カテゴリ: 一般民事・家事

●はじめに

いわゆる事故物件、例えば、マンション室内で過去に自殺や他殺などがあった場合、その事実を知らされずにマンションを購入した買主は、売主に対し、一定の要件のもと、瑕疵担保責任を追及することができます(また、仲介業者に対して説明義務違反の責任追及がされることもあります。)。

こういった問題は、人によっては、全然気にしない方もいるかもしれませんし、マンションの構造に物理的な欠陥が生じるわけではありません。しかし、多くの人にとっては、やはり、心理的に気になりますし、周囲で噂されるなど、住み心地の良さを欠く面は否めません。

こういった、物理的には欠陥はないのだけれども、心理的に住み心地の良さを欠く、という状況は、心理的瑕疵と呼ばれ、裁判実務でも、一定要件のもと、瑕疵担保責任が認められています。

よく例として挙げられるのが、冒頭に挙げた自殺などのケース(※)ですが、裁判例を見てみると、少し、イレギュラーなものもあります。それは、家がまだでき上る前、建築現場で自殺がおこったというケースです。

※なお、確かに、過去、部屋で自殺があったようなケースでは、心理的瑕疵が肯定される傾向にありますが、絶対ではなく、諸事情を踏まえて、瑕疵が否定される場合もあることには注意が必要です。



●東京地裁平成24年11月6日判決

この点に関する裁判例として、東京地裁平成24年11月6日判決があります。事案は、建築現場において、現場所長が自殺(足場に紐をかけた首吊り自殺)したというものです。具体的な経緯については、判決において、「隣地居住者からのクレームによりストレスを募らせ,それに抗議する趣旨で自殺を決意」したと認定されています。

論点は複数ありますが、心理的瑕疵との関連では、
  ・請負人側から代金請求がなされたこと
に対し、
  ・注文者側が、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権などをもって
   相殺を主張
して、争われました。

これに対し、裁判所は、瑕疵担保責任(心理的瑕疵)を認め、建物について3割の減価が生じたとして、その損害賠償を認めました。さらに、同裁判例では、請負人の使用者責任として慰謝料100万円の請求も認められています。

事故物件の例との比較では、マンションの室内での自殺か、室外の足場での自殺か、という違いはあります。しかし、この点に関して、本裁判例は、「本件事故がどの程度記憶に残り続けるかを判断するにあたり,建物の内部で発生した自殺と区別すべき理由はない」と判示しています。



●裁判例の分析

従来、事故物件などにおける心理的瑕疵に関しては、裁判例上、
  ・通常一般人を基準として、
  ・住み心地の良さを欠くと感ずるような心理的に嫌悪すべき事由
    ないし
   嫌悪すべき歴史的背景
が認められるかが、判断基準とされてきました。ごく簡単に言えば、人が嫌がるかどうか、ということですが、この基準だけではかなり抽象的です。

そこで、各裁判例では、上記要件を判断するために、さらに詳細な事実についても触れられています。明示的に規範が定立されている訳ではありませんが、心理的瑕疵については、
 ①死亡の態様
 ②報道により周辺住民に知れ渡っているか
  (特に死亡の態様が詳細に伝わっているか)
 ③(マンションなどの場合)事故は居住スペース部分で発生したか
 ④建物が居住目的のものか
 ⑤事件から年数が経過しているか
等々の細かな要素を踏まえて、総合的に判断されているようです。


例えば、①死亡の態様が凄惨なものであれば、心理的に嫌だと感じる人は多くなるでしょうし(瑕疵肯定の方向)、②報道で死亡の詳細が周囲に伝わっていれば、周囲の噂などがたって、住み心地の良さは害されます(瑕疵肯定の方向)。逆に、③居住スペースとは離れた共用部分で人が亡くなったという場合は、嫌悪感も低下しますし(瑕疵否定の方向)、④事業目的であれば、居住目的と比べて、許容範囲も広がるという見方もできます(瑕疵否定の方向)。また、⑤事件から年数が経過していれば、心理的な嫌悪感は風化するとも言えます(瑕疵否定の方向)。

これらの要素は、建築現場のケースであっても同様に当てはまると考えられますし、上記裁判例でも、これらの点へ言及されています。

ただ、建築現場での自殺というケースでは、⑤については、何十年も経ってから紛争になる、ということは考えられません(何十年も経てば、そもそも、時効になってしまいます。)ので、わざわざ要件に挙げるまでもないかもしれません(つまり、当然、事件から年数は経過していない、ということになります。)。


さて、実際、上記裁判例を、この要素に従って分析すると、どうなるでしょうか。裁判例では、それぞれ、①~④に関して、以下のような判示がなされています。

 ①
  →注文者とも面識のある現場所長の首吊りによる自殺である

 ②
  →周辺住人などにも広く事情が知れ渡っている(そもそも、
   周辺住人からのクレームに起因して自殺した、という背景事情
   がある)

