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今日(2018年1月9日)の日経新聞(電子版)に「夫婦別姓選べず『戸籍法は違憲』 サイボウズ社長が提訴」という見出しの記事が掲載されていました。

(以下記事の抜粋)

「結婚時に戸籍上の姓に旧姓を選べないのは法の下の平等を保障する憲法に反するとして、ソフトウエア開発会社「サイボウズ」の青野慶久社長(46)ら4人が9日、国に計220万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。」

「民法750条は「夫婦は婚姻の際に夫または妻の氏を称する」と定めている。15年12月、最高裁大法廷は、この民法の規定を「合憲」とする初の憲法判断を示した。」

「民法の規定については合憲判断が確定しているため、青野社長らは戸籍法に着目した。日本人と外国人の結婚・離婚や、日本人同士の離婚の際には戸籍上の姓を選べるのに、日本人通りの結婚だけ姓を選べない点を挙げ、「法律の不備であり、法の下の平等に反して違憲だ」と主張する。」

(飛田のコメント)
民法750条については、実際上、結婚の際に女性の方が圧倒的に氏を変更しているという実態を背景に、憲法24条1項の両性の平等規定に違反するとの主張がなされてきましたが、形式上は、男性側の姓を選んでも女性側の姓を選んでもどちらでも良い(ただ、どっちかに決めなければいけない)という制度であるため、少々男女差別だという主張に馴染みにくいところがありました。
ところが、上記の訴訟では外国人との比較から夫婦同姓制度は憲法14条の法の下の平等規定に違反すると理由づけているようであり、非常に良い着眼だと思います。国側は、外国人にできることが、なぜ日本人にはできないのか?そのように区別することに合理性があるのか?という点を主張立証していかなければならず、結構、その立証は難しいのではないでしょうか。
訴訟の行方を注目したいと思います。

1022日(日)に衆議院議員選挙・最高裁裁判官国民審査が行われましたが、皆様は投票に行かれましたでしょうか。台風が上陸したせいか、投票率は53.68%で戦後2番目の低さだったそうです(私は台風の中、雨に濡れながらも投票に行きました。自慢できることではありませんが…)。

さて、今回の選挙では、個人的に法律的な部分に着目しており、それは選挙権の年齢が「18歳以上」に引き下げられてから初めて実施される総選挙であるという点です。
平成276月に公職選挙法が改正されて、今まで20歳以上であった選挙年齢が、18歳以上に引き下げられました。

これを受けて、民法の成年の対象年齢の取扱いも18歳への引き下げが議論されていますが、少なくとも裁判員の対象年齢は今までどおり「20歳以上」に維持されています。もっとも、この裁判員の年齢については、賛否両論あるようです。
個人的には、今回18歳以上に選挙権という民主主義の根幹を構成する権利が付与された以上、法的にも18歳以上は主権者として民主主義の担い手になったと考えます。裁判員として評議に加わるということも国政を決めることと重大性は異ならず、裁判員制度も民主主義の実現の一つだと考えれば、18歳以上であっても裁判員になれるようにするべきだと思います。(ちなみにアメリカの選挙権は18歳以上に付与されて、かつ裁判員よりも重責な陪審員になるのも18歳以上からになっています。)

さて、民法の成年の対象年齢の取扱いが18歳へ引下げられた場合、様々な影響があります。
未成年者は、法定代理人(多くは親)の同意なく契約を締結した場合には、その契約を取り消すことができます(民法第5条第1項、第2項)。この取消権は、事情がどうあれ取り消すことができるので、かなり強力な権利です。18歳が自分の締結した契約について責任を負うことになり、消費者トラブルの多い、サラ金、デジタルコンテンツやエステサービス等の契約を取り消すことができなくなります。この点は早い時期から法教育や消費者教育を行っていくしかないでしょう。

また、養育費の支払いを決める際に、今では成年の20歳を基準として、「20歳に達する日の属する月まで」と決めたりしましたが(大学進学を予定し「22歳」の場合もあります。)、今後18歳を基準にする場合が出てくるでしょう(養育費を支払う側からすれば18歳を基準にしたい)。

