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201573日日本経済新聞夕刊1面の『改正特許法が成立 社員の発明、企業のものに』という見出しの記事から。

 

社員が職務としてなし遂げた発明について、特許を取る権利を「社員のもの」から「企業のもの」に変えられる改正特許法が3日の参院会議で与野党の賛成多数で可決、成立した。企業は「発明の対価」をめぐる訴訟リスクを減らせる。一方、社員の発明への意欲をそがれないよう企業は特許庁の指針に沿って社員に対価を支払う。

 

「社員の発明、企業のもとに」なんていうと、また労働者を搾取するものでは?などと言われそうですが、この改正がそのようなものでないことは以前のブログに書いたとおりです。

 

「改正法は、特許を取得する権利が企業に帰属するのは、あらかじめ権利の取得や対価の支払いを社内規定などで決めた場合に限った。」ということですので、法律事務所にとってはビジネスチャンスかもしれませんね。

2015年3月8日の日本経済新聞朝刊1頁の「特許侵害、立証容易に」「被告の証拠不提出に罰則」「政府方針」という見出しの記事は注目すべきですね。



政府は特許訴訟で被告の立証をしやすくする制度改正に取りかかる。特許を侵害したとされる側が訴訟に必要な証拠文書を提出しない場合、罰則の導入などを検討する。被害額の算定規定も見直す。侵害された側の勝訴率を欧州各国並みに引き上げ、損害賠償額の水準の底上げにつなげる。


この記事の中で、勝訴率の各国の数字が挙げられています。日本は23%、英国20%、ドイツ63%、フランス39%、オランダ41%ということなのですが、このような勝訴率の違いが、本当は特許が侵害されているのに、証拠が揃わないため、敗訴してしまうということであれば本当に悲劇ですね。

損害賠償額についても、日本では、74億円の損害賠償が認められたのが最高だそうですが、米国では、故意の侵害であれば損害額の3倍までの賠償を命じる制度があるため、約1800億円の賠償が認められたことがあるということで、桁2つ違います(桁二つですぞ!)。

この記事では、「日本の低すぎる賠償額は知的財産権の海外流出の要因にもなっている。」と述べていますが、確かに、私の経験でも、日本では、証拠があつめられるのか?ということや費用(大部分は弁護士費用)のことを考えて、訴訟提起を躊躇しがちなことが多いので、そういう面があるように思います。
今回の特許法の改正の検討により、より特許の権利保護に厚い制度になることを願っています。


 


 

昨日(2015年1月12日)の日本経済新聞朝刊15頁に、野村証券の取引システム訴訟の東京地裁判決に関する記事が出ていました。


野村証券の元社員が仕事で行った発明(職務発明)の対価を会社に求めた訴訟で、東京地裁が昨年秋に出した判決が注目を集めている。現行特許法に基づいて、企業が発明の対価を決める手続きが不合理だったとの判断を初めて示したからだ。元社員への対価支払いは認められなかったものの、これまで発明が少なかった製造業以外の企業にも警鐘を鳴らした格好だ。


対価を決める基準がなかったり不合理だったりした場合、対価は会社が受ける利益などを考慮し、裁判所が決めることになった。不合理か否かは①基準を定める際の使用者と従業員との協議の状況②基準の開示の状況③対価の額に対する従業員からの意見の聴取――などを考慮して判断する。野村証券はこれら3つの手順を踏んでいなかった。


今回の判決は、年内にも実施される勅許法改正後にも影響を残しそうだ。特許庁は職務発明を現在の「社員のもの」から「会社のもの」へ変更し、会社に規定に従って金銭を含めた多様な報奨を社員に与える方向だ。この場合も規定が労使協議などを通じて合理的に策定されることなどが前提となる。


さすが日経新聞という感じで、非常に参考になる記事だと思います。確かに、大手メーカーでは、労使協議などを経て職務発明規定が作られているのが通常ですが、金融機関やサービス業などでは、形式的に整えているだけで、実質がともなっていないことが多いと思われます。法務担当者には、改めて自社の職務発明規定がきちんと①労使協議を経て作られているか、②開示さているか、③従業員の意見聴取の機会を設けているか等々を確認されることをお勧めいたします。 

20141117日の日本経済新聞朝刊17頁の経済学教室に掲載された玉井克哉東京大学教授の『職務発明制度の論点上 従業員への『対価』多様に』という記事はとても示唆に富んでいると思います。


玉井教授は、職務発明について、はじめから企業に権利を帰属させる制度(原始帰属)と、いったん発明者を権利者として企業がその移転を要求できる制度(承継帰属)の2つがあるが、いずれにしても各国の法制度は、最終的に職務発明を企業の権利とすることで一致しているから、「職務発明は発明者のものか、企業のものか?」という議論をすることは間違っていると言います(いずれにしても企業に帰属することになるから、ということでしょう。)。

