カテゴリ: 一般民事・家事

最近ワイドショーなどで話題になっていた夫の不倫相手に対する妻の慰謝料請求が否定された最高裁平成31年2月19日判決(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/422/088422_hanrei.pdf)を振り返ってみましょう。

既に善良なる紳士淑女の皆様は十分ご存知のとおり、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである。」(最判昭和54年3月30日)というのが確定した判例です。

つまり、相手の男性又は女性が結婚していることを知りながら(又は注意すればわかったのにその注意を怠って)SEXをすると、そのお付き合いが真剣なものかどうかにかかわらず、その相手の妻又は旦那さんから慰謝料の請求をされることがあるということです。

しかし、上記最高裁平成31年2月19日が元妻の慰謝料請求を否定したのは、この元妻が、夫の不倫相手の女性に対し、「自分の夫と不貞行為(SEX)をしたことにより自分が精神的に傷ついた損害(慰謝料)」の賠償を請求したのではなく、不倫相手の女性が自分の夫とSEXした結果、結婚が破綻し、離婚に至ったので、「その離婚したことにより自分が精神的に傷ついた損害(慰謝料)」を求めたからです。

どうして不貞行為を理由とする慰謝料ではなく、離婚を理由とする慰謝料を求めたかというと、どうやらこの案件では不貞行為がバレた後、旦那は不倫をやめて3年間は奥さんと一緒に住んでいたが、結局、浮気の影響があって、離婚に至ったからということのようです。民法には消滅時効という制度があって、上記の例では、不貞行為がバレてから3年が過ぎると、不貞行為を理由とする慰謝料請求はもはや請求できませんので、時効の起算点をずらすために離婚を理由とする慰謝料請求にしたようなのです。

最高裁は次のように判示しています。
「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」

この最高裁判決をどのように評価すべきでしょうか?

まぁ、浮気がバレても全部が全部離婚に至るわけではないので、「当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価する特段の事情」がないと、第三者の不貞行為と離婚による精神的損害発生との間に(相当)因果関係が認められないと言っているようにも読めます。不貞行為を理由とする慰謝料請求と、離婚を理由とする慰謝料請求を分ける立場からは当然の結論という人もいることでしょう。

ただ、私はなんとなくしっくりこないものを感じます。
この判例に従えば、たとえば、旦那又は妻にセフレがいて、そのセフレがいたことが原因で離婚にいたっても、セフレは婚姻関係に対する不当な干渉などしないでしょうから、セフレに対する慰謝料請求はできません。
他方、旦那又は妻に真剣に付き合っている人がいて、旦那又は妻がその人と同棲するようになった場合には、婚姻関係に対する不当な干渉があるとして、慰謝料請求ができるように思います。
しかし、現代の価値観からすると、まじめにお付き合いをしている方が損害賠償請求の対象になるという結論はしっくりこないのではないでしょうか。

翻って考えてみると、相手の男性又は女性が結婚していることを知りながらSEXをすると、その相手の妻又は旦那から慰謝料の請求をされるという出発点が、今の世の中の現実の価値観とあっていないように思います。ネットなどでは、よく不倫をしたことがあるか?などというアンケートの結果が発表されていますが、それによると男性の30%、女性の20%くらいが「ある」と回答するようです。現代社会では、政治家や芸能人の不倫は格好のワイドショーネタとして強い社会的バッシングの対象になりますが、では世の中が不倫に厳しくなっていかというと、大衆は昼ドラの不倫に熱狂しますし、アンケート結果などからも不倫がかなり行われているということができます。何が言いたいかというと、こんなにも不倫がありふれたものとなると、妻とか夫であることの地位というのはそんな強固なものではなくなっているので、不倫があったからといって、(倫理・道徳違反を問うのは良いとしても)法的に損害賠償をする権利まで認める必要性はないのではないか(それをまじめにやっていると現実の社会とのギャップが大きすぎて法が機能しなくなるのではないか)ということです。

だいたいそういう結婚相手を選んだのは自分なんですから、自分が悪いのです。

というわけで、私は、このまま世の中が進展していくと、妻又は夫が、配偶者の不倫相手に慰謝料を請求できるという判例理論自体が変更されると思っています。今回の最高裁判決は、その流れを踏まえて、配偶者の不倫相手に対する慰謝料請求を制限するものと位置付けています。

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2018年11月19日の日本経済新聞に、「旧基準の大型建物、25年までの回収難しく」との見出しの、興味深い記事がありました。この記事によると「旧耐震基準の大規模建物で、震度6強以上の地震により『倒壊・崩壊する危険性が高い』と診断された全国1千棟のうち、耐震改修・除却計画の策定が4割弱にとどまっている」「国は2015年までに全ての建物で耐震性不足の解消を目指しているが、達成は難しい状況だ」とのことです。

 

地震大国である我が国では、建物の耐震性は非常に重要な問題ですので、平成7年に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」を制定し、さらに最近の改正では、ホテル・旅館・百貨店・映画館などの大保建築物のオーナーに対し建物の耐震診断を行い、自治体にこれを報告することを義務づけました。そして、自治体にこれを公表することを義務づけ、倒壊・崩壊の危険性が高い建物については、建物のオーナーが、耐震改修・除却計画を作成することを促進しています。今回の報道は、この耐震改修・除却計画が進んでいないことを報道したものなのです。

