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2020年5月11日の日経新聞(電子版)に衝撃的な記事が出ました。

それは、「株主総会『来場禁止』も容認 経産省が指針」という見出しの記事です。

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO58944830R10C20A5EE8000?s=4

内容を抜粋すると

「新型コロナウイルスの感染拡大で企業決算のとりまとめが遅れていることを受け株主総会に株主の来場を禁止することができるとの指針を経済産業省がまとめた。招集通知などに記載し、議決権を事前に行使するよう促すことを提案する。」

「2020年3月期決算の企業の株主総会が6月末に集中して開催されるのを前に、経産省がQ&Aを公表した。企業が「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合」は、招集通知や自社のウェブサイトなどに記載し、株主に理解を求めるように促した。」

というものです。

しかし、経産省のQ&Aを読んでみると、「来場禁止」とすることを容認しているとまで言えるのか少々疑問に思います。問題のQ&Aは次のとおりです。

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

A)の第三段落に注目してください。

Q2.会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか?

(A)    可能です。

Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。

 現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。

 なお、株主の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。

第1段落は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、株主総会の会場の規模を縮小したり、入場できる株主の人数を制限したりすることは可能であると回答し、第2段落は、Q1で可能とした「株主に来場を控えるよう呼びかけること」や、第1段落で回答した会場の規模縮小や入場制限をした結果として、会場に株主が出席していなくても総会開催は可能であると回答したもので、特に異論はないかと思います。

問題は、第3段落なのですが、「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合」であることを総会前に発送される招集通知や自社サイト等に記載することを求めていますので、「結果として」会場に株主が来場しなかった場合ではなく、まさに事前に株主の来場を禁止することを想定していると思われます。しかし、第1段落、第2段落の結論部分が「可能と考えます。」なのに対し、第3段落では「株主に対して理解を求めることが考えられます。」なのです。そして、理解してくれなかった株主が来場した場合に、「株主の来場は禁止されていますので、お帰りください。」と言えるか否かについては言及がないのです。そうすると、株主の理解が得られなかった場合には、「来場を認めなければならない」と読む余地もあるように思います。したがって、弁護士としては、このQ&Aの記載や前述の日経新聞の記事だけからでは、「株主の来場を禁止して総会を開催しても大丈夫です。」などとはいえないのではないかと思います(注1)。

結局、現時点での選択肢としては、

①6月末の開催予定を7月、8月、9月に延期するか

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

②来場自粛要請(議決権行使書やウェブ投票で議決権を行使してもうらう)、会場規模縮小、入場制限などで感染予防に配慮しつつ、6月末に開催するか、

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

⑥感染予防に配慮しつつ、監査スケジュールの遅れも考慮して、6月末の総会では役員の改選等のみを行い、3ヶ月以内に継続会を開催して決算の報告を行うか、

http://www.moj.go.jp/content/001319501.pdf

というところではないでしょうか。

なお、新型コロナの件がなくても、インターネットを使って株主総会に出席して議決権を行使できるようにする仕組みはとても重要で、まさに経済産業省の「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/shin_sokai_process/index.html

で専門家の議論が進められている最中でした。今回の新型コロナには間に合わなかったわけですが、今後も、感染症等々の問題は発生しますので、ぜひ早期にまとめていってほしいと思います。

(注1)株主の来場禁止を違法とする見解として、山口利昭弁護士のブログの記事「株主の出席を禁止してでも6月総会実施?―定時総会は(やはり)完全延期すべき。
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2020/05/post-bf91ba.html)参照。

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 世間は新型コロナウイルスの話題で持ちきりですが、ビジネスの世界で皆が気になるのは、やはり、今回の件で資金が回らなくなり倒産する企業がどのくらい出るか、でしょう。

 

 日経新聞の202041日付の記事(https://www.nikkei.com/article/DGXKZO57494840R00C20A4EA2000/)によると、企業の手元資金について「一般的には月商の3カ月前後を確保する企業が多い」とのことだったので、単純計算で、3か月ほど完全に収入がないと、多くの企業で資金が回らなくなると予想されます。中小企業の場合や業種等によっては3か月分も確保していないという企業もかなりあるはずなので、その場合は、もっと短期で限界が来ると思います。

 

 今のところ、緊急事態宣言の期間は48日~56日の約1か月とされていますが、実際にはこれより前から収入がダウンしていた企業が多いと思いますし、緊急事態宣言が56日に終わるかどうか、終わったとしてすぐに収入が戻るかどうかも怪しいので、放っておくと資金が回らなくなってしまうという企業は、かなりの数に上りそうです。

 

 これに対して経営者としては、まず、国や自治体等の資金繰り支援策を利用して対応することになるでしょう。
 ただ、今出されている国の支援策(https://www.meti.go.jp/covid-19/)は、貸付や税金等の支払猶予が多く、資金繰り的にはプラスですが、いわば負債を先送りにしている状態なので、「それを考えるとこれ以上借金をしてまで延命することに意味を感じない」または「延命を図ってはみたものの返済や支払をする見通しが立たない」といった企業が相当数出てくると思います。

 

 こうなったときは、いよいよ倒産を考えることになり、本格的に法律家の出番です。

 

