カテゴリ:投稿者別 >   弁護士 飛田 博

2023年2月17日 日経新聞朝刊17頁

「ChatGPTの衝撃 私はこう見る」「権利保護 問われる線引き」「弁護士 福岡真之介氏」との見出しの記事から

「文章などを生成する人工知能(AI)の登場で、学習させるデータや生み出されるコンテンツの権利が注目されている。」
「生成AIはデータを学習して文章や画像を作る。作風が似るだけでは著作権侵害にならないが、原作を学習して作られ、原作と類似していれば侵害と認定される。」
「もっとも機械学習データなどして他人の著作物を使うことは認められている。著作権者の利益を不当に害さなければ許諾は原則不要だ。有料データベースの無断使用は侵害行為となりうる。」


(飛田コメント)
 記事は、福岡弁護士の文章などを生成する人工知能(AI)の解説部分ですが、参考になりますね。
 私が思うに、今後はAIにある作家の作風、文体、思想を学習させて、その作家が書いたような小説も書けるようになるでしょうから、大部分の作家(著作者)は、自分の作品がAIの機械学習データとして使用されることを許諾しないという表明をするようになるのではないかと。そうしないと、自分の作品の価値が下がりますので。

 記事とはあまり関係ありませんが、AIに向いた法曹の仕事として、判決を書かせるということがあるのではないかと思います。判決を書く上でのルールをプログラミングして、事件記録を読み込ませて、AIに判決を書かせると、実は公平な結論が出るのではないかと。実際に実務に出てみると、判決には、裁判所に提出された主張と証拠だけでなく、担当裁判官の思い込みや、当事者代理人(弁護士)との相性、当事者代理人の所属事務所、そのときどきの世論など、裁判所に提出された主張や証拠以外の要素が複雑に絡み合って決められることになるのですが、この主張と証拠関係から「どうしてそうなるの?」ということも(決して多いというわけではないのですが)散見されます。
 実は、模範的な裁判官の事実認定及び文章能力をプログラミングして、個々の事件記録を読み込ませ、判決を書かせると裁判以外の要素が排除された公平な結論が出るのではないかと。(そんなこと考えていたら、弁護士もAIを使って準備書面を書いたり、証拠の収集を始めるようになり、結局、裁判全体がAIによって行われるという事態になりかねないな、などと思ったりもしました。)
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2023年2月16日 日経新聞朝刊43頁

「入管映像、法廷で上映へ」「女性収容死 名古屋地裁が方針」という見出しの記事から

名古屋出入国在留管理局の施設で2021年3月、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33)の遺族が国に損害賠償を求めた訴訟で、名古屋地裁(○○裁判長)は15日、国側が提出した収容中の監視カメラ映像約5時間分を公開の法廷で上映する方針を示した。


(飛田コメント)
 民事手続上、カメラ映像を公開の法廷で上映しないと証拠として提出した扱いとならないのか、それとも、DVD等が提出されれば証拠としては提出されたことになるが、公開法廷で上映し、それに関する原被告間の議論を公開の法廷で聞きたいということなのか、おそらく後者だとは思うのですが、レアケースになるので、この審理方法は注目ですね。遺族側は既にこの映像を見ていると思うので、映像の中に世論を喚起する何かが映っているということなのだろうか?
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2023年2月11日 日経新聞朝刊12頁

「ディズニー」「物言う株主との戦いに決着」「委任状争奪戦終了」「改革実行がカギ」との見出しの記事から

「委任状争奪戦は終わりだ。」9日、アクティビストでトライアン・パートナーズを率いるネルソン・ペレツ氏は電話出演した米CNBの番組で言い切った。「ディズニーは我々が求めていたことを全て実施する計画だ。」と喜々として語り、「すべての株主にとっての勝利」と宣言した。


(飛田コメント)
 私だけかもしれませんが、「物言う株主」とか「アクティビスト」という言葉には、なんとなくネガティブなイメージがあるのですが、このようなニュースを読むと、株主総会制度が(少々語弊があるかもしれませんが)きれいな形で経営に影響を与えている例もあるんだとわかり、ちょっと驚きますね。日本でも、近時は委任状争奪戦が増加している印象ですが、委任状争奪戦に慣れてくると、こういう例はますます多くなるでしょう。
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2023年2月10日 日経新聞朝刊1頁

「東芝買収 2兆円規模提案」「大株主の取得株、7割高く」「国内連合」「社外取の判断焦点」

焦点は価格だ。JIPは買収後の運転資金などを考慮し、買収には2兆円規模を充てる想定のようだ。足元の時価総額(9日終値で1兆9946億円)をわずかに上回る程度とみられる。9日はTOB(株主公開買付け)の上乗せ幅(プレミアム)が見込めないとの見方から、株価は一時期前日比4%安となった。