 

ところで、私はこの問題が報道されるたびに思うのが、建物にテナントが入居している場合に、建物のオーナーが耐震改修または建て替えのため賃貸借契約を解除できるか?ということなのです。耐震診断が義務化されている建物は大型建物なので、多くの場合テナントが入居しています。はたして耐震改修や建て替えのためにそのテナントを立ち退かせることができるのでしょうか?ということです。法的には、借地借家法という法律があって、賃貸人が賃貸借契約の更新拒絶をしたり、中途解釈をするには「正当な事由」が必要とされますので、その「正当な事由」が認められるか?という問題として定式化されます。

 

この点、弊事務所の馬場弁護士の協力を得ながら、これまでの耐震と正当事由の関係を調査したところ、次のような判例の傾向にあることがわかりました。

(1)老朽化がかなりの程度進行し、崩壊の危険性を有する場合や構造上の安全性を確認できない場合には正当事由が認められる。

(2)建物の改築の必要性が差し迫っていない場合であっても、早晩改築が必要となるときや、消防法上の改善指導を受けているような場合であれば、立退料の補完があれば正当事由が認められる。(耐震改修の必要性があるというだけではダメで、立退料の支払が必要であるところがポイント)

(3)建物が老朽化しておらず、崩壊の危険性が認定できない場合には、正当事由が認められない。

 

で、今回の報道により「倒壊・崩壊する危険性が高い建物」とされたといっても、震度6強以上のかなり大きな地震が起きることが前提ですし、現時点で実際に使用されている建物がほとんどですので、上記の分類からすると、(2)に分類されるものが大部分だと思われます。そうすると、弁護士的には、現行法上、立退料に関する金額の基準がなく、まさにケース・バイ・ケースの判断になるので、賃借人と立ち退きについて合意するまでにかなりの費用と時間を要することになるという点が頭の痛いところなのです。本当は急いで耐震改修をしなければならないのに、賃借人の立ち退きがうまくいかなくて、なかなか耐震改修ができないということも起きてきます。

 

そもそも借地借家法上の賃貸借契約を終了させるためには「正当事由」が必要との建て付けは、太平洋戦争後、住宅供給が逼迫して、賃借人保護が強く叫ばれたときにつくられたもので、現時点では、時代にマッチしないものとなっています。また、「立退料の補完」などといわれても、肝心かなめの立退料の算定基準が定められておらず、ゴネ得を許す(つまり、賃借人が居座って時間をかせぐと賃貸人が困って立退料を上げざるを得ない)ようなシステムになっています。

 

私は、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」を作っておきながら、借地借家法の「正当事由」について手当をしていないのは手落ちだったと思います。この点はいずれ必ず問題になってくると思います。国全体で耐震問題を考えなければならないときなので、この問題は何とかしなければならないでしょう。

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少々前のことになるが、女性国会議員の不倫疑惑が報道された。
彼女は、かつて人気女性グループで躍したが、結婚後、政治家になり、現在は国会議員をしている。
しかし、週刊誌が、彼女と市議会議員の男性との不倫疑惑を報道した。その雑誌には、新幹線の中で彼女が男性市議と手をつなぎながら寝ている写真が掲載されており、また、一緒に女性議員が東京に借りているマンションや大阪のホテルに泊まっていたことが書かれていた。しかし、彼女は、この市議と一緒にホテルにいたことは認めたが、男性が現在妻子ある身で、離婚調停中なので、きちんと身辺の整理がつくまではということで、「一線は超えていない」ことを強調した。「一線を越えていない」ということの意味は、肉体関係はないということである。

しかし、どうしてこの女性議員は「一線を越えていない」と答えたのだろう。
そこには何らかの法的な意味あいはあるのだろうか?
本当のことはわからないが、弁護士としてちょっと推測してみよう

報道によれば、市議は結婚しており、妻と子供が2人いる。しかし、市議によれば、5〜6年前から妻との婚姻関係は破たんしていて、昨年の夏からは別居を開始し、現在、離婚調停中とのことである。

日本の民法(家族法)では、夫と妻は、合意によって離婚できるが(民法763条)、合意が成立しない場合には、①相手方に不貞行為がある、②相手方から悪意によって遺棄された、③相手方の生死が3年間不明、④相手方が強度の精神病にかかり回復の見込みがない、⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある、場合しか、離婚をすることが認められない。
そして、最高裁の判例により、たとえ夫婦関係が破たんしていて、婚姻を継続しがたい重大な事由が認められる場合でも、破たんの原因を作った側からの離婚請求は棄却される(最高裁昭和27年2月19日判決)。つまり、たとえば、既に夫婦が長期間別居していて、婚姻関係を継続しがたい重大な事由がある場合という場合であっても、その別居が夫の不倫から開始されたのであれば、夫からの離婚請求は棄却される。これは「有責配偶者の理論」と言われている。

