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森友学園、加計学園、共謀罪といったニュースに押されて世間的にはあまり大きなニュースにはなりませんでたが、去る平成29年5月26日に改正民法案(債権法関係)が国会で成立いたしました。

 実は、今の民法(債権法関係)は、明治29年(1896年)4月に成立したもので、今回の改正は約120年ぶりの大改正だったのです。1896年というと、まだ日清戦争が終わった1年後で、アメリカではユタ州が45番目の州になり(ちなみに、ハワイがアメリカの自治領になったのは1898年のこと)、アテネでは第1回夏季オリンピックが開催され、日本の東北には明治三大大津波が押し寄せてきて2万人の死者が出ています。日本で鉄道(新橋・横浜間)が初めて走ったのは1872年(明治5年)と比較的早いのですが、電話回線(東京・熱海間)が初めて敷設されたのが1893年、自動車が作られるようになったのは1910年代になってからです。今は平成29年ですが、私なぞはまだ昭和の気持ちで生活していますので、おそらく明治29年当時もまだ江戸時代の気持ちで生活していた人も沢山いたことでしょう。

 というわけで、今の民法はとてつもなく古いので、「錯誤」とか「瑕疵」とか古めかしい言葉が残っているし、その後の時代の変化によって条文の文言どおり解釈するとうまくいかなくなったところを判例で補っているので、条文だけを読んでも結論がよくわからないなどという不都合があります。さらに、民法制定時には想定していなかったようなインターネットなどというものの発達もあったり、もうかなり時代遅れな法律になっていたのです。そこで、一般の人が読んでも意味がとれるようにしたり、これまで判例でつぎはぎ的に補ってきた解釈を条文だけで解釈できるようにしたり、さらに新しい時代に対応する制度を設けたりしたのが、今回の大改正なのです。

 ちょっと一例をあげると、債権を行使しないと債権が消滅してしまう消滅時効期間。これまで原則として10年でしたが、飲食代金や弁護士報酬などは何故か2年であったりとバラバラだったのです。そこで今回の改正で一律5年に統一されました。

 次に、履行遅滞の場合の利率。これまでは5%でしたが、デフレの低金利時代には高すぎますので3%に引き下げられました。また、3年ごとに見直す変動制がとられることになります。

 さらに、連帯保証制度の見直し。「他人の保証人にはなるな!」を家訓としている家があるように、良かれと思って保証人になってしまうと人生を狂わせるような過酷な事態が生じることがよくあります。そこで、これからは、公証人が保証人の意思を確認しないと、保証は認められないことになります。公証人の確認というプロセスで一息入れることで、本当に保証人になっていいものか考える機会を与えるのです。

 加えて、敷金返還のルール。これまで、民法には敷金に関する規定がたったの1条(619条2項)しかなく、しかもとてもざっくりしたものだったのですが、この改正により経年劣化に伴う修繕費については賃借人が負担しなくても良いことなどが明文化されました。

 また、インターネット通販など不特定多数の消費者に提示される「約款」に関する規定も新たに設けられました。消費者の利益を一方的に害すると認められる内容のものは無効とすると定められて消費者保護が図られています。

 この民法改正案は、2009年に法制審議会に諮問されてから、5年以上かけて改正要綱案にまとめられ、2015年3月に国会に法案が提出されました。しかし、安保法案とか、その時々の政局があって、審理が延び延びになっていたものが、ようやく先日可決されたものです。法曹関係者の中には、現在の民法を変える必要がないなどという人もいましたが、やっぱり古かったと思います。改正民法は、公布から3年以内に施行されるとのことですので、まだまだ我々の生活に適用されるようになるのは先ですが、法曹の一人として、この民法の運用を通じて少しでもより良い社会を実現していかなければと思います。

 我々の事務所でも、契約書のひな型の見直しや新しい民法の適用に関する情報を適宜発信していく予定です。こうご期待!

