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【宇宙法入門】書影


これだけは知っておきたい!
弁護士による宇宙ビジネスガイド
New Spaceの潮流と変わりゆく法
第一東京弁護士会 編
同文舘出版
出版日:2018-11-15










弊事務所の馬場悠輔弁護士が共著者の一人として、本を出版いたしました!

「これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド
‐New Spaceの潮流と変わりゆく法」(第一東京弁護士会:同文舘出版)
(出版日平成30年11月15日、税込み¥2052(本体¥1900)、A5判)

近年宇宙開発が大企業・ベンチャー企業問わず民間にまで拡がっていく中、宇宙活動をめぐる法律問題は多岐にわたっています。
しかしながら、宇宙法自体が非常に新しい分野であるため、宇宙法を概説した書籍はほとんどありません。
本書は、宇宙法だけでなく、宇宙の歴史から最新の宇宙ビジネスまで幅広く解説しておりますので、法務担当の方だけでなく、少しでも宇宙に興味のある方でも楽しめる内容となっています。

宜しければお手に取りご愛読いただければ幸甚です。

1024日に厚生労働省は企業などがデジタルマネーで給与を従業員に支払えるよう規制を見直す方針を固めたとのニュースがありました。従業員に支払う給与を、銀行口座を通さずに、プリペイドカードやスマートフォンの資金決済アプリなどに送金できるようにするそうです。(日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36868440U8A021C1MM8000/

 

最初に法的な原則論を整理しますと、従業員に対して支払う給与(賃金)については、「通貨」によって支払わなければなりません(通貨払の原則:労基法第24条第1項)。
「通貨」とは、我が国に強制通用力のある貨幣及び紙幣を意味しており、要は日本円の硬貨と紙幣(日本銀行券)で支払わなければならないということになります。
ちなみに「通貨」には外国通貨は含まれませんので、会社が一方的に「今日から給与はドルで支払うことにした」と言って給与をドル払いにすることはできません。

以上が原則論で、これを修正する例外が3パターンあります(労基法第24条第1項但書)。

①法令に別段の定めがある場合

②労働協約に別段の定めがある場合

③(確実な支払の方法として)厚生労働省令で定める場合

①法令に別段の定めがある場合
まず1つめの、法令に別段の定めがある場合ですが、今のところここでいう「法令」は存在しないので、特に問題にはなりません。

②労働協約に別段の定めがある場合
次に2つめの、労働協約に別段の定めがある場合について、労働協約とは、労働組合と会社との間の書面で締結される協定のことをいいますが、労働組合がない会社では、労働協約によって通貨払いの原則を修正することはできないので注意が必要です。

③厚生労働省令で定める場合
最後に3つめの、厚生労働省令で定める場合ですが、これが冒頭で挙げたニュースの話です。
現在では厚生労働省令(労働基準法施行規則第7条の2)によって、労働者の同意があることを前提に、給与を金融機関口座に振込むことが可能となっています。
なぜこれが通貨払の原則の例外なのか?というと、給与の振込みでは、厳密に言えば、労働者は通貨そのものを受領できるのではなく、金融機関に対する預金債権を取得することになるので、通貨払の原則の例外になるのです。
金融機関口座への振込みでも、確実に労働者の手元にいくので、それなら許容しましょうという価値判断です。

 

今回厚生労働省は、これを更に拡大して、従業員に支払う給与を、プリペイドカードやスマートフォンの資金決済アプリなどにも送金できるようにするそうです。
これは昨今の労働者人口の減少に伴う外国人労働者の受け入れをみると、必然的な流れではないでしょうか。

ただし、この記事によればこの手続きの利用ができるのは、デジタルマネーを手数料無しで現金化できることが条件となっていますが、現在のところ(銀行所定のプリペイドカードを除けば)デジタルマネーを現金化するのは難しいと思いますので、実現のためには今後インフラが整備される必要があります。

とはいえ今後銀行口座を間に入れずに給与の振込みができるようになると、外国人労働者にとって働きやすくなるでしょう。
給与の現金払いでは安全面の心配や、確実に給与を支払った証拠を確保するためにも、最近では給与の銀行口座への振込が一般的になってきましたが、銀行口座を外国人が開設しようとすると大変です。短期滞在(90日以内)の場合は開設できないですし、長期滞在ビザを持っていたとしても、日本での滞在期間が6ヶ月未満の場合は開設ができないなどハードルが高いですが、銀行口座が不要となると、外国人労働者でも給与の支払いを受けることが容易になります(今後は併せて就労ビザの拡大も行われていくと考えられます)。

デジタルマネー決済の昨今の状況をみると、クレジットカードや電子マネーの利用のみ(現金不可)の店が出てきたり、病院の診療費の支払いに電子マネーの利用ができたり、経済産業大臣がクレジットカード会社に対し手数料の引き下げを要請する考えを示したりするなど、デジタルマネー決済の推進(キャッシュレス化)の流れに入っています。
このままキャッシュレス化が拡大すれば、上記のデジタルマネー現金化の条件もなくなるのではないでしょうか。