したがって、本件では、市議会議員としては、なんとしても不貞行為(女性議員との間の肉体関係)の存在を認めることはできないのだ。
もちろん、本件の場合、市議は昨年の夏から既に別居を開始しており、その時点で婚姻関係は破たんしていたと主張しているから、今回の不倫が婚姻関係を破たんさせた原因ではない可能性がある。しかし、報道によれば、妻は、婚姻関係はまだ破たんしていないと主張しているとのことであり、また、別居も彼が一方的に開始しただけだと主張している。したがって、婚姻関係が破たんした後に女性議員と関係をもったという彼の主張が否定される可能性はある。その場合のリスクを考えると、市議としては、少なくとも不貞の事実は認めたくないところであろう。

また、この女性議員にも、何としても肉体関係の存在を否定しなければならない理由がある。それは、この女性が、男性市議が妻帯者であることを知りながら肉体関係を持った場合、妻としての権利を侵害したものとされ、妻に対して不法行為に基づく損賠賠償金(慰謝料)を支払わなければならないというのが判例(最高裁昭和54年3月30日判決)だからだ。もちろん、関係をもった時点で既に夫婦関係が破たんしていたのであれば、女性議員が原因で妻としての権利が侵害されたわけではないので、損害賠償金を支払う必要はないのであるが(最高裁平成8年3月26日判決)、前述のとおり、破たんしていかどうかはどうもはっきりしない。したがって、女性議員としては、男性市議の離婚紛争に巻き込まれないためにも、肉体関係の存在を認めるわけにはいかないのだ。

ところで、この男性市議は、新幹線の中で女性議員と手をつないでいたり、ホテルの部屋に一緒に泊まっていたりしたのだから、一般的には「肉体関係はある」と推測するのが普通であろう。それなのに、「一線を越えてない」と言うのは、かえってこの女性議員と男性市議の誠実性を疑わせることにならないのであろうか?

この点は、日本の裁判所のことを良く知っていないと回答することは難しいだろう。というのは、私の経験からすると、日本の裁判官には、直接的な証拠がない限り、不貞の事実を認定しない傾向があるように思えるのだ。私が経験した例で最も甚だしかったのは、夫から(私のクライアントである)妻が離婚を請求された事例で、妻側が夫の携帯電話のメールを調べたところ、ある女性との間でベッド上での関係を描写した内容のメールのやり取りがあることがわかったのだ。私たちは、夫は有責配偶者であり、離婚請求をすることは許されないと主張したのだが、裁判所は、夫の言い訳を採用して、不貞関係を認めなかった。そのいい訳とは、「妻と別れたくて知り合いの女性にこのような嘘のメールを書いてもらった。妻がメールを覗き見ることはわかっていた。」などと言うのである。その女性の証言すらないのに、夫の言い訳を採用した裁判所の判断にはちょっとあきれたが、このように裁判所はなかなか不貞の事実を認めないように思うのである。

では、どうしてこのように不貞の事実の立証に辛い態度をとるのであろう?私の分析では、日本の裁判官も、この「有責配偶者の理論」が実は不合理な結果を生じさせていることが多いことに気が付いているからなのではないだろうか?一般に、有責配偶者の理論が問題となる案件では、夫婦の別居が長く続いており、婚姻関係としては完全に破たんしているケースが多い。それなのに離婚を認めないのは、いくら離婚を請求している配偶者に当初の原因があるといっても、(嫉妬と憎しみに満ち溢れた)何も生まないネガティブな関係だけが残るだけであって、社会的に見ても適当でないケースが多いのだ。

そこで、最高裁は、有責配偶者の理論に例外を認め、別居が相当期間経過し、夫婦に未成熟子がいない場合には、離婚によって相手方がきわめて過酷な状況におかれる等の著しく社会正義に反する特段の事情がない限り、有責配偶者からの請求を認めることにした(最判昭和62年9月2日判決)。
ただ、この例外が適用されるには別居が8年間以上は続いていなければならないなどといわれており、この例外をもってしても、なかなかハードルは高いなのだ。そこで、裁判官の感覚としては、そもそも有責配偶者などという変な論点が出てこないように、そもそも不貞の事実の立証を(無意識的に)厳しくしてしまっているのではなか、というのが私の分析なのだ。

ということで、冒頭の問題にもどって、なぜ女性議員は、「一線を越えていない。」ことを強調したのか?それは、一線を越えたことを認めてしまうと、恋人の市議会議員の男性が、今後の離婚調停・訴訟で不利益な立場になるからであり、自分にも火の粉が飛んでくるからであろう。では、なぜ「一線を越えていない」などというちょっと一般的には通じないような言い訳ができるのか。
それは、裁判所では、直接な証拠がない限り、なかなか不貞の事実は認められないからなのだ。

と私は思いましたが、以上は、事実関係に関しては何の根拠もない推測です。
女性議員と男性市議会議員は、彼らが言うように「講演の原稿の打ち合わせ」をしていただけなのであって、本当に一線を越えていないのかもしれません。したがって、このお話の取り扱いにはくれぐれもご注意くださいね。
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1.最近、私にとってはちょっと意外に思える判例と解釈論に触れました。

 それは、定期建物賃貸借契約における中途解約条項を無効と判断する判例と解釈論です。

 