 ③
  →建物の内部で発生した自殺と区別すべき理由はない

 ④
  →子供と住むためであった


いずれも、心理的瑕疵を肯定する方向に働く事情が認定されていますね。結論的に、瑕疵担保責任が認められたことにも頷けます。



このように、裁判例では、細かな要素に基づき判断がされており、冒頭でも申しましたとおり、

  自殺=瑕疵

と安直に判断することはできません。心理的瑕疵があるか否かは、上記要素など総合考慮した、ケースバイケースの判断が求められ、自殺であっても心理的瑕疵なしとされる場合もありますし、不慮の死亡事故であっても心理的瑕疵ありとされる可能性はあると思います。

1.最近、私にとってはちょっと意外に思える判例と解釈論に触れました。

 それは、定期建物賃貸借契約における中途解約条項を無効と判断する判例と解釈論です。

 

 その判例というのは、東京地方裁判所平成25820日判決(ウエストロー・ジャパン文献番号2013WLJPCA08208001)で、確かに、「定期建物賃貸借契約である本件契約において、賃貸人に中途解約権の留保を認める旨の特約を付しても、その特約は無効と解される(借地借家法30条)。」と言い切っているのです。

 また、この判例と同様の結論を述べる文献にも触れました。それは、水本浩・遠藤浩・田山輝明編『基本法コンメンタール第二版補訂版/借地借家法』(2009年月、日本評論社)で、119頁に、「家主からの中途解約権を認める特約は、契約の終了期限が不確定なものとなるので、定期建物賃貸借契約の制度趣旨に鑑み、無効と解すべきである。」などと書いてあるのです。

 

2.しかしながら、私としては、どうもこの結論には納得できません。

 上記の判例のいう借地借家法第30条というのは、「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」という規定ですが、普通賃貸借契約においても、賃貸人の中途解約権を留保するような特約は有効と解されており、なぜ普通賃貸借で許されるものが、定期建物賃貸借契約では許されなくなるのかが説明し切れていないように思います。

 おそらく上記の学説は、これに実質的な説明を示そうとして「家主の中途解約を認めると契約の終了期限が不確定となり定期建物賃貸借契約の制度趣旨に反する」という説明を試みているものと思われるのですが、定期建物賃借契約の制度趣旨は契約の更新のない賃貸借契約を認めようとするところにあり、更新の話と中途解約の話は別問題と考えることもできますので、この説明は説得的ではないように思います。

 

3.そもそも定期建物賃貸借契約の立法時の国会における議論を紐解いてみると、定期建物賃貸借契約であっても、普通賃貸借契約と同様、賃貸人・賃借人を問わず中途解約条項は有効であり、ただ賃貸人側から中途解約権を行使するには、借地借家法28条により正当事由が必要となるとの趣旨の答弁がなされており(第146回国会 参議院国土・環境委員会会議録438頁)、賃貸人の中途解約権を認める特約を無効とするような解釈はとられていません。

 

 また、文献上も、稲本洋之助・澤野順彦編『コンメンタール借地借家法 第3版』(平文社、20103月)301頁には、「賃貸人は、賃借人との合意によって中途解約権を留保している場合以外は、解約権を有しない。」と記載されており、合意した場合には賃借人の中途解約条項が有効であることが前提とされていたことは間違いありません。

 

4.そして、この問題にきちんとした理由を付して説明しているのが小澤英明、(株)オフィスビル総合研究所編『定期建物法ガイダンス』(住宅新報社、2005月)です。ここでは、小澤英明弁護士がとても分かりやすく説明してくださっているので、同書224頁〜225頁の該当箇所を引用したいと思います。

 

(以下、引用)

 解約権留保の定期建物賃貸借契約は定期借家契約に該当するのだろうか。例えば、「本契約は、期間を2年とし、更新しない。ただし、借主は6か月前の通知により、期間中といえでも本契約を解約することができる。」という規定がある建物賃貸借契約は定期建物賃貸借契約に該当するのだろうか。これは、期間の定めのある契約で、更新しないことが明確であるから、定期借家契約に該当する。中途解約権があれば必ずしも期間満了で終了するわけではないから、借地借家法新382項の説明ができないため定期借家ではないという屁理屈もあるかもしれないが、同条項はコウシンしない契約であることにつき不注意な借主による契約の締結を防止しようとする意図によるものであることは明白であるから、それ以上に同条項に意味をもたせるべきではない。

