カテゴリ:投稿者別 >   弁護士 飛田 博

先日、このメルマガの読者の方から、共有不動産の地権者数の数え方について質問がありました。

ご承知のとおり、土地区画整理法第130条第1項には、宅地の共有者は、「併せて一の所有者とみなす。」と書かれていますので、例えば、ABC共有の土地がある場合には、一人と数えることになりますが、ABCがそれぞれ単独で他に土地を有していたり、BC共有の土地がある場合にはどう数えるのか?という問題です。

 

A  B  C  ABC  BC

 

この場合、2通りの考え方があり、

① 共有者全員が他に単独所有の土地を持っていれば、独立してカウントする必要なし

  ⇒ 上記はABCの3人と数える

② 法130条1項により、共有の場合は、あくまで一人としてカウントするのだから

  ⇒ 上記はABCABCBCの5人と数える

 

上記①は、土地区画整理審議会委員の選挙における共有者の選挙権の取扱いについて国土交通省の土地区画整理事業運用指針Ⅴ-13(3)https://www.mlit.go.jp/common/001052004.pdf)に記載されているカウント方法で、実務的には、こちらの運用が多いと思います。しかし、ご質問いただいた方によると、比較的経験年数の多い古参の社員の中には、上記②のように考えている方も実際にいるとのことです。

では、どのように考えるべきでしょう?

まず、実務家としては、国土交通省の見解である上記①の考え方に従うべきでしょう。法律は、科学ではなく、人間が決めたルールに過ぎないので、誰が言っているかが非常に重要です。私が調べた限り、この問題について、裁判所の見解や有力な学者の見解はないようですので、国土交通省の見解に従っておくのがもっとも安全でしょう。

次に、実質的に考えてみても、上記①の考え方のほうが適当かな、と思います。というのは、この問題は、実は、法130条1項の解釈の問題というよりも、どのような基準で「名寄せ」をすべきかという「名寄せ」の問題で、土地区画整理法自体は明確には定めていません。したがって、設問のような場合を3人としてカウントするのが適当か、5人としてカウントするのが適当か、という価値判断の問題でもあります。

この点、考えてみると、土地区画整理法では、組合員は施行地区内に数筆の土地を有していたとしても、一票しか持たないのが原則です(土地区画整理法38条1項)。つまり、施行地区内にどんなに多くの土地を有していたとしても、議決権としては、小さな土地しか有しない地主と同じ権利(一票)しか有しません。大地主にとっては酷なような感じがしますが、法律の定めはそうなっているのです。

そうすると、たとえば、

A B A B

という土地の場合には、議決権数としては、名寄によりABの2名になります。

これとの比較により、

A B AB 

という場合、名寄によりAB2名と考えるのが良いのか、名寄せをしないでABAB 3名と考えるのが良いのかの問題となります。単独で所有権を有していても名寄せされられてしまうのだから、共有で有していても名寄せするのがバランスとして宜しいのではないでしょうか。②のように考える人は、ABの共有となった場合には、AでもBでもない、Xになるのだ、と考えるのだと思いますが、実際には、いくらABが協議しても、ABとは違うXになるのは稀なのではないかと思います。

他方、

A  B  ABC

の場合には、Cが単独で土地を所有しておらず、共有の土地以外でCの意見表明の場もないので、この場合は、3人と考えてよいのでしょう。

問題なのは、

A  B  AC  BC

というバターンです。

この場合、①の考え方でも、Cが他に単独所有の土地を有していないので、ABACBCの4名になりますが、Cの意見表明の場がACBCの2つもあるようにみえますので、少々問題があるように思います。実際、ある組合で、このパターンを悪用され、単独所有地を持たない第三者と共有にすることで、事業反対派のたくさんの票を作り出され、大変苦労したことがあります。

ただし、②の考え方では、単独所有地があっても名寄せがされないので、さらに悪用されることになりますし、そもそもこの問題は「キメ」の問題というところがありますので、多少の弊害が生じるのはやむを得ないのでしょう。

というわけで、実務的には、①の考えで運用するのが適切だと思います。
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 今回は、先日たまたま有料の判例検索サイトを見ていたら面白い判例(東京地方裁判所令和2年4月7日判決)を見つけましたので紹介させていただきます。

 事案は、ある土地区画整理組合の施行地区内の地権者(組合員)が、従前地の立木を除却されたことと、従前地も仮換地も使用できなかったことを理由に、土地区画整理組合に損失補償金の一部の支払いを求める裁判を提起したというものです。