 その判例というのは、東京地方裁判所平成25820日判決(ウエストロー・ジャパン文献番号2013WLJPCA08208001)で、確かに、「定期建物賃貸借契約である本件契約において、賃貸人に中途解約権の留保を認める旨の特約を付しても、その特約は無効と解される(借地借家法30条)。」と言い切っているのです。

 また、この判例と同様の結論を述べる文献にも触れました。それは、水本浩・遠藤浩・田山輝明編『基本法コンメンタール第二版補訂版/借地借家法』(2009年月、日本評論社)で、119頁に、「家主からの中途解約権を認める特約は、契約の終了期限が不確定なものとなるので、定期建物賃貸借契約の制度趣旨に鑑み、無効と解すべきである。」などと書いてあるのです。

 

2.しかしながら、私としては、どうもこの結論には納得できません。

 上記の判例のいう借地借家法第30条というのは、「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」という規定ですが、普通賃貸借契約においても、賃貸人の中途解約権を留保するような特約は有効と解されており、なぜ普通賃貸借で許されるものが、定期建物賃貸借契約では許されなくなるのかが説明し切れていないように思います。

 おそらく上記の学説は、これに実質的な説明を示そうとして「家主の中途解約を認めると契約の終了期限が不確定となり定期建物賃貸借契約の制度趣旨に反する」という説明を試みているものと思われるのですが、定期建物賃借契約の制度趣旨は契約の更新のない賃貸借契約を認めようとするところにあり、更新の話と中途解約の話は別問題と考えることもできますので、この説明は説得的ではないように思います。

 

3.そもそも定期建物賃貸借契約の立法時の国会における議論を紐解いてみると、定期建物賃貸借契約であっても、普通賃貸借契約と同様、賃貸人・賃借人を問わず中途解約条項は有効であり、ただ賃貸人側から中途解約権を行使するには、借地借家法28条により正当事由が必要となるとの趣旨の答弁がなされており(第146回国会 参議院国土・環境委員会会議録438頁)、賃貸人の中途解約権を認める特約を無効とするような解釈はとられていません。

 

 また、文献上も、稲本洋之助・澤野順彦編『コンメンタール借地借家法 第3版』(平文社、20103月)301頁には、「賃貸人は、賃借人との合意によって中途解約権を留保している場合以外は、解約権を有しない。」と記載されており、合意した場合には賃借人の中途解約条項が有効であることが前提とされていたことは間違いありません。

 

4.そして、この問題にきちんとした理由を付して説明しているのが小澤英明、(株)オフィスビル総合研究所編『定期建物法ガイダンス』(住宅新報社、2005月)です。ここでは、小澤英明弁護士がとても分かりやすく説明してくださっているので、同書224頁〜225頁の該当箇所を引用したいと思います。

 

(以下、引用)

 解約権留保の定期建物賃貸借契約は定期借家契約に該当するのだろうか。例えば、「本契約は、期間を2年とし、更新しない。ただし、借主は6か月前の通知により、期間中といえでも本契約を解約することができる。」という規定がある建物賃貸借契約は定期建物賃貸借契約に該当するのだろうか。これは、期間の定めのある契約で、更新しないことが明確であるから、定期借家契約に該当する。中途解約権があれば必ずしも期間満了で終了するわけではないから、借地借家法新382項の説明ができないため定期借家ではないという屁理屈もあるかもしれないが、同条項はコウシンしない契約であることにつき不注意な借主による契約の締結を防止しようとする意図によるものであることは明白であるから、それ以上に同条項に意味をもたせるべきではない。

 それならば、借主に中途解約権がある場合はどうだろうか。これも同様である。問題は、中途解約権が貸主に与えられている場合に、中途解約権の効果が約定どおり認められるか否かということである。これは認められない。なぜならば、貸主による中途解約は借地借家法271項、28条および30条の適用があり、これを排除することは新しい借地借家法38条でも認められていないからである。つまり、中途解約権を行使する場合は、正当事由が必要である。もっとも、このような解釈に対しては、借地借家法271項は期間の定めのない賃貸借の場合の規定であり、また、28条は271項による解約の場合であるから、定期借家には適用がないのではないかという疑問も提起され得る。しかし、借地借家法271項および28条の規定は、民法の特則である。民法617条およびこれを準用している618条では、期間の定めのある賃貸借において、中途解約権が与えられている場合、解約申入れを行って3か月経過して終了することを定めている。これを貸主からの解約の場合は、6か月にして、かつ、正当事由の具備を求めたのが借地借家法271項および28条である。そうであれば、271項や28条は、期間の定めのある賃貸借にも適用がある。従って、貸主の中途解約権の行使には従来どおり、正当事由が必要と解せざるを得ない。

(引用終わり)

 

長々と引用しましたが、私としては、この小澤弁護士の見解が、立法時の考え方に最も合致しているし、とても説得的なので、適切であると思います。

 

5.なお、一番新しく出版された田山輝明・澤野順彦・野澤正充編『新基本法コンメンタール借地借家法』(新日本評論社、20145月)233頁〔吉田修平執筆部分〕では、賃借人の中途解約権を認める特約は有効であるし、しかも、その場合、中途解約をするには正当事由も要求されないとの見解が述べられています。面白い見解なので引用すると、

