カテゴリ:投稿者別 >   弁護士 飛田 博

2023年1月25日 日経新聞朝刊47頁

「ソフトバンクG370億円申告漏れ」「M&A問われる税務処理」「法令、支出の線引き曖昧 企業の意思決定明確化重要」との見出しの記事から

一般的にM&A関連支出を巡る税務上との線引きは「意思決定」のタイミングにあるとされる。複数の専門家によると、実務では通常「取締役会などでM&Aの最終意思決定がある前は費用、あった後は取得価格」として扱う。だが最終意思決定前に事実上の決定がされていることもある。M&Aは個別性が強く、海外企業の買収などでは意思決定手続の複雑さはさらに増す。意思決定の時期にかかわらず、取引実行が前提となっていれば取得価格とすべきだという見方もある。


(飛田コメント)
 一般にM&Aにおけるデューデリは、M&Aをするか否かを調査するためのもので、その調査を踏まえて取締役会でM&Aをするかどうか(多くの場合が相手との具体的な契約交渉に入るかどうか)か決められるので、従来の基準からすれば費用になるのではないかと思います。「意思決定の時期にかかわらず、取引実行が前提となっていれば取得価格とすべきだ」との見解は理解できますが、「取引実行が前提となっていた」事実をどのような証拠から認定できるのか?
 裁判になった場合、税務当局側も大変なのではないかと思いました。
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2023年1月23日 日経新聞朝刊15頁

「安保リスク、契約書で先手」「主要企業の4割、免責条項など整備」「企業法務 弁護士調査」「ロシアや台湾有事警戒」との見出しの記事から

具体的には①契約締結時に中国企業との契約書では経済制裁リストの対象になっていないことを保証し合う②子会社が制裁リスト入りすれば不可抗力として契約不履行の責任を免除する③契約の相手企業がリスト入りした場合は契約解除できる-といった内容を含めることなどを想定する。


(飛田コメント)
 最近でいうと、不可抗力条項の中に、新型コロナウイルスなどの感染症が含まれるものと見たことがありますが、中国関係のビジネスをしている会社にとっては、このように台湾有事のことも考えながら契約書を作らなければなりませんね。
 台湾有事など起こらない方がいい訳なのですが、起きた場合の備えをしておくのが契約書ですので、日経新聞は勉強になりますね。
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2023年1月20日19:30配信 日本経済新聞電子版

離婚調停、申し立て・協議をIT化 法制審が要綱案、通常国会に改正法案提出へ」との見出しの記事から

法制審議会(法相の諮問機関)は20日、離婚や遺産相続の家事調停などにかかる裁判所の手続きをIT(情報技術)化する対策案をまとめた。申し立てや当事者間の協議、記録の閲覧をインターネットやオンライン会議で可能にする。書類や対面を原則としていた方針を改める。


(飛田コメント)
 最近、私が関与している裁判のほとんどがWeb会議で期日が行われるようになっていますが、書面の方は、まだFAXを使った送信が多いですね。しかし、このように書面の提出についても急速にネットでできるようになるのでしょう。弁護士の書く書面も、これまでは紙で見た場合に見栄えが良くなるように構成していましたが、これからはPCの画面で見たときに見栄えが良くなるように変えなければなりませんね。いずれにしても大歓迎の変化であり、今後の実務に期待しています。
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2023年1月19日5:00配信 日経新聞電子版

「強制起訴は誰のために 刑罰以外の選択肢はないのか」との見出しの記事から

福島第1原発の事故を巡っては、民事裁判では「津波は予見できた」として旧経営陣の過失を認める判決も出ている。だが民事は「原告と被告のどちらかの主張が真実と思われるか」という争い。一方、国が国民に刑罰を科す刑事裁判は「疑わしきは被告人の利益に」が大原則で、「合理的な疑いを挟む余地がない程度」の立証が求められる。


(飛田コメント)
 これは編集委員の坂口祐一さんの論考なのですが、内容的にとても深く考えられていて、素晴らしいと思います。かなりの意訳も込めて内容を要約すると、
 検察審査会強制起訴制度は、検察の起訴権限に民意を反映させるために設けられたが、検察委員会で強制起訴となりやすい業務上過失致死罪については、裁判上、裁判員裁判ではなく、従来の裁判制度として裁かれるので、結局裁判所でははじかれる傾向がある。
 ただし、それが悪いと言っているわけではなくて、そもそも、原発や航空機、列車の運行システムという多くの部署や人が関わる事件を、民意で、結果責任的に、個人を裁いてしまうのは、経済・社会活動に悪影響となるのではないか。
 他方、裁判にすることで真相解明が期待できるという意見もあるが、個人の刑事責任を問う場の裁判では、検察と弁護側の対立構造となり、双方とも自己に不利益なことを言う必要もないから、逆に真相解明や再発防止策の策定にはつながらないのではないか。
 したがって、検察審査会には、審査段階で、専門家のサポートをしっかりして、有罪にできるだけの証拠があるかチェックさせるべきであるし、強制起訴の対象を、「証拠はあるが検察が起訴を見送った起訴猶予案件」にしぼることも考えられる。
 他方、この種の案件では、刑事裁判に過度に期待するのではなく、米国のように、議会や国家運輸安全委員会といった機関が強い権限で調査を行い、懲罰的な課徴金を課すなどの対応を行う制度もあるので、我が国でも政治・行政・司法による総合的な対策を考える方が適当ではないか?

