(第三者弁済)                     18.契約に関する基本原則の明記

19.契約の成立に関する見直し                                    20.危険負担に関する見直し

21.消費貸借に関する見直し                                        22.賃貸借に関する見直し

23.請負に関する見直し                                               24.寄託に関する見直し

 
 また、このうち重要な実質改正事項として、次の5つが挙げられています。(http://www.moj.go.jp/content/001259610.pdf

1.消滅時効に関する見直し

2.法定利率に関する見直し

3.保証に関する見直し

4.債権譲渡に関する見直し

5.約款(定型約款)に関する規定の新設

 

 今回、一つ一つの改正項目を解説することはできませんが、これを見ただけで、非常に多くの規定が改正されていることが分かりますね。 

 上記改正により、日常生活でもビジネスでも最も重要な債権の発生原因である契約についての規定が変更されたり、発生した債権が不履行になった場合の取扱いに関する規定が変更されたりしています。今後は、これまで使用していた契約書の雛形等の見直しが必要になってくるでしょう。(現在、民法改正に対応した契約書の雛形集などはあまり充実していませんが、これからどんどん出てくると予想されます。)

 特に事業者の場合、今回の改正が関係しない方はほとんどいないでしょうから、少しずつ、改正への対応を進めていきましょう。

 今回は、法律の話から離れて、司法試験とその合格者の現状について、お話ししたいと思います。

 

 法曹になるための仕組みは、今から15年前の2004年に大きく変わりました。
 いわゆる法科大学院(ロースクール)ができたのがこの年で、それまで、司法試験は基本的には誰でも受けられる試験だったのですが、法科大学院卒業者が出る2006年以降は、原則として、法科大学院を卒業しなければ、司法試験を受験することができないことになりました。
(※厳密には、2006年から2011年まで、誰でも受験できる旧司法試験と、法科大学院卒業者しか受験できない新司法試験とが併存していたのですが、この点は置いておきます。現在は、新司法試験のみになっていて、原則として法科大学院卒業者しか司法試験を受験できなくなっています。)

 

 旧司法試験は、誰でも受験できることもあって、受験者数が多く、合格率が低い試験でした。法務省のまとめを見ると、2次試験(法的知識の試験)の受験者数が毎年約20,00045,000人なのに対し、合格者数は毎年約5001,000人で、合格率は3%前後でした(http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/press_071108-1_19syutu-gou.html)。
 一方、新司法試験は、受験資格に制限があるため、受験者数が少なく、合格率は高い試験です。受験者数は毎年約8,000人なのに対し、合格者数は毎年約2,000人で、合格率は23%前後になっています。
 旧司法試験は、受けるまでは簡単で受かるのが難しい試験、新司法試験は、受けるまでが難しく受かるのは(比較的)簡単な試験、という感じでしょうか。司法試験と聞くと、まだまだ旧司法試験のイメージが強いので、新司法試験の合格率を聞くと驚かれる方も多いかもしれませんね。

 

 ところで、この(新)司法試験、ここ数年でガクッと受験者も合格者も減っています。

2014年: 受験者8,015人、合格者1,810

2015年: 受験者8,016人、合格者1,850

2016年: 受験者6,899人、合格者1,583

2017年: 受験者5,967人、合格者1,543

2018年: 受験者5,238人、合格者1,525

2019年: 出願者4,930人【参考】

 

 2015年までは、受験者数8,000人を概ね維持していたのですが、2016年から急激に減り始めました。
 そして、次回、20195月に予定されている司法試験は、出願の時点で5,000人を切っているので、受験者は4,000人強と予想されます。今までの合格率を維持するのであれば、合格者は1,000人前後といったところでしょうか。悲しいことですが、近年の法曹不人気を如実に表していると思います。

 

 一時期、急に弁護士の数が増えたことによって、弁護士の就職難が起きていると取り沙汰されましたが、それも今は昔。図らずも司法試験合格者が減って(減らさざるを得なくて)、新人弁護士の数が減っているため、今はむしろ売り手市場と言っても良いような状況になりつつあります。

 

 最後に、司法試験合格者が、その後どのような道に進むか触れておきます。
 現在、一番フレッシュな法曹(候補)は、201812月に司法修習を終えた71期司法修習生になりますが、71期司法修習生の進路は次のとおりです。(参考:https://www.jurinavi.com/market/shuushuusei/shinro/index.php?id=211