ちなみにアメリカでは、既に「ペイロールカード」というものがあって、会社は銀行を介さずに直接このカードに入金し、従業員はこのカードでショッピングをすることが可能になっており、日本の一歩先を行っています。
ただし、アメリカではペイロールカードの現金引出しの際の手数料について批判がされているので、厚生労働省はこの批判を避けるために、今回あらかじめデジタルマネーを手数料無しで現金化できることを手続利用の条件にしているのではないでしょうか。

今回のデジタルマネーによる給与支払いは、外国人労働者受け入れの布石となることでしょう。

各都道府県労働局に設置されている総合労働相談センターへの労働相談は、10年連続で100万件を超えており、内容は「いじめ・嫌がらせ」(ハラスメント)が6年連続トップになっています。
厚生労働省の統計データによれば、解雇に関する相談は10年前に比べて2分の1に減少していますが、「いじめ・嫌がらせ」(ハラスメント)に関する相談は、ここ10年で2倍になっています。(厚生労働省「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf


最近では女子レスリングや体操のパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)問題が世間を賑わせたこともあり、パワハラ問題に関するニュースが多くなっている印象です。
もっとも取り上げられるニュースはその時期の「流行り」という面がありますので、ニュースとして取り上げられることが多くなることと、実際にハラスメント行為が増えていることとは別問題ですが、年々、特にパワハラは増加の一途を辿っています。

パワハラは昔からあったはずですが、ネットやニュースで「パワハラ」という言葉が一般に認知され、「パワハラ=悪」という印象が世間的にも広がり、パワハラ被害を受けた人が声を上げやすい世の中になってきていると思います。一方で、いじめや嫌がらせの類を強いものから弱いものまで十把一絡げに「パワハラ」だと認定してしまっている傾向もあるでしょう。その意味で、パワハラが本当に増加しているかは簡単には判断できないでしょう。

「パワハラ」は、法律上定義されているわけではありませんが、厚生労働省円卓会議ワーキング・グループが、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義らしきものを報告書にまとめており、実務上はこれをパワハラかどうかの一つの基準にしています。

またワーキング・グループは、パワハラの行為類型として、以下の類型を挙げています。

①身体的な攻撃(暴行、傷害等)
②精神的な攻撃(脅迫、名誉毀損、侮辱、暴言等)
③人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視等)
④過大な要求(業務上明白に無理なこと・不要なことを要求等)
⑤過小な要求(仕事を与えない等)
⑥個の侵害(私的なことに立ち入る等)

個人的には、暴行や傷害、脅迫などは明確な犯罪行為であり、「ハラスメント(harassment)」(嫌がらせ)の語義から外れていると思いますので、単に暴行罪・傷害罪・脅迫罪と言えば足り、「パワハラ」という言葉で曖昧・抽象化する必要はないと思っています。

少し嫌な思いをしたら、何でもパワハラになるのではなく、上記の基準に当てはまるかを考える必要があります。この基準のうち特に「業務の適正な範囲を超えて」という部分がキーワードになります。

業務の適正な範囲を超えた行為とは、例えば、自分の考えを長時間にわたって「指導」と称して押し付けることや、自分の納得しない報告は受け入れず、ダメ出しを繰り返すことなどがあります(過度のダメ出しなんかは役所に多いので、個人的にはハラスメント行為だと思っています)。

またパワハラに当たるかは、時代(特にテクノロジーの発達)によって変わっていきますので、注意が必要です。
昔はネットやメールがなかったので、休日に上司等から連絡が来ることはなく、休日になれば仕事から完全に解放されたと聞きます。今では休日でも連絡がメール等でできてしまうので、パワハラと認定されるかはさておき、それが問題となり得る時代になっていることは認識しておくべきだと思います。
タイミング的に休日にメールを送らざるを得ないとしても、メールのタイトルに【月曜日に見ること】などの言葉をつける配慮をしている方もいます。

上司が部下に行った「叱咤激励」が、部下にとっては「パワハラ」に感じるということはよく聞く話ですが、コミュニケーション不足に原因があると思います。コミュニケーションが不足しているから、部下としては現れた言葉や行為しか見れなかったり、上司としても意味もなく強い言動をとってしまったりするのではないかと思います。
時代が違う、世代が違うから仕方ないと片付けてしまうのではなく、お互いに置かれた環境なども考慮しながら、言葉だけでなく言葉以外のノンバーバルな部分にも注意を傾けていく必要があるでしょう。

最近のビットコインですが、9月から10月にかけて、1BTC=75万円前後をうろちょろしていましたが、数日前に、70万円を切り、また、上昇して、この記事を書いている現在(2018/10/18)、1BTC=72万円前後で推移しています。

さて、ビットコインに関するニュースとして、最近興味を引いたのは、3万ビットコイン(BTC)が、送金手数料(トランザクション手数料)0.00001464ビットコイン(BTC)で送金できた、というニュースです。