 

 

 

 

 

2017年5月26日の日本経済新聞夕刊1頁の「改正民法が成立 契約ルール120年ぶり抜本見直し」という見出しの記事から抜粋です。

「企業や消費者の契約ルールを定める債権関係規定(債権法)に関する改正民法が26日午前の参議院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立した。民法制定以来、約120年ぶりに債権部分を抜本的に見直した。インターネット取引の普及など時代の変化に対応し、消費者保護も重視した。改正は約200項目に及び、公布から3年以内に施行する。」

ようやく成立したか、という感じですが、現民法はいかにも古かったし、条文だけ読んでても意味が分からないところが散見されたので、改正民法の成立は良かったと思います。

改正民法については、一応勉強しましたが、今後実際に使うにあたって、ブラッシュアップをしていこうと思います。事務所の民法関係の書籍も買いそろえなければなりませんね。やらなければならないことが沢山あるので、頑張りましょう!

以下、2017年5月16日13時57分配信のマイナビニュースの「ひろゆき氏、最高年収を告白 賠償請求30億円を放置し続けたワケ」という見出しの記事からの引用です。

「さまざまなワードで検索する中、『年収3億円のひろゆきが結婚していた』というタイトルの記事がヒット。これについて西村氏は、『ここまでいったことはないですよ』と否定し、『近かったことはありますけど』と訂正。『サラリーマンの生涯賃金くらい』と明かし、2ちゃんねるから生まれたラブストーリー『電車男』がメディア化された時期で、ほぼ何もせず大金を手にしたという。」

「そのほか、過去に30億円もの賠償金を請求され、それを無視したことを『2ちゃんねるの投稿に対する削除要請に従わない場合、1日5万円を支払うよう裁判で判決が出ある場合があるんですよ。面倒くさいから放っておくと、1日5万円加算されていって、すげえ金額になるんですよ。累積で30億円くらいいったと思います』と告白し、『払わずに10年経つと時効になってゼロになる』『不動産所有とか、資産があることが証明されれば差し押さえられるんですけど、証明されなければとれないんです』と説明。西村氏は放置し続け、現在では時効を迎えたという。」

(私の感想)
この西村氏の『不動産所有とか、資産があることが証明されれば差し押さえられるんですけど、証明されなければとれないんです』との発言は、日本の民事執行制度の欠陥をよく説明していると思う。正確には、「証明」ではなくて、「特定」なのであるが、大差はない。要は、債権者側で債務者がどのような財産を持っているのか特定できなければ、裁判所に差押えの申し立てができないのであるが、日本の原状では、債務者に自分の財産を説明させる財産開示制度が穴ばかりの実効性の乏しいものになっていて、また、債務者の銀行口座を銀行に照会する制度が整備されておらず(ただし、最近、メガバンクが弁護士会照会に応じるようになってきていることについてはこちらの記事を参照。)、強制執行をしたくてもできない場合が多いのである。結果、西村氏のように財産をもっている(もしくは少なくとも一時は持っていた)人に対し、裁判で判決をとっても強制執行をかけることができず、えらい不公平な事態が発生してしまっているのである。

現在、法務省の民事執行法部会で、財産開示制度の見直しと、その一環として第三者から債務者情報を取得するための制度づくりの検討が進められている(法務省HPの民事執行法部会へのリンク)。私としては、第2、第3の西村氏が出てこないようにするために、しっかりとした制度と作っていただくことを望む。

現在、国会で審議中の住宅宿泊事業法案は、
(1) 住宅宿泊事業を都道府県知事への届け出制にする
(2) 年間提供日数の上限を180日とする
(3) 地域の実情を反映して、条例により年間提供日数等をさらに少なくできる
(5) 宿泊者の衛生の確保の措置等を義務付け
(6) 家主居住型(ホームスティ型)ではなく、家主不在型(ホスト不在型)の場合には、住宅管理業者と管理委託契約を締結しなければならない
(7) 住宅宿泊管理業業を営むには国土交通大臣の登録が必要
(8) 住宅宿泊仲介事業を営もうとするには、観光庁長官の登録が必要
という骨子です。