 

司法修習修了者  1517

判事任官者      82

検事任官者      69

弁護士登録者    1267

(うち、東京三会登録716人、五大事務所登録194人、組織内弁護士登録52人)

未登録者        99

 

 特徴的なのは、弁護士登録者の半分以上が東京に登録すること、少なくない人数がファーストキャリアに組織内弁護士を選ぶこと、五大事務所が採用数を大きく伸ばしていることかと思います。

 

 72期以降は、更に司法修習修了者が減っていくはずなので、特に東京以外の事務所や東京でも小規模の事務所の新人採用競争は、どんどん厳しくなるだろうと予想されます。
 一方、企業等の組織に入るという道は、弁護士の進路として確立されてきている印象ですので、資格保有者の採用を考えている企業にとってはチャンスかもしれません。

 
 今回は、興味のある人にはある、司法試験の現状をお伝えしました。
 何らか皆様のお役に立てれば幸いです。

 前回のメルマガで働き方改革関連法について触れましたが、この法律によって派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)も一部改正され、2020年4月1日から、派遣労働者についても同一労働同一賃金が実現されることになりました。これが実務に与える影響はかなり大きいと思われるため、簡単にご紹介します。

 

 派遣労働者については、雇用契約を結ぶ相手である「派遣元企業」と実際の労務提供先である「派遣先企業」が存在しますが、まず、今回の改正により、派遣元企業に対し、派遣労働者について、①派遣先労働者との均衡・均等待遇、又は②一定の要件を満たす労使協定に基づく待遇、のどちらかを実現することが義務付けられました(改正後派遣法第30条の3、第30条の4)。
 ①派遣先労働者との均衡・均等待遇とは、大まかに言えば、派遣労働者について、派遣先の労働者と仕事の内容や配置の変更の範囲等が同じなのであれば待遇も同じに扱わなければならないし、仕事の内容や配置の変更の範囲等が違うのであれば待遇も違っていて良いが、その待遇の相違は仕事の内容や配置の変更の範囲等の相違とバランスの取れたものでなければならない、という意味合いです。

 

 原則として、派遣元企業には、この①派遣先労働者との均衡・均等待遇の実現が求められます。ただ、①を実現しようとすると、派遣元企業は労働者の派遣先が変わる度にその労働者の待遇を変更しなければならないため、煩雑ですし、派遣元企業内での段階的キャリアアップも図りづらくなります。
 そのため、②一定の要件を満たす労使協定に基づく待遇を実現する方法も用意されており、派遣元企業が②の方法を取った場合には、①派遣先労働者との均衡・均等待遇の実現は要請されません。派遣労働者の数が多かったり、頻繁に労働者の派遣先が変わったりする派遣元企業は、②の方法を取る方が簡便と思われます。
 ただ、労使協定の内容についても一定の制限があります(賃金の水準が厚労省の定めるもの以上であること等)し、労働者への周知や行政への届出といった手続が必要になるため、②の方法を取ると決めた場合は、早めに労使協定の締結に向けて動く必要がありそうです。

 

 主要な変更点は上記のとおりなのですが、派遣元企業が①の方法を取る場合、派遣先労働者の待遇に関する情報を知らなければ均衡・均等待遇の実現のしようがありませんし、②の方法を取る場合も、教育訓練や福利厚生施設といった一定の事項については派遣先労働者との均衡・均等待遇が求められるため、いずれにしても、派遣元企業は、派遣先労働者の待遇に関する情報を知る必要があります。
 そのため、今回の改正で、派遣先企業には、派遣契約の締結前に派遣元企業に派遣先労働者の待遇に関する情報を提供することが義務付けられ、派遣元企業は、この情報の提供がなかった場合、派遣契約を締結することが禁じられることになりました(改正後派遣法第26条第7項~第9項)。
 派遣元だけでなく、派遣先の方でも改正への対応が必要になりますので、注意が必要です。

 

 上記をまとめると、改正後に労働者の派遣を行う場合には、一般的には次のプロセスを辿ることになると考えられます。

 

派遣元企業が①派遣先労働者との均衡・均等待遇を実現する場合

 派遣先企業が派遣元企業に、派遣先労働者の待遇に関する情報を提供

 

 派遣元企業が労働者の待遇を検討し、決定

 

 派遣元企業・派遣先企業で派遣料金を交渉し、派遣契約を締結

 

