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 日々の業務の中で、本人訴訟にチャレンジしている方から相談を受けることがあるのですが、本人訴訟の意外な躓きポイントが「訴状の送達」です。

 

 そもそも、訴訟は、原告から提出された訴状を、裁判所が被告に送達して初めて始まります。

しかし、訴状の送達先の住所は、原告の方で調べて裁判所に申請しなければなりません(裁判所は調べてくれません)。そのため、原告側からの典型的な相談として、「被告の住民票上の住所に訴状を送ってもらったが、被告がそこに住んでいないようで訴状が届かなかった。どうしたらよいのか。」というような相談が出てきます。

このような場合、原告は訴状を送達するためにどうすれば良いのでしょうか?

 

送達は通常、裁判所書記官が、被告の住所や居所などに特別送達郵便を送るという方法で実施します(民訴法1031項)。しかし、この特別送達郵便は書留郵便等と同様、送達場所にいる被告本人や関係者に受け取ってもらわないと、配達されたことになりません。被告等が受け取らずに放置している場合や被告がそもそも住所等にいない場合には、送達できなかったものとして裁判所に戻ってきてしまいます(一部例外もありますが、今回は省略します)。

 

こうなった場合ですが、民事訴訟法には、原則的な送達場所である住所や居所等に送達できない場合には就業場所に送達できる旨の規定があります(1032項)。したがって、まず、原告の方で被告の就業場所を調査し、就業場所が判明すれば、そちらに送達し直すことになります。就業場所には従業員が多数いる場合が多いでしょうから、住所等に送達する場合よりも訴状を受け取ってもらえる可能性は高まります。

 

しかし、調査しても被告の就業場所が判明しない場合や就業場所にも送達ができなかった場合というのもあり得ます。この場合、原告に残された手段は2つあります。1つは付郵便送達(107条)、もう1つは公示送達(110条)という方法です。

 

付郵便送達は、訴状を書留郵便扱いにして被告の住所等に発送する方法です。この送達方法の特徴は、送達の効果が書留郵便の発送時に生じるところにあります(1073項)。したがって、被告が実際に受け取るか否かに関わりなく、郵便を発送した段階で送達があったものとして扱われることになるため、原告にとっては非常にありがたい送達方法です。

しかし、付郵便送達には一定の制限があり、付郵便送達が有効な送達として扱われるには、書留郵便の宛先である住所等に現実に被告が居住していることが必要とされています(東京高判平成4210日判タ787262頁)。したがって、原告が付郵便送達を使おうとする場合、送達しようとしている場所を調査するなどして、その場所に被告が住んでいるということを証明しなければなりません。これが意外と大変で、実際に送達場所に行って、被告が住んでいるかどうか写真を撮るなどして裁判所に報告するといった作業が必要になってきます。

 

このような調査を経ても被告の住所等が不明で、付郵便送達も使えないという場合、最終的には公示送達を行うことになります。公示送達は、裁判所書記官が、送達書類を保管し、いつでも被告に送達するということを裁判所の掲示板に掲示する形で行われ(111条)、この掲示の開始から2週間が経つと、訴状が被告に送達されたものと扱われます。

したがって、最終手段として公示送達を使うことで、被告の居場所が全くわからなくても訴訟を始めることが可能です。

 

もっとも、公示送達の場合、仮に被告が答弁書を出さずに訴訟を欠席した場合でも、原告の方で証拠を提出して自分の主張を証明しなければなりません(1593項但書)。公示送達以外の送達方法の場合は、被告が裁判に欠席すれば、原告が証拠を出すまでもなく原告の主張が全て認められますので、この点で公示送達は原告に不利です。

また、公示送達で訴訟を始めたとしても、居場所すら分からない被告について資産を把握するのは困難なため、強制執行が難しいのが通常です。特に金銭請求などの場合は、そもそも訴訟を起こす意味があるのかについて慎重に検討する必要があります。

 

 以上のとおり、通常の送達よりも時間や労力はかかりますが、法律上は、被告の居場所が分からなくても、訴訟が起こせる仕組みが整えられています。

 もしも、どこにいるか分からない人や訴訟から逃げ回る人に対して訴訟を起こしたいという場合には、このような送達の方法を検討してみてください。

 

以下、2017年5月16日13時57分配信のマイナビニュースの「ひろゆき氏、最高年収を告白 賠償請求30億円を放置し続けたワケ」という見出しの記事からの引用です。