 これに対して、裁判所は、この組合員の訴えを不適法として却下しました。

 その理由は、

「損失の補償については、施行者と損失を受けた者とが協議しなければならず(法78条3項、101条4項、73条2項)、上記協議が成立しない場合には、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法94条2項の規定による裁決を申請することができるとされており(法78条3項、101条4項、73条3項)、さらに、収用委員会がした損失補償の裁決に不服がある者は、裁決書の正本の送達を受けた日から60日以内に訴えを提起しなければならないとされ(土地収用法94条9項)、上記訴えについては、施行者がこれを提起した場合には損失を受けた者を、損失を受けた者がこれを提起した場合には施行者をそれぞれ被告とすることとされている(同法133条3項)。
 このように、法には、憲法29条3項の趣旨に基づく特別の規定が設けられている以上、法78条1項及び101条1項の損失補償の請求は、専ら上記規定所定の手続によってすべきであって、施行者と損失を受けた者との協議及び収用委員会の裁決を経ることなく直ちに施工者に対して補償を求める訴えは不適法というべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第193号同62年9月22日第三小法廷判決・集民151号685頁参照)。」

というものです。

 実は判決の他の部分を読むと、この組合員は東京都収用委員会に、法78条3項、101条4項、73条3項所定の裁決の申請もしていて、その結論が出る前に、裁判所にも損失補償金の一部支払いを求める裁判を提起したようです。

 なぜそのようなことになったのか?もしかしたら東京都収用委員会の手続がなかなか進まないので、もしくは自分の思うようにうまく進まないので、裁判を起こしたのかな?などと推測しますが、いずれにしても、施行者との任意交渉と収用委員会の裁決を経た後でなければ裁判所は利用できないというところは覚えていても損はないでしょう。

 

・・・・・・

 このメルマガでは、土地区画整理の関係で、皆様が悩んでおられる法的な問題を募集しています。全てではありませんが、私が検討して、このメルマガ内で一般論として回答させていただきます。よろしくお願いいたします。

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 土地区画整理組合が保留地を売る場合、保留地売買契約書には、だいたい契約不適合責任(民法改正前は瑕疵担保責任と言われていました。)の規定があり、その行使期間は2年とされているのが普通です。

 ところが、保留地の売り始めの時期はいいのですが、最後の方になってくると、組合解散のスケジュールが近づいてきますので、売却後2年間の契約不適合責任を負うのが適当か?という問題があります。

 この問題について、私のアドバイスを先に言ってしまうと、「契約不適合責任を免責にして売却してください。」というものです。

 単に保留地売買契約書の契約不適合責任の条項を削除しただけですと、補充規範である民法第562条以下の契約不適合責任に関する規定が適用されてしまいますので、それを否定するため、契約書中に「売主は、買主に対し契約不適合責任を負わないものとする。」と、はっきりと契約不適合責任が「免責」であることを規定してしまうのがポイントです。

 私の経験からすると、このように契約不適合責任を免責にすると若干価額を下げざるを得ないのですが、そもそも土地区画整理事業で作った宅地であり、通常は、土地に契約不適合(瑕疵)があることは想定されないので、下げ幅はそれほどでもなく、最終的に保留地は売却できるのがほとんどです。

 他方、仮に買主から契約不適合責任を追求されて、任意の話し合いでは解決できず裁判にでもなると、売主の主張に全く理由がないとしても、それが解決するまで組合を清算結了することができず、弁護士費用や事務局の維持費などで全体的な損害額は決して少なくないのです。したがって、組合としては、無理して契約不適合責任をつけたまま保留地を売却するよりは、契約不適合責任を免責にして売った方が何倍も良いということになります。

 保留地の売却も終盤になってくると、このような問題が発生することになりますので、ご注意ください。

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1.土地区画整理組合の施行地区内に法人(企業)の大地主(組合員)がいる場合などに、よく「法人を理事にすることができますか?」という質問を受けることがあります。土地区画整理組合としては、大地主であるその法人に理事になってもらい、組合運営に積極的に参加してほしいと思ってのことですが、しかし、株式会社の例などで、法人が取締役になっているような例を聞いたことがないので、はたして法人を組合の理事にすることができるのか?という疑問が生じるわけです。

 

2.実は、この問題については既に立法的に解決されています。
土地区画整理法第27条第3項は「理事及び監事は、定款で定めるところにより、組合員(法人にあってはその役員)のうちから総会で選挙する。」と規定していますが、「組合員(法人にあってはその役員)」という部分が重要で、法人自体は理事になれないが、その法人の役員個人は理事になれる、と解釈されているのです。
 詳しく説明すると、法人の役員は、その法人が組合員であるという資格のもとで個人として組合の理事となる被選挙権が与えられます。したがって、その役員個人が、組合の組合員(地権者)である必要はありません。
しかし、あくまでも(いわば)法人組合員枠で理事となったので、その理事が法人の役員でなくなったときは、自動的に理事の地位を失います(土地区画整理法第27条第3項)。
ただし、理事となるのは役員個人であり、法人ではありませんので、その役員の後任として法人の新たな役員を理事にしたいときは、別途、組合の総会で選挙をしなければなりません(土地区画整理法第27条第1項)。
 以上は、どの文献をみても、法人の理事についての確定した解釈・運用であり、特に異論はないかと思います。

 