 ある企業が倒産手続を使うという場合、例えば、債務がある程度減れば利益を挙げられる見込みがある、一部に黒字事業がある、といった事情があるのであれば、再建型の手続(私的整理、事業再生、会社更生等)を取れないか、又は事業譲渡等でスポンサーに事業を引き継いでもらうことで事業の一部だけでも残せないか、といった検討をすることになります。

 

 もっとも、そもそも事業の収益力が乏しい、債権カットについて債権者の理解が得られない、スポンサーが見つからないといった場合は、上記を諦めざるを得ないこともあります。
 そうなると、清算型の手続(多くは破産)を検討することになります。

 

 ただし、ここで注意が必要なのですが、破産をするにもまとまったお金が必要になります。
「破産はお金が無くなった人が利用する制度」というイメージがあるため、多くの人が誤解していると思いますが、資金がないと破産すらできなくなってしまうので、資金が完全に底をついてから破産しようとするのでは遅いのです。

 

 破産だけでなく、再建型の手続を取るにしても、手元に一定の資金があれば、時間的猶予が生まれたり選択肢が増えたりしますので、再建するにせよ清算するにせよ、少しでも多く手元資金がある状態で倒産の検討を始めた方が、結果的にベターな選択肢を取りやすくなります。
 経営者にとって酷な話だとは思いますが、倒産が頭をよぎったときは、早めに相談することが大切です。

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最近のビットコインですが、2月中旬頃、1BTC=110万円を超えていたところ、3月初旬に、1BTC=50万円を切るまで急落し、その後、上昇して、現在(2020/04/17)、1BTC=76万円前後で推移しています。

 

3月初旬の急落については、タイミング的に、新型コロナウイルスの混乱に伴う株式市場の下落と同じタイミングであり、混乱に伴って、株式同様に値を下げたのではないかと思われます。

 

過去には、株式とビットコインの相場は、それほど関係性はありませんでしたが、最近では、株式に近い動きをすることもあるようです。他方、今後は、金などと同様、資産の逃避先として需要が高まるのではないか、という見方もあるようです。

 

 

 

さて、世間では、コロナウイルスによる混乱で、ニュースも、コロナ一色となっています。41日からは、120年ぶりの大改正と言われた民法が施行されましたが、その割に、全然、報道がされていない印象です(おそらく、コロナの件がなければ、改正民法の話題で持ちきりだった・・・とまではいいませんが、もっと大きく報道されていたかもしれません。)。

 

 

仮想通貨関連の話題としては、51日から、改正資金決済法が施行される予定となり、これによって、法令上の用語としては、「仮想通貨」ではなく「暗号資産」と呼ばれるようになるなど、様々な点の改正がなされます・・・が、民法改正以上に報道されていませんね。こちらについては、後々、回を改めて、ご紹介できればと思います。

 

 

また、前回まで、連続して取り上げていた、FacebookLibra、中国やEUのデジタル通貨の、三つ巴の戦いについて、その後、Libra側では、国内外からの批判を受けて、厳格な規制に準拠するようにするなど、対応を迫られているようです。他方、それを尻目に、中国側では、4月に入って、デジタル人民元に対応するスマートフォンアプリの開発中画面が、インターネット上で公開され、着々と発行の準備が整いつつあることをアピールしているように思います。

 

 

さらに、もう1つ、ビットコインに関して言えば、間近に迫った大きなイベントがあります。それは、約4年に一度発生する半減期です。

 

半減期とは何か、ですが、端的に言えば、ビットコインの新規供給量が、半分に減るタイミングを意味します。この点、ビットコインは、中央管理者がいないため、一定のルールに従って、ソフトウェアが、自動的にビットコインを新規発行することになっています。現状、取引台帳が約10分毎に更新されるごとに、12.5BTC(今の相場で約950万円)が新規発行されていますが、これが、もう間もなく、半減期を迎えて6.25BTCに減少します。

 

難しい言い方をすれば、ビットコインのマイナーに自動的に付与される報酬(マニング報酬)の額が、半額になる、ということとなります。

 

 

この半減期ですが、現状では、512日頃になると予想されています。「頃」というのは、日付で決まっているのではなく、いわば、取引台帳の枚数がどの程度になったら発動する、という条件になっているため、正確な日付が流動的だからです。13日になるかもしれませんし、11日になるかもしれません。ただ、既に、半減期まで1ヶ月を切っていることとなります。

 

 

この半減期については、ビットコインの供給量が減ることから、ビットコイン価格が上昇する要因となりえます・・・というのが、通常の説明ですが、(これは、ビットコインに限った話ではありませんが)現在のコロナウイルスによる混乱の最中では、どうなるか、分からないように思います。

 

 

世界的に大変な状況ではありますが、今後も、仮想通貨関連の話題に注目してゆきたいと思います。

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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍首相は411日に緊急事態宣言の対象となっている7都府県の全事業者に対して、オフィス出勤者を最低7割削減するよう要請し、併せて全国の繁華街で接客を伴う飲食店への出入り自粛も呼びかけました。(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57959650R10C20A4EA3000/?n_cid=DSREA001

 

事業者として、オフィス出勤者の7割削減の要請に応えるためには、テレワークを導入するか、しばらく休業して出勤者自体を減らすかの選択を迫られることになります。
テレワークとは、時間や場所の制約を受けずに柔軟に働くことができる就業形態のことで、①在宅勤務、②モバイルワーク(カフェや飛行機のラウンジ、取引先の会社等の使用)や③サテライトオフィスでの勤務(レンタルオフィス、シェアオフィス等)と区分されています。