「さまざまなワードで検索する中、『年収3億円のひろゆきが結婚していた』というタイトルの記事がヒット。これについて西村氏は、『ここまでいったことはないですよ』と否定し、『近かったことはありますけど』と訂正。『サラリーマンの生涯賃金くらい』と明かし、2ちゃんねるから生まれたラブストーリー『電車男』がメディア化された時期で、ほぼ何もせず大金を手にしたという。」

「そのほか、過去に30億円もの賠償金を請求され、それを無視したことを『2ちゃんねるの投稿に対する削除要請に従わない場合、1日5万円を支払うよう裁判で判決が出ある場合があるんですよ。面倒くさいから放っておくと、1日5万円加算されていって、すげえ金額になるんですよ。累積で30億円くらいいったと思います』と告白し、『払わずに10年経つと時効になってゼロになる』『不動産所有とか、資産があることが証明されれば差し押さえられるんですけど、証明されなければとれないんです』と説明。西村氏は放置し続け、現在では時効を迎えたという。」

(私の感想)
この西村氏の『不動産所有とか、資産があることが証明されれば差し押さえられるんですけど、証明されなければとれないんです』との発言は、日本の民事執行制度の欠陥をよく説明していると思う。正確には、「証明」ではなくて、「特定」なのであるが、大差はない。要は、債権者側で債務者がどのような財産を持っているのか特定できなければ、裁判所に差押えの申し立てができないのであるが、日本の現状では、債務者に自分の財産を説明させる財産開示制度が穴ばかりの実効性の乏しいものになっていて、また、債務者の銀行口座を銀行に照会する制度が整備されておらず(ただし、最近、メガバンクが弁護士会照会に応じるようになってきていることについてはこちらの記事を参照。)、強制執行をしたくてもできない場合が多いのである。結果、西村氏のように財産をもっている(もしくは少なくとも一時は持っていた)人に対し、裁判で判決をとっても強制執行をかけることができず、権利を持っているのにそれが実現できないというえらい不公平な事態が発生してしまっているのである。

現在、法務省の民事執行法部会で、財産開示制度の見直しと、その一環として第三者から債務者情報を取得するための制度づくりの検討が進められている(法務省HPの民事執行法部会へのリンク)。私としては、第2、第3の西村氏が出てこないようにするために、しっかりとした制度と作っていただくことを望む。

現在、法務省の法制審議会民事執行法部会において、「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の創設」が審議されている。

民事執行法上、債務者財産に関する情報を取得する制度としては、債務者本人に自分の財産を開示させる「財産開示制度」というものがある。しかし、この制度は、平成15年の法改正で導入されてから毎年1000件前後しか利用されず、しかも実際に債務者から開示されているのは全体の約35%(平成27年)にとどまっているという。つまり、使い勝手が悪い上に、実効性がないのだ。そこで、現在、前述の民事執行法部会では、財産開示制度の実効性を高めるために、その「見直し」が審議されている。
ただし、そもそも論として、債務者自身に自分の財産を開示させる制度には限界があると考えられるため(債務者には財産を開示しようとするインセンティブがない。)、その「見直し」と同時に、先ほどの「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の創設」が審議されているというわけなのである。

私は、この方向性には大賛成で、民事執行法部会には、是非とも使い勝手がよく、実効性のある制度を作ってほしいと願っている。ただ、法務省の同部会のページを除いてみたところ、ちょっと気になった点があるので、その点を書いておきたい。

同部会の委員には、大学教授、弁護士、裁判官、法務省の役人、労働組合関係の方、消費者団体の方など、そうそうたるメンバーが顔をそろえ、委員会では自己の専門的な知見を披露しているようである。きっとそれらの知見を参考にして、部会の事務局サイドが具体的案をまとめていくのであろう。

それはそれでいいのではあるが、ただ、具体的な制度を作った場合、どれくらいの利用者が想定されるのかとか、銀行には毎月どれくらいの照会がいくことになるのかとかをきちんと数字でシミュレートしておいた方が良いと思うのだ。この辺のところは、裁判所や公証人役場で1年間でどれだけの債務名義が作られていいるのか?そのうちどれだけ強制執行の申し立てがあるのか?現在、弁護士会照会で3大メガバンクにどれくらい照会がなされているか?というようなところから、大体の推計値が出せるのではないだろうか。