当時、日本では、1BTC=70万円前後で推移していましたので、日本円になおすと、約210億円が、約10円で送金できたことになります。これを、銀行を使った海外送金と比較すると、例えば、SMBCHPhttp://www.smbc.co.jp/kojin/otetsuduki/sonota/kaigai/)では、「円普通預金から出金、または円現金を店頭にお持ち込みされ、円貨建てで送金される場合」の手数料として、海外送金手数料:4,000円、関係銀行手数料:2,500円、円為替取扱手数料:送金金額の0.05%(210億円であれば1050万円)がかかるとのことですので、これを単純に計算・合計すれば10506500円の手数料がかかる計算になります(ただ、そもそも、210億円を1回で送れるか、という問題もありますが。)。こうしてみると、送金手数料10円というのは、破格の安さですね。

 

ちなみに、なぜ、そんなことが分かったのか、というと、ビットコインは、取引台帳(ブロックチェーン)が公開されているため、いくらのビットコインが動いたか、という情報は、誰にでも分かるためです(但し、台帳には個人情報は記録されていないため、誰が送金したのかは分かりません。)。

実際、ブロックチェーンの情報を表示できるWebサイトを見ると(以下のURL)、3BTCが、手数料0.00001464BTCで送金されていることが分かります(正確には、3BTCが、手数料を引いて、0.8316BTC29,999.16838536 BTCに分かれて、2箇所に送金されています。)。https://www.blockchain.com/btc/tx/bace354d53088d92740485ade3211309d80b427355b931a790575b6646970202?show_adv=true 

このトランザクション手数料ですが、実は、銀行の送金手数料のように、額が決まっているものではなく、仕組み上、送金者が自由に設定することができます(※但し、送金するソフトなどの環境によっては、自動で設定され、変更できないものもあるかもしれません。また、通常は、何も設定を加えなければ、ウォレット=送金ソフトが適切な手数料を設定しますので、ビットコインを使ったことがある方でも、あまり、なじみがない方もいらっしゃるかもしれません。)。

このトランザクション手数料は、ビットコインの台帳を更新するマイナーと呼ばれる人たちに渡る、いわばチップのようなものです。チップが多ければ、その分、早く送金され(つまり、早く、取引情報が台帳に書きこまれ)、チップが安ければ、送金に時間がかかる、というのが一般的です。マイナーとしても、チップを多く貰いたいですから、チップが多いものから優先して台帳に書きこんでゆくためです。

 

トランザクション手数料を巡っては、これまでに、ビットコインのトランザクション手数料は高い、いや、安い、などといった議論がなされてきました。

自由に決められるチップに、高いも安いもないように思いますが、特に、取引が込み合ってきた際、この程度のトランザクション手数料にしておかなければ、取引の承認が後回しになり、なかなか取引が承認されない、などという事態が生じます。その結果、昨年末などには、平均的なトランザクション手数料が高くなった時期もあったようです。しかし、今回のニュースをみると、やはり、ビットコインの送金手数料は(銀行の手数料などに比べると)遥かに安いなと感じます。

土地区画整理組合の最高意思決定機関は組合員で組織される総会ですが(土地区画整理法30条、31条参照)、その総会の招集権者については、土地区画整理法32条1項及び2項において、通常総会と臨時総会のいずれについても「理事」と定められています。
 通常は、理事長が組合を代表しますので、理事会の決議を経たうえで、理事長の名義で総会を招集することが多いでしょう。
 では、組合員が総会を招集することができないか?についてですが、これについては、土地区画整理法32条3項が「組合員が組合員の5分の1以上の同意を得て会議の目的である事項及び招集の理由を記載した書面を組合に提出して総会の招集を請求した場合においては、理事は、その請求のあった日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない。」と定めています。したがって、個々の組合員も、組合員の5分の1以上の同意を得れば、理事に臨時総会を招集するよう請求できることになります。

 実務的に、組合員が、5分の1の同意を得て、臨時総会の招集を請求することなどあるのか?と疑問に持つ方もいらっしゃると思いますが、これが結構あるのです。特に、組合の事業資金が不足して、組合員に賦課金を課そうなどと議論し出すと反対派グループが組織され、5分の1の同意を得た総会の招集請求に到るということが多いようです。

 ところで、この総会招集請求がなされたときにいつも頭を悩ませるのが、「理事は、その請求があった日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない」という文言の解釈です。これは、単に20日以内に招集通知を発送すれば良いのか?それとも20日以内に総会を開催しなければならないのか?という問題です。仮に、20日以内に総会を開催しなければならないとすると、土地区画整理法32条8項本文は「総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の5日前までに、会議の日時、場所及び目的である事項を組合員に通知しなければならない。」と規定していますので、組合員から請求があった日から15日後までには、理事会を開催したうえで、招集通知等の印刷、封入れを終え、組合員に発送しなければならないということになりますので、かなり忙しいのです。

 この点、会社法では、例えば株式会社の取締役会の招集において、定款又は取締役会で招集権者として定められた取締役(通常は代表取締役)以外の取締役も取締役会の招集を招集権者たる取締役に請求することができると規定し、その場合、「請求のあった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。」(会社法336条3項)と規定しています。