この中で、どうも私は「年間提供日数の上限を180日にする」という規制が理解できません。

2016年9月15日15時配信の毎日新聞のニュースによると、

「厚生労働省と環境庁でつくる専門家会議は6月、行政の許認可を得なくても住宅地で民泊を導入できるように新法を制定することを提言した。ただし、営業日数については、空き家の有効活用を求める不動産業界が上限設定に反対、営業への影響を懸念するホテル・旅館業界は年30日以下を主張し、まとまらなかった。
 政府は新法で、宿泊営業の規制を大幅に緩和し、自治体にインターネットで届け出をすれば、住宅地を含むどこでも営業できるようにする。営業日数は「社会通念上、半年を超えると一般民家とみなせなくなる」として、180日を上限として設定する。今後、与党内の議論を経て、閣議決定を目指す。」

とありますので、もともとはホテル・旅館業界の利益を守るために、このような営業日数規制が検討されたことがわかりますが、一般論として、ホテル・旅館業界は社会的弱者でもなく、その既得権益を保護することが営業の自由(憲法22条1項)の規制目的として正当化されるというのはおかしいでしょう。

そのため、政府は、ホテル・旅館業界の保護、などとはいわずに、上記の記事では、「社会通念上、半年を超えると一般民家とみなせなくなる。」などと言っているのですが(注)、いえいえいえ、法案を見ればわかるとおり、住宅宿泊事業とは、(「民家」ではなくて)「住宅」に人を宿泊させる事業であって、1年365日民泊をしても、(もはや「民」家ではなくなるとはいえるかもしれませんが)「住宅」が「住宅」でなくなるということはないでしょう。

いやいやいや、そういう物理的なことを言っているのではなくて、年間180日を超えて営業している場合は、もはやホテルや旅館と同じなのだから、旅館業法上の許可を取得しないさいという趣旨なんだとと考えたとしましょう。年間180日を超えて営業するような場合には、ホテルや旅館と同等の宿泊者保護、公衆衛生確保及び治安維持(テロ対策)目的からの規制をかけなければならなないのだと考えるのです。

しかし、もし宿泊者保護、公衆衛生及び治安維持上の必要があるのであれば、営業日数に関係なく規制をかけるべきであり、なぜ年間180日以上営業すれば急に規制が必要になるか説明がつきません。(そもそも民泊新法案では、宿泊事業者に、宿泊者保護、衛生確保及び宿泊者名簿の備え付け義務を課しているので、それに加えてなぜ営業日数を規制しなければならないのかについても説明が必要ですね。)。

さらに、特区で許可を取得して民泊をする場合には、営業日数規制がかからないことにも説明に窮します。特区であっても、その他の地域であっても、宿泊者保護、公衆衛生確保、治安維持(テロ対策)の必要性は同じはずです。

というわけで、私は、年間180日という営業日数規制には、かなり問題があると考えています。規制緩和を目的とした法案なのに、既得権益を保護するような規制が入っちゃった。

もっともホテル・旅館業界としては、(自分たちと比べると)民泊業者はあまり規制がかかっていないから、営業日数規制をしてもらわないと不公平だ(公正な競争環境が確保されていない。)というような反論はあり得るかもしれません。しかし、それは、ホテル・旅館業界に対する規制が厳しすぎないか?(または無駄なものがないか?)という観点からホテル・旅館業界に対する規制緩和として検討されるべきものでしょう。

(注)「民泊サービス」の制度設計のあり方について(「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書)(平成28年6月20日)の中にも、民泊について、
・住宅を活用した宿泊サービスの提供と位置付け、住宅を1日単位で利用者に利用させるもので、「一定の要件」の範囲内で、有償かつ反復継続するものとする。(4頁)
・上記の「一定の要件」としては、既存の旅館、ホテルとは異なる「住宅」として扱い得るような合理性のあるものを設定することが必要である。(6頁)
・そのような「一定の要件」としては、年間提供日数上限などが考えられるが、「住宅」そして扱い得るようなものとすることを考慮すると、制度の活用が図られるよう実効性の確保にも考慮しつつ、年間提供日数上限による制度を設けることを基本として、半年未満(180日以下)の範囲内で適当な日数を設定する。(6頁)
と同じような説明がなされています。
しかし、なぜ営業日数について180日を上限とすると、既存の旅館、ホテルとは異なる「住宅」として合理性があるといえるのかはよくわかりませんね。