このような数字は、制度利用者の中に確定判決等の債務名義所有者だけでなく、執行証書(公正証書)の所有者も含めるべきかとか、銀行の手数料をどうするかという議論にも大きな影響を与えると思う。この制度にかかわる裁判所の人員をどれだけの規模にしたらいいのかを考える上でも必要であろう。何よりも、財産開示制度のときのように、蓋を開けてみたら、あまり使われず、しかも、あまり役に立たなかったなんて不名誉なことを避けられるだろう。

もし既にやっているのであればすみません。

是非、民事執行法部会には良い制度案を作ってほしいと期待しています。よろしくお願いいたします。

小規模(訴額が140万円以下)の民事訴訟事件については、簡易裁判所が第一審の裁判権をもつことになります。今回は、この簡易裁判所における訴訟手続についてのトピックです。

訴訟を提起された被告としては、対応コストがかかることになります。とりわけ、遠方の管轄裁判所で訴訟を提起された場合、対応コストは確実に増えます。書面の作成や証拠の収集等のコストはもちろん、裁判所に出頭しなければならないというのが増大するコストです。


では、一回も出頭せずに、当方の主張をすることはできないか?簡易裁判所の訴訟手続では、できるのです。

簡易裁判所の訴訟手続に関しての特則が設けられています。

(私が日ごろよく通っております主戦場の)地方裁判所の訴訟手続においては、最初の口頭弁論期日に限り、出頭しなくても、当方の主張を書いた書面を陳述したものとみなしてくれます(民事訴訟法158条。擬制陳述)。訴えられた被告側の訴訟代理人が、とりあえず答弁書を出しておいて、1回目の期日には都合がつかないため、出席しないということはままあることです。

この擬制陳述について、簡易裁判所の訴訟手続の特則として、最初の口頭弁論期日以外の期日(続行期日)でも、適用されることになっています(民事訴訟法277条)。

そのため、簡易裁判所の訴訟手続においては、一回も出頭せずに、答弁書や準備書面を提出して主張をすることはできるということになります。


ここまでは条文そのとおりなので、わかりやすいと思います。

では、少し問いを変えて、一回も出頭せずに、当方の主張を裏付ける証拠を提出することはできないか?を考えてみます。

上で述べたように、簡易裁判所の訴訟手続においては、擬制陳述の制度を、最初の口頭弁論期日以外の続行期日にも認めていることからすれば、できそうですよね。そう思われませんか?

ちなみに、民事訴訟法は、「証拠調べは、当事者が期日に出頭しない場合においても、することができる。」という定めもおいています(民事訴訟法183条)。


ですので、証拠も提出できてよいのでは、、、とも思うのですが、結論としては、(原則)できません。

だったら、擬制陳述とかって、ほぼ意味なしですよね。

というのは、民事訴訟は、裁判所を説得する精緻な主張書面を作成したうえで提出することは重要ですが、裁判所は、他方当事者が争う限り、それだけでは事実として認めてくれず、自分の主張を裏付ける証拠を出せるかが勝負の決め手となるからです。


なぜ証拠の提出は「できません」という結論になるのかというと、文書の証拠を書証と呼ぶのですが、民事訴訟法は「書証の申出は、文書を提出し……なければならない」と規定しており(民事訴訟法219条)、ここでいう「提出」は、文書の所持者が出頭して顕出することが必要と解釈されていることがその理由のようです(旧民事訴訟法に関する判決ですが、最高裁昭和37921日第二小法廷判決・民集1692052頁参照)。


確かに擬制陳述という制度はあっても、同制度は出頭自体を擬制しているのではなく、陳述を擬制しているにすぎないため、事前に裁判所に文書を送付していたとしても、実際に出頭しない限り、書証の申出があったとは認められず、裁判所は取り調べてくれないこととなっています。


さて、困りましたね。そこで、私がトライするのは、電話会議システムを利用した弁論準備手続に付してもらうよう求めること(上申書の提出)です。
弁論準備手続とは、法廷で行われる口頭弁論手続ではなく、裁判所の小部屋で行われる争点及び証拠の整理を行うための手続です(民事訴訟法1681項)。ちなみに、実務では、和解の協議も、この弁論準備手続で行われることが多いです。