 それならば、借主に中途解約権がある場合はどうだろうか。これも同様である。問題は、中途解約権が貸主に与えられている場合に、中途解約権の効果が約定どおり認められるか否かということである。これは認められない。なぜならば、貸主による中途解約は借地借家法271項、28条および30条の適用があり、これを排除することは新しい借地借家法38条でも認められていないからである。つまり、中途解約権を行使する場合は、正当事由が必要である。もっとも、このような解釈に対しては、借地借家法271項は期間の定めのない賃貸借の場合の規定であり、また、28条は271項による解約の場合であるから、定期借家には適用がないのではないかという疑問も提起され得る。しかし、借地借家法271項および28条の規定は、民法の特則である。民法617条およびこれを準用している618条では、期間の定めのある賃貸借において、中途解約権が与えられている場合、解約申入れを行って3か月経過して終了することを定めている。これを貸主からの解約の場合は、6か月にして、かつ、正当事由の具備を求めたのが借地借家法271項および28条である。そうであれば、271項や28条は、期間の定めのある賃貸借にも適用がある。従って、貸主の中途解約権の行使には従来どおり、正当事由が必要と解せざるを得ない。

(引用終わり)

 

長々と引用しましたが、私としては、この小澤弁護士の見解が、立法時の考え方に最も合致しているし、とても説得的なので、適切であると思います。

 

5.なお、一番新しく出版された田山輝明・澤野順彦・野澤正充編『新基本法コンメンタール借地借家法』(新日本評論社、20145月)233頁〔吉田修平執筆部分〕では、賃借人の中途解約権を認める特約は有効であるし、しかも、その場合、中途解約をするには正当事由も要求されないとの見解が述べられています。面白い見解なので引用すると、

 

(以下、引用)

 本条〔注:借地借家法28条〕1項の文言上、「30条の規定にかかわらず」と定めていることで、本法26条および28条の規定が適用されないことが明確化されているから、定期借家契約においては賃貸人からの解約権の行使に正当事由が要求されることはない。

 そして民法618条によれば、当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方または双方がその期間内に解約をする権利を留保した場合には、同法617条を準用することになる。同法617条によれば、当事者の解約申入れにより、建物賃貸借は解約申入れから3カ月の経過によって終了する。

 すると、定期借家契約の場合については民法618条および同617条により、賃貸人からの期間内の解約権を定めたときは、解約申入れにより3カ月で終了するとかいすることになる。

 よって、賃貸人と賃借人が真に自由な意思によって合意した以上、その合意通りの効力が認められるものと解さざるを得ない。

(引用終わり)

 

 私としては、この見解に従えば、当事者間の合意により「正当事由」の有無の厄介な判断まで回避できるので、大変魅力的ではあると思うのですが、当初述べた通り、「更新の問題」と「正当事由の問題」は別と考えており、「30条の規定にかかわらず」と規定されていても、そこから、27条、28条の規定の不適用まで読み取るのは難しいと考えています。

 

6.ただ、いずれにしても、定期建物賃貸借契約の立法時の考え方、借地借家法と民法の条文解釈さらには普通賃貸借契約とのバランスからして、賃貸人側の中途解約権を無効とするような東京地方裁判所平成25820日判決の考え方には違和感があります。

 

この記事が、この論点を考えるにあたって一つの参考になれば幸いです。

 

最近、ちょっと残念だな、と考えさせられる判決がありました。

 

案件としては、(判決からは正確にはわからないのですが)大学の教授または研究者の夫と、公務員として働きながら大学院にも進学するような向上心溢れる妻の離婚の話なのですが、ともにプライドが高く、ことあるごとに衝突して、別居に発展。その過程で、妻が、当時、2歳4か月の長女を夫に無断で実家に連れ帰り、以後、5年10か月間、はじめの方に6回娘にあわせただけで、その後は、夫が娘に会うのを拒否し続けたという案件です。

 

この案件では、婚姻関係が破たんしていことは明らかですので、離婚自体は認められるのですが、問題は、娘の親権者を誰にするか?です。

 

原審の千葉家庭裁判所松戸支部は、夫が妻に対し100日程度娘に会うことを保障する計画を提出していることを重視して、親権者を夫にすることを認め、妻に対して長女を夫に引き渡すように命じました。相手に100日の面会権を認めるから、自分を親権者にしてください、というのは従来なかった非常に進歩的な主張であり、この判決も画期的だったのです。

 

これに対し、東京高等裁判所は、「長女は妻のもとで安定した生活をしており、健康で順調に生育し、母子関係に特段の問題もなく、通学している小学校にも適応している」とか「年間100日の面会は長女の負担になる」などといって、妻を親権者にするのが適当だと判決したのです。夫の面会権については判示していませんが、妻側は、月1回(年12回か?)などと主張しておりました。

 

で、最高裁はどのような判断をしたかというと、(私にとっては)残念ながら、二審の東京高裁の判決を支持して、夫の上告を退けたのです。

 

私は、一審の松戸支部判決も、二審の東京高裁判決も読んでみましたが、松戸支部判決の方がはるかに説得力があるように思いました。

東京高裁判決の看過できないのは次の点。

 