 つまり、請求があった日から2週間以内の日を開催日とする取締役会の招集通知を、請求があった日から5日以内に発しなければならないことが明確になっているのです。

 しかし、土地区画整理法では、この点の記載が明確ではなく、どのように判断したらよいのか迷います。
 で、私も次の文献を調べてみたのですが、この点に関する記載がないのです。
(1)「逐条解説 土地区画整理法(第2次改訂版)」 国土交通省都市局市街地整備課監修 土地区画整理法制研究会編著

(2)「条解・判例 土地区画整理法」大場民男著

(3)「実務問答 土地区画整理」土地区画整理法制研究会編

(4)「特別法コンメンタール 土地区画整理法」松浦基之著

 ただ、(4)の松浦先生のコンメンタールには、32条7項の「第14条〔設立の認可〕第1項に規定する認可を受けた者は、その認可の公告があった日から1月以内に、最初の理事及び監事を選挙し、又は選任するための総会を招集しなければならない。」との規定の解釈について、「公告のあった日から1カ月以内に総会を開くという趣旨である。招集が1カ月以内であれば、総会の日は1月を超えてもいいというのではない。」(167頁)とあります。これと同様に考えるのであれば32条3項の「20日以内に臨時総会を招集しなければならない。」も20日以内に総会を開催しなければならないと読むのでしょう。

 で、お前はどう考えるか?ですって。

(1)   32条2項の文言からは、「20日以内に招集すれば良い」と読むのが自然なようにも感じますが、そうすると20日以内に招集通知を発送すれば、総会は1カ月後でも2カ月後でも良いなどということになりかねませんので、総会開催についての時間的縛りが曖昧になってしまいます。

(2)   仮に、20日以内に招集通知を発送すればよいと考えて、実際にそうしたが、あとで20日以内に総会も開催しなければダメ、などと裁判所で判断された場合、総会決議が無効になるリスクも存在することになります。

したがって私は、保守的に考えて、組合には「20日以内に総会を開催するのが適当」とアドバイスしています。この点については、土地区画整理法も会社法のように解釈の余地がないほど明確に定めてほしいですね。

大手予備校(福岡校)が、長年講師として働いてきた労働者(有期労働契約)を、無期転換ルールの適用直前になって雇い止めを行い、その雇い止めについて、福岡労働局が「雇い止めが無効の可能性がある」と指摘したというニュースがありました。
(毎日新聞:https://mainichi.jp/articles/20181024/k00/00m/040/210000c

「無期転換ルール」とは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルールです。このルールは労働契約法第18条で規定され、同条は平成2541日以後に締結した労働契約に適用されます。

この無期転換ルール「逃れ」のために、今後雇い止めが増えるのではないかと懸念されていましたが、やはりこのようなニュースが出てきました。

私がこのニュースを見て気になったのは、①労働者の年齢と②今までの契約更新事情という点です。

①まず労働者の年齢について、今回雇い止めされた労働者は68歳であり比較的高齢の方ですが、実は無期転換時の年齢については注意する必要があります。
というのも、仮にこの方に無期転換ルールが適用されて、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換した場合には、定年の問題が生じることになるからです。

無期転換後の労働者に適用される就業規則を準備していない場合には定年の規定が適用されませんし、仮に60歳定年の規定がある就業規則が適用されたとしても、無期転換時に60歳を超えている労働者については、60歳定年の定めは適用がないものとして扱われてしまいます。

これはどういうことかというと、無期転換時に60歳を超えている労働者については、いわば「定年なし」の状態になり、会社は、労働者自身が退職を申し出るか、心身の故障等の解雇事由が発生しない限り、その労働者を雇用し続けなければならないことになってしまうのです。

このような事態を回避するにはどうすればいいか?というと、無期転換後の労働者に適用される就業規則をきちんと準備しておく必要があります。

無期転換後の労働者に適用される就業規則に60歳定年の規定を定めておき、さらに、例えば「無期転換権を行使した有期雇用労働者で、無期雇用契約開始時に満60歳以上の者については、無期転換後2年間で定年とする。」といった内容の定年規定を置くことで、事前に対処が可能です。

今回の大手予備校はきちんと就業規則を整備していなかったと予想していますが、定年だけでなくその他の労働条件についても、会社の運用に沿った内容を定めた無期転換用の就業規則を作成しておくことが望ましいでしょう(無期転換後の就業規則の作成については当事務所で扱っておりますので遠慮なくご連絡ください。)。

②次に今までの契約更新事情についてですが、今回ニュースになった方は、29年間も講師として働いており、雇い止めの直前は1年契約を6回更新しており、また今回雇い止めされるまで特に会社から指導等はなかったという事情があります。

このような事情があったため、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるとされた結果、雇い止めの無効の指摘がなされたので、無期転換ルール適用直前の雇い止めであれば、全て無効になるという判断が今回なされたわけではありません。
すなわち、無期転換ルール適用直前の雇い止めであっても、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」がないのであれば(かつ同条1号に該当しない場合)、雇い止めは有効になりますのでこの点は留意する必要があるでしょう。

