このブログの読者であれば、すでにご存じの方が多いかと思いますが、江頭教授の『株式会社法第6版』が出ました。
同書の冒頭の「はしがき」によると、
「 会社法の平成26年改正に対応して本書の旧版(第5版)を昨年7月に公刊したが、その時には、改正に伴う法務省令が未成立であった。本年2月に改正法務省令が公布され、改正法が5月に施行されるので、今回の改正を行うことにした。周知のとおり、会社法の下では法務省令の定めに委ねられる事項が著しく増加している。
また、旧版の刊行後、金乳商品取引法の改正も行われており、判例・学説・自主ルール等の進展もあったので、記述について全般的な見直しを行っている。」
とのことです。
たった6000円ちょっとで株式会社法の最高峰の知識がえられるのですから、実務家としては買わざるを得ないでしょう。
私は買いました。誰か読書会しましょう!
カテゴリ: 書評
書評:センディル・ムッライナタン著『欠乏の行動経済学-いつも「時間がない」あなたに』
準備書面の作成になかなか手が付けられず、ついつい締切り日の前日に徹夜してしまう。しかし、その時は類まれな集中力を発揮して、けっこう満足いくような書面ができる。しかし、実は、翌日にも締切日が迫った準備書面があり、その書面は事前にリサーチが必要な書面で散々の出来。さらに、翌々日には、リサーチのメモを書かなければならないのだが、もう体力も集中力も残っていない。書面の作成以外の仕事はどんどんたまっていくし、家族と一緒に過ごす時間もなくなっていく。もう直前に迫った仕事の火消しに追われ、そのほかのことは何も考えられなくなる。
弁護士であれば、このような負のスパイラルに嵌ることが誰でもあるように思うのですが、どうしてこんなことが起こるのでしょう?この本によれば、それは、人間は「欠乏状態」に置かれると、その欠乏のリカバリーが最優先事項となり、驚くべき集中力を発揮するのですが(欠乏ボーナス)、その優先事項の範囲にない(トンネルの外にある)事項については見えなくなり、しかも、トンネルの外の事項の処理能力(判断能力)は劣っているからなのです。この「処理能力が劣ってしまう」という点について、この本の卓抜した比喩に従うと、他のことの処理で目いっぱいのCPUに、他のことを処理させるようなものとのことなのです。
欠乏には、上記の時間の欠乏のほかに、お金の欠乏、食べ物の欠乏(ダイエット中)、愛の欠乏(孤独な人)、労働力の欠乏(ソフト開発等)と色々あるのですが、この本のすごいところは、その欠乏状態に統一した理論を、実験や調査により科学的に打ち立てようとしているところです。貧乏人は、子供の教育に熱心でなかったり、生活がだらしなくなってしまったり、処方された薬をきちんと服用しなかったりする傾向があるのですが(調査により明らかになっている。もちろん一般的な傾向で、そうでない人もいます。)、何故そうなるのかというと、そもそも彼らがだらしがないからではなく、人間だれでも資金繰りのことを心配しているような状態に置かれると、その他のことの処理能力や適切な判断能力が落ちるからだったのです。常に目先の資金繰りが優先してしまうので、長期的なことを考えて、消費者金融には手を出さない、ということができなくなってしまうし、中には生活保護の申請のための書面作成にも手がつけられないというようなことが起きます。
では、そのような欠乏状態にあるときにはどうしたらそれを脱することができるのか?この本は、個人の欠乏状態みならず、人手が足りず、仕事がうまくまわらない会社の欠乏状態(法律事務所・ソフト開発会社などが典型的ですね)の解消にも有益な手がかりを与えてくれます。社会福祉・医療制度の設計にも重要な示唆があります。
とてもまじめな本です。欠乏状態にある人にはお勧めします。
書評:橘玲著『中国私論』(ダイヤモンド社)
とても面白い内容でした。
人が多すぎて、大きすぎる社会という切り口から中国人と中国社会を分析し、グアンシン(関係)という中国人の人間関係に欠かすことのできない概念を紹介し、さらには、中国共産党という秘密結社のこと、今中国で起こっている不動産バブルのこと、疲弊・腐敗している地方のこと、日本の戦争責任の話、中国の今後のことなど、どれをとってみても深くて興味深かったです。
歴史や経済や経験からの分析が秀逸でした。
冒頭にある現代中国の10大鬼城(大規模な不動産開発をしたのに、ゴーストタウンとなってしまった街)の紹介も凄い。不動産開発の失敗例も日本と全然規模が違いますね。