家を購入する場合は、一軒家にするかマンションにするか、という論争がありますが、こと建替えの「自由度」に関しては一軒家に軍配が上がります。

 

家が老朽化して建替えをしようと思ったとき、一軒家であれば法的には所有者の意思で自由に決められます(家族や親族の様々な意見はあるでしょうが)。

マンションでも、区分所有者全員の同意があれば建替えは可能ですが、通常マンションは何十戸、今流行りのタワーマンションであれば100戸を超える戸数を有しており、区分所有者一人一人の思惑があるため、一致した意思形成を行うことは非常に困難です。

 

それではマンションの建替えをするにはどうすればいいのかというと、マンションの集会で「区分所有者及び議決権の各5分の4以上」の多数の賛成を得ることにより建替えの決議をすることができます(区分所有法62条)。マンションの議決権というのは、各区分所有者の専有部分の割合で決まり(同法38条)、専有面積が大きければそれだけ議決権を多く持っていることになります。

しかし、一般に単に集会を開催するための定足数(マンション標準管理規約に則り半数以上としていることが多いです。)を充たすことすら難しいという傾向がある中で、この「区分所有者及び議決権の5分の4以上の多数の賛成」を得ることは相当に難しいことが分かります。

当然ですが人は重大な決断をすることを嫌いますから、建替えという大きな決断をしたがらない人が多数出てしまうことは想像に難くありません。

その上、もし「建替えに一戸数千万円の負担金が必要です。」と言われてしまったら、もはや建替えの「5分の4以上の多数の賛成」を得ることはほとんど不可能になってきます。

 

もし賛成を得たければ「餌」が必要で、例えば負担金はゼロで、建替えて新築に住めますよ、という話が出れば乗ってくる人がいそうです。負担金をゼロにするためには企業の力が必要で、デベロッパーと契約(等価交換契約)をすることで、これが実現するケースもあります。この契約は、従前のマンションの権利と、再建マンションの権利との交換を行うもので、一旦土地の権利はデベロッパーに移り、マンションが再建されたときに、再び各区分所有者に割り当てられるというものです。デベロッパーは、今よりも大きいマンションを建設し、割り当てた後、残りの部屋を売却して利益を得ます。いわば余剰の容積率をお金に換えるというものです。

しかし、当然ながら余った容積率がなければならず、また容積率が余っていたとしても、デベロッパーのほうで売却が難しいと判断されてしまったら実現はできません。

ちなみに、近年マンションの建替え等の円滑化に関する法律が改正され、特定行政庁から耐震性不足の認定がされれば、容積率制限の緩和というボーナスが得られる場合があります。

 

借家人がいる場合の問題や抵当権の問題(建替えをしたら抹消される)等もありますが(これらについては上記円滑化法によって一定の手当てがなされている)、以上のように、まず「5分の4以上の多数の賛成」を得ること自体が非常に困難です。

デベロッパーがつきやすい都心の好立地のマンションを除けば、マンションの建替えをするには相当のハードルがあることが分かります。

 

それでは、立法も行政も、マンションの建替えを円滑化する方向(デベロッパーとの協同を円滑に行う方向)にいけば良いのかといったら、近い将来の空き家問題(住宅の3分の1以上が空き家になるという問題)を考えると、建替えを円滑化して単純にマンションの戸数を増やすことは必ずしも良いとは限りません。

 

この問題は、マンションを売りたい建設業界、住宅ローンで利益を得たい金融業界の思惑もあり、場合によっては政治的な部分も大きいですが、重要な社会問題であるため、今後もこの問題の動向に注目しなければなりません。