 ところで、私が気になったのは、冒頭の引用箇所。日本の民事裁判でも、証明度という観点からは、理論的には、事実認定に「通常人が疑いを差し狭まない程度の高度の蓋然性」が要求されるのです(判例)。
 しかし、実際の民事裁判では「原告と被告のどちらの主張が真実と思われるか」という争いになっているのは(私の経験上)事実であるし、基本的には、民事裁判はそれで良いのではないかというのが私の意見です(注1)。
 しかし、問題もあって、
 1.民意に影響されやすい事件の場合、民意に流されやすくなる(ただし原発訴訟がそうであるというなどとは全く言うつもりはありません。事件の内容もよく知りませんので。)
 2.証拠が片方に偏在しているような案件の場合は、(特に一般的な筋とは違う主張をしようとする場合)証拠がない方が勝つのは困難となる。
と思っています。

 1については、刑事事件も民事に流されることはあるのですが、記事にも指摘されているとおり、民事の場合には、「疑わしきは被告人の利益に」の原則がないので、より流されやすくなります。
 2については、日本の民事裁判にはディスクロージャー(証拠開示)の制度がないということが問題なんですよね。
 ということで、色々と考えさせる良い論考だと思いました。

(注1)色々意見はあると思いますが、①民事裁判は、対等な当事者が主張と証拠を出し合って勝負するという建前の世界ですので、原告が80%確からしいと立証しない限り、原告敗訴となるという制度設計はおかしいと思うこと、②民事には、刑罰による著しい人権侵害はなく「疑わしきは被告人の利益に」の原則は妥当しないので、原告側に80%の立証を要求して、初めからハンディーをつけることを正当化する理屈が見出し難いこと、③民事事件の当事者には、警察・検察のような捜査権限はないので、提出できる証拠が限られており、80%確からしいというレベルまでいかないと裁判所が事実を認定できないとすると、そもそも裁判制度が成り立たないと思われること、④基本的には私人間の紛争なので、徹底的な真相究明をするまでコストをかけることはできないこと、などが理由です。
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2023年1月17日22:20配信 日経新聞電子版

逮捕容疑は昨年11月29日、ツイッターに「僕の全てをつぶした殺人鬼」「僕を地獄の底に落とした殺人鬼」といった内容の投稿をし、滋賀県内に住む元妻(32)の名誉を傷つけた疑い。


(飛田コメント)
 この記事で逮捕された将棋の元プロ棋士は、名人戦の最高位クラスA級に在籍したことがあるとても強い棋士であったばかりでなく、とてもサービス精神があり、NHK杯のインタビューなどで将棋ファンを楽しませてくれました。私も将棋が好きで、この棋士のファンでもありましたので、今回の件はとても残念です。記事によると、「容疑として示された日に投稿した記憶がない」と述べているそうなので、お酒に酔っていたのかな?などと想像します。
 この棋士が将棋のプロを辞めたのは、対局から家に帰ったら、妻が幼い子供を連れて実家に帰ってしまい、それから子供に会えないということが続いていたからであると認識しています。夫婦の間には外からはわからない色々なことがあるので、別居については特にコメントはないのですが、以降、この棋士は子供と会えなくなってしまい、将棋に集中することもできなくなったので将棋のプロを辞め、現在は子供の連れ去り問題について、法律や人々の意識を変える活動をしているものと理解しています。
 現在の日本の制度や運用ですと、別居や離婚後は子供との面接権があるとはいえ、月に1回数時間というのが普通で、これでは全く足りません。
 今回のこの棋士の件も、子供に会えなかったことが影響しているのではと推測してしまいます。
 子供との面会についての日本の現状の制度や運用は改善が必要だと思います。
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2023年1月16日13時41分配信 日経新聞電子版

京都府警は16日、道路交通法の基準を超える動力を備えた電動アシスト自転車「シーガル26」を販売する際、適合品だと消費者に誤認させる広告表示をしたとして、京都市の販売技業者と経営者(54)を不正競争防止法違反(誤認惹起表示)の疑いで書類送検した。