今年読んだ本のなかで、今のところナンバーワンです。
是非ぜひお勧めします。
書評:チャールズ・R・スコット著『スコット親子、日本を駆ける』(紀伊国屋書店)
スコットさんは、あの「インテル・入ってる」のインテルに勤めるエリートサラリーマンでしたが、2008年に息子が8歳になったときに、会社に無理を言って約2か月の夏休みをとり、(二人乗り自転車のような)自転車で、息子と2人、北海道の宗谷岬から鹿児島の佐多岬まで日本縦断の冒険に出かけます。その時の冒険記がこの本です。北海道でたびたび雨に降られ、旅の途中で足の親指を骨折し、日本アルプス越えでへとへとになりながら、67日かけて日本縦断を達成します。途中、日本の人たちの優しさに触れたり、逆に無視されたり、サイクリング仲間に知り合ったりと様々な経験をします。日本人の妻との間にできた息子に、日本の文化や自然を体験させるため各地の世界遺産にも立ち寄ります。かくして、ニューヨークに暮らし、ちょっと癇癪もちだった息子は、肉体的にも精神的にもたくましく成長していき、また、スコットさん自身も、自分の人生について考え直すことになります。まるでロードムービーのような本なのです。
実は、先週、ある会合で、このスコットさんのプレゼンを聞き、初めてスコットさんのこと知りました。彼のことを、8歳の子供に無茶なことをさせる無謀な父親というイメージでとらえていたら大間違いです。この冒険を行うにあたっても、自転車のリスクは統計的にどれくらいか?とか、どのような自転車がいいか?とか、どのようなルートが適当か?といったことについて詳細にリストアップし、事前に調査しているのです。彼は、この冒険を機に、人生について考え直し、2014年にインテルを辞め、今では、「ファミリー・アドベンチャー・ガイ」としてフリーの冒険家のようなことをしていますが、プレゼンによると、この転職の決断にあたっても、まずは収入を確保できるようにしなければならないと考えて、本の印税収入、講演収入、(インテル時代の経験を生かした)コンサルティング収入などを想定し、積極的な宣伝活動も行い、結果、ナショナル・ジオグラフィックTVでも、彼のことが取り上げられているとのことでした。どこまでも、きちんとプランニングして『現実的』に夢を追い続けている姿は見習わなければならないと思いました。
この本の中で、スコットさん親子は、サイトウさんという方と知り合います。サイトウさんは、教師を定年したのを機に、1人で日本一周のサイクリングの旅の途中の方なのですが、そのサイトウさんが、人生の意味について、「愛する人とできるかぎり多くの時間を過ごすこと、自分に正直に生きるのを恐れてはいけないといこと」と述べています。(反省の意味も込めて言うと)本当にそうですね。
私にも小さな息子がいますが、父親が影響を与えられるのもあと数年間だとおもっています。近いうちに、息子と2人で長期の旅行(冒険)に出ようかかな?いやいや仕事があるから無理かな。いや、そんなことを言ったら、同年代のスコットさんに、”Challenge your limits!” と叱られますね。無理などと考える暇があったら、やらねばならないことをリストアップして一つ一つクリアーしていくことを考えなければなりません。とっても刺激を受けました。
書評:大前研一著『クオリティ国家という戦略』(小学館)
我が国の将来については、
① 国の借金が1000兆円を超え、今後も増加していく見通し。
② 少子高齢化の影響により、現状1億2700万人の人口が2048年には1億人を割ることが予想され、現在でも年間50万人規模で稼働労働者の数が減っており、2040年ころには1800市町村の半数が消滅する可能性がある
③ 公的年金・健康保険制度もこのままでは維持できない可能性がある、
それにもかかわらず、
(1)財政改革の議論進まず、
(2)少子化対策をどんなに頑張ってもいまから増加できる数には制限があるのに、大胆な移民の受け入れの議論は進まず
(2)労働法制をはじめとする種々の規制緩和も進まず、経済成長率は年1%にも達しない(ヘタすればマイナス成長)
(3)年金・保険改革も進まず(このままの状態で推移すれば破綻)
(3)教育改革も中途半端
というわけで、私自身は、考えると本当に暗い気持ちになってしまうのですが、この本は、そのような私にとって、日本の将来について若干の光を見せてくれました。