なお、民法で成年の対象年齢が下がったとしても、喫煙については「満20歳」にならないと認められません。というのも、未成年者喫煙禁止法は、喫煙できる者を、例えば「民法に規定する成年」と規定されておらず、「満20歳」(満二十年)と規定していますので、民法の成年が引き下がっても、連動して喫煙可能年齢も引き下げられるわけではありません。飲酒も同様の議論で、未成年者飲酒禁止法が定められていますが、飲酒可能年齢は「満20歳」(満二十年)と規定されています。

他には、男性は18歳、女性は16歳になると婚姻できますが、20歳未満だと父母の同意が必要になりますが(民法737条第1項)、成年が18歳に変更されると、18歳の男性が結婚する場合は、少なくとも男性側の父母の同意は不要になります。併せて女性の婚姻可能年齢も18歳に引き上げられるとの議論はありますが、現在の規定のままだと女性は16歳、17歳に結婚する場合には父母の同意が必要になりますが、18歳になれば父母の同意なく婚姻できるようになります。

選挙権が18歳以上に付与されるようになって、若者も国政だけでなく民主主義全体への関心が強くなればいいですね。今後も未成年者をめぐる法律の動きに注目したいと思います。

森友学園、加計学園、共謀罪といったニュースに押されて世間的にはあまり大きなニュースにはなりませんでしたが、去る平成29年5月26日に改正民法案(債権法関係)が国会で成立いたしました。

 実は、今の民法(債権法関係)は、明治29年(1896年)4月に成立したもので、今回の改正は約120年ぶりの大改正だったのです。1896年というと、まだ日清戦争が終わった1年後で、アメリカではユタ州が45番目の州になり(ちなみに、ハワイがアメリカの自治領になったのは1898年のこと)、アテネでは第1回夏季オリンピックが開催され、日本の東北には明治三大大津波が押し寄せてきて2万人の死者が出ています。日本で鉄道(新橋・横浜間)が初めて走ったのは1872年(明治5年)と比較的早いのですが、電話回線(東京・熱海間)が初めて敷設されたのが1893年、自動車が作られるようになったのは1910年代になってからです。今は平成29年ですが、私なぞはまだ昭和の気持ちで生活していますので、おそらく明治29年当時もまだ江戸時代の気持ちで生活していた人も沢山いたことでしょう。

 というわけで、今の民法はとてつもなく古いので、「錯誤」とか「瑕疵」とか古めかしい言葉が残っているし、その後の時代の変化によって条文の文言どおり解釈するとうまくいかなくなったところを判例で補っているので、条文だけを読んでも結論がよくわからないなどという不都合があります。さらに、民法制定時には想定していなかったようなインターネットなどというものの発達もあったり、もうかなり時代遅れな法律になっていたのです。そこで、一般の人が読んでも意味がとれるようにしたり、これまで判例でつぎはぎ的に補ってきた解釈を条文だけで解釈できるようにしたり、さらに新しい時代に対応する制度を設けたりしたのが、今回の大改正なのです。

 ちょっと一例をあげると、債権を行使しないと債権が消滅してしまう消滅時効期間。これまで原則として10年でしたが、飲食代金や弁護士報酬などは何故か2年であったりとバラバラだったのです。そこで今回の改正で一律5年に統一されました。

 次に、履行遅滞の場合の利率。これまでは5%でしたが、デフレの低金利時代には高すぎますので3%に引き下げられました。また、3年ごとに見直す変動制がとられることになります。

 さらに、連帯保証制度の見直し。「他人の保証人にはなるな!」を家訓としている家があるように、良かれと思って保証人になってしまうと人生を狂わせるような過酷な事態が生じることがよくあります。そこで、これからは、公証人が保証人の意思を確認しないと、保証は認められないことになります。公証人の確認というプロセスで一息入れることで、本当に保証人になっていいものか考える機会を与えるのです。

 加えて、敷金返還のルール。これまで、民法には敷金に関する規定がたったの1条(619条2項)しかなく、しかもとてもざっくりしたものだったのですが、この改正により経年劣化に伴う修繕費については賃借人が負担しなくても良いことなどが明文化されました。

 また、インターネット通販など不特定多数の消費者に提示される「約款」に関する規定も新たに設けられました。消費者の利益を一方的に害すると認められる内容のものは無効とすると定められて消費者保護が図られています。

 この民法改正案は、2009年に法制審議会に諮問されてから、5年以上かけて改正要綱案にまとめられ、2015年3月に国会に法案が提出されました。しかし、安保法案とか、その時々の政局があって、審理が延び延びになっていたものが、ようやく先日可決されたものです。法曹関係者の中には、現在の民法を変える必要がないなどという人もいましたが、やっぱり古かったと思います。改正民法は、公布から3年以内に施行されるとのことですので、まだまだ我々の生活に適用されるようになるのは先ですが、法曹の一人として、この民法の運用を通じて少しでもより良い社会を実現していかなければと思います。

 我々の事務所でも、契約書のひな型の見直しや新しい民法の適用に関する情報を適宜発信していく予定です。こうご期待!