3.問題は、どうしてこんなに七面倒くさい規定になっているのかということです。
端的に、法人自体を組合の理事にすることができなかったのかな?と思います。この点を理解するには、日本では一般的に法人の役員は自然人でなければならない(または、できない)と原理主義的に考えられていた点が影響しています。

 例えば、会社法第331条第11号では法人は取締役になれないことになっています。この「法人取締役の不許」については、会社法の教科書として最も権威のある江頭憲治郎著「株式会社法」によれば、

「法人取り締役を認めない理由として、取締役の職務は個人的性質のものであること(田中耕・下386頁)、または個人に民事責任を課すことにより経営の適正を図る必要があること(河本・443頁)があげられている。」と説明されています。つまり、株式会社における取締役は自然人でなければあり得ないし、自然人とすることで適正なものとなると考えられていたのです。

 しかし、最近はこのような原理主義的な考え方は否定されています。すなわち、江頭教授は、上記の説明に続けて、

「しかし、外国には法人の取締役資格を認める例が少なくなく、〔中略〕わが国でも、〔中略〕法人に会計監査人、更生管財人等の資格が認められる(会社3371項、会更法672項)ことに鑑みると、立法論として、少なくとも閉鎖型のタイプの会社については、法人の取締役資格を認める余地はあろう。」

と記載しているのです。

 したがって、私としては、土地区画整理組合は施行地区内の地権者で組織される閉鎖型の法人ですので、法人を理事とすることを認めてもよかったのではないかなと思います。

 

4. いずれにしても、この法人組合員は理事になることができず、その法人の役員が理事になれるにすぎないという制度設計は、前述の法人の理事は自然人でなければならないし、そうするのが適当だとする考え方があったから、いわば立法的な妥協の産物として作られたものなのです。この点を理解すると、この分かりにくい土地区画整理法第27条第3項の規定がよく理解できると思います。 

 

◆弁護士 飛田 博

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IMG_2790コロナ禍にあまり注目されていないようなのですが、この7月10日から遺言書保管法なる法律が施行され、法務局での「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00010.html 

この制度は、簡単にいうと全国の主要な法務局で、(自分で書く)自筆証書遺言書を保管してもらえるという制度です。

自筆証書遺言は、自分で比較的自由に作成できますが、作成や保管について第三者が関与していないため、本当に遺言者が作成したのか?とか、実は作成日が記載されておらず形式に不備があって無効だったとか、後々紛争になることが多く、また、誰も遺言書があることに気がつかず遺産分割協議が行われてしまうこともあるため、法務局で遺言書の形式面のチェックと保管をやっていただき、リスクを回避しましょうというのが制度趣旨のようです。 

法務局で預かったまま、遺言者が亡くなった場合、通常の自筆証書遺言では家庭裁判所の検認という手続が必要となるのですが、この制度を利用した自筆証書遺言書では検認が免除されるという特典もついてきます。

はじめこの制度のことを聞いたときは、法務局では形式面だけチェックを受けるといっても、内容面について色々と相談されると法務局側でも答えざるを得ないだろうから、実質的には、(公証人が作る)公正証書遺言とあまり変わらず、実際には公証人の仕事を奪うことになるのではないか?と感じたのです。
それにも関わらずこのような制度を作るのは、法務局では、コンピューター化及びIT化が進んで、どんどん職員の仕事がなくなってきているようなので、法務局内での仕事を作りたかったからなのではないか?などと邪推しておりました。

しかし、保管の際の手数料が3,900円と破格の安さなので、公正証書遺言との差別化はできているようです。公正証書遺言では、遺産のボリュームによって公証人の手数料は違いますが、想定される遺産規模が5000万円から1億円くらいですと、だいたい5万円くらいかかるので(http://www.koshonin.gr.jp/business/b01/q12)、公証人に相談にのってもらいながら丁寧に遺言書を作りたいときには公正証書遺言、自分で作りたいときには自筆証書遺言を作って、保管だけは法務局に任せるという整理が良いのでしょう。

ちなみに、この制度を作るときに参考とされたのが平成29年度法務省調査の次のリンクの報告書。http://www.moj.go.jp/content/001266966.pdf 

平成24年から平成28年までの5年間で、家庭裁判所の自筆証書遺言書の検認事件件数は、毎年1万6000件から1万7000件しかないのですが、7,659名からのアンケート回答をもとに、全国の55歳以上の方のうちの4.3%にあたる211万人の方が既に自筆証書遺言を作成済みで、992万人の方が今後自筆証書遺言を作成する見込みの方(合計1204万人)と推計します。そして、さらに、既作成の211万人のうち89万人の方及び今後作成見込みの992万人のうちの448万人が保管制度を利用したいと考えているものと推計するのです。この報告書によると、2020年度は21万人の方が、2021年から2023年までは、毎年12万人から13万人がこの制度を利用すると予想されています。私には今ひとつ実感がないのですが、もしこの報告書の推計があたるとすれば、かなり利用される制度になりそうですね。