とはいえ、そもそも無期転換ルールが作られた趣旨は、労働者が雇用の安定している無期労働契約に転換できるという労働者保護の観点が大きいため、この無期転換ルールがあるために雇い止めが助長される等、契約更新の足枷となってしまっては本末転倒です。また今回労働局も「無期転換ルールを意図的に避ける目的で雇い止めをすることは、法の趣旨に照らして望ましくない」と指摘しています。

したがって、今後の無期転換ルール適用直前の雇い止めについては、従来では契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるに至らないとされる段階であったとしても、今までよりも労働者保護の判断(雇い止め無効)に行政・司法とも移行していくものと予想しています。

2018年10月12日の日本経済新聞朝刊に「兼業・副業「許可せず」75% 労研機構調べ 政府推進も進まず 」との見出しの興味深い記事がありました。
以下、記事の抜粋です。

「政府が推進する会社員の兼業、副業について、独立行政法人労働政策研究・研修機構が企業や労働者にアンケートをしたところ、企業の75.8%が「許可する予定はない」とし、労働者も56.1%が「するつもりはない」と回答したことが分かった。
政府は2017年3月にまとめた働き方改革実行計画の中で、兼業や副業を「新たな技術の開発、起業の手段、第二の人生の準備として有効」としたが、浸透していない実態が浮き彫りになった。
〔中略〕
許可しない理由を複数回答で尋ねたところ、「過重労働となり、本業に支障を来すため」が82.7%で最多。「労働時間の管理・把握が困難となる」も45.3%を占めた。」

この記事を読む限り、日本では、将来的に人口減少による様々な社会制度の崩壊が叫ばれているところですが、まだまだ人々の生活は安定していて、現業・副業を具体的に考えているわけではないということでしょうか。

ところで、この記事によれば、現業・副業を許可しない企業側の理由として「労働時間の管理・把握が困難となる」というものがありますが、これはどういうことでしょう?

実は、労働基準法第38条第1項は、

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定していて、この「事業場を異にする場合」とは、同一事業者の下で事業場を異にする場合のみならず、別使用者の下で事業場を異にする場合も含まれると解釈するのが通説・行政解釈(昭23・5・14基発769号)なのです。

つまり、Aさんが、事業者Bさんのもとで4時間働いて、事業者Cさんのもとで5時間働いたとすると、Aさんの一日の労働時間は9時間となるので、後で雇ったCさんは、1時間の残業代を支払わなければならない、という結論になるのです。

しかし、Aさんからしてみれば、Bさんのもとで働いていることを隠しておきたいというのが多いのではないかと思いますし、Cさんとしても、労働時間の計算がややっこしくなるので、Aさんの兼職のことを知ると、採用に消極的になるのでしょう。

そこで、上記の行政通達(昭23・5・14基発769号)でも、次のように質問がなされます。

「<事業場を異にする場合の意義>
問 本条において事業場を異にする場合においても」とあるが、これを事業主を異にする場合も含むと解すれば、個人の側からすれば1日8時間以上働いて収入を得んとしても不可能となるが、この際、個人の勤務の自由との矛盾を如何にするか〔中略〕。」

で、それに対する回答がこれなのです。とても冷たい。
「答 「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含む。」

したがって、行政解釈は、労働者がある職場で8時間以上働いている場合、事実上、どの労働者が兼業や副業により別に収入をえることが事実上不可能になっても良いと考えると言えるように思います。

しかし、今の安倍政権が兼業・副業を推進していることからも明らかのように、少子高齢化、人口減少が進む将来において、我が国の労働者が兼業・副業ができるようになることは不可欠であるということがいえるでしょう。
学説でも、労働法の大家である菅野和夫教授は「私としては、週40時間制移行後の解釈としては、この規定は、同一使用者の下で事業場を異にする場合のことであって、労基法は事業場ごとに同法を適用しているために通算規定を設けたのである、と解しても良かったと思っている。」(菅野『労働法第11版』464頁)と述べています。
労働者が副業・兼職をしたいと希望しているときに、法律が、労働者保護を理由に副業・兼職を事実上制限するのは適当ではありません(個人の勤務の自由に対する過度は制約)。

したがって、私としては、早く上記の行政通達(昭和23・5・14基発769号)を廃止し、労働者が兼業・副業を行うにつき法的障害がないようにしてあげなければならないと考えております。

 宅建業者であるクライアントから、「自殺が重要事実に含まれることは知っているが、では、隣の家で自殺があったことも、重要事実(宅建業法4711号ニ)として説明しなければならないのか?」との趣旨の質問を受けることがあります。

 確かに、裁判例では、いわゆる「心理的瑕疵」の有無について、「目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥があるのか否か」、という基準に判断されており(東京地裁平成7531日判決など)、典型的には、建物の売買の際に、その建物「内」で過去に自殺があったといったケースで、心理的瑕疵が認められた例が多く存在します(大阪高裁平成26918日判決など)。