 

新型コロナウイルス感染予防のためのテレワークとしては、必然的に上に挙げたテレワークの区分のうち在宅勤務(①)になるでしょう。
もちろん、そもそもテレワークを導入することができない業種や、設備・セキュリティの面で難しい事業者もあると思いますので、新型コロナウイルス感染予防のために、時差出勤や時短勤務を導入することが考えられます。

 

まず、在宅勤務に関してですが、そもそも採用時に在宅勤務制度があることを労働条件通知書や就業規則の規程等で明示しているのであれば、使用者の業務命令として通常の勤務から在宅勤務へ変更が可能ですが、在宅勤務制度がない場合には、在宅勤務について労使間の合意が必要です。
また、在宅勤務においては労働時間の管理が問題となりますが、まず原則として使用者には労働者の労働時間を管理する義務がありますので、始業時・終業時に上長にEメールを送るなどを指示することで管理する方法があります。また昼食時間等により一定時間離席するような場合にも上長等に連絡することで、使用者は労働時間を管理することが考えられます。

 

※このほかに労働時間の管理方法としては、厚生労働省が方法やツールを紹介していますのでご参照ください。

「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/02.pdf 

「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf 

 

在宅勤務のようなテレワークにおいては、よく事業場外みなし労働時間制(所定労働時間、労働したものとみなす制度)が適用されるのかが問題となりますが、そもそも同制度が就業規則等に明記されていないと適用されず、また労働者が随時使用者の具体的な指示に基づいているような場合には適用できないので、注意が必要です(その他に、使用する情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態においていないことの要件が必要です)。

 

実は、今回の新型コロナウイルス感染症対策として、テレワークを新規で導入する中小企業の事業主に対して、所定の要件を充たした場合には、国から助成金が支給される制度があります。(厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html

 

また、時差出勤については、これも元々始業時間・終業時間が労働契約で決まっており、これを変更する必要があるので、始業時間・就業時間の繰り下げや繰り上げを定める就業規則がなければ一方的に行うことはできません。
今回のような緊急のケースでは、悠長に就業規則の変更手続を行う時間がないと思いますので、労働者との合意により、始業時間・終業時間の変更をすることになるでしょう。
ただし、多くの企業が時差出勤を導入すると、繰り上げた時間・繰り下げた時間に通勤者が増え、かえって新型コロナウイルスの感染予防にはならないので、状況に応じて始業時間・終業時間を変更していく必要があるでしょう。

 

今回の政府によるオフィス出勤者の最低7割削減という要請は、元々準備をしていない企業にとっては非常に難しいものであり、多くの事業者に動揺が生じることは想像に難くありませんが、労使間で十分に協議しながら進めていく必要があると思います。
新型コロナウイルスの感染者数は日々増加していますが、今後は、これにより働き方に対する国民全体の意識・価値観の変化が生じることになると予想されます。

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新型コロナウイルスの感染が全国的に広がっていることを受けて、日本政府は、47日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を発令しました。
今回の緊急事態宣言の対象区域は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫及び福岡の7都府県で、対象期間は今のところゴールデンウイーク明けの56日までの1ヶ月間としています。

 

緊急事態宣言が出されると、対象区域の都道府県知事は、不要不急の外出自粛を要請したり、多数の者が利用する施設の管理者に対して、施設の使用制限の措置を講ずるよう要請(休業要請等)したりすることができ(特措法第45条)、今回も上記の都道府県知事から外出自粛要請(※休業要請については、4月10日現在、延期されるという話が出ています。)が出されています。
この外出自粛要請・休業要請に従って休業することにした会社は、従業員に休業してもらうことになりますが、これが「使用者の責に帰すべき事由」による休業といえる場合には、会社(使用者)は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を従業員に支払わなければなりません(労働基準法第26条)。

 

それでは、今回の緊急事態宣言(及び外出自粛要請・休業要請)を理由とした会社休業が、果たして「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?については、かなり解釈が分かれるものと思います。

 

上記のとおり、今回の緊急事態宣言及びそれに基づく外出自粛要請・休業要請は、あくまでも「要請」に過ぎないので強制力はなく、仮にこの要請に従わなかったとしても罰則があるわけではありません。この要請に従わない場合には、「指示」に格上げすることができますが、この「指示」に従わなかったとしても、やはり罰則があるわけではありません(特措法第453項)。

 

ということは、今回の緊急事態宣言(及び外出自粛要請・休業要請)を理由とした会社休業は、罰則のないような要請に、あくまでも会社が自主的な判断で従ったのであるから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するとして、会社は、休業期間中の休業手当を従業員に支払う必要がある・・・ということになるかというと、必ずしもそうはならないでしょう。

 

休業要請が出ているのに営業を続けた場合に、もし感染者を出してしまったときは、社会的に非難されることは避けられませんし、施設の消毒や検査等により完全休業せざるを得なくなるおそれもあります。また、外出自粛要請が出ている中で、来客の見込みがなく休業せざるを得ないケースもありますので、これらを全て「使用者の責に帰すべき事由」に当たると考えることは、法解釈としては難しいと思います。

