カテゴリ: 一般民事・家事

7月26日午前7時5分にgooニュースに配信されていた産経新聞の記事の抜粋です。

 

 5月の名古屋高裁の決定などによると、40代男性は昨年5月、別居中の妻と一緒に暮らす長女と毎月2回の面会をできる家裁の審判が確定したが、昨年6月に面会した後、妻が長女の体調不良などを理由に面会を中止した。男性は家裁に面会の間接強制を求め、1回面会できないごとに制裁金を1万円とする決定がなされた。ところが、その後も面会が実現しなかったため男性が10月に抗告した。

 高裁は長女の体調不良を裏付ける客観的な資料が「一切提出されていない」とし、面会拒否は妻の意思によるものと判断し、制裁金を4倍に増額した。

 

私は、以前から、我が国においては子供との面会交流がきちんと行われていないことを問題視していましたが、今回の名古屋高裁はよくやってくれた、と言う感じです。この問題に対処するには、(例外はあるわけですが、原則論として)面会交流は守られなければならない、というルールの徹底だと思います。もちろん、以前からこのルールはあったわけですが、何かと理由が付けられて強制力が極めて弱いものだったので、多くの人が守らないという悲しい事態を生んでしまっています。夫婦の問題と親子の問題(日本では更に実家の問題が加わる。)は別だということを肝に銘じなければならないと思います。

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ちょっと前の2015年5月23日の日本経済新聞朝刊の記事ですが、「『弁護士保険』普及の功罪 10年で交通事故4割減、損賠訴訟は5倍 泣き寝入り減るが弊害も」という見出しの記事があります。


交通事故の賠償金をめぐる裁判が増え続けている。2000年以降、損害保険各社が自動車保険などの特約で扱うようになった「弁護士保険」の影響のようだ。被害者の泣き寝入りは減った一方、「弁護士報酬目的に見える裁判もある」との批判もあり、制度の見直しが始まった。

全国の交通事故件数は04年の952709件から10年連続で減少し、14年は573842件と4割減った。一方、全国の簡易裁判所に起こされた交通事故の損害賠償訴訟は03年の3252件から、13年は15428件と4.7倍になった。


弁護士保険ができて裁判が増えたという部分は、「弁護士が関与するようになったから」という面があることは否定しませんが、それよりもなによりも、交通事故の損害賠償の実務に制度的な問題があったから、ということが言えるかと思います。

この世界に詳しい方はご存じのとおり、交通事故の損害賠償の算定基準には、自賠責保険の支払いの際に使われる自賠責基準、任意保険の支払の際に使われる各保険会社の基準、裁判所・弁護士が使っている「赤本」基準(この基準が記載されている本が赤いので、「赤本」と言われています。)の3つがあり、赤本基準が最も高額な基準なのです。

したがって、基本的には、交通事故の被害者にとっては、裁判をした方が賠償金額が高くなりますが、裁判を思いとどまらせる主な原因は、弁護士費用の問題だったわけです。しかし、弁護士保険の登場により、そのハードルがなくなったわけですので、被害者にとっては、一種の裁定取引であり、保険会社と示談するより裁判をした方がほぼ確実に経済的に得ということなるので、裁判が増えたのだと思います。

では、この問題に対処するにはどうしたらよいか?
損害賠償の基準を一つにするほかないでしょう。本当の裁定取引であれば、自然と価格は一つになりますが、この問題ではどうなるのか注目したいと思います。

なお、高額の弁護士費用欲しさに訴訟をする弁護士の問題について、弁護士保険の弁護士報酬額の上限について、いまよりも低くすれば直ぐに解決すると思いますよ。

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今朝(2015年2月19日)の新聞各紙で大々的に報道されていますが、民法の、①夫婦別姓を認めない規定(750条)と、②女性には離婚後6か月間再婚を認めない再婚禁止規定(733条1項)が、最高裁で憲法判断を受けるようです。



夫婦別姓を認めないことと、女性の再婚禁止期間を定めた民法の規定が、憲法に違反するかが争われた2件の訴訟について、最高裁第3小法廷は18日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。いずれの訴訟も最高裁が初の憲法判断を示す見通し。

(日本経済新聞2015年9月19日朝刊1頁)



家族法に詳しい棚村政行・早稲田大学学術院教授は「大法廷に回付された2件は法制審が96年に見直しを提案し、国際社会から女性差別に当たるとして再三批判されてきた懸念事項。動かない立法に代わって司法が重い腰を上げたと言える。婚外子(非嫡出子)の相続格差規定に違憲判決が出て民法改正が実現したように、最高裁が法改正を促すメッセージを発する可能性が高まった」と指摘している。