現在、法務省の法制審議会民事執行法部会において、「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の創設」が審議されている。

民事執行法上、債務者財産に関する情報を取得する制度としては、債務者本人に自分の財産を開示させる「財産開示制度」というものがある。しかし、この制度は、平成15年の法改正で導入されてから毎年1000件前後しか利用されず、しかも実際に債務者から開示されているのは全体の約35%(平成27年)にとどまっているという。つまり、使い勝手が悪い上に、実効性がないのだ。そこで、現在、前述の民事執行法部会では、財産開示制度の実効性を高めるために、その「見直し」が審議されている。
ただし、そもそも論として、債務者自身に自分の財産を開示させる制度には限界があると考えられるため(債務者には財産を開示しようとするインセンティブがない。)、その「見直し」と同時に、先ほどの「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の創設」が審議されているというわけなのである。

私は、この方向性には大賛成で、民事執行法部会には、是非とも使い勝手がよく、実効性のある制度を作ってほしいと願っている。ただ、法務省の同部会のページを除いてみたところ、ちょっと気になった点があるので、その点を書いておきたい。

同部会の委員には、大学教授、弁護士、裁判官、法務省の役人、労働組合関係の方、消費者団体の方など、そうそうたるメンバーが顔をそろえ、委員会では自己の専門的な知見を披露しているようである。きっとそれらの知見を参考にして、部会の事務局サイドが具体的案をまとめていくのであろう。

それはそれでいいのではあるが、ただ、具体的な制度を作った場合、どれくらいの利用者が想定されるのかとか、銀行には毎月どれくらいの照会がいくことになるのかとかをきちんと数字でシミュレートしておいた方が良いと思うのだ。この辺のところは、裁判所や公証人役場で1年間でどれだけの債務名義が作られていいるのか?そのうちどれだけ強制執行の申し立てがあるのか?現在、弁護士会照会で3大メガバンクにどれくらい照会がなされているか?というようなところから、大体の推計値が出せるのではないだろうか。

このような数字は、制度利用者の中に確定判決等の債務名義所有者だけでなく、執行証書(公正証書)の所有者も含めるべきかとか、銀行の手数料をどうするかという議論にも大きな影響を与えると思う。この制度にかかわる裁判所の人員をどれだけの規模にしたらいいのかを考える上でも必要であろう。何よりも、財産開示制度のときのように、蓋を開けてみたら、あまり使われず、しかも、あまり役に立たなかったなんて不名誉なことを避けられるだろう。

もし既にやっているのであればすみません。

是非、民事執行法部会には良い制度案を作ってほしいと期待しています。よろしくお願いいたします。

小規模(訴額が140万円以下)の民事訴訟事件については、簡易裁判所が第一審の裁判権をもつことになります。今回は、この簡易裁判所における訴訟手続についてのトピックです。

訴訟を提起された被告としては、対応コストがかかることになります。とりわけ、遠方の管轄裁判所で訴訟を提起された場合、対応コストは確実に増えます。書面の作成や証拠の収集等のコストはもちろん、裁判所に出頭しなければならないというのが増大するコストです。


では、一回も出頭せずに、当方の主張をすることはできないか?簡易裁判所の訴訟手続では、できるのです。

簡易裁判所の訴訟手続に関しての特則が設けられています。

(私が日ごろよく通っております主戦場の)地方裁判所の訴訟手続においては、最初の口頭弁論期日に限り、出頭しなくても、当方の主張を書いた書面を陳述したものとみなしてくれます(民事訴訟法158条。擬制陳述)。訴えられた被告側の訴訟代理人が、とりあえず答弁書を出しておいて、1回目の期日には都合がつかないため、出席しないということはままあることです。

この擬制陳述について、簡易裁判所の訴訟手続の特則として、最初の口頭弁論期日以外の期日(続行期日)でも、適用されることになっています(民事訴訟法277条)。

そのため、簡易裁判所の訴訟手続においては、一回も出頭せずに、答弁書や準備書面を提出して主張をすることはできるということになります。


ここまでは条文そのとおりなので、わかりやすいと思います。

では、少し問いを変えて、一回も出頭せずに、当方の主張を裏付ける証拠を提出することはできないか?を考えてみます。

上で述べたように、簡易裁判所の訴訟手続においては、擬制陳述の制度を、最初の口頭弁論期日以外の続行期日にも認めていることからすれば、できそうですよね。そう思われませんか?