まだまだ若手などと思っていましたが、私も気がつくと52歳。そろそろ遺言書でも作って法務局に預けようかしら。

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IMG_2791(以下は、2020年6月23日に発行したメルマガの記事ですが、7月21日現在もあまり状況は変わっていませんので、ブログに掲載することにしました。)

東京では、政府の緊急事態宣言が5月25日に解除され、その後の都庁の「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」も6月12日には最終段階のステップ3に以降し、現在は、大型イベントを除いて、全ての業種において休業要請も終了しました。
皆様の生活においても、マスク着用・手洗い励行・三密回避などのコロナ対策は維持しながらも、徐々に普段の生活に戻りつつあるのではないかと思います。

ところが、裁判関係の仕事はまだ全然戻っていません。

約2ヶ月間の自粛期間中、裁判の期日は、保全事件などの一部の事件を除き、民事事件も刑事事件も全て取り消され、何も動いていませんでした。裁判は、国民の権利を守るための大切な活動であり、「不要不急」のものとは思われませんので、今にしてみれば裁判所のこの判断自体にも議論があるところだと思います。しかし、4月7日に政府の非常事態宣言が出た段階では、新型コロナウイルスがどのような猛威をふるうかわからず、欧米諸国のように医療崩壊を起こして、何万、何十万の死者が出るリスク(なにもしなければ42万人の死者といわれていましたね。)があったのですから、私はこの裁判所の対応を非難するつもりは毛頭ありません。
ただ、これからが重要だと思うのです。言うまでもなく、我々法曹関係者は早く裁判(司法)を正常な状態に戻さなければなりません。
そうしなければ、せっかく医療従事者がコロナ感染の危険にさらされながら、国民の命や健康を守ったのに、我々法曹が怠慢なために社会が不健康になったなどと言われかねないからです。
我々は、法曹になったころの初心を思い出して今頑張るべきだと思います。

現在、我々の事務所では自粛期間中に期日が取り消された約10件の裁判のうち、新しい期日が決まったのはたったの1件です。
それから、我々の事務所では、6月に入って立て続けに3件の新件の訴え提起をしましたが、まだ1件も第一回口頭弁論期日が決まっていません。
裁判所からは何も連絡がない毎日です。歯がゆい日々が続きます。

 

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IMG_2781(写真は、2020年7月17日お昼の銀座中央通。東京都の新規コロナ感染者が293人と過去最高だったからか、それとも梅雨の長雨が続いているからか、人通りがまばらで、寂しげな様子です。)



(この原稿は使用者サイドから見た法律関係を説明します。)


まず、使用者が設問のような命令を出すことができるか?ですが、使用者は労働者の業務や職場の環境について指揮命令権・管理権を有するとともに、労働者について安全配慮義務を負っています。

新型コロナウイルスの感染拡大が重大な問題となっている現在の状況で、ゴホゴホ咳をしていて、コロナ感染が疑われる従業員に勤務を続けさせることは、仮に本当にコロナに感染していたときは、他の従業員に対する安全配慮義務も尽していないことになるので、使用者としては、当然に、従業員に対する指揮命令権、職場環境についての管理権の一環として、帰宅するよう命じることができると考えてよいでしょう。
で、この従業員の仕事が自宅でできるものだったらよかったのですが、できない場合、労働者に休業させることになります。

次に、その場合、休業手当(給料の60%以上)を支払う必要があるかについて問題となります。多くの会社では、そこまで厳密な取り扱いはしておらず、従業員が風邪などで休んでも定額の給料を支払っているということかもしれませんが、法的に詰めて考えると、「ノーワーク・ノーペイ」が原則ですから、労働者が休業していた期間は給料を支払わなくてよいのでは?という疑問が発生するわけです。

この点について規定しているのが、労働基準法第26条です。

 

(休業手当)

26条  使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の60以上の手当を支払わなければならない。

 

つまり、コロナに感染している疑いのある労働者に帰宅を命ずることが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するかがポイントです。

考え方としてはいくつかあるでしょう。
例えば、コロナに感染していることが確認されている従業員であればいざしらず、コロナ感染の「疑い」だけで、ノーペイという不利益を課すのは「推定無罪」という法原則に反すると考えて、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するという考え方もあるでしょう。

また、労働法という分野では労働者を社会的弱者と考えて保護することに重点が置かれますので、この問題を考えるにあたっても、労働者保護にウエイトを置き、コロナ感染の「疑い」で休業命令を出すのは、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するのだ、という考え方もあるでしょう。

しかし、ゴホゴホ咳をしていても、PCR検査でコロナ陽性が確定していない従業員に休業を命じると全て「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当すると考えるのは不合理です。なぜなら、実際にコロナウイルスに感染していることを確認してから休業命令を出すとするとコロナ感染予防対策として効果がなく、他の従業員に対する安全配慮義務も尽くせなくなるからです。

これに対しては、「いやいや使用者の指揮命令権の一環として休業命令自体は出せるのだから、使用者は休業手当の支払いを覚悟して休業命令を出せば良いではないか?」という人がいるかもしれません。