1.妻が長女を連れ去ったことや、夫と長女との面会を長い間認めなかったことを、別居した当初、夫が仕事に忙しく長女の看護を委ねるのが困難だったからとか、結婚関係が破たんに瀕していて話し合うことも困難だったからとか、夫がマスメディアに娘との面会が認められないことを報道してもらおうとしていたから、等といって正当化しようとしているように思われる点。(ハーグ条約の観点からすると、こんなこと言っていたら怒られますよ。)

 

2.年間100日間の面会交流について、妻宅と夫宅の往復で長女の身体に負担が生じるとか、学校行事への参加、学校や近所の友達との交流に支障が生じるおそれがあり、必ずしも長女の健全な育成にとって利益になるとは限らないとかと言っている点。(欧米では、これくらいの面接交渉の日数は珍しくないでしょう。例えば、Week Daysは妻宅、Week Endは夫宅などというのは良くある話です。)

 

3.逆に、月1回の面接交流について「当初はこの程度の頻度で面会交流を再開することが長女の健全な育成にとって不十分であり長女の利益を害するとは認めるに足りる証拠ない。」などといっている点(逆に、月1回で十分という証拠はあるのか聞きたい。東京高裁の裁判官は、自分の子供と月1回6時間程度しか会えなくて、それで良いと考えているのかしら?)

 

私が最も嫌なのは、東京高裁判決は、配偶者の一方が無断で子供を連れ去って、子育ての最も重要な時期に、長年、他方に会わせないという非常に残酷なことをしているのに、むしろ、それをして既得権益を積み上げていった方が良い結果がでるという「やり勝ち」を奨励する結論になっていることです。

 

でも、こういう「やり勝ち」を許していたら、なんで司法があるの?ということになると思うのですが、そうではないのですかね(悩みます。)


 企業ポイントというのは、各社が発行しているポイントで主たる商品を購入した場合におまけとして発行されるもののことですが、企業ポイントを貯めているという方は多いのではないでしょうか。

 かくいう私も近所のコンビニでTポイントを貯めていますし、私の友人には航空会社のマイルを貯めている人もいます。こういったポイントを商品と交換したときはとても得した気分になりますよね。

 

 ところで、企業ポイントを持った状態で人が亡くなった場合、そのポイントを相続することはできるのでしょうか?家族で企業ポイントを集めている人にとっては意外と重要な点だと思いますので、今日はこの問題を見ていきたいと思います。

 

 この問題を考えるにあたっては、まず相続の対象について定めている法律の規定を見る必要があります。この点について、民法896条は次のように規定しています。

 「第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」

 

 この条文は、相続の一般的効力として、被相続人の死亡により被相続人に属していた一切の権利義務が、財産の種類や性質、由来等を問わず包括的に相続人に承継される旨を定めるものです。この条文からすれば、企業ポイントについても、これが被相続人の権利であれば相続の対象となるといえます。したがって今回問題となるのは、企業ポイントに権利性があるかどうかです。

 

 この点、普通に考えれば、ポイント保有者はそのポイントを商品やサービスと交換することを意図していますし、ポイント発行企業の側もそのような前提でポイントを発行しています。したがって、企業ポイントはポイント発行企業に対して商品やサービスの贈与を条件付きで要求できる権利であって権利性があるように思えます。

しかし、このように考えるとかなり不都合な問題が生じます。例えば、ポイント発行企業が破産した場合、ポイントが保有者の権利だとするとポイント保有者全員が破産手続きに参加できるはずですし、ポイントが相続の対象になるということは被相続人が持っているポイントの全てが遺産分割の対象になるはずです。でも、発行企業も保有者もそんなことを意図しているでしょうか?

 

 ここからは私見になりますが、企業ポイントがあくまでもおまけ(=保有者がポイントの対価を支払っているわけではない)であることやポイントプログラムの内容を発行企業の側で随時変更できることを考えれば、少なくとも発行企業の側は、ポイント保有者に何らかの権利を保証したとは考えていないのが通常だと思いますし、実質的に考えても企業にそこまでの義務を負わせる根拠は弱いと思います。ポイントを商品やサービスに交換できるのは、ポイント発行企業のサービスの一環にすぎない、すなわち保有者側には⚫⚫ポイントあれば企業から⚫⚫をもらえるだろう、という期待や予測があるだけであって、必ず商品等に交換できる権利があるわけではないと考えるのがより実態に即しているのではないでしょうか。

 

 したがって、(ポイント保有者としては非常に残念ではありますが)保有者と発行企業の間で別途権利性を認める合意でもない限りは、ポイントに権利性はないもの考えて、相続の対象にならないと考えるのが良いのではないかと思います。

 