(飛田コメント)
 価格がもう少し高ければ、比較的すんなり買収提案が受け入れられるのではないかと思いますが、株価が高値圏で推移していることと、業績悪化により、JIPとしても、そんなに高額の提案はできず、ここにきて、「さてどうしましょうか?」というところだと思います。
 ちょっと時間を置いて、他のグループからもっと高値での提案が出るのを待つかどうかだと思いますが、そんなに時間を置くこともできないでしょうから、どうなりますかね。注目したいと思います。
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2023年2月9日 日経新聞朝刊37頁

「五輪談合 受発注一体『官製』の構図」「組織委と電通、調整を主導」「『一覧表』で400億円合意」との見出しの記事から

今回の事件が過去の談合事件と大きく異なるのは、こうした「合意形式」の過程だ。リニア中央新幹線工事を巡る入札談合事件(18年)や医薬品を巡る談合事件(20年)のように、各社の実務担当者らが1ヵ所に集って合意形成を図った場合は見当たらない。独禁法に詳しい弁護士は「メールなどによる情報交換を通じて発注者側と各社が互いの行動を認識していたことを個別に立証していく必要がある」と話す。


(飛田コメント)
 この案件のようにある組織やグループ内で、(カチッとではなく)なんとなく物事が決まっていくような場合、合意の立証には、困難がつきまといます。暴力団の上層部が下っ端に犯罪を命じる場合には、共謀の証拠を残さないようにするため、意識的に、カチッとした指示や命令はされないわけですが、会社などの大きな組織では、これが無意識に行われているというか、当事者に合意したという認識もないことも多く、その場合には故意がなく犯罪が成立しないことになりますが、その合意したといえるのか、合意はないのかの境目がとても曖昧で難しいなと思います。
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2023年2月7日 日経新聞朝刊4頁

「LGBTQ法案 検討指示」「首相が陳謝、理解促進へ」「秘書官更迭、米欧でも報道」「G7議長国 国際世論を意識」との見出しの記事から

国際世論を意識し、首相は6日、LGBTQらへの理解を増進する法案の検討を進めるよう茂木敏充幹事長に指示した。首相周辺が明かした。


(飛田コメント)
 荒井秘書官が、同性婚に関し、記者団に「隣に住んでいたら嫌だ」「導入したら国を捨てる人もいると思う」と発言して問題となり、首相は荒井秘書官を更迭しましたが、さらに、LGBTQらへの理解を増進する法案の検討を指示した、という流れです。もっとも、首相自身も衆議院予算委員会で、同性婚について「制度を改正するとなると家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と慎重姿勢を示しており、具体的に同性婚を認める法案ではなく、LGBTQらへの理解を増進する法案と、一歩後ろをいくような内容となっています。
 私的には、民法・戸籍法、必要があれば憲法を改正して同性婚を認めてあげれば良いのにと思うのですが、一般の人の意識はそこまでいっていないのでしょうかね。たまに自分の意識と社会の意識とにズレがあることを感じて凹みます。
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2023年2月6日 日経新聞朝刊15頁

「法テック、普及8割超」「AIで契約審査など 質には不満も」「『使いこなす力』課題に」との見出しの記事から。

AIレビューはサービスの適法性を巡る懸念もある。弁護士法は、弁護士以外が報酬目的で法律事務などを行うことを「非弁行為」として禁止。法務省は昨年、AIによる契約書審査サービスへの参入を検討する企業からの照会に、同法に接触する可能性を指摘した一方で、既存のサービス企業は「自社のサービスは合法だ」と主張し、利用者側に不安も出ていた。


(飛田コメント)
 今後、AIによる契約書レビューサービスが主流になってくると、弁護士の仕事は確実に減りますが、だからといってAIによる契約書レビューサービスが弁護士法72条に違反すると解する必要はないと思います。弁護士法72条は、三百代言の跳梁跋扈を防ぐためのもの(弁護士であるかのように弁舌たくみに相手を言いくるめて不当な利益を得るような行為を防ぐためのもの)なのですが、AIによる契約書レビューが主流になっても三百代言の跳梁が起きるとは思えません。我々弁護士もAIと協力しながら法務能力を上げていくべきで、足を引っ張る必要はないでしょう。あくまでも私の意見ですが。
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2023年2月6日 日経新聞朝刊15頁

「法テック、普及8割超」「AIで契約審査など 質には不満も」「『使いこなす力』課題に」との見出しの記事から。

リーガルテックの質に関する不満解消のためには、利用企業側の「使いこなす力」も必要だとの指摘もある。角田氏は生産性向上には「AIレビューだけではなく、データをためて知識共有など機能全般で使い込んでもらうのが理想的」と話すが、企業側からは「ベテランほど『自分がやった方が速い』と使わなくなる」との声も多い。