 

(以下、引用)

 本条〔注:借地借家法28条〕1項の文言上、「30条の規定にかかわらず」と定めていることで、本法26条および28条の規定が適用されないことが明確化されているから、定期借家契約においては賃貸人からの解約権の行使に正当事由が要求されることはない。

 そして民法618条によれば、当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方または双方がその期間内に解約をする権利を留保した場合には、同法617条を準用することになる。同法617条によれば、当事者の解約申入れにより、建物賃貸借は解約申入れから3カ月の経過によって終了する。

 すると、定期借家契約の場合については民法618条および同617条により、賃貸人からの期間内の解約権を定めたときは、解約申入れにより3カ月で終了するとかいすることになる。

 よって、賃貸人と賃借人が真に自由な意思によって合意した以上、その合意通りの効力が認められるものと解さざるを得ない。

(引用終わり)

 

 私としては、この見解に従えば、当事者間の合意により「正当事由」の有無の厄介な判断まで回避できるので、大変魅力的ではあると思うのですが、当初述べた通り、「更新の問題」と「正当事由の問題」は別と考えており、「30条の規定にかかわらず」と規定されていても、そこから、27条、28条の規定の不適用まで読み取るのは難しいと考えています。

 

6.ただ、いずれにしても、定期建物賃貸借契約の立法時の考え方、借地借家法と民法の条文解釈さらには普通賃貸借契約とのバランスからして、賃貸人側の中途解約権を無効とするような東京地方裁判所平成25820日判決の考え方には違和感があります。

 

この記事が、この論点を考えるにあたって一つの参考になれば幸いです。

 

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最近、ちょっと残念だな、と考えさせられる判決がありました。

 

案件としては、(判決からは正確にはわからないのですが)大学の教授または研究者の夫と、公務員として働きながら大学院にも進学するような向上心溢れる妻の離婚の話なのですが、ともにプライドが高く、ことあるごとに衝突して、別居に発展。その過程で、妻が、当時、2歳4か月の長女を夫に無断で実家に連れ帰り、以後、5年10か月間、はじめの方に6回娘にあわせただけで、その後は、夫が娘に会うのを拒否し続けたという案件です。

 

この案件では、婚姻関係が破たんしていことは明らかですので、離婚自体は認められるのですが、問題は、娘の親権者を誰にするか?です。

 

原審の千葉家庭裁判所松戸支部は、夫が妻に対し100日程度娘に会うことを保障する計画を提出していることを重視して、親権者を夫にすることを認め、妻に対して長女を夫に引き渡すように命じました。相手に100日の面会権を認めるから、自分を親権者にしてください、というのは従来なかった非常に進歩的な主張であり、この判決も画期的だったのです。

 

これに対し、東京高等裁判所は、「長女は妻のもとで安定した生活をしており、健康で順調に生育し、母子関係に特段の問題もなく、通学している小学校にも適応している」とか「年間100日の面会は長女の負担になる」などといって、妻を親権者にするのが適当だと判決したのです。夫の面会権については判示していませんが、妻側は、月1回(年12回か?)などと主張しておりました。

 

で、最高裁はどのような判断をしたかというと、(私にとっては)残念ながら、二審の東京高裁の判決を支持して、夫の上告を退けたのです。

 

私は、一審の松戸支部判決も、二審の東京高裁判決も読んでみましたが、松戸支部判決の方がはるかに説得力があるように思いました。

東京高裁判決の看過できないのは次の点。

 

1.妻が長女を連れ去ったことや、夫と長女との面会を長い間認めなかったことを、別居した当初、夫が仕事に忙しく長女の看護を委ねるのが困難だったからとか、結婚関係が破たんに瀕していて話し合うことも困難だったからとか、夫がマスメディアに娘との面会が認められないことを報道してもらおうとしていたから、等といって正当化しようとしているように思われる点。(ハーグ条約の観点からすると、こんなこと言っていたら怒られますよ。)

 

2.年間100日間の面会交流について、妻宅と夫宅の往復で長女の身体に負担が生じるとか、学校行事への参加、学校や近所の友達との交流に支障が生じるおそれがあり、必ずしも長女の健全な育成にとって利益になるとは限らないとかと言っている点。(欧米では、これくらいの面接交渉の日数は珍しくないでしょう。例えば、Week Daysは妻宅、Week Endは夫宅などというのは良くある話です。)

 

3.逆に、月1回の面接交流について「当初はこの程度の頻度で面会交流を再開することが長女の健全な育成にとって不十分であり長女の利益を害するとは認めるに足りる証拠ない。」などといっている点(逆に、月1回で十分という証拠はあるのか聞きたい。東京高裁の裁判官は、自分の子供と月1回6時間程度しか会えなくて、それで良いと考えているのかしら?)