 現在、企業ポイントの相続については統一的な見解がなく、ポイント発行企業がそれぞれの考え方に従って対応しているようです。しかし、このような運用ですと、相続が発生した際に保有者側でそれぞれのポイントの相続の可否を調べなければならず、保有者側の負担が大きいですし、権利性を巡ってトラブルになりかねません。企業ポイントの法的性質につき、統一的な見解の提示が待たれるところです。

 

 

【参考文献】

松川正毅・窪田充見編「新基本法コンメンタール 相続」39

経済産業省「企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会報告書」http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1285493_po_20090120005-3.pdf?contentNo=1

このブログでも既に取り上げましたが、最高裁は、本年1月に、専ら節税目的の養子縁組であっても直ちに縁組意思がないということはできないとの判決を出しました。

事案は、亡きAの長女X1と二女X2が、Aの長男Bの息子(Aの孫)Yに対して、AYとの養子縁組は、民法8021号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に該当することを理由に、養子縁組の無効確認を求めたものです。

一審は、縁組意思はあったと認定し、控訴審は、縁組意思はなかったと認定しています。

最高裁では、次のとおり判示して、Yを勝たせました。つまり、縁組意思はあったと認定したわけです。

「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人になるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに養子縁組について民法802条にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない

 そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」

(私の感想)

1. 本件のケースについて、最高裁は、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」と言っていますが、控訴審における本件の事実認定を見ると

(1) 
本件の養子縁組は、Aの妻が亡くなった直後に、BBの妻及びBの税理士がAの自宅を訪問して、Y(約1歳)と養子縁組することによる節税メリットについて説明し、それを受けて行われたものであること

(2) 養子
縁組以降、AYは同居しておらず、面会することもなかったこと

(3) 
Bはクリニックの院長を務める医師であり、資産も保有し、Yを養育できない環境にはないこと

などが認定されていますので、一般人の感覚からすると、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情」は「あった」ということになるのではないでしょうか。

2. 
また、最高裁は、「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」というのですが、この「併存しえる」という部分を重視すると不都合な結果が出てくるのではないかと思います。
 例えば、過去の判例で、縁組意思がないと判断されているものを挙げると、

(1) 
旧法のもとで去家を禁止されていた法定推定家督相続人である女子を他家へ嫁がせるための便法として、他の男子を一時養子とするいわゆる借養子縁組(最判昭和23.12.23民集2-14-493

(2) 
戸主や嗣子に与えられていた兵役免除を目的として二男以下の者が養子縁組をする兵役養子(大判明治39.11.27刑録12-1288)

(3) 芸子家業をさせることを目的とするいわゆる芸子養子(大判大正11.9.2民集1-448

(4) 
女子の婚姻に際し家格を引き上げるためにされる仮親縁組(大判昭和15.12.6民集19-2182

などがあるようなのですが、これらの判例の中に現れた様々な動機部分と縁組意思は「併存しえないか?」と言われると、どのような動機であれ、真に親子関係を創ろうという意思は持ち得るのですから、「併存しえる」と言えなくもないでしょう。

4. で、縁組意思の学説は、大雑把に、次のようなものがあるようですが、いずれも判例の立場を統一的に説明できないようです。

(1) 
実質的意思説
  
習俗的標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思

(2) 
形式的意思説
  
縁組の届け出をしようとする意思

(3) 法
律的定型説
  民法上の養親子関係の定型に向けられた効果意思

5. 
そこで、この判例を契機に、つらつらと考えてみましたが、判例の立場は、次のように説明できるのではないでしょうか(自分ではオリジナルな意見ではないかと思っていますが、それは浅学なだけで、既に同じようなことを言っている人がいるかもしれません。
 
すなわち、日本の場合、養子縁組は、(特別養子縁組の場合を除き)当事者の意思で自由にできます。役所に養子縁組届を提出するときも、実質的意思説がいう「真に親子として認められるような関係を創設しようとする意思」があるかどうかなんて確認されません。形式的に記載事項がきちんと書かれているかチェックされるだけです。したがって、制度的に本来の養子縁組制度の趣旨から逸脱した様々な届け出がなされることになります。それを裁判所でいちいち無効などと判断していては、社会的にかなりのコストがかかってしまいますし、大変な混乱が生じるおそれがあります。したがって、裁判所のスタンスとしては、(実質的意思説を採用しているなどと思わせつつ、実際は形式的意思説的に)縁組意思を広く有効にできるように運用しつつ、その時代、時代で、どうしても認めることができないようなもの(その時代の公序良俗に反するようなもの)だけを縁組意思を無効とするというものではないでしょうか。