裁判所が、電話会議システムを利用した弁論準備手続を付すと、こちらは裁判所に行かずとも電話で対応することができます(民事訴訟法1683項)。

この場合、電話で参加した側の当事者については、「出頭したものとみなす」と規定されているのです(民事訴訟法1684項)。

この規定に基づき、出頭自体が擬制されるのです。

そこで、先ほどの議論に戻って、出頭して顕出したということになり、書証の申出があったということで、裁判所も、証拠を取り調べてくれるのです。


弁論準備手続に付すかどうかはあくまでも裁判所が決めることですので、以上述べた方法が必ずしも「使える」わけではありませんので注意が必要です。

2017119日日本経済新聞電子版から

 

「みずほ銀行は民事裁判の支払い義務を果たさない債務者の預金口座情報について、債権者からの請求に応じて開示を始めた。確定判決や和解調書など債務の存在を確認できる文書を示し、弁護士を通じて照会することが条件。既に三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行は開示しており、3メガ銀の対応がそろった。」

 

「ただ応じていない金融機関もあり、法務省は裁判所が開示請求できるよう法改正する方針だ。」

 

わざわざ裁判までして、債務者に金銭の支払いを命じる判決を得たのに、現状、債務者が預金口座をどこかの銀行に移してしまうことにより容易に強制執行を回避できる結果となってしまっていることは以前このブログでも触れたとおりです(実際、裁判で多額の支払いを命じられておきながら、かなり経済的に恵まれた暮らしをしているように見られる方が散見されます。)。
これは、債権者が債務者の口座情報を調査する手段がないことに起因しています。

債権者側の対抗手段としては、弁護士を雇って、弁護士法23条の2が定めている弁護士会照会制度を使い、各弁護士会を通じて、債務者の口座があるか銀行に照会することが考えられますが、これまで多くの銀行では、顧客情報の保護を理由にこの照会に対する回答を拒絶していました。


しかし、この記事にあるように、現在、確定判決や和解調書があることを条件としていますが、三菱東京
UFJ銀行、三井住友銀行及びみずほ銀行の3メガ銀行が、弁護士会照会に対応していただけるようになっています。

 

私は日本社会のあり方として、裁判をして確定判決まで得たのに、債務者の口座情報を調べる手段がなく、判決が絵に描いた餅になるなどということはおかしいのではないかと思っています。裁判所に金銭の支払いを命じられても支払わない債務者の口座情報をそこまで保護する必要はないのではないかと。そういう観点からすると、この3メガ銀行の判断は素晴らしいと思います。行内でいろいろな意見があったのだろうと想像しますが、あるべき日本社会を見据えたまさに英断だと思います。弁護士会がメガ3銀行と協定を締結することによりこのような対応が実現したとのことですので、弁護士会の努力にも感謝したいと思います。

 

記事の最後のところで、「法務省は裁判所が開示請求できるよう法改正する方針」とのことなので、今後民事執行法の一部改正を睨みながら、いろいろな動きが出てくると思います。その点も注目ですね。

 

なお、弊事務所ではさっそくこの弁護士会照会制度を使わせていただきました!

我々法曹の武器は「法律」です。

その法律が役に立たないことを認識することはとてもつらいことです。

先日も、そのつらい出来事に遭遇しました。

 

案件は、日本の会社がタイの会社と契約を締結していましたが、その契約が履行されず、決められたお金を払ってくれないため、契約書で専属的管轄裁判所と定められている東京地方裁判所に訴えを提起しようとしたというものです

 

しかし、問題は、その会社はタイの会社であり、日本には支店も営業所もないことです。

ただ、インターネットで検索してみると、きちんとした英語のホームページを持っており、かなりの規模ですので、実体がない会社ではありません。

 

当初は、「きちんとお金を支払ってくれ」という内容の弁護士代理人名義の文書を国際郵便で送るとともに、相手の社長以下の担当者全員に電子メールで送りつけていましたが、うんともスンとも言ってきません。

そこで、東京地方裁判所に訴えを提起しようということになりましたが、東京地方裁判所に電話して聞いたり、タイを専門にしている弁護士に相談したりして調べてみてみましたが、その実態に愕然としました。

 

まず、タイのその会社に訴状等を裁判所から送達してもらわなければなりませんが、その送達は大使館を通して行うので、6か月以上はかかるというのです。

そして、大使館においても訴状を審査するので、全部タイ語に訳さなければならないとのことでした。

さらに、仮に東京地方裁判所で勝訴判決を得たとしても、その判決は、タイ国では執行できない(つまり判決に基づいて強制執行ができない)ということです。

 