 派遣元企業が労働者を派遣

 

派遣元企業が②一定の要件を満たす労使協定に基づく待遇を実現する場合

 派遣元企業が労使協定を締結

 

 派遣先企業が派遣元企業に、派遣先労働者の待遇に関する情報(一部)を提供

 

 派遣元企業・派遣先企業で派遣料金を交渉し、派遣契約を締結

 

 派遣元企業が労働者を派遣

  

 今回の改正では、上記の仕組みで派遣労働者の同一労働同一賃金が実現されることになりましたが、これが実行された場合、派遣元企業にマージンを支払うこととの関係で、派遣先企業にとっては、派遣労働者を受け入れる方が自社で労働者を直接雇用するよりもコストがかかる可能性が高くなります。
 経済的合理性を考えると、今回の改正によって、今後、派遣労働者の受入れは縮小する方向で進んでいくかもしれませんね。

 昨年、世間を賑わせた働き方改革関連法ですが、だんだんと施行時期が迫ってきています。皆様、対応は進んでいますか?

 働き方改革関連法とは、正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」と言い、2018年6月に可決・成立しました。

同法による主要な変更点は、 

 ① 時間外労働の上限規制の強化

 ② 年次有給休暇の付与義務の導入

 ③ 高度プロフェッショナル制度の導入

 ④ 安全衛生の強化

 ⑤ 不合理な待遇差の是正(同一労働同一賃金)

となっています。

 

 変更点の内容を一つ一つ解説することは、分量の都合で差し控えますが、上記のうち、②③④は適用開始時期が2019年4月となっています。また、①も、大企業は2019年4月から(中小企業主は2020年4月から)適用が開始されることになっています。
 これらはあと3ヶ月程度で制度が始まりますので、早めに対応を考える必要があります。

 ⑤は、2020年4月から(中小企業主に対する一部の適用につき2021年4月から)適用開始となっていますが、改正点の中で最も対応に手間がかかると予想されるため、こちらについても、方針を検討する等の動きをスタートすることをおすすめします。

 

 現在、働き方改革関連法の施行に向けて、厚生労働省がリーフレットを出すなどして周知を進めています(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html)。これらのリーフレットを参考にしたり、専門家を活用したりするなどして、スムーズに働き方改革関連法への対応を完了させましょう!

2018/10/31付の日経新聞に次の記事が掲載されました。

 

「『やせる青汁』根拠なし シエルに課徴金1億円
消費者庁は31日、青汁を飲めば『やせる』と根拠なく宣伝、販売したとして、景品表示法違反(優良誤認)で東京都渋谷区の通信販売会社『シエル』に約1億円の課徴金納付と再発防止を命じた。食品に対する課徴金としては過去最高額。…」

 

 消費者庁「平成 29 年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」34ページ~41ページ(http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_180615_0002.pdf)を見れば分かるのですが、これまで消費者庁が課してきた課徴金の金額は、200万円程度~多くても5000万円程度のことが多く、特に健康食品の場合は、小規模業者が多いためか、課徴金額が数百万円にとどまることも多かったのです。
 その中で、1件で1億円という課徴金額は相当大きく、㈱シエルの事例は、このレベルの課徴金もありうるのだということを世に知らしめる例になったものと思います。

 

 そもそも、景表法5条違反(優良誤認表示・有利誤認表示)の課徴金の額は、課徴金対象期間(課徴金の対象となる行為をした期間)における課徴金にかかる商品の売上額の3%と定められています(景表法第8条第1項)。つまり、違反行為をしている期間が長ければ長いほど、違反行為をして売り上げた額が多ければ多いほど、課徴金の額も上がることになっています。
 ㈱シエルの課徴金対象期間は「平成2841日から平成30730日まで」の約24ヶ月間で、相当長期間ですので、これが課徴金の金額にも響いたものと思われます。

 課徴金納付命令の制度自体、平成284月にできた新しいものなのですが、最近は、前例ができてきたためか、だんだんと積極的に運用されてきているように感じます。
 このくらいであれば…、他もやっているから…、などという理由で宣伝広告物に間違った記載をしていると、ある日突然、行政から景表法違反の指摘が来ることもあります。
 日頃から、景表法違反を起こさないように注意を払いつつ、万が一行政機関から何らかの連絡が来た場合には、直ちに記載を改めるといった対応を取ることが大切です。