(飛田コメント)
 不正競争防止法違反(誤認惹起表示)の疑いというのがめずらしいと思って、この記事を取り上げました。
 記事によると、この自転車は、こがなくても時速6キロで自走するのでミニバイクとしての登録が必要で、電動アシスト自転車としての基準に適合しないのに、インターネット通販サイトで販売する際に「電動アシスト自転車の決定版」などと広告をしたとのこと。詐欺罪のようにも思えますが、消費者が実際に誤認したかどうかは問わないのでしょう。消費者を誤認させるような表示をして商品を売ると犯罪が成立しますので、注意した方が良いですね。
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2023年1月15日7:00配信 日経新聞電子版

「強制起訴の東電旧経営陣に控訴審判決、原発事故巡り18日」

「東京電力福島第1原子力発電所事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人の控訴審判決が18日、東京高裁で言い渡される。〔中略〕一審では無罪となったが、その後の民事裁判では、3人を含む旧経営陣の責任を認め巨額賠償を命じた判決が出ており、控訴審がこうした判断をどう評価するかもポイントとなりそうだ。」


(飛田コメント)

 この件は民事事件としては、旧経営陣に合計で13兆円を超える巨額賠償が命じられましたが、刑事事件としては一審無罪です。この民事では損害賠償が認められるが、刑事では無罪というのは、理論的には(頭の中では)理解できるのですが、どうしてもすわりが悪いですね。民事法と刑事法とでは、目的も効果も違うし、両者を裁く裁判体も異なるので、やむを得ないとは思うのですが、一般の人にはなかなか理解しずらいのでは?と思います。18日の東京高裁の判決がどうなるのか注目したいと思います。
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2023年1月11日 日経新聞電子版20時配信の記事から

「政府の個人情報保護委員会は11日、破産者の氏名や住所などの個人情報を公開しているインターネット上のサイトの運営事業者を個人情報保護法違反の疑いで刑事告発したと発表した。」

「破産者の情報は官報の公開情報で把握できるが、同委員会は本人の同意なくデータベース化したものは個人情報保護法違反に違反すると指摘。同委員会は2022年7月に停止勧告、11月に停止命令を出したが、サイトは閉鎖されておらず、事態を重くみて刑事告発に踏み切ったとしている。」


(飛田コメント)

 記事にあるとおり、破産者の住所や氏名は官報に公告されますが、これを本人の同意なくデータベース化すると個人情報保護法違反となり、刑事罰の制裁もあるということですね。
 ただ、根本的には破産者の情報を官報に載せるのが適当なのか?という問題はありますね。かつては、官報をチェックする人はごく少数の人にとどまっていたと思われますが、インターネット社会の進展により、このようなサイトを介して誰もが容易に見られるようになりました。
 したがって、もはや破産者というかなりネガティブな情報は誰もが見られるものにするのではなく、利害関係がある人のみが見られるように制度を変更した方が良いかもしれません。
 似た問題として、不動産登記の所有者情報や会社の役員の情報にも(こちらはネガティブな情報ではありませんが)同じ問題がありますね。
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2022年12月26日 日経新聞朝刊15頁

「企業が選ぶ『頼れる法律事務所』」「長島大野、迅速対応に評価」

長島・大野・常松は昨年の調査では4位だったが、今回初めて首位になった。同事務所に投票した企業の半数以上(33社)が「弁護士の知識や実務経験が豊富」としたほか、15社が「幅広い分野に対応できる」とした。さらに「対応が迅速」という評価が全事務所の中で最多だった。


(飛田コメント)

 本日(12月28日)が弊事務所の今年の最終日です。皆様、今年も大変お世話になりました。
 上記の記事で思ったのは、法律事務所に要求されることで最も重要なのは、「迅速な対応」であるということ。この点は承知しているのですが、仕事が立て込んでくるとなかなか実現が難しいところであります。来年の課題にします。
   今年は大変お世話になりました。
 来年も何卒よろしくお願い致します。

 新年は1月5日(木)から業務を開始致します。
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2022年12月26日 日経新聞朝刊15頁

「社内外で法のプロ活用」「『法務能力高い企業』三菱商事が連続首位」との見出しの記事から

首位の三菱商事は41票を集め「法務スタッフの能力」が高く評価された。同社の法務部門は、日本の弁護士資格だけで20人、米国の弁護士資格者は50人規模と多くの社内弁護士を抱える。年間で100を超える外部法律事務所と連携し、内外で専門家を活用する。


(飛田コメント)

 国内外を含め70人の弁護士有資格者がいる法務部となると、我が国の法律事務所のトップ10内に入る弁護士数と思われ、すごい法務対応能力だなと思います。
 企業内部の弁護士には、その企業の指揮命令下で働くのに対し、外部の弁護士には、その企業から一歩引いた位置でその企業にとって言われたくないことも言える(アドバイスできる)という役割があると思うので、外部の法律事務所の存在意義がなくなるということではないのですが、普通のl法律事務については企業の法務部内で対応できるということになりますので、外部法律事務所としても確実に脅威だと思います。
 いやはや、時代は変わりましたね。
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