しかし、一方では(コロナ感染拡大予防対策などといって)休業命令を出すことを推奨しておきながら、他方ではその休業命令を出すことを躊躇させるような解釈をするのは、ベクトルの方向がちぐはぐで、良い解釈論とは言えないと思います。

そこで、労働者の状態がどの程度であれば、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するのか?という更に細かい議論に入っていきます。極端な例で言えば、労働者がちょっと咳をしただけで休業命令を出すとすれば、それは「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払いの対象になるが、従業員が、ゴホゴホ、ゼーゼーしながら咳をしていて、見るからに苦しそうであれば「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないということについては誰もが納得すると思うのですが、その間の事案についてはどう考えればよいのか?ということです。

で、この点に言及しているのが、厚生労働省のHPにある次のQ&Aです。

 

〈感染が疑われる方を休業させる場合〉

3 新型コロナウイルスへの感染が疑われる方について、休業手当の支払いは必要ですか。

感染が疑われる方への対応は「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)症状がある場合の相談や新型コロナウイルス感染症に対する医療について問1「熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。」」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1)をご覧ください。

これに基づき、「帰国者・接触者相談センター」でのご相談の結果を踏まえても、職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

 
このAnswerの中で、「「帰国者・接触者相談センター」でのご相談の結果を踏まえても」という部分は、そんな相談をしている余裕はないので、適当ではないです。その点は置いておいて、上記のAnswerで引用されている「問1「熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q5-1)のQ&Aを見てみると、次のとおりです。

 

問1 熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。

 発熱などのかぜ症状がある場合は、仕事や学校を休んでいただき、外出は控えてください。休んでいただくことはご本人のためにもなりますし、感染拡大の防止にもつながる大切な行動です。そのためには、企業、社会全体における理解が必要です。厚生労働省と関係省庁は、従業員の方々が休みやすい環境整備が大切と考え、労使団体や企業にその整備にご協力いただくようお願いしています。
 咳などの症状がある方は、咳やくしゃみを手でおさえると、その手で触ったドアノブなど周囲のものにウイルスが付着し、ドアノブなどを介して他者に病気をうつす可能性がありますので、咳エチケットを行ってください。

 帰国者・接触者相談センター等にご相談いただく際の目安として、少なくとも以下の条件に当てはまる方は、すぐにご相談ください。

息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場

重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

 

このAnswerを読んでも、使用者が従業員を休業させる場合に、従業員がどのような状態であれば、「使用者の責に帰す事由による休業」といえるのか直接の言及がないように思うのですが、なんとなく、

 

息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場

重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

 
☆の場合には、「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください、としているのですから、この場合には、休業命令を出すこともやむを得ないと考えているのかなと思います。


上記のような状態にある場合には、新型コロナウイルスへの感染の可能性が高いと合理的に判断できますので、使用者側が休業命令を出すこともやむを得ない、むしろ労働者が(何らかの理由により)無理をして出勤してきているような場合には、休業命令を出すべきといえます。

というわけで、私の結論としては、従業員が上記の状態に当てはまる場合には、使用者の判断で休業させても、「使用者の責に帰す事由による休業」には該当しないと考えます。

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2020年5月11日の日経新聞(電子版)に衝撃的な記事が出ました。

それは、「株主総会『来場禁止』も容認 経産省が指針」という見出しの記事です。

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO58944830R10C20A5EE8000?s=4

内容を抜粋すると

「新型コロナウイルスの感染拡大で企業決算のとりまとめが遅れていることを受け株主総会に株主の来場を禁止することができるとの指針を経済産業省がまとめた。招集通知などに記載し、議決権を事前に行使するよう促すことを提案する。」

「2020年3月期決算の企業の株主総会が6月末に集中して開催されるのを前に、経産省がQ&Aを公表した。企業が「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合」は、招集通知や自社のウェブサイトなどに記載し、株主に理解を求めるように促した。」

というものです。

しかし、経産省のQ&Aを読んでみると、「来場禁止」とすることを容認しているとまで言えるのか少々疑問に思います。問題のQ&Aは次のとおりです。

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

A)の第三段落に注目してください。

Q2.会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか?

(A)    可能です。

Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。

 現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。

 なお、株主の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。

第1段落は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、株主総会の会場の規模を縮小したり、入場できる株主の人数を制限したりすることは可能であると回答し、第2段落は、Q1で可能とした「株主に来場を控えるよう呼びかけること」や、第1段落で回答した会場の規模縮小や入場制限をした結果として、会場に株主が出席していなくても総会開催は可能であると回答したもので、特に異論はないかと思います。