(日本経済新聞2015年2月19日朝刊38頁)


このニュースは、法曹会、いやいや我が国にとって間違いなくビックニュースだと思います。

再婚禁止規定については、昔から合理性が疑わしいと言われており、現実問題として、女性が離婚後にすぐに結婚できるようになったとしても、今の時代、生まれてきた子供が、前の夫の子供なのか今の夫の子供なのか確定できないなどという問題は(ほどんど)生じないように思いますので、最高裁としても躊躇なく違憲判決が出せると思うのですが、夫婦別姓の方は、ご承知のとおり、とても、とても価値観の対立が激しい分野ですので、これについて最高裁が積極的に違憲判断を示すとすると、「最高裁。凄いね!イメージ変わっちゃいます。」という感じだと思います。

なお、夫婦別姓というと、同姓でいたい人も別姓にしなければならない制度と勘違いしている人もいるようなのですが、立法が検討されているのは、別姓にするか、同姓にするかを夫婦が選択できる制度で、同姓でいたい夫婦は同姓でいればよいのです。つまり、我が国の家族の在り方が、突然、180度変わってしまう、というようなものでもなく、別姓にしたい夫婦がいるのであれば認めてあげても全然構わないのではないかと思うのですが、いかがでしょう?


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2015年1月15日の日本経済新聞朝刊34頁に「面会交流の調停 増加」という見出しで、次のような記事(抜粋)が載っていました。


厚生労働省の人口動態統計によると、2013年の離婚件数は全国で23万1383件で、結婚件数の減少とともに減っている。一方、司法統計によると、子供の「面会交流」を申し立てる調停の新規受理件数は12年度は9945件で、10年間で約3倍に増えた。


この問題には、このブログでも何度かコメントしていますが、(まだまだ頻度や面会時間などで不十分だとは思いますが)裁判所的には、面会交流を積極的に認めようという姿勢ですし、また、それと裏腹の問題である養育費についても、統一的な算定表が作られるなど、基準がなかったかつての時代よりもはるかに認められやすくなっています。不履行が起きたときも、裁判所が間に入って履行勧告を出してくれるなど、この面で家庭裁判所はかなり仕事をしてくれているように思います。


ところが、我が国では、子供と面会させない元配偶者、養育費を支払わない元配偶者の話が後を絶ちません。


私としては、この問題は、人々の意識(社会認識)の問題が大きいのではないかなと思っています。


DVなどの問題がある場合は別ですが、自分や実家の感情の問題から子供と面会させない元配偶者は最悪であり、また、身勝手に養育費を支払わない元配偶者も最悪であるという社会認識を広めた方がよいと思います。


自分たちはうまくいかなかったが、自分たちの間に生まれた子供については別問題なので、可能な限り協力していきましょう、という感じでできないものかな?そのように離婚に伴う問題をいわば軽やかに割り切ることは、離婚後の子供の幸せにとっても、また、両親の幸せにとっても良いと思うのですが・・・

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私は数年前に賃料保証会社の仕事を比較的多く行っていたことがあります。
その際に、問題となっていたのが、借家人が賃料の延滞を開始してから、どのタイミングで賃貸借契約を解除するか?ということでした。
賃料保証会社では、借家人から一定の保証料を支払っていただき、借家人の家主に対する賃料の支払いを家主に対して保証します。
たとえば、借家人が一時的にお金がなく、家主に月末に賃料を支払えなくても、翌月の15日あたりに賃料保証会社が家主に賃料を立替払い(代位弁済)をしてくれるわけです。これにより、借家人としては、賃貸借契約を解除されて、借りている部屋から退去しなければならない、というような事態を避けることができます。

しかし、当然のことながら、賃料保証会社としても、ビジネスとして保証をしているわけですので、保証期間には限度がありますし(一般的には6か月?)、1度でも延滞すれば賃料保証会社から借家人に督促が入り、3ヶ月も延滞すれば、(通常、賃料保証会社と家主との間で合意書が締結されているのが普通ですので)賃料保証会社の主導のもと、賃料保証会社が用意した弁護士が賃貸人の代理人となり、賃貸借契約の解除の通知が送られるということになります。また、言うまでもありませんが、借家人は賃料保証会社が立て替えた賃料を、賃料保証会社に支払わなければなりません。