①訴状送達だけで6か月以上、②訴状や証拠資料を全てタイ語に翻訳するとすると多額の費用負担の発生、③しかも勝訴したとしても執行ができない、これでは、裁判をする意味がありません。請求金額にもよりますが、数百万円の訴訟であれば、「やるな」といっているようなものでしょう。

 

確かに、司法は国家権力の作用ですから、国が違えば、法律も異なり、判決なども執行できなくなるのが原則です。しかし、この国際化の時代、国家同士が協力しあって条約を締結することにより、もうちょっとましな対応ができるはずです。これでは外国の会社とビジネスすることのハードルはまだまだ高いといわざるを得ず、安心して外国の会社とビジネスができません。それは、ひいては我が国の損失になっているはずです。我々法曹はこのような状況を恥ずべきと考えて、このような実務を変えていかなければなりませんね。

ちょっと前の記事になりますが、金融・商事判例No.147620151015日号)の「金融商事の目」の古賀政治弁護士(霞総合法律事務所)の『強制執行対象財産の探知と債務者財産情報』というコラムは、「わが意を得たり」と思わせる内容でした。

古賀先生は、せっかく判決を取得しても債務者の財産を把握する方法がない現状を説明のうえで、

「執行対象財産を債権者が知り得ないために強制執行手続によって弁済を受けることが困難となるようでは、訴訟手続を設けて権利の存否を確認したはずの司法制度の実効性が疑われかねない。」

と危機感を表明します。そして、このようなニーズを受けて、平成15年に財産開示手続(民事執行法196条以下)が設けられたものの、

「手続違反に対する制裁が30万円の過料にとどまったこと(同法206条)等の事情によって活発な利用がなされているとはいい難い。」

と説明し、

「このような実情を踏まえ、現在の財産開示手続をより実効的なものとするための改善や新たな制度創設の機運が生まれてきている。〔中略〕債務者財産情報を債権者が取得するための新しい制度として財産照会制度の創設に注目すべきものと考える。この制度は、債務者の銀行等に対する預金債権などの財産情報について、裁判所が、第三者(銀行等)に照会する制度である。」

と紹介しているのです。

このコラムの中でも言及されているとおり、財産照会制度の具体的な内容については色々な議論があると思います。
しかし、現在の強制執行制度がかなり役立たないものであることは明らかであり、その原因が債務者の財産を把握する方法がないことに起因していることも明らかであると思うのです。既に現在の制度不備は一般に広まりつつあり、現に敗訴判決を言い渡されても、「へっちゃら」という方々も増えています(債務は支払わないが、richな社会生活を送っている。)。今は社会・経済が比較的安定しているからいいものの、このような法の実効性がない分野には、反社会的勢力に付け込むすきを与えるので、いったん経済のバランスが崩れると、かつてのように債権回収の分野に反社会的勢力が跋扈するという事態にもなりかねないと思います。
債務者の財産を把握するためのきちんとした制度ができることを切に願っています。

金融・商事判例№1467201561日号)の冒頭「金融商事の目」の山本和彦教授の『民事手続法立法の次なる課題』というコラムにはドキッとしました。内容ではなく、データに。

 

山本教授は、今後、民事手続法立法は、第三次立法時代に入るべきとして、色々な立法課題を挙げているのですが、最後に、「以上のように、民事手続法の第3次立法時代の嚆矢となる課題としては様々なものが想定できる。ただ、問題はこれらの事件が近時全て減少傾向にある点である。」と述べて、具体的なデータを挙げます。

 

10年間で、民事訴訟3%減(最盛期に比し46%減)、不動産執行55%減、債権執行30%減、動産執行81%減、破産68%減、民事再生(通常再生)78%減」

 

だそうです。山本教授は、このような状態について、立法に対する「無風状態」と評していますが、「このような時期であるからこそ、時代の波に煽られた稚拙な改正ではなく、地に足の着いた改正が次の時代に向けて重要である」というのです。

 

しかし、しかし、実務家としては、この民事事件の大幅な減少には本当に滅入りますね。

どうしてこうなったのだろう???