大前研一氏は、日本の低迷の原因について、従来の工業生産国家・加工貿易国家の国家ビジョンが現状にあわなくなっていることを指摘し、現在、世界で光を放っているスイス・シンガポール・北欧諸国・台湾などに範をもとめ、日本が進むべき道は、クオリティ国家であると述べます。
クオリティ国家とは、大国の近隣に位置しながら、付加価値の高いサービスを世界中に提供して、世界中から富を集め、決して人件費は安くないのに国民が豊かさを享受するような国と言うイメージです。北欧諸国にみられるように福祉も充実しています。
そのためには、世界中から投資を呼び込むための規制緩和が必要でしょうし、税制についても法人税を引き下げて国際競争力を高めることが必要でしょうし、人材についても、同質的で均等な人間を作るのではなく、語学に力を入れることは前提として、自分の頭でものを考えられる人、一芸に秀でた人、リーダーシップをとれるような人を作るような教育にしていかなければならないとしています。
で、そのための道筋も示してくれています。
世界のクオリティ国家(人口400万人~1000万人が適正規模。)との比較から、このようなクオリティ国家に変わるには、日本は大きます。大きすぎて、統一的な国家ビジョンを作れないし、スピード感ある政策の実行が必要なのに、利害関係者が多くて、なかなか物事を決めることができません。
そこで、道州制を導入して、地域に大幅な権限移譲を行い(中央は、外交、防衛、通貨等に特化。)、地域ごとに独自のクオリティ国家を目指すべきといいます。道州制の導入によって中央集権、予算ばら撒き政治の弊害からも逃れられるでしょう。
ただ、一度に道州制を導入することは困難なので、大阪で行われている取り組みや、経済特区の導入により成功事例を積み上げて、道州制及び地域ごとのクオリティ国家を実現すべしというのです。
「さすが鋭い!」の一言です。
現在、安倍内閣の成長戦略の中で行われている改革の中にも、この本で提言されている改革案が散見されるので、オリジナルは大前研一氏なのかもしれませんね。
ただ、改革は一時的に既得権者の痛みを伴うので、なかなか思い切ったものにできません。
(我々の業界の司法制度改革も、我々既得権者が痛みに耐えられず、とん挫してしまいました。)。
大阪の構想も思うようには進んでいないようですし、安倍内閣の特区構想もかなり当初の構想よりもマイルドなものになっているようです。
この本で言及されている道州制についても、そもそも憲法改正が必要になってきますので、簡単なものではないでしょう。
というわけで、この本を読んでも、現状を考えると必ずしも楽観はできないのですが、明確なクオリティ国家というビジョンを示してくれただけで、明るい気持ちになれます。
色々考えさせてくれるとても良い本です。
是非ご一読を!
ちきりん著『マーケット感覚を身につけよう』(ダイヤモンド社)
とっても面白い本でした。
私たちのまわりには、実は見過ごされている価値が沢山あって、それに気づくことができれば、今はITによって市場を通してマッチングして、その価値を第三者に届けることができるので、素晴らしいことできるよ、ということが豊富な事例とともに説明されています。
就職活動や婚活がうまくいかないのは、自分のセールスポイントが何で、それをどのような市場(あえて身内の紹介等の閉鎖的な場を利用するということもあり得る。)でアピールしたらいいのかがわかっていない「マーケット感覚の欠如」が原因とのこと。
マーケット感覚が鋭いと、今や、主婦でも、普通のサラリーマンでも、過疎の進む地方公共団体でも、整理術、キャラ弁、日本特有のサービス感覚、ふるさと納税等々、様々な価値を見出して勝負できる時代になりました。
我々の業界でも、マーケット感覚の欠如が大きな問題ですね。
わたくし的には、「弁護士の数が増えて価格競争が起きるようになったから収入が減った。」などと泣き言をいっていないで、これまでの法律事務所が気がついいない、又は取り組むことができていない価値を見出して、これをオープンな市場で問うて、クライアントから選ばれる事務所にならなければならないと大いに刺激を受けました。もちろん、そのような価値を見出し、定着させ、クライアントから対価をいただけるようになるのは容易なことではないのですが、今は、IT技術の発達等により、かつての時代とは異なり、それが「できる」時代になっています。
この本を読んだからと言ってすぐに「マーケット感覚」が身につくわけではありませんが、そのような方向へ進むためのヒントがたくさん詰まった本です。まだ読まれていない方には、是非一読をお勧めします。
『ビットコイン』って、凄い!
