カテゴリ:知財法務 >   商標法

2018/10/31付の日経新聞に次の記事が掲載されました。

 

「『やせる青汁』根拠なし シエルに課徴金1億円
消費者庁は31日、青汁を飲めば『やせる』と根拠なく宣伝、販売したとして、景品表示法違反(優良誤認)で東京都渋谷区の通信販売会社『シエル』に約1億円の課徴金納付と再発防止を命じた。食品に対する課徴金としては過去最高額。…」

 

 消費者庁「平成 29 年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」34ページ~41ページ(http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_180615_0002.pdf)を見れば分かるのですが、これまで消費者庁が課してきた課徴金の金額は、200万円程度~多くても5000万円程度のことが多く、特に健康食品の場合は、小規模業者が多いためか、課徴金額が数百万円にとどまることも多かったのです。
 その中で、1件で1億円という課徴金額は相当大きく、㈱シエルの事例は、このレベルの課徴金もありうるのだということを世に知らしめる例になったものと思います。

 

 そもそも、景表法5条違反(優良誤認表示・有利誤認表示)の課徴金の額は、課徴金対象期間(課徴金の対象となる行為をした期間)における課徴金にかかる商品の売上額の3%と定められています(景表法第8条第1項)。つまり、違反行為をしている期間が長ければ長いほど、違反行為をして売り上げた額が多ければ多いほど、課徴金の額も上がることになっています。
 ㈱シエルの課徴金対象期間は「平成2841日から平成30730日まで」の約24ヶ月間で、相当長期間ですので、これが課徴金の金額にも響いたものと思われます。

 課徴金納付命令の制度自体、平成284月にできた新しいものなのですが、最近は、前例ができてきたためか、だんだんと積極的に運用されてきているように感じます。
 このくらいであれば…、他もやっているから…、などという理由で宣伝広告物に間違った記載をしていると、ある日突然、行政から景表法違反の指摘が来ることもあります。
 日頃から、景表法違反を起こさないように注意を払いつつ、万が一行政機関から何らかの連絡が来た場合には、直ちに記載を改めるといった対応を取ることが大切です。

先日、とあるトンカツ屋さんにランチで入ったのですが、そのトンカツ屋さんの名前は、「B〔地名〕○○〔店名〕」であり、Aという地域でとても人気のある「○○〔店名〕」(以下「このお店のことを、わかりやすいように「A〇〇」といいます。)と店名がとても似ていました。

そこで、私は、てっきり「A○○」の暖簾分けだろうと思って、そのお店に入ったのです。

ところが、後で店員さんに聞くと、「『A○○』とは何の関係もない。」ということでした。

この「B〇〇」というトンカツ屋さんは、地元ではとっても人気があるらしく、店内はサラリーマンで満員でしたし、食べたトンカツは丁寧に作られていて、とても美味しかったので、私としては特に不満はありませんが、しかし、ちょっと「A○○」との関係については気になりました。

私が、A○○」の暖簾分けだろうと思ったように、「A〇〇」との関連を想像してお店に足を踏み入れる人もいるだろうと思うからです。それは、自分のお店の努力によって勝ち得たものではなく、「A○○」の評判に便乗してのことと思います。また、仮に「B〇〇」のトンカツが酷い味であった場合、「A〇〇」も評判を落としかねません。

さらに、「A〇〇」がB地域にも出店したいと考えた場合、どうしても似た名前の「B〇〇」の存在が邪魔になります。


画像 003

(本文と写真とは、トンカツについてのものであること以外無関係です。)

よくよく考えてみると、この種の問題は、トンカツ屋さんだけでなく、蕎麦屋さん、鰻屋さん、ラーメン屋さんなどにも多いのではないでしょうか。街を歩くと同じような店名のお店によく遭遇します。

このブログの読者には、この問題を解決するのは簡単でしょう。

そう、このような事態を避けるためには、「A○○」の経営者(会社又は個人)が、「A○○」という店名を商標登録することが考えられますね。

仮に第三者が「A」という地名部分を他の地名に変えても、一般に、地名というのは識別力がない(低い)と考えられているので、「B○○」というお店が出てきたときには、「A〇〇」と「B〇〇」は類似商標ということになり、「A〇〇」の経営者は、「B○○」という店名を使っている者に対して、使用の禁止や、(もし損害があれば)損害の賠償を請求することができます(商標法第36条・第38条参照)。

ただ、私の尊敬する六本木の弁理士神保欣正先生から教えていただきましたが、実は、飲食業の店名の商標登録というのは、平成
3年の商標法の改正により、平成441日からスタートしたもので、それまではなかったそうです。もう少し正確にいうと、平成441日より前には、「商品」のみが商標登録出願の対象で、金融・運送・飲食・広告・宿泊などのサービス業者が自己の提供するサービスを他人の提供するサービスから識別するためのマーク(サービスマーク)は商標出願の対象ではなかったのだそうです。そして、飲食店というのは、商品ではなく、サービスを提供する場所であり、店名はサービスマークと考えられていたため、商標登録をすることが難しかった、ということのようです。

そのため、平成441日より前から、善意で同じ商標を使用していた人を保護するために、商標法(平成352日法律第65号)附則が制定されており、次のように定めています。

少し難しいかもしれませんが全文を引用すると次のとおりです。
(施行後6月経過前の使用による役務に係る商標の使用をする権利)

3 この法律の施行の日から6月を経過する前から日本国内において不正競争の目的でなく他人の登録商標(この法律の施行後の商標登録出願に係るものを含む。)に係る指定役務又は指定商品若しくは指定役務に類似する役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその役務についてその商標の使用をする場合は、この法律の施行の日から6月を経過する際現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内において、その役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。

 前2項の規定は、防護標章登録に基づく権利に準用する。


この平成
3年の商標法の改正は平成441日から施行されました。

つまり、本件でも、「B○○」が平成44月以前から営業していれば、この附則の規定によって、「A○○」の商標権の主張を排斥することができる可能性があるとのことになります(もちろん、「B○○」の経営者に、「B〇〇」という店名の使用について、「不正競争の目的」がある場合はダメですし、「B〇〇」という使用の範囲も、平成4年当時の使用の範囲に限られます。)。


というわけで、まとめると、

① 人気のある飲食店の経営者は(私に言われるまでもないかもしれませんが)、店名について商標登録をしよう!というお話と、

②飲食店のお店の名前ってとっても重要なのに、実は商標登録ができるようになったのは、つい20年ほど前(バブルが崩壊したころです)だったのだ(豆知識)

というお話でした。

↑このページのトップヘ