 

 

 

 

 

2017年5月26日の日本経済新聞夕刊1頁の「改正民法が成立 契約ルール120年ぶり抜本見直し」という見出しの記事から抜粋です。

「企業や消費者の契約ルールを定める債権関係規定(債権法)に関する改正民法が26日午前の参議院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立した。民法制定以来、約120年ぶりに債権部分を抜本的に見直した。インターネット取引の普及など時代の変化に対応し、消費者保護も重視した。改正は約200項目に及び、公布から3年以内に施行する。」

ようやく成立したか、という感じですが、現民法はいかにも古かったし、条文だけ読んでても意味が分からないところが散見されたので、改正民法の成立は良かったと思います。

改正民法については、一応勉強しましたが、今後実際に使うにあたって、ブラッシュアップをしていこうと思います。事務所の民法関係の書籍も買いそろえなければなりませんね。やらなければならないことが沢山あるので、頑張りましょう!

ちょっと時間がたってしまいましたが、今年(平成29年)の1月31日に、注目すべき最高裁決定が出ました。

事案は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で逮捕され、処罰された方の氏名と居住する県の名称をキーワードとしてネットで検索すると、この方が逮捕されたことが記載されているウェブサイトが表示されるため、人格権侵害を理由に、検索業者に対して、この検索結果の削除を求める仮処分の申し立てをしたという案件です。

最高裁は、検索業者が検索結果を提供する行為には、検索業者の表現行為という側面を有し、他方、公衆がインターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていると前置きしたうえで、次のように判示しました。

「以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」

「当該公表されない法的利益が優越する」というだけではダメで(「きわどいけど、どちらかというと公表されない利益が優越する」というのではダメ)、そのことが「明らかな場合」と言えなければならないようです。つまり、公表されない利益がかなり優越しますといえる必要があるということでしょうか。

具体的な判断としても、

「児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は、他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが、児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また、本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる
以上の諸事情に照らすと、抗告人が妻子と共に生活し、〔中略〕罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」

として、児童買春をした者の公表されない法的利益が優越することが明らかとは言えないと判断しています。
プライバシー保護と表現の自由の交錯する非常に難しい問題ですが、児童買春をして処罰されると、刑は終了しても一生その記録がネット上からは消えず、非常に厳しい人生を送らなければならないということは言えそうです。児童買春なんてしてはいけません。

金融・商事判例2016年2月1日号(№1483)の巻頭「金融商事の目」の金山直樹慶応義塾大学大学院法務研究科教授の「無責任男の再来」というコラムは、とても示唆的で良いコラムだと思いました。

「例えば、詐欺によって
Xが不動産を購入してしまったとしよう。その場合、Xに対して詐欺行為を行っていたのが、売主Yではなく、独立のセールスマンAだったとすると、XYを訴えても、勝てる可能性はほとんどない。AY<関係>を証明できない限り、715条や96条2項の要件が壁となって、YAの違法行為につき責任を負わないのが原則だからである。」

おっしゃるとおりで、我々実務家は似たような事例にいつも頭を悩ませているのですが、我が国には、ディスカバリー制度等の証拠収集制度が存在しないので、
Xが通常関知していないAYの関係に関する証拠を集めることは、(警察が捜査でもしてくれない限り)かなり難しいといわなければなりません。そのため、多くの消費者が、AYとの間に怪しい関係が推定されるのに、泣き寝入りをせざるを得ないということになっています。

そこで、金山教授は、

法典の欠缺を補うため、Yが、Aによる契約締結補助行為を認容・利用した上で、契約を締結した場合には、Aの違法行為はY自身の違法行為として評価されるべきだと考える。YAの詐欺行為を知っていたか、あるいは、Aと指揮命令関係にあったかは、全く問題にならない。それは、あたかも履行補助者の故意・過失について債務者が責任を負うのと同じことである。具体的には、Xには、Aの詐欺行為を理由として、契約の取消権、および、Yに対する損害賠償請求権が付与されることになる。」