経済学者であり、超整理法でも有名な野口悠紀雄さんの『仮想通貨革命』(ダイヤモンド社、2014年6月)を読んで、たまらなく興奮しました。おそらくアメリカのスティーブ・ジョブズやビルゲイツがパソコンに触れ、日本では孫正義さんや堀江隆文さんがインターネットに触れた時のような気持ちの高ぶりといったら大げさでしょうか。
この本は、ビットコインについて説明した本です。
皆さん、ビットコインというとどのようなイメージを持たれていますか?昨年、日本では、ビットコインを扱っていたマウントゴックスという会社が破産したニュースが大々的に報道されたので、なんだか実態のない通貨で、投機の対象になっていて、いかがわしいもの、というイメージではないでしょうか?
しかし、マウントゴックスは、ビットコインをドルや円に交換する単なる『両替所』であり、マウントゴックスが破産したからといって、ビットコインのシステムの脆弱性が顕在化したわけでもなんでもないのです。
ビットコインの詳しい仕組みの話はこの本に譲るとして、簡単にいうと、ビットコインは、デジタル署名による送金により受け渡され、ブロックチェーンに取引履歴が記録されことにより転々流通が可能となり、さらに、コンピューターのネットワーク(P2Pネットワーク)にプルーフ・オブ・ワークの計算を課すことによってブロックチェーンの改ざんが防止されるような管理者がいない仮想通貨なのですが、そう言われても全然わからないと思います(わたしも書いていてよくわからない。)。
しかし、重要なのは、非常に優れた仮想通貨であるということと、これを支払手段として使用することにより送金コストが格段に安くなるということです。
今は、日本の銀行で送金をしようとすると、国内でも432円くらい(ATM他行あて)、外国の銀行ではもっと大きな金額になります(先日、中国の銀行に10万円を振り込みましたが、1万円も手数料がかかりました。)。
これがビットコインを利用することによりゼロに近づけることができるとするとどうなるか?ですが、まず、eコマースの世界はもっともっと発展していきますが(外国のサイトの商品がクレジットカードを介さないで買えるようになります。)、反面、カード業界が縮小していく可能性があります。それから、銀行の送金業務(とりわけ海外送金)がごそっと銀行の業務でなくなる可能性があるので、銀行業界は縮小していくでしょう(預金と貸付を中心とした本業に回帰していく?)。さらに、このビットコインの技術を応用し、ビットコインを使った株式を作るとすると、ネットを通じて相対で売買ができるようになるので、もはや証券会社なるものは必要がなくなるようです。さらに、一国の通貨の価値が落ちると、国民がビットコインに通過を変えていくというような事態が想定され(そのため、中国では政府がビットコインの利用を禁止しているようです。)、国家に対してもインパクトを与えるとのこと。ビットコインによる取引は捕捉が難しいので、税制にも多大の影響を与えます。
現在、欧米では、ビットコインの利用が急激に増えているといことです。日本では金融機関(銀行等々)のネットワークが発展していますので、ビットコインの利用については金融機関が抵抗勢力になる可能性がありますが、海外でビットコインの利用が一般的になると、国内もそれに逆らうことができないと思われますので(いつもの黒船効果です。)、日本でも一気に普及する可能性があります。
ビットコインに関する周辺サービスも生まれてくるでしょう。我々の世界(法曹界)も、ビットコインによる決済に関連した法制度なり契約書なりを作り出していく必要が発生してきます。パソコンやインターネット技術では我が国はアメリカの後塵を拝しましたが、(現在の状況からするともう遅いのかもしれませんが)ビットコインの周辺技術については是非立ち遅れないようにしなければなりません。
このような大きな変化が、おそらくあと10年とか20年の単位で我々の世界に生じてくることになります。そう考えると、なんだか胸がわくわくするような気持ちになりました。