ちなみに、民事訴訟法は、「証拠調べは、当事者が期日に出頭しない場合においても、することができる。」という定めもおいています(民事訴訟法183条)。


ですので、証拠も提出できてよいのでは、、、とも思うのですが、結論としては、(原則)できません。

だったら、擬制陳述とかって、ほぼ意味なしですよね。

というのは、民事訴訟は、裁判所を説得する精緻な主張書面を作成したうえで提出することは重要ですが、裁判所は、他方当事者が争う限り、それだけでは事実として認めてくれず、自分の主張を裏付ける証拠を出せるかが勝負の決め手となるからです。


なぜ証拠の提出は「できません」という結論になるのかというと、文書の証拠を書証と呼ぶのですが、民事訴訟法は「書証の申出は、文書を提出し……なければならない」と規定しており(民事訴訟法219条)、ここでいう「提出」は、文書の所持者が出頭して顕出することが必要と解釈されていることがその理由のようです(旧民事訴訟法に関する判決ですが、最高裁昭和37921日第二小法廷判決・民集1692052頁参照)。


確かに擬制陳述という制度はあっても、同制度は出頭自体を擬制しているのではなく、陳述を擬制しているにすぎないため、事前に裁判所に文書を送付していたとしても、実際に出頭しない限り、書証の申出があったとは認められず、裁判所は取り調べてくれないこととなっています。


さて、困りましたね。そこで、私がトライするのは、電話会議システムを利用した弁論準備手続に付してもらうよう求めること(上申書の提出)です。
弁論準備手続とは、法廷で行われる口頭弁論手続ではなく、裁判所の小部屋で行われる争点及び証拠の整理を行うための手続です(民事訴訟法1681項)。ちなみに、実務では、和解の協議も、この弁論準備手続で行われることが多いです。

裁判所が、電話会議システムを利用した弁論準備手続を付すと、こちらは裁判所に行かずとも電話で対応することができます(民事訴訟法1683項)。

この場合、電話で参加した側の当事者については、「出頭したものとみなす」と規定されているのです(民事訴訟法1684項)。

この規定に基づき、出頭自体が擬制されるのです。

そこで、先ほどの議論に戻って、出頭して顕出したということになり、書証の申出があったということで、裁判所も、証拠を取り調べてくれるのです。


弁論準備手続に付すかどうかはあくまでも裁判所が決めることですので、以上述べた方法が必ずしも「使える」わけではありませんので注意が必要です。

ちょっと時間がたってしまいましたが、今年(平成29年)の1月31日に、注目すべき最高裁決定が出ました。

事案は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で逮捕され、処罰された方の氏名と居住する県の名称をキーワードとしてネットで検索すると、この方が逮捕されたことが記載されているウェブサイトが表示されるため、人格権侵害を理由に、検索業者に対して、この検索結果の削除を求める仮処分の申し立てをしたという案件です。

最高裁は、検索業者が検索結果を提供する行為には、検索業者の表現行為という側面を有し、他方、公衆がインターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていると前置きしたうえで、次のように判示しました。

「以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」

「当該公表されない法的利益が優越する」というだけではダメで(「きわどいけど、どちらかというと公表されない利益が優越する」というのではダメ)、そのことが「明らかな場合」と言えなければならないようです。つまり、公表されない利益がかなり優越しますといえる必要があるということでしょうか。

具体的な判断としても、

「児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は、他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが、児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また、本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる
以上の諸事情に照らすと、抗告人が妻子と共に生活し、〔中略〕罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」