との解釈論を展開しているとのこと。
(『現代における契約と給付』137頁以下(有斐閣・2013年、法学研究88巻7号1頁(2015年)に議論を展開しているとのことです。)。

この問題は、証拠の収集方法を強化するよう法制度を変えるか、実体法の解釈の方を変えていくのかの問題だと思うのですが、前者には色々と議論があるでしょうし、実際問題として立法作業が伴うためなかなか前に進まないでしょうから、私としては、金山教授のアプローチが良いように思います。新しい問題に対処するため、新しい解釈論が提唱されることに期待します。

金融・商事判例2016115日号(No.1482)の巻頭『金融商事の目』には、昨年3月に裁判官を退官された加藤新太郎先生が『債権法改正と裁判実務との関係』という題名でコラムを書かれています。加藤新太郎先生といえば、スーパー裁判官で、現役の裁判官時代から、たくさんの法律書、実務書の執筆をされており、私(飛田)も、いくつかの案件で、加藤先生の著書を参照させていただいたことがあります。実は、約20年前に私が司法修習生だったころ、司法研修所の事務局長をされていました(もちろん面識はありません。)。

 加藤先生は、このコラムの中で、第
1に、民法債権法改正の保証に関する規定のように、「立法事実が明確であり、議論の方向性にコンセンサスのみられる法改正部分は、改正の効果が直ちにあらわれる」といい、第2に、逆に、「立法事実が乏しく、机上で構想された要素の強い法改正部分は、実際には法規範として使われず、裁判実務にもあらわれないことになろう」といっています。個人的には、どのような改正部分が裁判規範として使われなくなるのか興味がありますね。
 そして、第3に、「議論状況に対立がみられた法改正部分」については、「立法担当者の開設にもかかわらず、解釈論はわかれるであろう」と言い、その例として、債務不履行の解釈について、契約責任論(無過失責任主義)をとるか、伝統的理解(過失責任主義)をとるかという議論を挙げています。

 私が注目したのは、このコラムの最後の部分。加藤新太郎先生は、この解釈状況に対立がみられた法改正部分について、最終的には、「裁判例の蓄積により、裁判規範が形成されていくのである」と前置きしたうえで、次のように続けています。

このプロセスを効果的に機能させるために、研究者には、外在的批判でなく(外在的批判とともに)内在的な規範構造を解明する解釈論を実務家に向けて発信する役割を果たすことが要請される。強調しておきたいのは、法制審議会民法(債権関係)部会関係者の解釈論と非関係者のそれとの優劣は、論理的に成り立ち得る解釈論である限り、原理的には等価であることだ。

とても難しい言い回しですが、内在的な規範構造を解明する解釈論を実務家に向けて発信せよ!とか、法制審議会民法(債権関係)部会関係者の解釈論と非関係者の解釈論とに優劣はない!とかいうメッセージには、裁判官を退官されて研究者になった加藤先生の気概が感じられてイイですね。

なんの面識もなく、はるかに
年下の私がいうのも何なのですが、加藤先生には、これからどんどん発信していただいて、我が国の司法を盛り上げていっていただきたいと思います。

第189通常国会に、民法改正案が提出されていましたが、ご存じのとおり、同国会は、安全関連法案を巡って与野党が対立し、提出されていた法案の審議に遅れが出たため、民法改正案については、なんと審議もできなかったとのことです。

2015年日本経済新聞電子版抜粋
「債権や契約に関する規定を抜本的に見直す民法改正案も民法制定以来の大改革と位置づけられたが、審議できなかった。両法案を所轄する法務省幹部は「完全にとばっちりを受けた」と嘆く。」

 個人的には、せっかく改正案についての勉強をしていたのに、残念!
次の国会に期待したいと思います。

金融・商事判例2015815日号(No.1472)の冒頭「金融商事の目」の角紀代恵立教大学法学部教授の「債権法改正-立ち止まる勇気」というコラムはとても読み応えがあった。

同教授は、民法改正案のうち、強行法規または強行法規的に機能する規定について、「理論的な側面だけではなく、社会に与える影響も慎重に見極める必要がある。」とし、一例として、第三者保証の問題を挙げる。