ビットコインについていかがわしいものというイメージをお持ちの方は是非『仮想通貨革命』をお読みいただければと思います。
書評:長谷川晶一著『プロ野球、伝説の裏と表』(主婦の友社)
私が早稲田大学の任意サークル『ルポルタージュ研究会』に入っていたときに、一緒に活動していた長谷川さんの新刊本です。
今回は、4つの章立てがあり、野茂英雄、王貞治、福本豊、伊藤智仁という4人のプロ野球のレジェンドたちの物語を、彼らをとりまく人たちのインタビューによって浮かび上がらせています。
簡単に私の感想をコメントすると、
(1)野茂英雄
野茂のフォークは、実は回転していて、途中までストレートかフォークかわからないそうです。その技術について、野茂は次のように述べています。
「みんなが言っていたように、僕の指は短く、あまり開きません。そして、手首をロックするのはボールに回転をかけるためでした。回転をかけた方がボールは落ちると思っていたし、バウンドしたときにキャッチャーが止めやすいですし。特にシュート回転気味だとバウンドする方向がだいたい予想できるんです。」
この本には、このような一流選手の細かい技術のこだわりが書かれてあって痺れます。
野茂の章では、鈴木啓示のインタビューも私には心に残りました。鈴木啓示は、野茂が近鉄でプレーしていた時の最後の監督で、野茂とうまくいかなくて、それも一因で野茂がアメリカに行ったといわれています。
「もう少し選手のことをわかってやらなきゃいけなかったね。でも、そこまで降りていく勇気はなかった。自分を捨てなければできないのが監督という仕事。だけど、いつも《鈴木啓示》がどこかにあった。自分を捨てきることができなかった。よくしたいという気持ちがあってのことだけど、自分がやってきたことに自信があったから少し押しつけすぎたかもしれない。もっと選手の声を聞いてあげればよかった。そこは申し訳なかったと思う」
よくここまで聞けたな、と感心しました。
(2)王貞治
王の一本足打法を巡る物語を書いたものですが、王を中心に書いたものではなく、王にあこがれ、又はコーチなどの勧めもあって一本足に挑戦した、片平晋作、大豊泰昭、駒田徳広らに焦点をあてて、一本足打法を主人公にした物語です。
王の
「ホームランってね、球場中の時間が止まるんですよ・・・」「・・・時間が止まっている中で、自分だけがただ1人ベースをゆっくりと回る快感。相手ピッチャーはもうどうしょうもないんだから。その中で1人だけ動いている。その快感を1回でも多く味わいたいから、僕は練習にものめり込むことができたんだよね」
という言葉には、またまた痺れます。
大豊が、日本のプロ野球に入りたくて、台湾での兵役免除の証明書が取れる20歳まで待って来日し、さらに、プロ野球には外国人枠があるため日本人への帰化が認められる25歳まで待って、中日ドラゴンズに入ったというエピソードには感心した。よく挫けなかったな。
(3)福本豊
福本豊の盗塁があったため、クイックモーションなど同時代の投球法や牽制球が進化したという点が面白かった。
とりわけ、東尾のインタビューは面白い。
「そもそも、僕に対する彼の盗塁成功率は90%以上だった。ウエストしたってセーフになるんだから。だったら、もうボークでもいい。ボークなら盗塁の数は増えない。そのうち彼もイヤになってくる。一か八かだね。審判の目をごまかす技術を磨いていったし、キャンプのときには審判を集めて自分で何度も手本を見せて、“目の錯覚だろう。実際には方は入っていないだろう”と説明してみることもやった」
福本が2塁にいるときは、福本の足をめがけて牽制していた、などという凄い発言もあります。
東尾さんは悪人ですね(笑)
(4)伊藤智仁
最近、TVで伊藤智仁の物語が取り上げられて(youtubeでみれます。)、大反響だったようですが、そのネタ元は長谷川さんのようです。
私も、大学時代に伊藤智仁の(短期間だったけど)全盛期を実際にTVで見ていたけど、ほんとムチのように右腕がしなる投げ方で、凄いピッチャーでした。
彼の勝負球である高速スライダーの話がメインで展開され、野球好きにはたまらない。
よろしければ年末年始の読書の1冊に!