問題は、第3段落なのですが、「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合」であることを総会前に発送される招集通知や自社サイト等に記載することを求めていますので、「結果として」会場に株主が来場しなかった場合ではなく、まさに事前に株主の来場を禁止することを想定していると思われます。しかし、第1段落、第2段落の結論部分が「可能と考えます。」なのに対し、第3段落では「株主に対して理解を求めることが考えられます。」なのです。そして、理解してくれなかった株主が来場した場合に、「株主の来場は禁止されていますので、お帰りください。」と言えるか否かについては言及がないのです。そうすると、株主の理解が得られなかった場合には、「来場を認めなければならない」と読む余地もあるように思います。したがって、弁護士としては、このQ&Aの記載や前述の日経新聞の記事だけからでは、「株主の来場を禁止して総会を開催しても大丈夫です。」などとはいえないのではないかと思います(注1)。

結局、現時点での選択肢としては、

①6月末の開催予定を7月、8月、9月に延期するか

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

②来場自粛要請(議決権行使書やウェブ投票で議決権を行使してもうらう)、会場規模縮小、入場制限などで感染予防に配慮しつつ、6月末に開催するか、

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

⑥感染予防に配慮しつつ、監査スケジュールの遅れも考慮して、6月末の総会では役員の改選等のみを行い、3ヶ月以内に継続会を開催して決算の報告を行うか、

http://www.moj.go.jp/content/001319501.pdf

というところではないでしょうか。

なお、新型コロナの件がなくても、インターネットを使って株主総会に出席して議決権を行使できるようにする仕組みはとても重要で、まさに経済産業省の「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/shin_sokai_process/index.html

で専門家の議論が進められている最中でした。今回の新型コロナには間に合わなかったわけですが、今後も、感染症等々の問題は発生しますので、ぜひ早期にまとめていってほしいと思います。

(注1)株主の来場禁止を違法とする見解として、山口利昭弁護士のブログの記事「株主の出席を禁止してでも6月総会実施?―定時総会は(やはり)完全延期すべき。
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2020/05/post-bf91ba.html)参照。

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あけましておめでとうございます。16()から本年の業務を開始いたしました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

飛田&パートナーズ法律事務所は、銀座6丁目(通称:銀座シックス)の昭和通りを築地側に越えた新橋演舞場の近くにあります。このあたりでは、現在、ビルの建て替えが急速に進んでおり、そのほとんどがホテルになるようです。これもオリンピックを控えた2020年という年を象徴しているのかもしれません。

 

ところで、なぜ建て替えが進んでいるかと言うと、もともと銀座は古い街で、築40年~50年経過している建物が多いからですが、その他に、耐震の問題があります。2013年に耐震改修促進法が改正され、旧耐震基準の大規模建物については耐震診断が義務付けられるともに、もし震度6強以上の地震により「倒壊・崩壊する危険性が高い」と判明される場合、耐震診断の提出を受けた自治体が、その結果を公表することになりました。そのため、2018年ころから、耐震診断の結果が公表され始め、日経新聞の同年1126日の記事では「『倒壊危険高い』首都圏に140棟、旧耐震基準の大型建物」と言う見出しの記事も出ました。それらの記事により、渋谷の「109ビル」、新橋の「ニュー新橋ビル」等々の有名な建物も耐震に問題があることが判明したことを覚えている方も多いかと思います。(ちなみにそれらのビルは、補強または建て替えが進められています。)。そこで、ビルのオーナーとしては、耐震に問題がある以上、これは放っておくことができないとして、建物の建て替えを進めているのでしょう。

 

では、耐震の診断の結果、耐震性に問題があるとされたにもかかわらず、そのまま放っておいたらどうなるのでしょうか? 耐震改修促進法第11条は、「〔ビルの〕所有者は、耐震診断の結果、地震に対する安全性の向上を図る必要があると認められるときは、〔中略〕耐震改修を行うよう努めなければならない。」と定めていますが、これは「努めなければならない」という文言からわかるとおり、努力義務にとどまり、耐震改修をする法的な義務があるわけではありません。ですから、現状でも、耐震性に問題がありながら、耐震改修をされず存続している建物がたくさんあります。では、本当に震度6以上の地震が起こって建物が倒壊し、入居者やその建物の利用者に被害が出た場合、ビルのオーナーはその被害を賠償しなければならないのでしょうか?報道によれば、政府の地震調査委員会が策定した全国地震動予測地図(2015年版)によると、今後30年間に震度6以上の直下型地震が来る確率は、横浜市役所で78%、東京都庁で48%とのことですので、これは切実な問題です。

 

これを法的に考えると、民法709条の不法行為の問題となり、同条1項は、「故意過失によって他人の権利を侵害したものは、それによって生じた損害を賠償しなければならない。」と定めています。そして、過失とは、あらかじめ損害の発生を予見でき、回避も可能だったのに、その予見または回避義務を怠り、損害を発生させることと理解されています。したがって、耐震診断によってビルの倒壊や入居者または利用者の被害を予測でき、かつ物理的には耐震工事などを実施することにより被害の発生を回避することができたのにもかかわらず、被害が発生してしまった場合には、過失ありと判断され、民法709条の損害賠償責任を負わなければならないとも考えられます。しかも、建物のような土地の工作物の場合、民法717条に工作物責任という不法行為の特別規定があり、工作物の所有者は無過失責任終わっなければならないと規定されています。したがって、民法709条の「過失」についての議論をすることなく、同法7171項の工作物責任によって、当然に建物の所有者は地震によって発生した被害(損害)を賠償しなければならないと考えるのが自然なように思います。