民法改正案が作成される過程では、一時期、第三者保証を廃止する方向に傾いた旨の報道がされていたが、最終的に、公正証書化することを条件に認められることになった。このことについて角教授は、


改正案は、公正証書の作成というハードルが、第三者保証の歯止めになると考えたのだろう。しかし、公正証書を作成するために公証役場に行くのは、融資が決まってからである。保証人になろうとする者が、公正証書の作成を拒否すれば、融資話はご破算になってしまう。このような状況下で公正証書の作成を拒否できる人は、いったい何人いるだろうか。さらに、債権者としては、せっかく、保証人となろうとする人を公証役場に連れて行ったのだからと、同人が保証債務を履行する意思を表示した公正証書を作成したら、ただちに、強制執行認諾文言付保証契約書を作成する可能性が大である。これでは、保証人の保護は、現行法よりも後退してしまうおそれすらある。


と述べ、さらに、


〔金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」や、全銀協及び日商の「経営者保証に関するガイドライン」などにより〕政府が挙げて、保証に頼らない融資慣行の確立を目指している中にあって、明文をもって、経営者保証、第三者保証ともに、正面から、その有効性を認める改正案は、果たして、妥当であろうか。個人保証の問題は、例えば、新事業の創出の阻害要因となりかねないなど、国家の産業政策、さらには、成長力にも直結するきわめて政策的な問題である。


と批判し、


民法が制定されてから120年、債権法改正は、避けては通れないが、急を要する課題ではない。改正案の内容でいいのか、今一度、立ち止まって再考する勇気が必要ではないだろうか。


と結ぶのである。

私としては、角教授と同様に、最終的に第三者保証が(公正証書化を条件にするとはいえ)制度として残ってしまったことについては大変残念に思っている。
そもそもある種の人には、他人に頼まれると、リスクに対する合理的な判断が働かなくなる傾向があり、第三者保証は、この人間の弱さを利用した制度という言う意味であまり良い制度とは思えない。だから昔から第三者保証に関するトラブルは多いし、「保証人にはなるな!」が家訓になっている家すらある。少なくとも、保証会社等がビジネスで行う場合以外は、第三者保証は認めるべきではないように思うのだ。

ただ、公正証書化が第三者保証の歯止めにならないかといえば、そうは思わない。実務感覚として、公正証書化のコスト負担の問題があり、現状よりも、第三者保証が行われる機会はかなり減るように思う。公証人役場という公の機関を関与させることにより、悪質な債権者が排除される事実上の効果も期待できるであろう。今回の第三者保証に関する改正案は不十分ではあるが、何の制限もない現状よりはましで、一歩前進であるように思う。

民法改正全体についても、不十分かもしれないが、現状よりは一歩前進の改正が多い。
たがって、私は今必要なのは、「立ち止まる勇気」ではなく、「前に進む勇気」なのではないかと思うのだ。
今国会での民法改正案の成立に期待したい。

安全保障関連法案の審議で、国会の審議スケジュールに遅れが生じており、労働基準法改正案(ホワイトカラー・エグゼンブション)の今国会での成立は困難な見通しで、民法改正案の成立も微妙な状態になっているようです。

以下、2015年7月21日の日経新聞朝刊の「安保法案の余波、国会審議波乱含み 『脱時間給』法案は成立困難に」という見出しの記事から抜粋です

安倍政権が岩盤規制改革とみなす労働者派遣法改正案は8日に参院で審議入りしたものの、野党は法案を審議する参院厚生労働委員会などで日本年金機構の情報流出問題を引き続き追及する構え。民主党などは「年金機構の答弁修正が重なり、派遣法改正案を議論できる状況ではない」(参院幹部)と突き放しており、派遣法改正案の成立は8月下旬以降となる見通しだ。
〔中略〕時間ではなく成果に賃金を払う「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)を盛り込んだ労働基準法改正案は「衆院通過が現実的な目標」(政府関係者)と今国会成立は困難な情勢だ。衆院では刑事訴訟法改正案の審議も続いており、契約ルールを抜本的に見直す民法改正案の行方は微妙だ。

まさか労働者派遣法改正案も成立しないということはないとは思いますが、政治の世界は「一寸先は闇」ですので、まだ何かあるかわかりません。民法改正案については、これまで関係者が苦労して作ってきたものですし、我々も改正に対応できるように準備しておりますので、なんとか今国会で成立してほしいですね。

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