2018/7/25付日経新聞に、次の記事が掲載されていました。

「日本マクドナルド バーガー肉で不当表示 消費者庁が措置命令
消費者庁は24日、日本マクドナルドに対し、2017年に限定販売した『東京ローストビーフバーガー』などに『成型肉』を使用したのに『ブロック肉』を使っているかのように不当に表示したのは景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、再発防止を求める措置命令を出した。

 最近のニュースなので、記憶に残っている方も多いかもしれませんね。
 要するに、マクドナルドが景品表示法に違反したという内容なのですが、景品表示法の表示規制は意外に(?)厳しく、何気なくつけた商品名や宣伝文句が規制に引っかかってしまうことがあるのです。

 そもそも、景品表示法は、消費者がより良い商品を選べる環境を守ることを目的として作られた法律で、商品の取引に関する不当表示を規制しています。
 不当表示の規制は、商品の容器・包装上の表示だけではなく、パンフレット、説明書面、ポスター、看板、インターネットをはじめとして、商品に関するあらゆる表示に及びますので、これらの記載の中で、商品の品質や取引条件について、実際のものよりも著しく優良であると示したり、事実に反して競合他社の商品より優良であると示したりすると、景品表示法違反になる可能性が高いです。

 この説明だけでは具体的なイメージが湧きづらいと思いますので、不当表示の具体例として消費者庁が挙げている例を見てみましょう。

 客観的な根拠に基づかないで、商品名に「特選()」、「極上」といった高級感を示す表示をする場合

② 飲食店で提供する料理として「自家製パン」と表示しているが、実際には、市販品のパンを提供している場合

③ (通常何らかの化学物質が使用される)寝具類等の商品において「無添加」との表示をする場合

 ④ 牛の成形肉を焼いた料理のことを「ステーキ」「やわらかステーキ」などと表示する場合

⑤ 包丁の広告において、客観的な根拠に基づかないで、研がなくても長期間切れ味が変わらない旨を表示する場合

⑥ 飲食店で提供する飲料として「フレッシュジュース」と表示しているが、実際には、既製品のジュースや紙パックのジュースをコップに注いで提供している場合

 これらが不当表示の例として挙げられていますが、どれもついついやってしまいそうではないでしょうか?
 事業者としては、広告で消費者を惹きつけようと、深く考えずに、耳障りの良い言葉(「極上」「自家製」「無添加」「ステーキ」「フレッシュ」等)を使ってしまいがちなのですが、根拠なくこういった言葉を使うと、不当表示として、措置命令(消費者庁のウェブサイトでの社名公表を伴います)や課徴金納付命令の対象になってしまうのです。

 景品表示法は、事実に基づかない表示には厳しいです。商品名を考えたり、広告を作ったりする際には、事実に基づかない表現が混ざっていないかよく見て、景品表示法に引っかからないように注意しましょう!

 個人の方の相談を受けているときに多い質問に、「金銭の支払いを求める裁判を起こそうと思っているのですが、裁判で勝ったら、裁判所が相手のお金を探して、取り立ててくれるのですか?」というものがあります。

 このような質問が出てくるのは、裁判所が相手に対して金銭の支払いを命じる判決を出すことから、当然それを実現してくれるのだろうという期待が生まれるためだと思いますが、実際のところ、残念ながら裁判所が相手の財産を探してくれることはありません。

 金銭の支払いを命じる判決が出た場合、原告は、強制執行という手続きを取り、相手の預金や給料を差押えて相手の代わりに弁済を受けたり、相手の財産を換価してその代金の一部を受け取ったりすることでお金を回収することができるようになるのですが、この強制執行の対象になる財産は、原告自身が裁判所に申告しなければなりません。
 つまり、預金を差押えたい場合には、どの銀行・支店に相手の銀行口座があるのかを、給料を差押えたい場合には、相手がどの会社に勤めているのかを、車を差押えたい場合には、相手の車がどのような車種・ナンバーでどこにあるのかといったことを、裁判所に申告する必要があります。

 裁判所はこの申告に従って差押命令を出すことになり、申告された財産が本当に存在しているのか、申告された以外の財産が存在しているのではないか、といったことの調査はしません。(申告どおりに財産が見つかった場合には、申立人はその財産からお金を回収できますし、申告された内容の財産が存在しない場合には差押えは空振りに終わり、費用だけがかかることになります。)