6. 
で、冒頭に戻って、節税目的の縁組についてですが、先日のブログで触れたとおり、現在、節税目的の縁組はかなり広汎に行われており、ある調査によると5億円以上の相続財産があるケースの約4割で節税目的の縁組が行われていたとのこと。これを無効ななどと言うと、縁組無効確認の裁判が頻発して大混乱になる可能性があるので、最高裁としても、「併存しうる」などと変な理屈を持ち出して無効とは言えなかったのではないかと・・・・。幸いにして、この種の案件が問題となるのは相続開始後の相続人間であり、(一番事実を知っている)被相続人は亡くなっているので、死人に口なしで、多少無理があるとは認識しつつも「縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」などと言いきってしまえばいいですしね(冗談です)。

7.
ただ、さらに翻って考えてみると、実際に行われている節税目的の養子縁組のケースで、当事者間に真に親子関係を作ろうとする意思などあるケースはほとんどないと考えられ、それなのに、縁組意思があるなどと言わなければならないのはやっぱりおかしいと思います。
 そこで、このような判断をせざるを得ない現行の制度自体を変えることはできないかしら。具体的には、当事者の意思で、ほぼ無審査でできてしまうというのはおかしいので、本当に親子関係を創ろうとする意思の有無を事前に裁判所なり公証人なりにチェックさせるような制度にできませんかね?

遺言書を書いておく必要があるのはどのような場合かというと、法定相続の結論が、意図している結論とかなり違ってくる場合であると思います。

そのような場合として、子供のいない夫婦の相続が挙げられます。

子供がいない夫婦の場合、配偶者は常に法定相続人になりますが(民法890)、その他は、親がいれば親が(民法889Ⅰ①)、親がいない場合でも兄弟がいれば兄弟が法定相続人として登場することになります(民法889Ⅰ②)。
相続分は、配偶者と親の場合には、配偶者が3分の2、親が3分の1です(民法900②)。

配偶者と兄弟姉妹の場合には、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ということになります(民法900③)。

ところで、子供がいない夫婦で配偶者が亡くなった場合、夫婦の意思としては、(もちろん例外はあるとは思いますが、通常は)配偶者に全財産が相続されると思っているのではないでしょうか?

しかし、遺言がなく法定相続が行われたとすると、上記のとおり、亡くなった夫または妻の親や兄弟姉妹が出てくるのです。親や兄弟姉妹が物わかりの良い人で「私たちは相続財産なんていらないわ。」などと言って相続放棄をしてくれれば良いのですが、中には、自分たちにも法定相続分があるから、遺産をもらって何が悪いの!ということで権利主張をしてくる場合もあるでしょう。

したがって、子供のいない夫婦にとっては、お互いに自分の財産をすべて相手に相続させる旨の遺言書を書いておく必要性は非常に高いといえるでしょう。

もちろん、遺言書を作っても遺留分という権利は侵害できませんが、親の遺留分は相続持ち分の2分の1ですので(民法1028②)、遺産紛争が起きても解決が楽になりますし、兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので(民法1028)、既に親が亡くなっていて、配偶者の他には法定相続人が兄弟姉妹しかいない場合には、遺言書を書くことにより、自分の財産をすべて配偶者に引き継ぐことができますね。

なお、遺言書を作るときは、のちのち変な争いにならないように、公証人役場で公正証書遺言を作るのがおすすめです。

法律事務所に勤務する弁護士には縁のないものですが、いわゆる企業内弁護士として働いている同期の弁護士の中に、勤め先の会社の社宅に住んでいるという話を聞きました。
都内にありながら、使用料として23万円支払えばその他の費用はかからないと聞き、非常に羨ましく思いました。
住宅手当は自由な転居が可能となるメリットはありますが、給与の一部になるとして課税の問題があり、その点社宅の場合はその意味での課税の問題はないようです。

さてこの社宅ですが、会社が倒産した時や、会社を解雇又は退職したときは、今まで社宅に住んでいた従業員はどうなるのでしょうか。有無を言わさず社宅から立ち退きをしなければならないのでしょうか。賃貸住宅に住んでいる場合には、借地借家法という借主にとって非常に強い味方がついているわけですが、社宅の場合にもこの借地借家法が適用されるのかが問題になってきます。

借地借家法の適用があれば、新しい家主に対して、自分の賃借権を主張できますし(法311項)、家主(会社)から解約されても「正当の事由」(法28条)がなければ立ち退く必要もありません。

社宅の利用に借地借家法の適用があるかどうかは、社宅の使用料が決め手になってきます。

社宅の使用料を全く支払っていなければ、それは無償で貸し渡したということですので、使用貸借(民法593条)になります。使用貸借であれば、借地借家法の適用はないので、最初の取り決め(契約)のとおりに社宅を明け渡さなければなりません。

社宅の使用料を支払っているのであれば、話は変わってきます。一般の家賃とは比較にならないほどの安い使用料(維持費にも満たないもの)であれば、その使用料は家賃としては扱われず、賃貸借関係にないとして借地借家法の適用はありません(最高裁判決昭和30513日・判タ5021頁参照)