私は裁判の遅さについて危機感を募らせています。
現状、裁判をして紛争を解決しようとすると、いわゆる欠席裁判になる場合を除き、1審の判決が出るのに1年以上の時間がかかるのが普通なのですが、今の時代、1年以上かかるというのは時間がかかり過ぎだと思うのです。実は、裁判が紛争を解決したのではなく、時間が紛争を解決したというような場合も多いように思っています。

そのため、裁判をしても、時間もかかるし、費用もかかるし、おまけに強制執行制度もうまく機能していないため、正直なところ、裁判してもあまり意味ない、というケースが多いように感じます。また、裁判が効果がないため、「やり勝ち」「やられ損」的な事態も結構発生しているように思うのです。


これまで裁判というと、本当に最後の手段で、出来ればやりたくない、というような消極的なイメージだと思います。

ただ、これは、マーケティングという観点からするとかなり失敗しているわけで、紛争が起きたら、裁判所にもっていけば解決するというような積極的なイメージを持ってもらうことが必要だと思います。

でも、私が司法試験受験生だった20年以上前から裁判の迅速化ということはいわれているのですが、かつてよりはましになったものの、まだまだ遅いと思います。特にビジネスの世界では、1年もすれば経営環境はガラッと変わっているので、今の裁判の遅さは致命的だと思います。訴訟手続きについて、今の仮処分なみに3ヶ月もすれば一定の結論がでるというふうにする必要がありますし、仮処分の手続は、1週間程度で結論を出すいわば救急病院的なものにする必要があると思っています。


ただ、裁判の迅速化は、それこそ20年以上前から言われていますが、全然実現していないと思います。そこで、現行の法制度を前提とすると一部暴論もありますが、とにかく思い切ったアイディアを出すことが必要なのではないかと思いますので、ブレーンストーミング的に書いてみたいと思います。

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金融・商事判例2014年10月1日号(№1450)の1頁「金融商事の目」に掲載されている須藤典明東京高等裁判所部総括判事の『信頼される民事裁判のために』という記事は、本当に鋭い指摘だと思いました。私が理解したこの記事の要点を説明すると次のとおりです。

例えば、貸金返還請求訴訟では、原告側が、①金銭の交付と②返還約束の存在を立証しなければならないが、実務では、①についてはあまり争いにならず、②について、被告から金銭は受け取ったが、それは贈与であったとか、出資であったという形(積極否認)で争われるのが普通である。この場合、原告側が主張する返還約束の存在を示す事実と、被告側が主張する贈与等を示す事実は排他的な関係にあるから、実際の審理では、原告と被告との間で、返還約束の事実と贈与等を示す事実との立証比べとなる。そして、例えば、裁判官の心証が、返還約束の存在と贈与等との存在で、それぞれ8:2、7:3、6:4になった場合、従来の考え方からすれば、7:3、6:4の場合には、返還約束の存在が、裁判官の心証として「高度の蓋然性」(80%の心証)に達していないから、原告敗訴となる。
しかし、それは、結果的に30%や60%しか立証されていない贈与等の存在を認定したのと同じ結果をもたらし、いわば消極的誤判をもたらすことになる。
「このような事実認定のメカニズムが、民事裁判に対する当事者の信頼を損なう一因となっているのではないだろうか。高度の蓋然性という原則的証明責任の在り方を再検討すべきであろう。」

明確には記載されていないのですが、この記事には、
「貸金返還請求訴訟での認定判断は、返還約束の存在か贈与等かの選択であるところ、対等な当事者がお互いに立証を尽くしたのであるから、裁判官としては、より確からしいと立証した方を採用するのが公平で、当事者主義にもかなうはずである。」
と記載されていますので、須藤判事は、7:3、6:4の場合にも、原告を勝訴させるのが適当であると考えているのだと思います。
 
私は、従来から、民事裁判は、原告が要件事実を80%の蓋然性で存在するとの心証を裁判官に抱かせたから勝つのではなく、原告と被告の主張立証を対比し、どちらの主張が確からしいかで決まるという実感を持っていましたが、須藤判事の上記記事は、その実感に理論的な根拠を与えてくれたように思います。
確かに、原告と被告が、一方の主張が認められれば他方の主張は認められないという排他的な関係の主張をし合っているときには、実際の審理では、両者の主張が同時並行的に心理され、そのどちらが正しいかの立証比べになりますし、民事事件は、私人間の争いで、当事者主義(処分権主義・弁論主義)が妥当しますので、基本的には、どちら主張が正しそうかで決めてかまわないと思います。
立証に高度の蓋然性(80%)を要求するのは、刑事の世界ということになりましょうか。

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