 

ところが、少々複雑な問題があります。それは端的にいうと、建築基準法上、昭和56年に建物の耐震基準が旧耐震から新耐震に変ったわけですが、変更後も、旧耐震の建物は、違法ではなく、既存不適格建物として適法建物である(建築基準法32項参照)と解釈されていることに起因しています。少々説明が長くなりますが、お付き合いください。

 

前提として、民法717条1項は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは〔中略〕所有者がその損害を賠償しなければならない。」と規定しているのですが、この工作物の「瑕疵」(かし)とは、「通常備えているべき安全性を欠いていること」をいい、「設置の瑕疵」とは当初の設置段階から瑕疵があること、「保存の瑕疵」とは設置後管理等が悪くて瑕疵があることになったことをいうとされています(ここまでは特に異論がないと思います。)。そうすると、旧耐震の建物については、建築時には当時の基準で耐震性をクリアーしていたので、「設置の瑕疵」があるとはいえないので、「保存の瑕疵」があるかが問題になるわけですが、前述のとおり、耐震基準が旧から新に移っても、法的には適法建物なのであるから「保存の瑕疵」があるとはいえないのではないか?という疑問があるのです。

 

この疑問を強める判例もあります。それは、 仙台地判昭和5658日 で、事案は、1978年の宮城沖地震で、ブロック塀が倒れ、通行人が死亡したので、遺族がブロック塀の所有者に損害賠償請求をしたというものです。この事案では、ブロック塀が、建築基準法改正後の新しい耐震基準に適合しなくなっていましたが、所有者には、法令上の補修や改造義務はなく、一般にそのような補修や改造を期待することもできないから、「保存の瑕疵」もないと判断されたのです。この判決の論理に従えば、耐震改修促進法によって、旧耐震基準の大規模建物の所有者には、耐震診断をして、耐震診断の結果、耐震性能が不足していることがあきらかになっても、耐震改修をする法的義務はないと解されていることから、「工作物の保存の瑕疵」があるとはいえないのではないか?という解釈が成り立つわけです。

 

で、私は頭を悩ましていたのですが、最近、この問題に明快な回答を与える論文を発見しました。TMI法律事務所の富田裕弁護士が日本不動産学会誌第28巻第3号に発表している「工作物責任との関わりでいる耐震改修促進法の改正の考察」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jares/28/3/28_97/_pdf)という論文です。201412月の雑誌なので、耐震改修促進法の改正直後には既に、現在私が悩んでいるような問題について検討がされて、一定の回答が出ていたのですね。ちなみに、富田弁護士は、一級建築士で、社団法人日本建築士事務所協会連合会の理事もされているようですので、その道の専門家です。

 

富田弁護士は、「改正後の耐震改修法の規律は、ある建築物について、一方で「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。」と公表しつつ、この建築物について、改修の法的義務はないとする。この規律は、いわば「地震により崩壊する危険が高い」ものの放置を認めるという矛盾を内容した規律である。」と端的に指摘しつつ、民法7171項の「保存の瑕疵」の解釈との関係では、「危険性が高い建物」と評価された以上、通常備えるべき安全性を備えた建築物とはいえないので、瑕疵ある工作物と判断すべきであり、この瑕疵は、後発的瑕疵ということになるから、「保存の瑕疵」と解釈すべきであると主張するのです。そして、法社会学の観点からしても、そのように解釈することで、危険な建物の改修が進められることになるので望ましいこと、前述の仙台地裁の判決も、「すべて新規の技術に従って在来のブロック塀を補修ないし改造することが法令によって要求されるか、或いはそうでなくても、その指摘がされて一般に行われていたような特別な事情があれば格別」という例外を設けているので、耐震改修法上、建物の危険性が公表されるに至ったような場合には、この特別な事情があると考えられるので、このような結論は判例とも矛盾しないというのです。

 

そして、富田弁護士は更に踏み込んでいて、民法7171項の工作物責任は一次的には占有者に発生し、ただ「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは」所有者に無過失責任を負わせるという構成になっているのですが、「建物所有者が建物を貸しに出し、賃借人が当該建物を借りて店舗を営んでいる場合において、当該建物の危険性が公表された時、店舗を運営する占有者は、店を別の安全な建物に移転させ、当該建物から退去することで事故の発生を防止することができる。そうであれば、建物の占有者も事故の発生を防止することはできるから、占有者にも責任があるとすべきである。」というのです。これは、危険性があるとして公表された建物内で営業しているテナントにとっては、かなり影響を与える解釈だと思います。

 

というわけで、新年早々から長い原稿になってしまい、申し訳ありません。
ただ、上記のような解釈がありますので、今後ますます旧耐震の大規模建物の耐震改修や建て替えが進むようになるでしょう。
今後の動向に注目したいと思います。