(飛田コメント)
 AIによる契約書審査のサービスは私も使ったことがあります。そのときから、既に技術は進んでいるのかもしれませんが、私が思うところ、①AIが審査できる契約書の類型が、秘密保持契約とか簡単な不動産売買契約といった比較的ひな形が出回っているものが多く、したがって、我々のような実務家から見ると、「そこはわかっている。もう少し多くの契約に対応できないの?」という場合が多いのと、②AIは契約書で必要とされる条項を漏れなく追加しようとするのですが、実務の観点からは、相手との力関係によって、どこまで相手方に有利な条項や不足する条項の状態を許容できるかが問題となることが多く、そこまでまだAIでは対応できない、というところに課題を感じました。したがって、今後はAIで契約書審査する会社と、法律事務所がタイアップして、企業側がAIを使って契約書審査する場合のノウハウを法律事務所が提供するパターンが増えるのではないかと思います。記事によれば、既に始められているようですね。
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2023年1月27日 日経新聞電子版

「広域強盗実行犯、報酬150万円 指示役「キム」も浮上」

「同庁は、実行役の大半がSNS(交流サイト)を通じて「闇バイト」で集められたとみている。関連性が疑われる昨年12月の中野区の強盗致傷事件でも、実行役は闇バイトで集まったとみられ、起訴された男は「強盗するために集まった。面識があるわけではない」と供述したとされる。」


(飛田コメント)

 強盗の罪の刑は、単純な強盗罪でも5年以上の有期懲役(刑法236条)、強盗致傷になると無期又は6年以上の懲役、強盗致死になると死刑又は無期懲役(刑法240条)しかありません。法定刑が非常に高いので、SNSの募集に応じて安易に行うような犯罪ではないので、注意すべきです(法定刑が低ければやっていいと言っているわけではないのでご注意ください。)。
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2023年1月26日 日経新聞朝刊39頁

「最高裁判決 新配分方式を評価 一票の格差 原告側『格差を容認』」との見出しの記事から

最高裁大法廷が25日、2021年衆院選の「一票の格差」を合憲と判断した。格差を2倍超に広がらないよう規定する新たな定数配分方式「アダムス方式」を国会が導入し、次回の選挙以降、適用されることを評価。一定程度の格差は容認する判断枠組みを示した。


(飛田コメント)
 この判決は最高裁判所の判例検索サイトで公開されていますが、それを読んでみると、現状の選挙制度は、10年ごとの大規模国勢調査の結果を踏まえ、根本的な一票の価値の格差是正を図り、その間については、大規模国勢調査から5年目に行われる簡易国勢調査の結果を踏まえ、一票の格差が2以上とならないように選挙区の区割りを修正して、応急処置的に格差是正を図るようになっているようです。そして、平成27年の簡易国勢調査の結果を踏まえ、平成29年に区割改正がされ、平成29年の衆議院選挙では一票の格差は1対1.979になったのです。そこで、最高裁は10年に1度のアダムス方式による大規模是正、5年に1度の選挙区の区割変更による暫定的な是正という国会の取り組みを評価して、平成29年の衆議院選挙を合憲としたのです。
 ところが、今回タイミングが悪いことに、29年に区割修正が行われてから、次のアダムス方式による大規模修正(今年?)までの間に衆議院選挙が行われてしまい、一票の格差が最大で、2.08倍まで広がってしまったので、どう考えるか?という問題です。
 最高裁としては、そもそも選挙制度をどうするかは国会に広い裁量があるのだし、現在の10年に1度のアダムス方式による修正、5年に1度の区割改変による修正という制度には合理性があるし、5年間に多少の格差の幅が広がるのはやむを得ないから、ということで合憲としたのが今回の判決のようです。
 15人のうち、たった1人反対意見を書いている宇賀裁判官は、そもそも平成29年の区割変更が「1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数が変更されていない都道府県が相当数あり、その中には平成27年国勢調査結果によりアダムス方式による定数配分が行われた場合に異なる定数が配分されることとなるものも含まれていた」として、平成29年の区割変更自体が違憲状態を解消するものだったとは言えなかったと言っていますが、最高裁大法廷(多数意見)は、平成30年に平成29年の区割変更のもとで行われた衆議院選挙について合憲判決を出していますから、さすがにそこまでは言えない、ということなのでしょう。
 衆議院選挙の一票の格差問題は、今後アダムス方式により大幅な格差是正がなされれば解決かなと思うのですが、どうでしょうか?
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