 

私が最も嫌なのは、東京高裁判決は、配偶者の一方が無断で子供を連れ去って、子育ての最も重要な時期に、長年、他方に会わせないという非常に残酷なことをしているのに、むしろ、それをして既得権益を積み上げていった方が良い結果がでるという「やり勝ち」を奨励する結論になっていることです。

 

でも、こういう「やり勝ち」を許していたら、なんで司法があるの?ということになると思うのですが、そうではないのですかね(悩みます。)

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このブログでも既に取り上げましたが、最高裁は、本年1月に、専ら節税目的の養子縁組であっても直ちに縁組意思がないということはできないとの判決を出しました。

事案は、亡きAの長女X1と二女X2が、Aの長男Bの息子(Aの孫)Yに対して、AYとの養子縁組は、民法8021号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に該当することを理由に、養子縁組の無効確認を求めたものです。

一審は、縁組意思はあったと認定し、控訴審は、縁組意思はなかったと認定しています。

最高裁では、次のとおり判示して、Yを勝たせました。つまり、縁組意思はあったと認定したわけです。

「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人になるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに養子縁組について民法802条にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない

 そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」

(私の感想)

1. 本件のケースについて、最高裁は、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」と言っていますが、控訴審における本件の事実認定を見ると

(1) 
本件の養子縁組は、Aの妻が亡くなった直後に、BBの妻及びBの税理士がAの自宅を訪問して、Y(約1歳)と養子縁組することによる節税メリットについて説明し、それを受けて行われたものであること

(2) 養子
縁組以降、AYは同居しておらず、面会することもなかったこと

(3) 
Bはクリニックの院長を務める医師であり、資産も保有し、Yを養育できない環境にはないこと

などが認定されていますので、一般人の感覚からすると、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情」は「あった」ということになるのではないでしょうか。

2. 
また、最高裁は、「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」というのですが、この「併存しえる」という部分を重視すると不都合な結果が出てくるのではないかと思います。
 例えば、過去の判例で、縁組意思がないと判断されているものを挙げると、

(1) 
旧法のもとで去家を禁止されていた法定推定家督相続人である女子を他家へ嫁がせるための便法として、他の男子を一時養子とするいわゆる借養子縁組(最判昭和23.12.23民集2-14-493

(2) 
戸主や嗣子に与えられていた兵役免除を目的として二男以下の者が養子縁組をする兵役養子(大判明治39.11.27刑録12-1288)

(3) 芸子家業をさせることを目的とするいわゆる芸子養子(大判大正11.9.2民集1-448

(4) 
女子の婚姻に際し家格を引き上げるためにされる仮親縁組(大判昭和15.12.6民集19-2182

などがあるようなのですが、これらの判例の中に現れた様々な動機部分と縁組意思は「併存しえないか?」と言われると、どのような動機であれ、真に親子関係を創ろうという意思は持ち得るのですから、「併存しえる」と言えなくもないでしょう。

4. で、縁組意思の学説は、大雑把に、次のようなものがあるようですが、いずれも判例の立場を統一的に説明できないようです。

(1) 
実質的意思説
  
習俗的標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思

(2) 
形式的意思説
  
縁組の届け出をしようとする意思

(3) 法
律的定型説
  民法上の養親子関係の定型に向けられた効果意思

5. 
そこで、この判例を契機に、つらつらと考えてみましたが、判例の立場は、次のように説明できるのではないでしょうか(自分ではオリジナルな意見ではないかと思っていますが、それは浅学なだけで、既に同じようなことを言っている人がいるかもしれません。
 
すなわち、日本の場合、養子縁組は、(特別養子縁組の場合を除き)当事者の意思で自由にできます。役所に養子縁組届を提出するときも、実質的意思説がいう「真に親子として認められるような関係を創設しようとする意思」があるかどうかなんて確認されません。形式的に記載事項がきちんと書かれているかチェックされるだけです。したがって、制度的に本来の養子縁組制度の趣旨から逸脱した様々な届け出がなされることになります。それを裁判所でいちいち無効などと判断していては、社会的にかなりのコストがかかってしまいますし、大変な混乱が生じるおそれがあります。したがって、裁判所のスタンスとしては、(実質的意思説を採用しているなどと思わせつつ、実際は形式的意思説的に)縁組意思を広く有効にできるように運用しつつ、その時代、時代で、どうしても認めることができないようなもの(その時代の公序良俗に反するようなもの)だけを縁組意思を無効とするというものではないでしょうか。

6. 
で、冒頭に戻って、節税目的の縁組についてですが、先日のブログで触れたとおり、現在、節税目的の縁組はかなり広汎に行われており、ある調査によると5億円以上の相続財産があるケースの約4割で節税目的の縁組が行われていたとのこと。これを無効ななどと言うと、縁組無効確認の裁判が頻発して大混乱になる可能性があるので、最高裁としても、「併存しうる」などと変な理屈を持ち出して無効とは言えなかったのではないかと・・・・。幸いにして、この種の案件が問題となるのは相続開始後の相続人間であり、(一番事実を知っている)被相続人は亡くなっているので、死人に口なしで、多少無理があるとは認識しつつも「縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」などと言いきってしまえばいいですしね(冗談です)。

7.
ただ、さらに翻って考えてみると、実際に行われている節税目的の養子縁組のケースで、当事者間に真に親子関係を作ろうとする意思などあるケースはほとんどないと考えられ、それなのに、縁組意思があるなどと言わなければならないのはやっぱりおかしいと思います。
 そこで、このような判断をせざるを得ない現行の制度自体を変えることはできないかしら。具体的には、当事者の意思で、ほぼ無審査でできてしまうというのはおかしいので、本当に親子関係を創ろうとする意思の有無を事前に裁判所なり公証人なりにチェックさせるような制度にできませんかね?