そして、現行の特許法の最大の問題点は、職務発明の権利を取得した企業が、従業員である発明者に「相当の対価」支払うよう義務付けていることだというのです。

その理由としては、

第一に、中村修二氏の青色発光ダイオード訴訟で、1審が相当の対価を約604億円と判断したのに対し、控訴審での和解額が約6億円だったことからわかるとおり、相当の対価が具体的にいくらかどうか、予測が不可能だということです。「予測可能性に欠ける仕組みは、企業に不必要なリスクを負わせ、日本の国際競争力を損なっている」といいます。

第二に、裁判所で相当対価の結論が出るまでに長い時間がかかることです。中村教授のケースでは、発明から東京地裁の判決までに13年がかかっており、医薬品などの場合には、何段階もの臨床実験を経るだけでも10年以上がかかるのが普通ということなので、相当対価の算定にはもっと時間がかかるのでしょう。

そして、玉井教授は、次のようなとても痺れる文章を書いています。


 市場での売り上げを見てから企業を訴えることのできる発明者など、ごく一握りに過ぎない。その結果として運が良ければ数億円の対価が得られるかもしれないというのが現在の制度である。そんな期待は、企業の研究者を駆り立てる動因にはならない。

 そんな先の、あやふやな期待よりも、たとえば年末にボーナスが出る、翌年の研究費が増える、功績が認められて表彰される、他の従業者より早く昇進する、研究の自由度が上がるといった制度の刺激の方が研究者にとってははるかに有効である。ところが現行法は、個々の発明に対する「相当の対価」を発明者個人に金銭で支払うことを一律に要求し、多様な評価方法を認めない。


 よく誤解されるが、米国の企業内研究者が自己の発明について事後的に「相当の対価」を請求することなどできない。米国企業の従業員が会社に請求できるのは、契約によってあらかじめ定められた報酬だけである。


 発明を無条件で「企業のもの」にするのは従業員である発明者を「奴隷」の立場に落とすものだ、という人もいる。もしそうなら、米国ではほとんどの研究者が奴隷ということになるが、もちろんそんなことはない。発明者を奴隷扱いするような企業からは有能な研究者が逃げ出し、同業他社との競争に負けてしまう。


とっても説得的ですね。


玉井教授の見解で一点心配なのが、日本の労働環境からして、職務発明を、アメリカのように企業と研究者個人の契約の問題として、うまく回るのか?という点でしょうか。まだまだ日本は終身雇用が前提で、労働市場にも流動性がないように思いますので、研究者側が、企業が提示する条件に不満な場合に、他の会社に移れるのか?とか(ここがないと交渉力に欠けることになります)、企業側も、個々の研究者と契約を締結することにまだ慣れていないようなので、その点の準備は大丈夫なのか?とか気になります。また、このような個別の契約の問題とすると、研究の成果が出ない場合には、研究者側の責任も規定することになってくるように思いますので(たとえば、労働契約の終了等々)、その辺が、日本の雇用慣行となじむかどうかも気になりますね。

ただ、最近は優秀な研究者・技術者の海外流出のことがよく報道されており、研究者・技術者の世界はかなりの契約社会になっているようにも思われますので、心配は無用なのかもしれません。
また、いつまでも日本の雇用慣行(?)に拘っていては世界から取り残されてしまうという噂もありますね。。


現在、特許法第35条の職務発明については、特許を受ける権利を原始的に企業に帰属させ、その代わり、従業員発明者に報いる仕組みを各企業が整えるよう法律で義務付ける方向での改正案が特許庁で検討されています(過去記事参照)。
よい改正になることを願っています。

11月16日日曜日の日本経済新聞の1面に『特許料最大1割値下げ』として、特許庁が、わが国の国際競争力を強化するために、早ければ来年の通常国会に特許法の改正案を提出し、特許料を最大で1割程度引き下げることが報道されています。
たった1割なんて、大したことないのでは?と思うかもしませんが、次の記事の箇所をご参照ください。

例えば日立製作所やパナソニックの場合、年間約1万円の特許を出願しており、約6万件の特許を保有している。単純に計算すると毎年の出願料と特許料(付随費用を含む)を合わせて10年間で151億円程度かかる。今回の出願料と特許料の引き下げで最大で10億円程度の特許経費を削減できそうだ。

特許には出願料のほかに維持費もかかるので、かなりの金額になるのですね。

日本の特許出願件数は年間32万件の世界3位。首位の中国の82万件の比べると2.6倍の開きがある。先に外国企業が特許や商標を取得すると、日本企業が海外市場で事業を展開しづらくなるため、政府として料金の引き下げで知的財産権の取得を後押しする。

中国が日本の2.6倍も特許を出願していることに正直おどろきました。

本日の日本経済新聞朝刊に出ていますが、「特許審査で東欧支援 経産省、4ヵ国と覚書  調査機関設立を指導」とのことです。

経済産業省はポーランドなど東欧4ヵ国に、特許の審査を迅速化できるよう支援する。世界の特許の先行事例を調べる専門機関の設立に向け専門家を派遣し、ノウハウを伝える。経済成長が見込まれる東欧で、日本の進出企業が特許権を取得しやすくする狙いもある。

企業や大学が特許を国際出願する際には、手続きを円滑にするため、国際調査機関(ISA)に認定された日本や米国特許庁が予備審査として類似する事例があるかを確認するのが一般的。ISAには現在19の国・地域の特許担当局などがあり、東欧4カ国もISA設立を目指している。