しかし、ここに難問がありました。

賃貸借契約書には、借家人が1回でも(又は2回以上)賃料の支払いを怠ったときは賃貸人は賃貸借契約を解除することができる、などという条項があるのが通常ですので、この場合、当然解除が認められるのではないかと思いがちなのですが、賃料保証会社が翌月には賃料の代位弁済をしている関係から、賃貸借契約自体は債務不履行となっていない(または債務不履行状態が常に解消される。)とも考えられるのです。
そこで、裁判所に建物明渡訴訟を提起すると、20件に1件くらいの割合ですが、裁判官から、「賃貸借契約が債務不履行になっていないのだから、解除は認められないのではないか?」ということを言われたことがあったのです。このような裁判官の見解は、契約書に基づく解除の問題と、民法541条に基づく債務不履行解除の問題と、いわゆる信頼関係破壊の議論とがごっちゃ混ぜになっており、本来的にはおかしいと思うのです。
しかし、1審で論争して、2審でさらに結論をいただくなどということをしていては、コストがかかってしかたありませんので(その間借家人は無償で住み続けるのが通常です。)、実務では、3ヶ月延滞後はいったん保証会社の立替払いを止め、債務不履行状態を発生させてから賃貸借契約の解除通知を送付するとか、月末から翌月15日ころまでに債務不履行状態が生じている期間を狙って、解除通知を送付する、などという工夫を行っていました。


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民法819条1項は、「父母が協議上の離婚をするときには、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。」と規定していて、未成年の子供がいる夫婦が離婚するときは、必ず夫又は妻のどちらか一方を親権者として定めなければなりません(単独親権制)。


しかし、欧米では、離婚後も両親が親権を持つ共同親権制が主流であり、単独親権制という制度が離婚にとって必然の制度であるわけではないのです。

では、どうして我が国は単独親権制度なのかというと、戦前の「家」制度の名残です。
少々古い文献で恐縮ですが、手元にある我妻榮・有泉亨著『民法3 親族法・相続法第3版』(昭和55年・有斐閣)の111頁~112頁から引用すると、



旧法では、「家を同じくする」父母のみが親権者になった。そして、夫婦が離婚すると、原則として一方がその家から去ことになっていて、しかもその場合、子はその者に従って「家」を出ない建前になっていたから、子と「家」を同じくする父または母、すなわち、その家から去らない方の父または母が親権者(旧877条)となり、監護者(旧812条)となるのが原則であった。新法は一方で、「家」の制度を廃止し、他方で、父母は共同で親権を行使すべきものとしたが、離婚した父母に親権の円満な共同行使を要求するのは困難なので、離婚に当たって、父母の一方を親権者と定める――いいかえれば他方の親権を失わせる――ことが必要となったのである。


ということです。

ただ、この単独親権制を採用した法の趣旨は、現在では妥当性を欠くのではないでしょうか?

上記の文献は、単独親権制を残した趣旨として、「離婚した父母に親権の円満な行使を要求するのは困難」と言い切っていますが、私は、離婚後も協力して子供を養育している元夫婦を知っています。元夫・元妻ともに再婚していて、特に仲が良いというわけではありませんが、元妻が引き取った子供については、養育費をきちんと支払い、月2回の面接交渉も行われ、ときに子供の教育問題などについて話し合いがもたれています。


私としては、(離婚の際に、両親のいずれかから、自分の子供に対する権利及び義務を奪う結果となる制度は人権侵害なのではないか?と思うのですが、それは価値観の問題であり決着がつかない問題でしょうから措いておいて)むしろ、このような単独親権制の根底にある家制度的な考え(離婚して家を出たら、子供に対する権利も義務も失う。自分と子供とは関係がなくなる。子供を引き取った親が子供の面倒をみるべきだ。むしろ自分はあまり口出しをすべきではない。)が、今の我が国で顕在化している離婚後の問題、つまり、離婚後に養育費と支払わなくなってしまう元夫が多いことや、子供を引き取った元妻・元夫が、元夫・元妻に子供と会うことを色々な理由を付けて認めないことに繋がっているのではないかという気がします。


このように言うと、元夫・元妻の対立が激しくて、共同親権がうまく行使できない場合はどうするのか?と言われそうですが、それは社会的な効用の比較の問題なのかな、と思います。
①離婚後も共同親権を原則として、うまくいかない場合のみ裁判所が介入して一方の親権に制限をかける制度と

②現状のように、単独親権しか認めない制度
の比較です。


一般に、離婚事件の70%~80%は協議により成立し、残り30%~20%程度に裁判所(調停・裁判)が関与することになりますが、裁判所に持ち込まれたとしても、多くは和解により解決していくので、最終手に判決まで行くのがわずか1%であると言われています。裁判所の関与の強弱はありますが、99%は当事者の話し合いにより解決しているのですから、離婚後に共同親権の問題でこじれるケースは意外に少なく、その処理にかかるコストそれほど心配する必要はないのではないでしょうか。