として、児童買春をした者の公表されない法的利益が優越することが明らかとは言えないと判断しています。
プライバシー保護と表現の自由の交錯する非常に難しい問題ですが、児童買春をして処罰されると、刑は終了しても一生その記録がネット上からは消えず、非常に厳しい人生を送らなければならないということは言えそうです。児童買春なんてしてはいけません。

2017119日日本経済新聞電子版から

 

「みずほ銀行は民事裁判の支払い義務を果たさない債務者の預金口座情報について、債権者からの請求に応じて開示を始めた。確定判決や和解調書など債務の存在を確認できる文書を示し、弁護士を通じて照会することが条件。既に三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行は開示しており、3メガ銀の対応がそろった。」

 

「ただ応じていない金融機関もあり、法務省は裁判所が開示請求できるよう法改正する方針だ。」

 

わざわざ裁判までして、債務者に金銭の支払いを命じる判決を得たのに、現状、債務者が預金口座をどこかの銀行に移してしまうことにより容易に強制執行を回避できる結果となってしまっていることは以前このブログでも触れたとおりです(実際、裁判で多額の支払いを命じられておきながら、かなり経済的に恵まれた暮らしをしているように見られる方が散見されます。)。
これは、債権者が債務者の口座情報を調査する手段がないことに起因しています。

債権者側の対抗手段としては、弁護士を雇って、弁護士法23条の2が定めている弁護士会照会制度を使い、各弁護士会を通じて、債務者の口座があるか銀行に照会することが考えられますが、これまで多くの銀行では、顧客情報の保護を理由にこの照会に対する回答を拒絶していました。


しかし、この記事にあるように、現在、確定判決や和解調書があることを条件としていますが、三菱東京
UFJ銀行、三井住友銀行及びみずほ銀行の3メガ銀行が、弁護士会照会に対応していただけるようになっています。

 

私は日本社会のあり方として、裁判をして確定判決まで得たのに、債務者の口座情報を調べる手段がなく、判決が絵に描いた餅になるなどということはおかしいのではないかと思っています。裁判所に金銭の支払いを命じられても支払わない債務者の口座情報をそこまで保護する必要はないのではないかと。そういう観点からすると、この3メガ銀行の判断は素晴らしいと思います。行内でいろいろな意見があったのだろうと想像しますが、あるべき日本社会を見据えたまさに英断だと思います。弁護士会がメガ3銀行と協定を締結することによりこのような対応が実現したとのことですので、弁護士会の努力にも感謝したいと思います。

 

記事の最後のところで、「法務省は裁判所が開示請求できるよう法改正する方針」とのことなので、今後民事執行法の一部改正を睨みながら、いろいろな動きが出てくると思います。その点も注目ですね。

 

なお、弊事務所ではさっそくこの弁護士会照会制度を使わせていただきました!

最近ちょっと残念な最高裁判決(H28.10.18)があったので紹介します。

 

前提として、弁護士には、弁護士法23条の2という条文により、弁護士会を通じて、公の団体や会社等の私的な団体に対して事実の照会をすることができます。条文の記載は次のとおりです。

 

(報告の請求)

第二十三条の二  弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。

2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

 

これは、国民の権利を守るためには、弁護士にこのような照会権限を認めた方がいいだろうという判断からなのですが、ただ、個々の弁護士に照会権限を認めるのは適当でない場合があるので(悪い弁護士もいますからね。)、弁護士会に適切な照会か否かを判断させて、弁護士会を通じて照会権限を行使させようとしているのです。

 

ところが、近年の個人情報保護の高まりなのでしょうか、最近、この弁護士会照会を拒絶する団体が増えています。そのため、個々の弁護士が、拒絶した団体に対し、照会に回答する義務があるにもかかわらず回答を拒否するのは不当だとして損害賠償を求める案件が頻発したのですが、裁判所は、弁護士法第23条の2に基づく報告義務は弁護士会に対するものであり、個々の弁護士に対するものではないから、個々の弁護士に対する不法行為は成立しない(拒絶しても、照会をした弁護士に対して損害賠償を支払わなくて良い)という判例を連発したのです。