このようなニュースをみると、日本の特許の諸システムのレベルの高さがわかり、うれしくなりますね。
ご担当される担当者の方には、頑張ってほしいと思います。

9月4日の日経新聞朝刊5頁に、「社員の発明、特許は企業に 産業界、報酬ルールに理解」という見出して、特許の職務発明に関する記事が出ていました。少々記事を引用させていただくと、

特許庁は企業の従業員が発明した特許について、条件付きで企業に帰属させる方向で検討に入った。いまは発明した従業員が特許を持つが、企業の設備や同僚の協力なしに発明するのは難しいためだ。ただ従業員に報酬を支払う新ルールを整備し、企業が発明者に報いることを条件とする。


新ルールは、発明者に報いる仕組みを各企業が整えるよう法律で義務付ける方向だ。早ければ秋の臨時国会に特許法の改正案を提出する方針だ。


とのこと。
この特許の職務発明について、当初から企業に帰属させることに変更するというと、「従業員を搾取するな!」などというトンチンカンな批判が出るのですが、今の制度が企業のみならず、従業員側のためにもなっていないことは、以前このブログで書きました。私としては、良い方向の改正だと思います


ソース

プロフィール等にも載せておりますが、私は、長らくコンピュータープログラムを経験しておりまして、ウェブデザインからからアセンブラまで趣味で色々やってきています。

 

なので、たまには、自分の好きな分野について、「ちょっとだけ」マニアックな文章を書いても許されるかなと思い、「訴訟で使えそうな、ソフトウェアソースコードによる簡易な立証方法」についての提案をしてみたいと思います。

 

例えば、ソフトウェアの特許を有するXさんが、この特許を侵害するソフトを開発販売しているYさんに、損害賠償請求することを考えてみましょう。このような場合、どのように特許侵害を立証すればよいでしょうか。

 

一つには、ソフトウェアの動作を見ることが考えられます。実際にソフトウェアを動作させ、その挙動(画面表示や、作成されるファイルなど。)を注意深く見て、特許侵害が分かればそれで決着がつくでしょう。また、そうでなくとも、ソフトウェアの内部を「解析」する方法があります。これは、リバースエンジニアリングなんて呼ばれたりもしますが、ソフトウェアのゼロイチ信号を読み解いたり、動作を分析したりする方法です。しかし、「解析」の手法を取るとしても、「解析」自体が困難な場合も多く、また、やり方によっては法律や契約に違反してしまうこともあります。

 

次に、少し技術的な所を離れて立証することも考えられます。例えば、先の例で言えば、Yの友人の証言で、「Yが、Xの特許を侵害することになるが、かまわずソフトを売ろう!、と言っていました。」なんていう証言が引き出せれば、侵害の立証に役立ちます。ただ、そこまであからさまなケースは実際には無いでしょうし、何より、現物の「ソフトウェア」を離れてソフトウェアの立証を考えることはできるだけ避けたほうが良いと思います。

 

そこで、3つめの方法として、ソースコードによる立証が考えられます。プログラムをやっている人間としては、やはり、ソースコードに基づく立証が一番確実かな、という感覚がします。ただ、「相手方のソフトウェアのソースコード自体、入手なんてできないよ!」という声が聞こえてきそうですが、今回は、交渉や裁判の過程で、相手方から開示されたと仮定しましょう。

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ペコちゃん


本文とは全く関係ありませんが、有楽町不二家のペコちゃんです。夏らしく衣替えですね。








企業に勤める研究者らがその企業の職務上発明をした場合のことを「職務発明」といって、現行の特許法では、
① 特許を受ける権利は発明をした研究者個人に属しますが(
291項柱書及び351項)、就業規則等で予め定めることにより、企業はその特許を譲り受けることができ(331項及び353項)、
② 他方、従業員は、職務発明の承継等について「相当の対価」を受ける権利を有し(
353項)、さらに、
③ その対価については、特許就業規則等で定めることができるものの(
354項)、それが不合理なものであれば、裁判所に「相当の対価」の支払いを求めて訴えを提起できる(354項・5項参照)
という制度になっています。


しかし、このような制度では、企業が高額の支払いを迫られる訴訟リスクが高いとして、経団連等の強い要請があって、政府は、2013625日、「知的財産推進計画2013」を決定し、(1)職務発明を当初から企業が保有する(対価については特に定めない。)こととするか、(2)(帰属についても特に定めないで)従業員と企業の契約に委ねることにするか、のどちらかに改めるとの制度を示しました。

この政府の方針に対しては、朝日新聞が、「会社での発明 特許権は従業員に残せ」という社説(2013619日)を発表し、批判的な論調であり、また、ネット上でも産業界の要請に屈して労働者(研究者)の権利がはく奪されるというような論調の意見が散見されるところです。

私としては、あまりこの問題には関心がなかったのですが、先日、ある大学教授の論考に接し、前述の「産業界が労働者の権利を奪う」というような主張は、そもそもこの問題の本質を全く理解していないことが良くわかりました。理由は以下のとおり。 

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