 しかし、ご質問のように、その建物自体ではなく、隣の家で自殺があったような場合はどうでしょう。これについては、自殺のあった建物自体ではないため、自殺のあった不動産から離れて、どこまで「心理的瑕疵」が認められるか否かが問題となります。

 この点について、裁判例をリサーチしたところ、1件だけ、土地上にかつて存在した建物内で、過去に殺人事件があったケースで、その隣地にも心理的瑕疵ありと認定されたケースがありました(大阪高裁平成181219日判決)。

 しかし、このケースは、

 ・自殺ではなく、殺人事件のケースであったこと

 ・報道によって殺人事件として近隣住民にも広く知れわたっていること

 ・殺人事件を理由に、別の購入希望者との土地売買の話が破談になった経緯がある
  こと(つまり、一般的にも、事件を知ったら、取引を中止する程に買いたくない
  土地、と認識されている)

 ・売買取引としても、事件があった土地と隣接地を合わせた、いわばセット(一
  括)での売買取引であったこと(つまり隣地ではあるが売買の対象にはなってい
  る)

 ・土地自体も比較的狭いものであったこと

という特殊な事例であり、ご質問のケースとは事案の性質が異なるものようです。
 これ以外に、自殺等と不動産の心理的瑕疵については、例えば、末尾のような裁判例がありますが、基本的に、自殺のあった物件以外で心理的瑕疵が認められるとしても、あくまで、自殺等のあった建物の敷地程度が限界であり、自殺によって隣地まで心理的瑕疵が認められたものはないようです。

 さらに、事案は若干異なりますが(売買契約ではなく、競売での取得の事案)、競売にて取得した土地建物の隣地で、その所有者が自殺していたことが判明した事案で、買主が売買の取り消しを求めた事案において、裁判所は、「交換価値の著しい減少があったものとまで解することができない」として、売買の取り消しを否定しました(仙台高裁平成835日決定。仮に、競売ではなく、通常の契約による売買の事案であれば、心理的瑕疵の問題として議論されていた論点かと思います。)。


以上を踏まえると、隣接地で自殺があったからといって、心理的瑕疵があるとは認められない(告知は不要)と考えられます。

【自殺等と不動産の心理的瑕疵に関する裁判例】

〇肯定例

①土地上にかつて存在した建物内での火災死傷事故(東京地裁平成2238日)

 土地の心理的瑕疵と認定

  ※自殺ではなく、事故のケース

②土地上の物置での自殺(東京地裁平成7531日判決)

 土地建物の心理的瑕疵と認定

③建物からの飛び降り自殺(東京地裁平成20428日判決)

 建物・土地売買に際して、告知しなかったことに関し、不動産業者の告知義務違
  反肯定
 ※この裁判例では、「瑕疵」という用語は用いられていませんが、実質的に、心理
  的瑕疵を肯定したものと考えられます。


〇否定例

①建築中のマンションのエレベーターシャフト内での作業員の死亡事故(東京地裁平
 成23525日判決)
 →マンションの心理的瑕疵否定

②土地上にかつて存在した建物内での焼身自殺(東京地裁平成1975日判決)
 →土地の心理的瑕疵否定
 ※8年前の事件で、建物も解体され、事件としても風化している点を指摘

③土地上にかつて存在した建物内での首吊り自殺(大阪地裁平成11218日判決)
 →土地の心理的瑕疵否定

 

一昨日(2018年10月16日)、積水ハウス西五反田詐欺被害事件の地面師グループが一斉逮捕されましたが、この事件は非常に興味深いです。

1.まずは、本人確認の難しさ。

報道によれば、地面師たちは、まず今回対象になった西五反田の土地の所有者(女性)のパスポートを偽造し(もちろん写真は今回逮捕された成りすまし役の女性のものにする。)、そのパスポートをもとに、区役所でその土地所有者の印鑑登録をして、印鑑登録証明書の発行を受けたようです。また、積水ハウスのプレスリリースを読むと「〔なりすまし役の女性の〕パスポートや公正証書等による本人確認を過度に信頼し切って〔中略〕契約を進めてしまいました。」とあるので、地面師たちは、土地の権利証が手に入らなかったためだと思いますが、本人確認情報の制度(不動産登記法23条4項)により登記手続きを行うことを計画して、成りすまし役の女性が土地の所有者であることを公証人が認証する公正証書も作成したようです。その公正証書作成の際に利用されたのもおそらく偽造パスポートでしょう。したがって、本件では、偽造パスポートが成りすましの出発点なのです。で、そのパスポートは、ネットで写真が見れますが、司法書士や公証人が見ても偽造されたものと気が付かないくらいなのですから、かなり精巧に作られていたのでしょう。世間では、なぜパスポートや公正証書以外の本人確認をしなかったのだ?などと非難めいたことが言われていますが、不動産登記法では、パスポートや運転免許証などの写真付きの身分証明書の提示を受けた場合、それで本人確認をして良いということになっておりますので(不動産登記規則72条2項1号)、何か相当疑わしい事実でも出てこない限り、わざわざ物件の近所の人たちに聞き取り調査をする必要まではないことになるかと思います。実際、私もよく破産管財人として不動産の売却をしていますが、司法書士の先生から運転免許証の提示は求められますが、それ以上に、私の近所の人たちに私が本当に飛田博という人物なのか聞き取り調査をしたなどということは聞いたことがありません。まして、昨日の報道では、地面師グループは、西五反田の土地上にあった建物(旅館)の鍵を勝手に付け替えて、積水ハウスの担当者に建物の内覧をさせていたり、地面師グループ側にも本当の弁護士がついており、その弁護士も成りすましの事実を知らずに積水ハウスに対応していたりしたようなので(ちなみに、その弁護士は今回逮捕されていません。)、いくら不動産取引のプロといっても、積水ハウス側が成りすましを見破るのはかなり難しかったのではないかと思います。