 

そこで、今度は、個々の弁護士ではなく、弁護士会自体が立ち上がりました。弁護士会が、照会を拒絶した団体に対して、損害賠償を求めるようになったのです。

事案は次の通り。

 

1.AさんがBさんに対して、株式の購入代金名目でお金を騙し取られたと主張して、損害賠償を求める訴訟を提起したところ、おそらくAさんの主張に理由があったのでしょう、BさんがAさんに損害賠償金を支払うことを内容とする訴訟上の和解が成立しました。

 

2.しかし、Bさんが和解に従って損害賠償を支払わず、かつ、住む場所も移転して(しかも住民票は移転していない)、どこにいるかわからず、ただ郵便物は転送されている形跡があったため(ここまでは、判決には記載されていない私の推測です。)、Aさんの弁護士は、強制執行準備のため、所属する弁護士会を通じて、日本郵便株式会社に対し、転居届が提出されているか及び転居届記載の新住所について弁護士法23条の2に基づく照会をしました。

 

3.しかし、(最高裁判決からは理由が不明ですが)日本郵便は、報告を拒絶。

 

4.そのため、弁護士会が日本郵政を相手に、不法行為を理由に損害賠償を求めました。

 

というのが事案の概要です。

原審の名古屋高裁は、1万円という信じられないような少額ですが、日本郵政の不法行為を認め、弁護士会への損害賠償の支払を命じました。

 

ところが、最高裁は、次のように述べて、損害賠償の成立を否定しました。

 

「23条照会の制度は、弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして、23条照会を受けた公務所又は行使の団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり、23条照会をすることが上記の公務所又は行使の団体の利益に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み、弁護士法23条の2は、上記制度の適正な運用を図るために、照会権限を弁護士会に付与し、個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると、弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るために過ぎないのであって、23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するとは解されない。したがって、23条照会に対する報告を拒絶する行為が、23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。」

 

(以下、私の感想です。)

 

1.えっ!信じられない。とても変な理屈だ。個々の弁護士が損害賠償請求をしたら、弁護士会照会に基づく報告は照会を申し立てた個々の弁護士に対する義務ではないから、という理由で損害賠償を否定しておきながら、弁護士会が損害賠償請求をすると、今度は、弁護士会には法律上保護されるべき利益はないから、という理由で損害賠償請求を否定する。これでは、弁護士会照会制度が侵害されても、誰も利益を侵害されないということなのか???

 

2.この判決は、弁護士会の主位請求である損害賠償請求については弁護士会に法的に保護されるべき利益はないとして否定しておきながら、予備的請求である報告義務確認請求については、「さらに審理をつくさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。」などと仰っている。えっ、えっ、じゃあ、差戻審の名古屋高裁で、日本郵政に報告義務があると確認されたらどうなるの?義務違反が認定されても誰も損害賠償を請求できない?義務加害者の違反が認定されても、損害賠償も請求できないなんて、そんな法律上義務、意味ないじゃん!

 

3.法律学は科学ではないので、原審のように弁護士会には法律上の利益はあると考えることもできるし、最高裁のように法律上の利益はないとも考えることができます。要するに重要なのは価値判断です。ところで、この判決は、いったい誰のどのような利益を保護しているのだろう?詐欺の被害者であるAさんが権利の実現に苦しんでいるのに、Bさんは単に居住場所を変えることで(転送届によって郵便物もちゃんと受領しながら)のうのうと暮らしている。まさかAさんの権利実現よりもBさんのプライバシーを優先しているのではないですよね?おそらく、そうではなくて、日本郵政がいちいち照会に応じなければならない不利益を優先したのかもしれないけど、それってAさんの権利実現よりも優先すべきなのかな?それで良い社会になるのかな?この判決を出した裁判官が一回でもAさんの立場になってみれば、きっとわかると思うな。

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