 

この点、厚生労働大臣は47日の記者会見で、緊急事態宣言が発令され、特定施設の使用が制限された場合、使用者側の休業手当支払い義務について「一律に、直ちになくなるものではない」と述べましたが、これはあまりに不明確かつ無責任な発言でしょう。(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200407-00000066-kyodonews-bus_all

 

また、使用者が休業手当を支払った場合には、「雇用調整助成金」の制度の利用が考えられますが、支給金額には上限が設けられており、また、助成金はいつ支給されるのかが今のところ不明であるため、キャッシュに余裕のない使用者は、この助成金を当てにして休業手当を支払っていいものか迷うことになります。

 

結局、緊急事態宣言が出されても自粛「要請」に過ぎず、厚生労働大臣も上記のような曖昧な態度であると、ケースバイケースという話になり、使用者は休業手当を支払っていいものか、労働者は休業手当をもらえるのかについて、その結論は不明確となり、不安が続くことになります。

 

政府には、これこれの業種は営業を続けて欲しい、それ以外の業種で休業した場合は従業員に休業手当を支払うべきであり、休業手当を支払った会社には助成金を支給する、キャッシュフローに不安がある会社のために支給時期を明確にする・早める等のアナウンスをして、不安を解消して欲しいものです。そうはいっても、財源はないし、人手も足りないので、企業へ補償することなど今の時点で明確にすることはできないのだ、と言うのかもしれません。
だとしたら、そういった理由があることをきちんと数字を示して国民に説明するべきであり、それが民主主義の基本であり、そのあたりを省略してしまっては国民の納得を得ることは難しいでしょう。

 

今まで様々なことを政府は曖昧にしていますが、ある意味日本人の“人の良さ”に助けられている部分が多いと思いますので、是非ともリーダーシップを発揮して、できる限り国民の不安を取り除くような舵取りをして欲しいところです。

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新型コロナウイルスを理由として、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定しましたが、従業員の時差出勤を促したり、在宅勤務に切り替えたりと労働環境にも大きな影響を及ぼしています。旅客事業を営む会社では需要の落ち込みから、従業員に休業してもらう措置を講じているところもあります。

 

会社による従業員の賃金補償(休業手当)については、労働基準法第26条に定められており、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
この休業手当を支払う必要があるかは、新型コロナウイルスを理由とした休業が「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?という点を検討する必要があります。

 

政令によって、新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」として定められたため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」といいます。)によって、新型コロナウイルスの感染者だけでなく、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」や「感染症の無症状病原体保有者」に対して、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことが可能となりました(第7条、第18条)。
ただし、この就業制限は、厚生労働省令で定める業務(飲食物の製造・販売、接客業等)に限られていますので、その他の業務に就いている方には、感染症法に基づく就業制限の対象とはなりません。

 

感染症法に基づく就業制限の対象とならない場合について、この点について、厚生労働省のWebページでは不明確なのですが、新型コロナウイルスは、労働安全衛生法施行規則第6111号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に該当するとして、新型コロナウイルスに罹患した場合は、同法第68条に基づいて、事業者はその従業員の就業を禁止させる法的義務を負うと考えます。
(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQA」「6安全衛生 問1」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q6-1 
「感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません。」とありますが、反対解釈として、感染症法により就業制限が行えない場合には、労働安全衛生法第68条の適用対象になると読めるのではないでしょうか。)

 

そのため、従業員が新型コロナウイルスに罹患した場合には、法律に基づいて従業員の就業が制限・禁止されるので、これによる休業は「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。
仮に、労働安全衛生法第68条が適用されないと解釈したとしても、使用者は他の従業員に対する伝染予防の義務(安全配慮義務)があるでしょうから、罹患した従業員を業務命令により休業させることは、いずれにしても「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられるでしょう。

 

問題になるのは、従業員が新型コロナウイルスに罹患した「疑い」がある場合の取扱いです。
この場合は、労働安全衛生法第68条の適用はなく(同条は罹患した場合の規定です。)、また感染症法に基づく就業制限がされないときは、どのようにして「使用者の責に帰すべき事由」かを判断するのかが問題になります。

 

この点について、厚生労働省のQA(問2843)によれば、a.風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)、又はb. 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、「帰国者・接触者相談センター」での相談を促しており、この症状が1つのメルクマールになると考えられます。
これらの症状がある従業員に休業してもらう場合には、他の従業員に対する感染予防の観点から、「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。

 

もっとも、今の時期は、使用者も敏感になり、上記a.又はb.の症状がなく軽い発熱程度の従業員にも休業してもらうことが多いと思いますが、このような場合の休業は、使用者による自主的判断であるとして、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたる(=休業手当を支払う必要がある)と考えられ、厚生労働省QA44)でも同じ解釈がされています。
使用者による自主的判断といっても、もし従業員が新型コロナウイルスに罹患していた場合には、会社(場合によっては会社が入っているビル全体)を長期間閉鎖せざるを得ず、後で罹患が判明したときの経済的リスクや社会的非難を受けるリスクを考えると、使用者は従業員に休業してもらうのもやむを得ないように思います。しかし、休業手当は従業員の生活補償の意味合いが強いので、このような場合でも、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたると考えられます。
(この意味で、民法上の「使用者の責めに帰すべき事由」(民法536条)については、過失責任主義に基づく帰責事由があると解される可能性は低いと考えられ、全額補償する必要はないと考えられます。)