追記)本日の報道では、司法書士の本人の確認の際になりすまし役の女性が、本人の生年月日や干支を間違えて答えたそうなので、司法書士の本人確認に問題があったかもしれません。

2.次に、報道によると、売買契約を締結し、手付の14億円を支払ってから、残代金49億円を支払うまでに、積水ハウスは、本当の所有者を名乗る人物から「仮登記がされて驚いている。無効なので抹消せよ。」などと警告する内容証明を4通も受け取っていたらしいのですが、なぜそのような内容証明を受け取っていながら地面師に騙されていることに気が付かなかったのでしょうか?

この点については、積水ハウスのプレスリリースでは、「これらリスク情報を取引妨害の類と判断し、十分な情報共有も行われませんでした。」ということなのですが、「取引妨害の類」と判断されるような内容・形式の文章であったのか少々興味がありますね。ネットで調べても、どのような内容証明だったのかは公表されていなかったので、何とも言えないところですが、もし普通に読めば「この取引は大丈夫か?」という内容だったのであれば、積水ハウスのガバナンスには重大な問題があったということになるかと思います。

3.さらに本件で、最終的に法務局で所有権移転登記が却下された経緯についても気になります。

報道によれば、印鑑証明書が偽造であることがわかって、申請が却下されたようなのですが、印鑑踏力証明書自体はきちんと区役所で発行されたものでしょうから、本件では、真の所有者または周りの人たちがあらかじめ法務局に事情を話して所有権移転登記を阻止しようとしていない限り、法務局が印鑑証明書の偽造を見破るのは難しかったのでは?と思います。そのように考えないと、なぜ契約締結時点に仮登記を入れられたのに(したがって、このときは法務局は印鑑登録証明書の偽造に気が付かなかった。)、本登記の際に、印鑑登録証明書の偽造に気が付いたのでしょう。

4.とまあ、この件については色々な論点・疑問点があるのですが、最後に、不動産取引特有の事情についても指摘したいと思います。

不動産取引では、対象となる土地の価格が大きいため、①買主にとっては代金を支払ったにもかかわらず所有権移転登記を移転してもらえない事態を防ぐため、また、②売主にとっては物件の登記を移転したのに代金の支払いを受けられない事態を防ぐため、ほとんどの場合、代金の支払いと登記の移転は同時履行とされます。しかし、実際には、登記手続には1週間くらいかかるため、同時履行とされるのは、代金の支払いと(登記手続の完了ではなく)登記移転に必要な書類の受け渡しなのです。

不動産取引の最終決済のイメージはこんな感じです。不動産に担保権がついていると、その担保権者にも来てもらわなければならないので複雑になりますが、最も単純な担保権がついていないパターンで説明すると、
① まず、買主は売買代金の融資を銀行から受けることが多いので、多くの場合、その銀行の会議室に、売主、買主、担当司法書士が集合する。
② 次に、売主が司法書士に登記必要書類(委任状、住民票、登記識別情報、原因証書)を交付する。
③ 司法書士が登記必要書類に不備がないことを確認し、OKを出してから、買主は、売主の口座に売買代金を振り込む。
④ 買主が着金を確認したら、取引は終了し、解散する。
⑤ その後、司法書士が法務局に行き、移転登記や銀行の担保権設定の手続きをする。

実務的には、司法書士のOKが出て買主が振込みの手続して売主の口座にお金が着金するまでに時間を要することがあり、会議室の中で、皆なにもすることがなく気まずい雰囲気になることが多いので、そこをどう乗り切るかが課題だったりするのですが、そのようなつまらないことは置いておいて、いずれにしても、我が国の不動産取引で代金の支払いと同時履行になるのは、登記手続の完了ではなく、その前段階の司法書士への登記書類の引渡しなのです。したがって、不動産取引において司法書士の先生方は非常に重要な役割を果たしているのですが、本件の場合、印鑑証明書と公証人の本人確認書面で移転登記をしようとしているので、登記必要書類には不備はなかったのでしょう。だとすれば、本件のようなケースは、通常の不動産取引のプロセスのなかでは防ぎようがなかったということになるかと思います。

このような事態を防ぐにはどうしたら良いのでしょう?