逆に、通常の相場に比べて、それほど安いとはいえない使用料であれば、賃貸借関係があるとして借地借家法の適用があるとされる場合があります。

そのため、会社としては、従業員から社宅の明渡しを求める際のリスク(借地借家法を盾に、明渡しを拒まれるリスク)を考えた上で、使用料の設定をする必要があります。

同期の話では、社宅は確かに安いが、居住者が皆会社の関係者であることや、家主が会社であることから騒音等のトラブルがあっても文句を言いにくいという不満があるらしく、家賃が多少高くついても住宅手当を貰って好きな場所に住みたい、いうことでした。
社宅も住宅手当も、私にとっては羨ましい話ですが、そういえば修習時代に知り合った裁判官も、騒音トラブルで官舎から出て自分の好きな所に家を借りていましたね。

最近すこしずつ暖かくなってきましたが、寒くなる日もあるので、体温調整にはお気を付けください。

 最近、最高裁で興味深い判例(最高裁平成29131日判決がありました。

 もっぱら相続税の節税目的で養子縁組を利用する場合であっても、「ただちに養子縁組の意思がないとはいえない」と判断したものです。「ただちに養子縁組の意思がないとはいえない」なんて、とても法律家チックな言い方ですが、要するに、「もっぱら相続税の節税目的で養子縁組しても原則として縁組は有効ですよ。」という意味だと思っていただいて結構です。

 

 相続に関心がある方であればご承知のとおり、相続税の基礎控除額は、現在、


               3,000
万円+600万円×法定相続人数

 

で計算されます。
 したがって、おじいさん・おばあさんと孫を養子縁組させて、
おじいさん・おばあさんの法律上の子供(=定相続人)を増やしておけば、おじいさん・おばあさんが亡くなったときも、相続税の基礎控除額が大きくなり、それだけ節税効果が得られます。

 もちろん、税務当局側も対策を立てていて、相続税法上、養子縁組で相続人にできる人数は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人しか認められません。しかし、いずれにしても養子縁組により600万円から1200万円は相続税の基礎控除額を増やすことができるのです。そのため、ある税理士法人によれば、相続財産額が5億円以上を超えるケースの相談において、節税対策に養子縁組が使われていたのは約4割にものぼるようです。

 相続の分野では、節税対策としての養子縁組が定着していると考えてよいでしょう。

 

 しかし、養子縁組制度が、このような使われ方をしているのはちょっと変ではないでしょうか?そこでちょっと調べてみたのですが、そもそも我が国の養子縁組制度は私のイメージとはかけ離れていました。

 一橋大学経済研究所の森口教授によると、日本では年間で約8万件もの養子縁組がされています。日本の2倍以上の人口を有するアメリカの養子縁組の件数が11万件ということですので、いかに日本の養子縁組の数が多いかわかるかと思います。

 しかし、その内容は全然違います。日本では、67%が婿養子など大人を養子にとる「成年養子」だというのです。その他は、25%が配偶者の子供を養子にする「連れ子養子」、7%が孫や甥、姪を養子にする「血縁養子」。血族でも姻族でもない子供を養子にする「他児養子」はわずか1%に過ぎないといいます。

 これに対して、アメリカでは養子の対象はほぼすべて未成年だといいます。そのうち40%が「連れ子養子」、10%が「血縁養子」ですが、残りの50%は「他児養子」だといいます。

 なぜこのような結果になっているかですが、日本の養子縁組制度は、基本的には家名や家業の承継(お家の存続)を目的にするための制度になっているとの理解がされています。えっ、「お家」って、まだそんなに強く残っていたの?という感じですが、まだまだ根強いようですね。

 これに対して、アメリカの場合は、基本的には、さまざまな理由で実親の保護に恵まれない子供たちに新しい家庭を与える制度として機能しているということのようです。

 

 まぁ、それぞれの国の歴史や文化を反映して今の制度になっているのでしょうから、どちらが優れている・劣っているというような問題ではありません。ただ、日本では結婚の高齢化などもあり子供がいない夫婦が増えていますし、他方で、不幸にも養護施設に長期間滞在せざるをえない子供たちも多いと聞いていますので、なんとか養子縁組を「要保護児童に家庭を与える制度」として活発に利用できないものでなんですかね?