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遺言書を書いておく必要があるのはどのような場合かというと、法定相続の結論が、意図している結論とかなり違ってくる場合であると思います。

そのような場合として、子供のいない夫婦の相続が挙げられます。

子供がいない夫婦の場合、配偶者は常に法定相続人になりますが(民法890)、その他は、親がいれば親が(民法889Ⅰ①)、親がいない場合でも兄弟がいれば兄弟が法定相続人として登場することになります(民法889Ⅰ②)。
相続分は、配偶者と親の場合には、配偶者が3分の2、親が3分の1です(民法900②)。

配偶者と兄弟姉妹の場合には、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ということになります(民法900③)。

ところで、子供がいない夫婦で配偶者が亡くなった場合、夫婦の意思としては、(もちろん例外はあるとは思いますが、通常は)配偶者に全財産が相続されると思っているのではないでしょうか?

しかし、遺言がなく法定相続が行われたとすると、上記のとおり、亡くなった夫または妻の親や兄弟姉妹が出てくるのです。親や兄弟姉妹が物わかりの良い人で「私たちは相続財産なんていらないわ。」などと言って相続放棄をしてくれれば良いのですが、中には、自分たちにも法定相続分があるから、遺産をもらって何が悪いの!ということで権利主張をしてくる場合もあるでしょう。

したがって、子供のいない夫婦にとっては、お互いに自分の財産をすべて相手に相続させる旨の遺言書を書いておく必要性は非常に高いといえるでしょう。

もちろん、遺言書を作っても遺留分という権利は侵害できませんが、親の遺留分は相続持ち分の2分の1ですので(民法1028②)、遺産紛争が起きても解決が楽になりますし、兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので(民法1028)、既に親が亡くなっていて、配偶者の他には法定相続人が兄弟姉妹しかいない場合には、遺言書を書くことにより、自分の財産をすべて配偶者に引き継ぐことができますね。

なお、遺言書を作るときは、のちのち変な争いにならないように、公証人役場で公正証書遺言を作るのがおすすめです。

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 最近、最高裁で興味深い判例(最高裁平成29131日判決がありました。

 もっぱら相続税の節税目的で養子縁組を利用する場合であっても、「ただちに養子縁組の意思がないとはいえない」と判断したものです。「ただちに養子縁組の意思がないとはいえない」なんて、とても法律家チックな言い方ですが、要するに、「もっぱら相続税の節税目的で養子縁組しても原則として縁組は有効ですよ。」という意味だと思っていただいて結構です。

 

 相続に関心がある方であればご承知のとおり、相続税の基礎控除額は、現在、


               3,000
万円+600万円×法定相続人数

 

で計算されます。
 したがって、おじいさん・おばあさんと孫を養子縁組させて、
おじいさん・おばあさんの法律上の子供(=定相続人)を増やしておけば、おじいさん・おばあさんが亡くなったときも、相続税の基礎控除額が大きくなり、それだけ節税効果が得られます。

 もちろん、税務当局側も対策を立てていて、相続税法上、養子縁組で相続人にできる人数は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人しか認められません。しかし、いずれにしても養子縁組により600万円から1200万円は相続税の基礎控除額を増やすことができるのです。そのため、ある税理士法人によれば、相続財産額が5億円以上を超えるケースの相談において、節税対策に養子縁組が使われていたのは約4割にものぼるようです。

 相続の分野では、節税対策としての養子縁組が定着していると考えてよいでしょう。

 

 しかし、養子縁組制度が、このような使われ方をしているのはちょっと変ではないでしょうか?そこでちょっと調べてみたのですが、そもそも我が国の養子縁組制度は私のイメージとはかけ離れていました。

 一橋大学経済研究所の森口教授によると、日本では年間で約8万件もの養子縁組がされています。日本の2倍以上の人口を有するアメリカの養子縁組の件数が11万件ということですので、いかに日本の養子縁組の数が多いかわかるかと思います。

 しかし、その内容は全然違います。日本では、67%が婿養子など大人を養子にとる「成年養子」だというのです。その他は、25%が配偶者の子供を養子にする「連れ子養子」、7%が孫や甥、姪を養子にする「血縁養子」。血族でも姻族でもない子供を養子にする「他児養子」はわずか1%に過ぎないといいます。

 これに対して、アメリカでは養子の対象はほぼすべて未成年だといいます。そのうち40%が「連れ子養子」、10%が「血縁養子」ですが、残りの50%は「他児養子」だといいます。

 なぜこのような結果になっているかですが、日本の養子縁組制度は、基本的には家名や家業の承継(お家の存続)を目的にするための制度になっているとの理解がされています。えっ、「お家」って、まだそんなに強く残っていたの?という感じですが、まだまだ根強いようですね。

 これに対して、アメリカの場合は、基本的には、さまざまな理由で実親の保護に恵まれない子供たちに新しい家庭を与える制度として機能しているということのようです。

 

 まぁ、それぞれの国の歴史や文化を反映して今の制度になっているのでしょうから、どちらが優れている・劣っているというような問題ではありません。ただ、日本では結婚の高齢化などもあり子供がいない夫婦が増えていますし、他方で、不幸にも養護施設に長期間滞在せざるをえない子供たちも多いと聞いていますので、なんとか養子縁組を「要保護児童に家庭を与える制度」として活発に利用できないものでなんですかね?