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 先日、あるクライアントから、「私の会社では、土地を借りて、建物を建てており、その際、借地権の登記をしたが、その借地権の存続期間が来年満了する。この場合、借地権の存続期間の記載を変更しておく必要があるでしょうか?」という質問を受けました。

 この質問を分析すると、登記簿上、存続期間が終了してしまっている借地権登記には対抗力があるのか?という問題になります。

 

 すなわち、賃借権は、対象となる物を直接的に使用できる権利(物権)ではなく、賃貸人という人に対して対象物を借りるよう請求する権利(債権)なのですが、対象物が不動産等の場合には、登記することが認められており、登記すれば、物権化して、他の物権(所有権、永小作権、抵当権等々)その不動産に対し新たに権利を取得した者と民法177条の対抗関係に立つと考えられています。

 たとえば、土地について賃借権を有している者が、その賃借権を登記すれば、その土地を賃貸人から新たに取得した者(新しいオーナー)との間で対抗関係に立ち、賃借権の登記の方が所有権移転登記よりも先行しますので、その賃借権を新しいオーナーに対抗できる(賃借権の存在を新しいオーナーに主張できる)ことになります。

 もしこの場合に賃借権登記がなかったとすると、「売買は賃貸借を破る」の原則に従い、新しいオーナーは、賃借人に対し所有権に基づいて土地の明渡しを請求できるということになります。

 ただし、明治の時代に、この「売買は賃貸借を破る」の原則が過酷な状況を生ぜしめたため、明治42年に「建物保護ニ関スル法律」(現在の借地借家法第10条第1項)が制定され、借地上に借地権者の建物がある限り、借地権登記がなくても、その借地権は対抗力を有する、ということになりました。したがって、現在では、この問題はあまり重要ではなくなっています。

 

 しかし、借地上に建物がない場合には、依然、この問題は重要性を有します。特に、近時は、太陽光発電で、借地上に建物がないが借地権登記がある借地権が大量に発生したので、20年後ぐらいには、この論点は大きな問題になっているかもしれません。

 

 で、回答はどうなんだ?ですって。

 実は、リサーチはしてみたものの、この問題に直接的に答えている文献を発見できず、よくわからなかったのです。

 不動産登記法上は、借地権の存続期間について変更登記を認めているので、存続期間が満了した場合には変更できることはわかるのですが、変更しなければ登記として無意味になるのか(対抗力が認められなくなるのか?)という点についてはどうもはっきりしません。

 

 このように悩んでいたところ、現在、法務省の法制審議会の民法・不動産登記法部会で審議されている「所有者不明問題」の資料9(http://www.moj.go.jp/content/001301735.pdf)に興味ある記述を見つけました。

 それは、資料9の第5の1(4)「登記記録に記載された存続期間の満了している権利(地上権、永小作権、賃借権及び採石権)に関する登記の抹消手続の簡略化」(18頁)という部分です。

 その箇所の「補足説明」には、

 

「登記義務者の所在の把握が困難である場合には、〔中略〕実体上は既に存続期間の満了等により消滅している用益権(地上権、永小作権、賃借権及び採石権)に関する登記が抹消されないまま残存することがあり、〔中略〕不動産の円滑な取引を阻害しているとの指摘がある。

2 地上権、永小作権及び賃借権については、それぞれ、賃借期間の定めがあるときはその定めが登記事項とされており(不動産登記法第78条第3号、第79条第2号、第81条第2号)、採石権については、存続期間が必要的記載事項とされている(同法第82条第1号)。そこで、登記記録に記録された権利の存続期間が満了し、かつ、そこから更に一定期間(例えば5年)が経過している場合には、当該権利が既に消滅している可能性が高いことを踏まえ、登記義務者の登記記録上の住所への通知(注1)及び公告により登記義務者の手続保障を図った上で、異議がないときは、登記権利者が単独で当該権利の抹消をすることができるものとすることが考えられる(注2、注3)。」(18頁)

 

と記載されているのでした。この記述が、存続期間が満了している借地権登記の対抗力の問題をどのように考えているかわからなかったので、私の知り合いの法制審議会の関係者に聞いたところ、「存続期間が満了している賃借権登記の効力の問題は、文献もなく、学者に聞いてもよくわからないとのことで、明快な答えができない分野。だから、このような制度ができないかということ。」だそうです。

 

 私としては、私がリサーチで回答を発見できなかったのは、私の能力不足が原因ではないことがわかってホッとするとともに、借地権登記などという古くからある法制度にもこのようなまだよくわからない分野があるのだなと少々驚いた次第です。

 

 実践的には、(上記のような法改正がなされた場合はなおさらのこと、改正がなされなくても、「対抗力がない」と解釈されるリスクをとるわけにはいきませんので、存続期間満了の際には、速やかに、存続期間の変更登記をしておいた方がよい、ということになるでしょう。

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