 ですので、訴訟を起こす前に、仮に勝訴判決が出た場合に備えて、強制執行できそうな財産があるか洗い出しておくことが重要になります。

 このとき、真っ先に見つかりやすいのが、不動産や車といった大きな(?)財産なのですが、これらを強制執行の対象とする場合には相当な費用がかかるので注意が必要です。不動産の場合は40~100万円程度、車の場合は10万円程度のお金を、強制執行の申立の段階で裁判所に預け入れるように求められることが多いです。このお金は強制執行の費用等に充てられ、費用に充てられた分は後に相手から取り立てることができるのですが、相手からの取立がうまくいかなければ申立人の負担になってしまいます。

 ですので、このような費用がかかる財産だけでなく、預金や給料といった債権がないかも確認しておいたほうが良いでしょう。(一部金融機関については、勝訴判決を得た後に、弁護士会照会によって預金の有無を確認できる場合があります。)

 訴訟を起こす人にはそれぞれ目的があり、相手に反省を促したい、訴訟を起こすことで和解に繋がる可能性がある、といった事情があることもありますので、相手の財産が見つからないからといって訴訟提起を諦めなければならないわけではありません。ですが、強制執行可能な財産がありそうかどうかということは金銭の支払いを求める訴訟を起こすべきかどうか判断する上で重要な要素になります。
 訴訟を検討する場合には、ぜひ参考にしていただければと思います。

 弊事務所では、破産した会社の財産管理・分配等を行う破産管財案件を扱っていますが、未払賃金の立替払制度の利用を申請する機会が多くあります。今回はこの未払賃金の立替払制度についてご紹介します。

 そもそも、未払賃金の立替払制度は、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、未払賃金の一部を政府が事業主に代わって立替払する制度で、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて独立行政法人労働者健康安全機構が実施しています。
 そのため、企業が倒産してしまい従業員に給与が支払われていないという状況が起きた場合には、この制度の利用を検討することになるのですが、利用には一定の条件があり、次のような労働者や労働債権についてしか立替払が実施されません。

対象労働者の範囲(全て満たす必要があります)

①労災保険の適用事業所で1年以上事業活動を行っていた事業主に雇用されており、倒産に伴って賃金が支払われないまま退職した労働者
②裁判所への破産手続開始等の申立日等の6ヶ月前の日から2年以内に当該企業を退職した労働者
③未払になっている賃金等の額について破産管財人等の証明等を受けた労働者

→事業主の事業活動期間が1年に満たない場合や、労働者が破産等申立日の6ヶ月前よりも前に退職している場合、未払になっている賃金等の金額について破産管財人や清算人等から証明を受けられない場合などは、立替払を受けることができません。

対象労働債権の範囲

①賃金台帳や就業規則、給与明細等によって客観的に認定できる範囲の定期賃金・退職金
②上記のうち、退職日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来しているもの

→賃金額について会社が何も資料を残しておらず、労働者側にも資料がないという場合には立替払が難しいことがあります。また、未払期間が退職日よりもあまりに前の場合は、その期間分は立替払の対象に含まれないことになります。

 細かく言えばもっといろいろな条件があるのですが、立替払条件は概ね上記のようになっており、独立行政法人労働者健康安全機構が破産管財人等から提出された資料を精査して上記の条件を満たしていると判断した場合には、認定額の8割について立替払を実施します。
 ただし、立替払金額には年齢に応じて上限があり、30歳未満の労働者は88万円、30歳以上45歳未満の労働者は176万円、45歳以上の労働者は296万円とされています。
 そのため、賃金を支払われない状態で長期間働いていた労働者や賃金額が高い労働者については、この上限に引っかかってしまい、実際の債権額よりも相当低額の立替払しか受けられない場合があるので注意が必要です。

 また、立替払までにかかる期間ですが、立替払の実施までには、①破産管財人等が賃金に関する資料を集めて未払賃金額を算出、証明書を作成→②労働者が立替払の申請書を作成して提出→③労働者健康安全機構が審査、という過程を辿るため、破産開始決定が出てから立替払の実施までに2~4ヶ月程度がかかってしまうことが多いです。

 以上のように、立替払の対象労働者や対象労働債権の範囲に制約があるほか、立替払額の上限もありますが、本来倒産してしまった企業からは回収できない可能性が高い部分についても立替払いしてもらえるため、この制度は労働者にとって強い味方です。ぜひ覚えておいていただければと思います。

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