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つい先日まで、ある女性タレントが、ミュージシャンの男性と交際していた件で世間から強い非難を受けていました。そのミュージシャンの男性には妻がいたので、不倫ではないかというわけです(注)。これを民事的に説明すると、その女性タレントに民法709条の不法行為が成立するかどうか、という問題になります。


(注)女性タレントが記者会見で男性との交際を否定したことを捉えて、嘘をついていると非難した面もありますが、その点はこの原稿では触れません。


この点、最高裁は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである。」(S54.3.30)と述べています。


簡単に言うと、相手に妻又は夫があることを知りながら、その相手と肉体関係を持った場合には、相手の妻又は夫の権利を侵害したのだから、慰謝料を支払う義務がある、というのです。

 

ただ、この判例については、学者から強い批判があります。夫や妻としての権利は、結婚相手の妻や夫には主張できるけれど、それを超えて第三者に主張できるような権利ではないのではないか、ということです。価値判断としても、悪いのは不倫をした夫や妻なわけですが、「そんな人間を配偶者として選んでしまったのはあなたなので、夫婦間で解決しなさいよ、第三者に慰謝料なんて請求するのは、ちょっとやり過ぎですよ。」ということでしょうか。


ただ、最高裁はこうも言っています。

「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係をもつことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとは言えないからである。」(H8.3.26


つまり、配偶者がいる人と肉体関係をもっても、その人の婚姻関係が破綻しているときは、もはや権利侵害行為がないから、その人の妻又は夫から慰謝料を請求されることはありません。


さらにいえば、不法行為が成立するためには、「故意又は過失」という主観的な要件が必要ですので、配偶者がいる人であると知っていたとしても既に夫婦としての関係が破綻していると思っていたときは、「故意又は過失という」主観的な要件を満たさないことが多く、不法行為が成立しない可能性が高いのです。

 

報道によると、女性タレントは、ミュージシャンの男性から、離婚協議中で、妻は家を出ていて、年内には離婚したい、と言われていたとのことですので、この報道が本当であれば、夫婦関係は既に破綻していた可能性がありますし、少なくとも女性タレントは破綻しているという認識だったのかもしれません。


翻って考えてみると、相手に配偶者がいる場合には、交際をためらう場合が多いのではないかと思いますので、世にいう「不倫」には、(とりわけ初期の段階では)この種の案件が多いのでしょうネ。

 

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金融・商事判例2015915日号(№1474号)の「金融商事の目」は、本山敦立命館大学法学部教授の『遺言控除を憂う』という記事で、これもとても面白かった。

現在、自民党の「家族の絆を守る特命委員会」が検討している「遺言控除」の新設の問題点を検討している記事だ。

本山教授は、次の問題点を挙げている。要約すると次のとおり。

第1は、怪しからん相続人らが遺言控除を目的に自筆証書のねつ造に及ぶ可能性があるため、遺言控除が受けられる対象を公正証書遺言に限定することが考えられるが、民法の構成上、自筆証書遺言が遺言の原則形態と解されるので、自筆証書遺言を控除の対象外にするにはかなりの説明が必要となる。

2は、仮に遺言控除の対象を公正証書遺言に限定するとすれば、公証人は全国で約500名なのに対し平成26年度の遺言は104,490件で、公証人役場はかなりバタバタしていると推察されるから、遺言控除の導入により、公証人の執務が雑になり、公正証書の無効事例も急増することが懸念される。

3は、控除適用の基準時の問題であり、遺言控除制度が開始した日以後に作成された遺言書が対象になるのか(作成日基準)、それとも、遺言控除制度が開始した日以後に死亡した遺言者が対象になるのか(死亡時基準)についてであるが、遺言者の意思の尊重という観点から、作成日基準が適当ではないかとする。

4に、遺言控除の控除額が数約万円になると、相続税の納税義務者(遺言者)が遺言をするよう被相続人に迫るようになり、多数の遺言が飛び交い、却って紛争を誘発する可能性があるという。

私としては、第
1は、遺言の作成を促し、相続に関する紛争を未然に防ぐというこの制度の目的から、あまりこだわる必要がない(公正証書遺言が一番相続に関する紛争を未然に防いでいるように思えるので、これを促進しようとするのは適当だ。)、第2は、公証人になりたい人はたくさんいるし、遺言書の作成実務は既に固まっているのであまり心配はいらいない(公証人役場としては仕事が増えることはWelcomeなのでは?)、第3はキメの問題、第4もキメの問題で、それほど「憂う」必要はないのではないか、と思うのですが、いずれにしても考えさせてくれる良いコラムですね。

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