 

以上をまとめますと、次のとおりとなると思います。もっとも以下は原則論で、就業規則に別段の定めがあれば、それに従うことになります(ただしその内容の合理性については解釈の余地は有り得るでしょう。)。

 

①新型コロナウイルスに罹患した従業員自ら会社を休んだケース

②新型コロナウイルスに罹患した従業員に会社を休むよう命令したケース

・法律上の就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・法律上の就業制限がない場合→休業手当を支払う必要なし

 

③新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるとして従業員が自ら会社を休んだケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・感染症法に基づく就業制限がない場合→(通常の病欠と同じ扱いとして)休業手当を支払う必要なし

※ただし、会社が、上記a.又はb.に至らない症状(業務ができる状態)でも休むように指示を出していた場合には、休業手当を支払う必要あり。

 

④新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるので従業員に会社を休むよう命令したケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がない場合→休業手当を支払う必要あり

※会社が指示を出す、方針を打ち出す程度でも、現状従業員は従わざるを得ないので、ここでいう「命令」に含まれると考えられます。

 

いわゆる新型コロナ特措法が成立し対策本部が設置され、オーバーシュートやロックダウン等の普段耳慣れない言葉も使われ始め、不安な日々が続きますが、早く収束していくことを祈ります。

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「同一労働同一賃金」という言葉が出てきて久しくなってきていますが、この「同一労働同一賃金」の対象となる労働者は、パートタイム労働者や有期雇用労働者だけでなく、派遣労働者も含まれます。
今年の41日に、この派遣労働者の「同一労働同一賃金」を実現するための改正派遣法が施行されます。

 

従来から、派遣労働者と派遣先の正社員(※ここでは「無期雇用のフルタイム労働者」と定義します。)との待遇の不公平感が話題になっていましたが、今回の改正によって、派遣元企業は、①派遣先の労働者との待遇を均等・均衡にする改善方法(均等・均衡方式)(改正派遣法第30条の3)、②派遣元と派遣労働者との間の労使協定に基づく待遇の改善方法(労使協定方式)(改正派遣法第30条の4)のどちらかを選択できるようになりました。

 

改正派遣法は、実際に働いている派遣先の正社員と比較すると出てくる不公平を是正するために改正されたものなので、派遣労働者が派遣先の正社員と同じ働き方をするのであれば、均等・均衡方式(①)が原則という立て付けになっています。
しかし、それだと大企業に派遣される場合は正社員との均衡待遇で給与が高くなる一方で、中小企業に行った場合は給与が下がってしまうので、給与が不安定になる等の理由で特例として労使協定方式(②)を認めています。
ただし、給与を派遣先に合わせる手間や、「なるべく自社の賃金データは開示したくない」という派遣先の事情から(労使協定方式だと情報提供義務が緩和されます。改正派遣法施行規則第24条の4参照)、多くは労使協定方式になると言われています。

 

さて、労使協定方式にする場合には、「その地域の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金」と比較して、同等以上の賃金になるようにしなければならないとされています(改正派遣法施行規則第25条の9)。
そのため、労使協定方式にする場合でも一定水準以上の賃金確保が必要となり、派遣元企業は従来の派遣料金を維持することはできず、派遣料金の値上げは必至です。
なお、大手人材派遣会社は今年の4月以降、派遣料金を12割値上げするとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54305270Q0A110C2MM8000/

 

こうなると、派遣料金の値上げに対応できない派遣先企業は、派遣労働者の受入れを減らすことになるため、結果的に派遣元企業による派遣労働者の雇用維持が難しくなるのは目に見えています。
ただでさえ無期雇用転換の回避のために、派遣労働者の雇止めが増えてくるといわれているのに、ますます派遣労働者の立場は不安定になると考えられます。
ただし優秀な派遣労働者の場合には、今回の改正派遣法をきっかけに派遣先企業から直接雇用のオファーがあるかもしれません。

 

こう考えると、派遣労働者の格差是正のためという理由で施行される今回の改正派遣法ですが、実力のある派遣労働者は派遣元企業に残ることができ(又は派遣先企業から直接雇用のオファーがあり)、他方でそうではない派遣労働者は居場所がなくなるおそれがあるので、結果的に実力主義が促進され、派遣労働者全体の保護には繋がらないでしょう。

 

日本の派遣制度は、派遣先の正社員よりも待遇面で立場が下になるような制度になってしまいましたが、もしかしたら当局としては、派遣法を改正することによって、派遣先企業の正社員以上に実力のある労働者又は専門的能力を持った労働者を派遣するという、アメリカのような派遣制度にシフトしていきたいのかもしれません。

 

以上のような改正派遣法に加え、近年では派遣会社は従来の届出制から許可制に変わり、許可の要件としても一定の基準資産額が求められる等、派遣事業への維持だけでなく参入もどんどん厳しくなってきています。
こうなると当然、派遣元も派遣先も共に、派遣制度を回避する方法はないか?という頭になりますので、「偽装請負」が促進されてしまうおそれがあります。
この偽装請負をチェックするために、労働局は今以上に目を光らせ、面談や立入調査を増やしていくことになるでしょう。派遣と(偽装)請負の境界は曖昧ですので、調査も簡単ではなく、それに対応することになる派遣企業も大変です。