それは、簡単で、代金が売主に支払われるタイミングを登記の完了まで遅らせれば良いのです。もちろん、売主が移転登記手続の申請をしたのに、買主が何もしなくてよいというのは公平ではありませんので、例えば、買主は、中立公平な第三者に売買代金を預け、移転登記が完了した時点で、その売買代金が売主にリリースされるという仕組みを確立すればよいのです。そうです。外国でいうエスクローの仕組みを不動産取引に広く導入するということです。私は、不動産取引においける司法書士の先生方のこれまでの経験や役割からして、このエスクロー制度は司法書士会などが先鞭をきって導入するのが良いのではないかと思うのですが、いかがですかね?最近司法書士の先生の仕事が減っていると聞いていますので、業界の起爆剤になるのでは?

もっとも、最終的に移転登記も完了して、売買代金も売主にリリースされたが、後で地面師による売買であることが判明したような場合には、無権利者からの売買であり、登記には無効な売買を有効にするまでの効力はありませんので、買主は保護されないということになります。

不動産取引は難しいですね。

馬場弁護士の「高度プロフェッショナル制度のメリットは?」という記事に刺激を受けての投稿です。

私は、実はこの「高度プロフェッショナル制度」を好意的に考えています。それは、私の経験に基づきます。

私は2000年から2010年まで10年間大手法律事務所で働いていましたが、そのときの状況はまさに「高度プロフェッショナル制度」が適用されるにふさわしい状態だったと思います。自分が任された案件をどのように進めるかについてはかなり裁量が認められている反面、最終的には結果が求められますので、かなり緊張感があり、拘束時間も長かったのです。が、その反面、今とは比較にならないくらい高い給料を貰っており、仕事も日経新聞の1面を飾るような案件がゴロゴロしていたので、日本経済のために頑張るというような気概もありました。月に300時間を超えて働くことはザラにありましたが、それでも、嫌でやっていたというよりは好きでやっていたという感じであり、今思い返してみてもあまりネガティブな気持ちはないのです。まして残業代が欲しいと思ったことは1度もありません。そもそも貰っている給料が残業代を欲しがるようなレベルではなかったからです。当時は高度プロフェッショナル制度などというものはなかったので、残業代のことを言い出せば請求できたかもしれませんが、誰も残業代のことなど問題にしません。このような職場においては、基本的に労働時間のみで管理される従来の雇用制度には相当違和感があり、まさに高度プロフェッショナル制度がふさわしい制度だと思います。

馬場弁護士は、一般的に言われている高度プロフェッショナル制度のメリットとして、効率的に仕事を進めることができれば、残業しないでも仕事を終えられることを紹介しながら、高度プロフェッショナル制度の対象となる業種がいずれも長時間労働で有名なことから、実際はそうならないのではないか、と反論していました。
この点、私も、高度プロフェッショナル制度の対象となるような労働者は、実態としては、かなりの長時間労働をしているのではないかと思います。なぜなら、良い成果を出すにはある程度時間が必要ですし、何より、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人は、仕事が面白くて、良い成果を残すために、自己研鑽の時間を含め惜しみなく時間を使うタイプの人が多いと思われるからです。しかし、これは仕事に集中したいというポジティブな気持ちからであって、特にデメリットとして考える必要はないのではないかと思います。
逆に言えば、「定時に帰りたい。」「もし定時を過ぎて働くのであれば残業代が欲しい。」というマインドの人は、高度プロフェッショナル制度の対象とすることに向かない人であり、そういう人を高度プロフェッショナル制度の対象にできるような制度設計は適切ではないということになるでしょう。

馬場弁護士の記事の中に、「(高度プロフェッショナルに向いているような)方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いた方が良いのではないか」という文章がありますが、良いポイントを付いていると思います。

つまり、高度プロフェッショナル制度の対象とするにふさわしい人は、会社に頼らずフリーランスとしてもバリバリにお金を稼げる人であるが、企業側に、その人を囲い込んで他社では仕事はさせたくない等の思惑があり雇用契約で縛らざるを得ない、というイメージで考えるのがわかりやすいと思います。だからこそ、高度プロフェッショナル制度のもとでは、普通のサラリーマンより高額の年収を保証しなければならないのです。会社の社長よりも高給取りということも珍しくないでしょう。

以上のように考えると、現状の1075万円という年収要件はちっと低いのではないかという気がします。

大企業などでは、通常のサラリーマンでも1075万円くらいの年収を得ている方はそれなりにいますし、また、法律事務所のような専門職の職場では、新人弁護士で1075万円を貰っていることがあるとも聞きます。これらの方のマインドがサラリーマン的なものであれば、高度プロフェッショナル制度を適用するのは気の毒と言わざるを得ません。

したがって、私としては、高度プロフェッショナル制度の年収要件としては2000万円が良いのではないかと思っています。2000万円の年収があれば、1つの会社からしか収入を得ていないサラリーマンであっても確定申告が必要であり、税務的にももはや普通のサラリーマンではありません。残業代が欲しいという年収額でもないでしょうから、高度プロフェッショナルとして認める一つの指標になると思うのです。

皆さんはどう思われますか?

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