ここ数ヶ月前から、弊事務所の隣のビルの解体工事を行っているようで、時々耳を塞ぎたくなるほどの激しい騒音がします。

もうしばらくは、この騒音と付き合わなければならないことを考えると、思わずため息が出ます。

 

騒音は、いわゆる典型7公害に数えられるものですが(他は大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、進藤、地盤沈下及び悪臭。環境基本法23項参照。)、今回のようなビルの解体工事の場合等、ビルの周辺住民・勤務者くらいしか被害者がいないものでもあっても(航空機の騒音は何千何万人もの人々が被害者となります。)、公害として法的救済が求められることに争いはないでしょう。

 

さて、騒音に対して日々悩まされている弊事務所は、どのような救済を求められるのかが問題になってきます。

騒音に対する救済は、大きく分けて行政的な救済(公法上の規制)と私法上の救済の2つがあります。

まず行政的な救済(公法上の規制)について検討すると、建築工事の騒音は、騒音規制法によって規制されておりますが、建築工事のうち、くい打機やブルドーザーの使用等、著しい騒音を発生する「特定建設作業」のみ規制しています。もっとも、条例で規制できる作業を追加することが可能で、東京都はコンクリートカッターを使用する作業や一定の方法による解体・破壊作業も規制しています。

建築工事の際に、騒音基準(85デシベル以下等)に適合しない等した場合には、解体業者に対して、知事ないし市町村長から是正勧告をすることができ、それに従わない場合には騒音防止方法の改善・作業時間の変更についての命令を行うことができます(騒音規制法15条)。

ただし、残念ながら、改善勧告が行われることは少なく、改善命令に至っては実務上ほとんどないため、仮に騒音基準に適合していない場合であっても、この救済は難しいでしょう。

 

私法上の救済については、精神的肉体的苦痛を根拠に、人格権等の侵害があるとして、不法行為(民法709条)に基づく慰謝料請求を検討するのでしょうか。しかし、受忍限度論というものがあり、これは騒音行為の態様や程度、被害内容、地域性等から考えて、この程度の騒音は我慢しましょうという裁判上の議論があります。

この受忍限度論を考えると、本件の騒音は毎日あるものではなく(これを書いている今日はなぜか静かです。)、日々ビルの建築・解体が行われている地域性等からすれば、今回の騒音は受忍限度の範囲内(我々が我慢しなければならない限度内)という判断になりそうです。

 

やはり、本件の騒音とはしばらく我慢して付き合っていかなければならないようです。

 

ところで、音の大きさが何デシベルであるかどうかは、かつては騒音計がなければ分からなかったのですが、最近はスマートフォンのアプリで音の大きさを測れるアプリがあるようです。精度は分からないですが、騒音基準以内かどうかの参考にはなるのではないでしょうか。

最近は、裁判の証拠にLINEが出てきたりするので、何でもかんでもスマートフォンアプリで裁判の証拠を提出する時代が来るかもしれませんね。

 

つい先日まで、ある女性タレントが、ミュージシャンの男性と交際していた件で世間から強い非難を受けていました。そのミュージシャンの男性には妻がいたので、不倫ではないかというわけです(注)。これを民事的に説明すると、その女性タレントに民法709条の不法行為が成立するかどうか、という問題になります。


(注)女性タレントが記者会見で男性との交際を否定したことを捉えて、嘘をついていると非難した面もありますが、その点はこの原稿では触れません。


この点、最高裁は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである。」(S54.3.30)と述べています。


簡単に言うと、相手に妻又は夫があることを知りながら、その相手と肉体関係を持った場合には、相手の妻又は夫の権利を侵害したのだから、慰謝料を支払う義務がある、というのです。

 

ただ、この判例については、学者から強い批判があります。夫や妻としての権利は、結婚相手の妻や夫には主張できるけれど、それを超えて第三者に主張できるような権利ではないのではないか、ということです。価値判断としても、悪いのは不倫をした夫や妻なわけですが、「そんな人間を配偶者として選んでしまったのはあなたなので、夫婦間で解決しなさいよ、第三者に慰謝料なんて請求するのは、ちょっとやり過ぎですよ。」ということでしょうか。


ただ、最高裁はこうも言っています。

「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係をもつことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとは言えないからである。」(H8.3.26


つまり、配偶者がいる人と肉体関係をもっても、その人の婚姻関係が破綻しているときは、もはや権利侵害行為がないから、その人の妻又は夫から慰謝料を請求されることはありません。


さらにいえば、不法行為が成立するためには、「故意又は過失」という主観的な要件が必要ですので、配偶者がいる人であると知っていたとしても既に夫婦としての関係が破綻していると思っていたときは、「故意又は過失という」主観的な要件を満たさないことが多く、不法行為が成立しない可能性が高いのです。

 

報道によると、女性タレントは、ミュージシャンの男性から、離婚協議中で、妻は家を出ていて、年内には離婚したい、と言われていたとのことですので、この報道が本当であれば、夫婦関係は既に破綻していた可能性がありますし、少なくとも女性タレントは破綻しているという認識だったのかもしれません。


翻って考えてみると、相手に配偶者がいる場合には、交際をためらう場合が多いのではないかと思いますので、世にいう「不倫」には、(とりわけ初期の段階では)この種の案件が多いのでしょうネ。

 

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