 

今回の派遣法の改正によって、派遣先企業としては派遣料の値上げにより派遣制度の利用が難しくなり、派遣元企業としては派遣制度を維持できる体力のある派遣会社とそうでない派遣会社の2極化が進むと予想されます。改正派遣法の施行で、派遣制度は大きな転換期を迎えることを余儀なくされるでしょう。

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未払い賃金や残業代等がある場合に、労働者が会社に遡って請求できる期間は法律上2年間とされています(労働基準法第115条)。それを超える期間の未払い残業代については、会社は時効によって消滅したことを理由に支払いを拒むことができます。

 

今年41日施行の改正民法(新第166条)では、債権の消滅時効の期間について、

(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5

(2)権利を行使できる時から10年(※ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については20年 新第167条)

という整理をして、現行の民法の10年間という消滅時効期間を修正しました。

 

元々、民法では、労働者の給料に関する債権の消滅時効を1年間と定めていましたので(第174条第1号)、労働基準法の制定時に、このままでは労働者の保護に欠けるなどの理由で、民法の特別法たる労働基準法によって、1年間から2年間に延長したという経緯があるのです。
今回の改正民法では、この短期消滅時効の規定が削除され、債権について、一律5年以上の消滅時効の期間になったわけなので、そうすると今度は、「労働者に不利だった民法の消滅時効の規定が修正されたのだから、もう労働基準法の消滅時効期間の定めはいらないのではないか?」という話になります。

上述のとおり、労働者の保護のために時効期間を労働基準法で延長したのに、今度はその定めが労働者に不利な定めに変わってしまうのはおかしいので、このような話がでてくるのはごく自然な流れなのです。

 

それでは、労働基準法も、今回の改正民法の消滅時効期間に合わせることにしましょう・・・ということになるかというと、そう簡単な話ではありません。
今度は会社側に対するインパクトが大きすぎるのです。

 

M&Aで法務デュー・デリジェンス(買収先企業の法的リスクの調査)をするときに、未払い残業代を計算してみると、中小企業でも、その金額が数千万円になってしまうことも珍しくありません。ちなみに、退職金の未払いも見つかったりしますが、退職金についてはもともと消滅時効の期間は5年間になっています(労働基準法第115条)。

 

仮に今回、未払い残業代の消滅時効の期間を、今までの2年間ではなく、改正民法に合わせて5年間にした場合には、未払い残業代の金額が単純計算で2.5倍になり、会社にとってかなりのインパクトになります。会社の規模によっては、それこそ会社が立ち行かなくなるほどの金額になります。

このような理由で、労働債権の消滅時効期間については、改正民法と併せてその動向が注目されていたのです。

厚生労働省は昨年の1227日に、労働債権(未払い賃金・残業代等)の消滅時効期間を、労働基準法も改正民法に合わせて原則は5年としつつも、「当面3年」に改める方針を決めたということです。同省は今年の通常国会に労働基準法改正案を出し、改正民法と同時の施行をめざすとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASMDV5TL2MDVULFA02J.html

 

「当面」ということなので、今後どうなるのかはまだ不明ですが、いつか5年になる可能性があることを覚悟しておく必要があります。
会社としては、この暫定的な猶予期間があるうちに、未払い残業代が生じないような方策に本気で取り組まざるを得ないでしょう。

 

働き方改革による労働生産性の向上には、労働者側にも様々なメリットがありますが、残業代の消滅時効という数字として分かりやすい話にも繋がっていますので、労働生産性の向上は労働者・企業双方の目標になってきているといえるのではないでしょうか。

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あけましておめでとうございます。16()から本年の業務を開始いたしました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

飛田&パートナーズ法律事務所は、銀座6丁目(通称:銀座シックス)の昭和通りを築地側に越えた新橋演舞場の近くにあります。このあたりでは、現在、ビルの建て替えが急速に進んでおり、そのほとんどがホテルになるようです。これもオリンピックを控えた2020年という年を象徴しているのかもしれません。

 

ところで、なぜ建て替えが進んでいるかと言うと、もともと銀座は古い街で、築40年~50年経過している建物が多いからですが、その他に、耐震の問題があります。2013年に耐震改修促進法が改正され、旧耐震基準の大規模建物については耐震診断が義務付けられるともに、もし震度6強以上の地震により「倒壊・崩壊する危険性が高い」と判明される場合、耐震診断の提出を受けた自治体が、その結果を公表することになりました。そのため、2018年ころから、耐震診断の結果が公表され始め、日経新聞の同年1126日の記事では「『倒壊危険高い』首都圏に140棟、旧耐震基準の大型建物」と言う見出しの記事も出ました。それらの記事により、渋谷の「109ビル」、新橋の「ニュー新橋ビル」等々の有名な建物も耐震に問題があることが判明したことを覚えている方も多いかと思います。(ちなみにそれらのビルは、補強または建て替えが進められています。)。そこで、ビルのオーナーとしては、耐震に問題がある以上、これは放っておくことができないとして、建物の建て替えを進めているのでしょう。

 