それに対して、もし単独親権制にすることが、養育費を払わない無責任な親や面接交渉を認めない意固地な親の基本的な考え方、および我が国の貧困な面接交渉制度の現状に繋がっているとすれば、その意識を改善できるメリットは無視できません。その意識が改善することにより、結果として、子供たちの幸せにつながります。

したがって、私としては、社会的効用としては①の共同親権制の方が大きいのでは?という気がしているのです。


それと、(あまり重要ではないかもしれませんが)離婚事件では、子供の親権を巡って激烈な争いが行われるケースも多いのですが、共同親権にすればそのようなケースの緩和にも役立つように思います。

みなさまはどのように思われるでしょうか?

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10月28日の日本経済新聞夕刊1頁に『相続争い一般家庭急増』という見出しで、遺産5千万円以下のケースの相続争いが10年で5割も増えたことが報道されていました。

5千万円以下の遺産をめぐる相続争いが増加している。今年の1~9月に解決した相続争いのうち遺産5選万円以下のケースは全体の約8割を占め、比率は過去10年で5ポイント高まった。年間の件数も10年間で5割増え、件数がほぼ横ばいの遺産5千万円超とは対照的だ。遺産が少ない人ほど遺言や生前贈与といった相続対策をしていないことが背景にある。


で、この記事では、

来年1月からは相続増税が控える。基礎控除は現行の「5千万円+1千万円×法定相続人数」から「3千万円+600万円×法定相続人数」へと4割縮小される。課税対象者は大幅に増える見込みで、相続争いはさらに増える可能性がある。


ただ、どうでしょうね?
この記事も述べるとおり、相続争いの原因が、「財産が少ないほど遺言や生前贈与といった相続対策をしていないこと」にあるのであれば、相続増税により、これまで相続税対策の必要がなかった人たちも、遺言や生前贈与等で相続対策をすることが予想されますので、「相続増税」イコール「相続争いの増加」、ということにはならないのではないか?という気がします。

もちろん、相続税対策の案件は増えるでしょうが、この部分は主に税理士や会計士の先生の分野ですね(弁護士が主に関与するのは遺言書の作成と執行かな?)。

まぁ~将来のことはわかりませんが・・・・
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2014年66日の朝日新聞デジタルの報道によると、
不動産仲介業大手の〔中略:A社〕(東京)が福岡市内の2件のマンション物件について、以前の入居者が室内で自殺したことを説明せず、新たな入居者に賃貸していたことがわかった。〔中略:A社〕は、物件の説明義務を定めた宅地建物取引業法に『違反した可能性がある』として、入居者に謝罪したという。社内のシステムに正確な物件情報が入力されていなかったことが理由、と同社は説明している。
ということです。 

宅地建物取引業法では、自殺や殺人があったいわゆる「事故物件」であることは、第35条の重要事項の説明の項目としては挙げていませんが、同法第47条第1号ニでは、「宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について、故意に事実を告げなかったり、又は不実のことを告げることが禁止されており、日本の裁判所は、自殺や殺人があった事故物件であることは、この「相手方等の判断に重要な影響を及ぼす」事項に該当すると解釈しています。これに違反して事故物件であることを説明しないと、仲介業者は説明義務違反を問われることになり、上場会社だったりすると、ニュースバリューがあるということで、今回のように朝日新聞のネットのページで報道されてしまうのです。

ただ、どうでしょう?みなさん、この事故物件であることを仲介業者は説明しなければならないという解釈について何か違和感がないでしょうか?えっ、ない。そうですね。我々日本人としては全然違和感はないのでしょうね。

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建物賃貸借契約の中に、よく「賃貸人または賃借人は、相手方について、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続き開始または特別清算手続開始の各申立てがあったときは、何らの催告を要せず賃貸借契約を解除することができる。」という規定があることがあります。
そうすると、もしそのような規定がある賃貸借契約なのであれば、表題の問題については、賃借人が破産した、つまりその前提として破産の申立てがあったのですから、当然、家主は賃貸借契約を解除することができる、という結論になるように思います。

ところが、そういう結論にならないところが法解釈の不思議なところ。
この点については、最高裁判例(最判S43.11.21・民集22-12-2728)があり

建物の賃借人が差押えを受け、または破産宣告の申立てを受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法1条ノ2の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法6条により無効と解すべきであるとした原審の判断は正当であって、原判決には何ら所論の違法はなく、論旨は理由がない。