書評:『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』
2002年に販売された橘玲(たちばな あきら)さんのベストセラーを、10年以上が経過した現時点において見直し、原文はそのまま維持して、制度が変わったところなどをコメント形式で補足した本です。
ただ、単に制度が変わった部分を補足しただけではなく、今回の改訂の動機などを書いた「はじめに」の部分や、そもそもこの本が書かれるに至った橘さんの1995年という転機のとしのことなど、新しく書き足された部分もあり、旧版をもっている人にとっても楽しめる内容になっています。
この本は、大きく分けると、資産運用について書かれている部分と、マイクロ法人の知識について書かれている部分があります。
(旧版には、PT=どの国家にも税金を納めないPapetual Travelerについて書かれた部分もありましたが、この部分は法改正が激しくて削除されました。)。
資産運用の部分は、ファイナンス理論からして日本人の不動産信仰はどうなの?という話と、生命保険って資産運用的にみてどうなの?という話。我々の周りには実は億万長者がいっぱいいるというトリビアの話もあります。
マイクロ法人の部分は、主に節税に関する知識なのですが、その中で、わが国の制度的な歪みの部分についての言及がかなりあります。私は、職業柄、この手の知識を得やすい立場にありますが、それでもよく調べたなと感心することしきりです。制度融資の話も、中小企業経営者にとっては必須の話ですね。まだ、橘さんの本を読まれたことがない方には、いちど読んでいただくとその凄さがよくわかります。
橘さんのいう「黄金の羽」とは、我が国の制度的な歪みから構造的に派生する「幸運」を手にすることですので、合法的な方法とはいえ、制度的な歪みを利用するところなどが、道徳的に好きになれない人もいるでしょう。
しかし、橘さんの他の著作や、この本の冒頭を見ると、彼の寄って立つ立場がわかります。
目標
Goal
真に自由な人生を生きること。
自由
Liberty
何ものにも拘束されない状態。
経済的独立
Financial Independence
国家にも、会社にも、家族にも依存せず、自由に生きるのに十分な資産をもつこと。
彼は、国家というレベルを超えて、個人が真に自由に生きるために、制度というものを冷徹にみているのでしょう。この本の隠れた魅力は、実はそこにあるのだと思います。
橘さんいわく、2002年にこの本の旧版が書かれたときの我が国の制度的な歪みは、10年以上たった現在でも基本的には変わっていないとのこと。そして、制度的な歪みは、時期は特定できないものの、いつかは顕在化して破たんに至るとのこと。とても怖い本でもあります。
書評:岡口基一著『要件事実入門』(創耕舎、平成26年9月)
岡口基一裁判官による要件事実論を説明した本です。
私(49期)が修習生だったころは、司法研修所の本(白表紙)で、断片的に要件事実を教わったので、よもやこの本で解説されているように、①民法を裁判規範と考えるか、行為規範と考えるか、ということが、実は要件事実論と関係していたり、②要件事実の定義には色々とあり、司法研修所の解釈も時代により変遷していたり、③「a+bの理論」という議論があったり等々、恥ずかしながら知りませんでした。(「a+bの理論」は司法研修所で教えていたようなので、単に記憶にないだけなのかもしれません。)。
こんな面白い世界があるなんて、この本が私が修習生だったころに存在していれば、もう少し興味をもって要件事実を勉強できたかもしれません。
要件事実論をこんなにコンパクトに、しかもわかりやすく説明した本があるなんて、今の司法試験受験生、司法修習生が羨ましい。
ちなみに、実務に出た場合、私の経験からすると、裁判所に提出する書面でも、相手方に出す内容証明でも、要件事実のみを書いた書面ではダメです。要件事実は基礎として踏まえつつ、たとえば、訴状を書く場合も主要事実だけを書けばよいというものではなく、当然に被告から抗弁が提出されることが予想されるときには、先回りして、抗弁が成り立たないことも書かなければなりません。また、「事情」として、紛争に至った経緯とか、この紛争でこちらに理がある(こちらが実質的にも正しいと思わせる)ことも書かないと、結局、裁判官が紛争全体を理解できず、判決の言渡しや和解の成立まで時間がかかることになってしまいます。
さらに、「証明責任の分配」という考え方も曲者で、実務では、証明責任はひとまず棚上げして、たとえば、原告であれば、請求原因事実を立証することはもちろん、抗弁事実も、(それが問題になりそうなのであれば)積極的に不存在を立証していかなければなりませんし、勝敗は、裁判官に80%の心証を得させるというのではなく、(裁判官は、どちらの主張・立証が確からしいか、換言すれば、51対49の心証でも、51の方を勝たせるということを念頭におきつつ)100%の心証を目指して立証していかないとダメだと思います。
しかし、いずれにしても、要件事実は基礎としてとても大事です。法曹(裁判官・検察官・弁護士)と一般の人が書いた書面の違いは、法曹が要件事実を踏まえて書面を書くのに対して、一般の人は、要件事実がわかっていないので、(裁判所に提出する書類としては)不要なことがたくさん書いてあるなと感じることです。要件事実は、法曹にとって、基礎となる不可欠の知識なのです。
この本は200頁弱で、とっつきにくい要件事実がコンパクトにわかりやすくまとめられています。
1日あれば十分に読めますので、これから要件事実を勉強される方、(私のように)もう一度要件事実を復習しようと思われている方には是非是非お勧めします。