では、耐震の診断の結果、耐震性に問題があるとされたにもかかわらず、そのまま放っておいたらどうなるのでしょうか? 耐震改修促進法第11条は、「〔ビルの〕所有者は、耐震診断の結果、地震に対する安全性の向上を図る必要があると認められるときは、〔中略〕耐震改修を行うよう努めなければならない。」と定めていますが、これは「努めなければならない」という文言からわかるとおり、努力義務にとどまり、耐震改修をする法的な義務があるわけではありません。ですから、現状でも、耐震性に問題がありながら、耐震改修をされず存続している建物がたくさんあります。では、本当に震度6以上の地震が起こって建物が倒壊し、入居者やその建物の利用者に被害が出た場合、ビルのオーナーはその被害を賠償しなければならないのでしょうか?報道によれば、政府の地震調査委員会が策定した全国地震動予測地図(2015年版)によると、今後30年間に震度6以上の直下型地震が来る確率は、横浜市役所で78%、東京都庁で48%とのことですので、これは切実な問題です。

 

これを法的に考えると、民法709条の不法行為の問題となり、同条1項は、「故意過失によって他人の権利を侵害したものは、それによって生じた損害を賠償しなければならない。」と定めています。そして、過失とは、あらかじめ損害の発生を予見でき、回避も可能だったのに、その予見または回避義務を怠り、損害を発生させることと理解されています。したがって、耐震診断によってビルの倒壊や入居者または利用者の被害を予測でき、かつ物理的には耐震工事などを実施することにより被害の発生を回避することができたのにもかかわらず、被害が発生してしまった場合には、過失ありと判断され、民法709条の損害賠償責任を負わなければならないとも考えられます。しかも、建物のような土地の工作物の場合、民法717条に工作物責任という不法行為の特別規定があり、工作物の所有者は無過失責任終わっなければならないと規定されています。したがって、民法709条の「過失」についての議論をすることなく、同法7171項の工作物責任によって、当然に建物の所有者は地震によって発生した被害(損害)を賠償しなければならないと考えるのが自然なように思います。

 

ところが、少々複雑な問題があります。それは端的にいうと、建築基準法上、昭和56年に建物の耐震基準が旧耐震から新耐震に変ったわけですが、変更後も、旧耐震の建物は、違法ではなく、既存不適格建物として適法建物である(建築基準法32項参照)と解釈されていることに起因しています。少々説明が長くなりますが、お付き合いください。

 

前提として、民法717条1項は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは〔中略〕所有者がその損害を賠償しなければならない。」と規定しているのですが、この工作物の「瑕疵」(かし)とは、「通常備えているべき安全性を欠いていること」をいい、「設置の瑕疵」とは当初の設置段階から瑕疵があること、「保存の瑕疵」とは設置後管理等が悪くて瑕疵があることになったことをいうとされています(ここまでは特に異論がないと思います。)。そうすると、旧耐震の建物については、建築時には当時の基準で耐震性をクリアーしていたので、「設置の瑕疵」があるとはいえないので、「保存の瑕疵」があるかが問題になるわけですが、前述のとおり、耐震基準が旧から新に移っても、法的には適法建物なのであるから「保存の瑕疵」があるとはいえないのではないか?という疑問があるのです。

 

この疑問を強める判例もあります。それは、 仙台地判昭和5658日 で、事案は、1978年の宮城沖地震で、ブロック塀が倒れ、通行人が死亡したので、遺族がブロック塀の所有者に損害賠償請求をしたというものです。この事案では、ブロック塀が、建築基準法改正後の新しい耐震基準に適合しなくなっていましたが、所有者には、法令上の補修や改造義務はなく、一般にそのような補修や改造を期待することもできないから、「保存の瑕疵」もないと判断されたのです。この判決の論理に従えば、耐震改修促進法によって、旧耐震基準の大規模建物の所有者には、耐震診断をして、耐震診断の結果、耐震性能が不足していることがあきらかになっても、耐震改修をする法的義務はないと解されていることから、「工作物の保存の瑕疵」があるとはいえないのではないか?という解釈が成り立つわけです。

 

で、私は頭を悩ましていたのですが、最近、この問題に明快な回答を与える論文を発見しました。TMI法律事務所の富田裕弁護士が日本不動産学会誌第28巻第3号に発表している「工作物責任との関わりでいる耐震改修促進法の改正の考察」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jares/28/3/28_97/_pdf)という論文です。201412月の雑誌なので、耐震改修促進法の改正直後には既に、現在私が悩んでいるような問題について検討がされて、一定の回答が出ていたのですね。ちなみに、富田弁護士は、一級建築士で、社団法人日本建築士事務所協会連合会の理事もされているようですので、その道の専門家です。

 

富田弁護士は、「改正後の耐震改修法の規律は、ある建築物について、一方で「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。」と公表しつつ、この建築物について、改修の法的義務はないとする。この規律は、いわば「地震により崩壊する危険が高い」ものの放置を認めるという矛盾を内容した規律である。」と端的に指摘しつつ、民法7171項の「保存の瑕疵」の解釈との関係では、「危険性が高い建物」と評価された以上、通常備えるべき安全性を備えた建築物とはいえないので、瑕疵ある工作物と判断すべきであり、この瑕疵は、後発的瑕疵ということになるから、「保存の瑕疵」と解釈すべきであると主張するのです。そして、法社会学の観点からしても、そのように解釈することで、危険な建物の改修が進められることになるので望ましいこと、前述の仙台地裁の判決も、「すべて新規の技術に従って在来のブロック塀を補修ないし改造することが法令によって要求されるか、或いはそうでなくても、その指摘がされて一般に行われていたような特別な事情があれば格別」という例外を設けているので、耐震改修法上、建物の危険性が公表されるに至ったような場合には、この特別な事情があると考えられるので、このような結論は判例とも矛盾しないというのです。