と判示しています。
平成4年8月1日に借地借家法が制定され、借家法は廃止されましたが、同法の基本的な構造は借地借家法に受け継がれており、借家法1条ノ2は借地借家法28条に、借家法6条は借地借家法30条になっていますので、上記の判例を現在の借地借家法に当てはめて読むと、「借地借家法28条の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法30条により無効と解すべきである」ということになります。

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離婚をする際の金銭的な問題としては、

① 未成年の子供がいる場合の養育費の問題

② 結婚期間中に夫または妻のどちらか一方で築いたいわゆる夫婦共同財産の清算(財産分与)の問題

③ 浮気(不貞行為)など、離婚の責任が夫または妻のどちらか一方にある場合の慰謝料の問題

の3つがあります。

そこで、今回は財産分与について説明いたします。

 

たとえば、結婚後は、もっぱら夫が働きに出て、妻は専業主婦、働いてもパート程度という夫婦の場合、自宅や預金は夫名義で行われているパターンが多いのではないでしょうか。しかし、夫が外に働きに出て財産を形成できたのは、妻の協力があったからこそ、と法律は考えます。そこで、離婚の際には、結婚期間中に夫名義で築いた自宅や預金などの財産も、実質的には半分は妻のものであるとして、その2分の1を妻に譲渡しなければなりません(2分の1というのは原則で、正確にいうと、財産に対する貢献や寄与度によって異なる可能性がありますが、今の実務では、相当なことがない限り、2分の1の割合となります)。これを財産分与(民法7681項)と言っています。

 

たとえば、結婚中に築いた夫名義の財産として、自宅(2000万円)と預金(200万円)があり、他方、妻がパートやへそくりからためた妻名義の預金(100万円)があるとします。

この場合、財産分与の基礎となる財産は、自宅2000万円+夫預金200万円+妻預金100万円ですので、2300万円ということになり、これを夫と妻で1150万円ずつになるよう分けることになります。したがって、この場合、(後述の自宅の問題がなく、お金で清算するとすれば)財産分与の問題としては、夫が妻に1050万円を支払え、ということになるのです。

 

ただ、ここで問題があります。

それは自宅には往々にして住宅ローンがついている(住宅ローンの抵当権が設定されている)、ということです。

 

まず、住宅ローンは、夫婦共同生活のための負債ですので、財産分与の算定では、マイナスの財産として評価されることになります。自宅の評価額から控除されますし、地価等の下落により、住宅ローンの残高の方が自宅の評価額よりも大きい場合(いわゆる「オーバーローン」状態)には、自宅の評価を超えて、財産分与の基礎財産から控除されることになります。

たとえば、自宅2000万円、住宅ローン3000万円、夫預金200万円、妻預金100万円の場合、プラスの財産は2300万円ですが、マイナスの財産が3000万円ですので、財産分与がないどころか、下手をすると、妻が夫に350万円(=(3000万円-2300万円)÷2)を支払えとか、(妻が有する財産の限度ということで)100万円を支払え、などと判決が出ることがあります。妻に収入がない場合、この結論は非常に厳しいので、私としては問題があるのではないかと考えておりますが、残念ながら、以上が一般的な理解です。

 

次に、住宅ローンがついた財産の分け方ですが、(a)売却して、住宅ローン支払い後に残った残金を夫婦で分ける、というのが一番公平な感じがしますが、オーバーローン状態であったり、妻側に住む場所がなかったりする場合などには、売らずに(b)名義を妻に移して、(実質的に)妻がローンを返済する方法や、(c)名義は夫名義のままにして、妻は夫に賃料を支払うというような方法などが考えられます。しかし、(b)(c)などは、夫と妻の関係が、離婚後も続くことを前提としますので、(夫と妻が対立している)裁判離婚の際の和解の際には避けられる傾向にありますし、判決になった場合には、このような複雑な分け方を記載することには技術的な問題があり、出来ません(判決主文に反映できない。)。

結局、自宅に住宅ローンがついていて、オーバーローンだったりすると、(オーバーローンの金額次第により)妻は財産分与で何も得られないし、住む場所も失われるのに対し、夫側は、毎月の収入により、銀行ローンも返済していけるので、自宅を維持できてしまうという、妻側にかなり不利になる結論が導かれるというのが私の印象です。

 

以上の不公平感は、結局、結婚中に形成された夫と妻の収入を得る力の格差が、離婚の財産分与の場面では何も評価されていないことに起因しているように思います。

この点は、今後の理論の展開により克服されるべき問題ではないでしょうか。

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