 

そして、富田弁護士は更に踏み込んでいて、民法7171項の工作物責任は一次的には占有者に発生し、ただ「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは」所有者に無過失責任を負わせるという構成になっているのですが、「建物所有者が建物を貸しに出し、賃借人が当該建物を借りて店舗を営んでいる場合において、当該建物の危険性が公表された時、店舗を運営する占有者は、店を別の安全な建物に移転させ、当該建物から退去することで事故の発生を防止することができる。そうであれば、建物の占有者も事故の発生を防止することはできるから、占有者にも責任があるとすべきである。」というのです。これは、危険性があるとして公表された建物内で営業しているテナントにとっては、かなり影響を与える解釈だと思います。

 

というわけで、新年早々から長い原稿になってしまい、申し訳ありません。
ただ、上記のような解釈がありますので、今後ますます旧耐震の大規模建物の耐震改修や建て替えが進むようになるでしょう。
今後の動向に注目したいと思います。

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 弊事務所では、破産者の管財人に就任して、残っている破産者の財産を集め、債権者に配るという、いわゆる破産管財事件の取り扱いがあるのですが、最近は、労働者の給料を支払わないまま破産してしまった会社の破産管財事件を、多く取り扱っています。

 

 会社にしろ個人にしろ、誰かが破産するという場合、支払わなければならないお金(債務)よりも、持っている財産がかなり少ない状態であることがほとんどです。そのため、たとえ破産者に対してお金を支払ってもらう権利を持っていたとしても、全額を支払ってもらうことは非常に難しいのです。

 これは、労働者の給料についても同じで、破産会社に十分な財産がない以上は、給料を支払ってもらう権利があったとしても、実際には少額しか支払いを受けられないのが原則です。ただし、破産直前まで在籍していた労働者の給料については、例外的に、法律で一定の保護がされており、未払額の8割までを税金で補填してもらえる立替払制度が存在します。

 

 労働者がこの立替払制度を利用するためには、会社の破産管財人から、未払の給料がいくらなのかを計算した証明書を発行してもらう必要があります。そのため、弊事務所でも、破産管財事件の中でこの証明書の発行をしているのですが、これが意外にもかなり大変なのです。

 

 そもそも、未払の給料がいくらなのかを計算するには、「①その人がいくらの給料を受け取るべきなのか?」と「②すでに支払われた金額はいくらか?」について、資料を揃える必要があります。

 ですが、破産する会社は、最後の方はてんやわんやの状態になっていることが多く、労働時間の管理や、給与明細・賃金台帳の作成がきちんとされていないことが多いです。また、かろうじて賃金台帳がある場合も、少しでもコストを下げようと、実際に支払っている金額よりも少ない金額を賃金台帳に書いていたり、残業代を給料計算に含めていなかったりします。

こうなってくると、「①その人がいくらの給料を受け取るべきなのか?」が、管財人の手持ち資料からは分からないので、社長や総務・経理の担当者、労働者本人などから、電話や手紙で聞き取りをして、それを報告書にまとめる作業が必要になってきます。

 

 「②すでに支払われた金額はいくらか?」を確定するのは更に大変です。

毎月遅れなく1人1人に振り込みをしていたり、各労働者への支払金額をきちんと帳簿に付けていたりする会社であれば全く問題ありませんが、大抵はそうではありません。そもそも現金払いだったり、総合給与振込の形が取られているため振込合計額しか分からず、支払いの内訳(誰にいくら支払われたのか)が分からなかったり、未払いが長年続いていて、一体いつの分の給料が支払われているのかが分からなかったりします。

 この場合も、結局は、社長や経理の担当者、労働者1人1人等から聞き取りをして、誰に、いつの分を、いつ、いくら支払ったのか、確定して報告書にまとめなければならなくなります。

 

 このような作業をしていると、平気で証明書の発行までに1ヶ月以上かかったりするので、この作業だけでもかなりの負担感なのですが、地味に一番辛いのが、「とにかく早く証明書を発行してくれ」という労働者からのプレッシャーです。

 証明書が発行されなければ労働者は立替払を受けられないので、当然といえば当然なのですが、労働者は、取引先や借入先と比べて、「会社が破産しても給料が支払われるのは当然である(それなのに支払いが遅れている)」という意識が強いことが多く、また、給料が生活の原資にもなっているので、それらが合わさって、証明書の発行に時間がかかることについて、怒りの感情を持ちやすいのです。労働者の人数が数十人になってくると、証明書の発行についての問い合わせが連日入るような状態になるので、これへの対応も、管財人の重要な(そして大変な)仕事になってきます。

 

 今回は、破産管財事件の裏話をお伝えしました。

 多くの方には直接関係のない話かもしれませんが、コーヒーブレイク的にお読みいただければ幸いです。

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