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定年後の再雇用と労働契約法20条の問題が争われた事案の控訴審(東京高裁)判決が、2日に出されました。運送会社のトラック運転手が、定年前と同じ業務であるにもかかわらず、賃金を引き下げられたのは違法であるとして、会社を訴えた裁判です。

 

私は、今年5月の労働者側が勝訴した第一審(東京地裁)判決も、メルマガ+ブログの記事に取り上げさせていただきました。

http://blog.tplo.jp/archives/47690816.html

この記事の中で、私は、第一審判決の判断について、以下のとおり、コメントしておりました。

「若干疑問に感じたのは、財務・経営状況(に問題がないこと)についての考え方です。定年後の継続雇用は、本来定年で退職になるけれども、年金との接続を図るため雇用を確保することを目的とするものですから、仮に危機的な財務・経営状況でなくとも、賃金コストを一定程度圧縮することは不合理とまではいえないと思われます。そこを圧縮しない(できない)とすると、継続雇用制度は非常に大きな負担になりますし、新たな人材採用等(新しい人材の雇用を確保することや現役の正社員等の待遇を確保・向上させること)が難しくなりますよね。

もちろん、同一の労働であれば同一の待遇を与えるべきであるというのは賛成なのですが、単なる有期雇用ではなく、定年後の再雇用という事情を考慮しながら、判断要素に従って、慎重に不合理性を判断すべきだと思います。

(中略)労働条件の相違が『不合理と認められる』と本当にいえるのかどうかが慎重に判断されなければなりません。

菅野教授も指摘しているとおり、労働契約法20条は、『合理的と認められるものでなければならない』と規定されているのではなく、『不合理と認められるものであってはならない』と規定されていることからすれば、不合理かどうか判断できない場合には、違法とはならないと考えるべきであり、同条の解釈としては『本条の趣旨に照らして法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものであってはならないとの意味』と理解するのが適切でしょう(菅野和夫著『労働法 第11版』337頁以下参照)。」

 

さて、今回の東京高裁の控訴審判決は――。

結論としては、控訴審判決は、第一審判決を取り消し、労働者側の請求を棄却しました。要するに、第一審判決をひっくり返したことになります。

 

判決文を確認できていないため、報道レベルですが、控訴審判決は、以下のような考慮・判断をし、「不合理とは言えない」と結論づけたようです(ちなみに、杉原則彦裁判長とのことなので、東京高裁の第12民事部です。)。

 

・定年前と同じ仕事内容で賃金が一定程度減額されることについて、一般的で、社会的にも容認されている

・企業は賃金コストが無制限に増大することを避け、若年層を含めた安定的な雇用を実現する必要がある

60歳以降に賃金が低下した場合に補填する制度(高年齢雇用継続給付など)がある

・定年後の再雇用は、いったん退職金を支給した上で新規の雇用関係を締結するという特殊な性質がある

・会社が再雇用の労働者に「調整給」を支払うなど正社員との賃金差を縮める努力をしたことや、退職金を支払っていること、会社の運輸業の収支が赤字になったとみられることなどを考慮。

・賃金が定年前と比べて約2024%下がったことは、同規模の企業が減額した割合の平均と比べても低い。

 

第一審判決よりも、継続雇用制度の特殊性を考慮したものであると感じました。もっとも、同判決も、継続雇用制度による再雇用であれば、いかなる条件であっても労働契約法20条に反しないと判断しているわけではありません。今回の控訴審判決は、上記の報道レベルからもわかるとおり、会社の経営状況や賃金の減額の程度等の具体的事情を踏まえての判断であることは明らかですので、「定年後の再雇用は労働契約法20条の問題は生じない」というようなミスリードをしないよう、注意が必要であると考えます。

 

労働者側は、上告するとのことですので、最高裁がどのような判断をするのか、引き続き注目したいと思います。

社員のモチベーションをいかにしてあげるか―経営者や人事担当者が悩む問題です。この問題に関連して、「動機付け要因」と「衛生要因」に分けて考える理論をご存知でしょうか。

ちなみに、私が、初めてこの理論の存在を知ったのは、「イノベーション・オブ・ライフ」という本です(読んだのはもう何年も前ですが、面白かったです。)。


 


最近、手にとった「グロービスMBA組織と人材マネジメント」にも、この理論に触れられていました。


グロービス MBA組織と人材マネジメント
グロービス経営大学院
ダイヤモンド社
2007-12-14



 

さて、これは、アメリカの心理学者ハーズバーグによって提唱された、“欲求”からの分析理論です。欲求というとマズローの欲求5段階説を想起される方が多いと思われますが、それとは観点が異なります。

端的に言えば、

● 人間が仕事に満足感を感じる要因(動機付け要因)

● 人間が仕事に不満足を感じる要因(衛生要因)

は、全く別物であるという考え方です。前者は、「人間として精神的に成長したいという欲求」に基づくものであり、後者は、「動物として痛みを回避したいという欲求」にも基づくものとされています。

 

衛生要因をいくら解消しても、不満足の解消にはつながるが、満足感を高めること、ひいてはモチベーションを向上させるとは限りません。満足感を高めるには、動機付け要因にアプローチしなければなりません。

動機付け要因には、仕事の達成感、そのもののやりがい、責任、自己実現や自己成長などが分類されます。

他方で、給与等の労働条件は衛生要因である。その他労働環境等も衛生要因に分類されます。それから、組織の価値観や上司の存在・関係等の問題も衛生要因です。

衛生要因に目を向けることも必要ですが、これらの衛生要因のみに手を打ち続けても、必ずしも、モチベーションが向上するわけではないのです。モチベーション向上の観点からは、動機付け要因にどのようにアプローチするかという打ち手が必要となります。

以上のハーズバーグの理論も、完全なものではありませんが、経営戦略のうち、人事・組織論において、モチベーションとの関係では、衛生要因と動機付け要因を分けて考える、この理論があることを知っておいて損はないと思います。

 

経営者サイドを離れて、個人の視点からしても、例えば、給与等の労働条件の向上のみを追い求めても、不満足は解消されるかもしれませんが、決して、満足感を得られるとは限らないということになります。よって、どのような組織で、どういうキャリアを描いて、働いていくのか、という考えの指針になるかもしれません。極端にいえば、お金のみを追い求め続けることによってずっと不満足を抱えて職業人生を過ごすこともありえます。

モチベーションを上げて、情熱的に仕事に取り組むためにも、仕事そのものに意義を見出したり、責任ある仕事をしているという実感であったり、自己実現や成長、達成感ということに目を向けることが重要といえます。

オワハラ。明確な定義はないですが、内々定や内定を餌に他社の就職活動を「オワ」(終わ)るように圧力をかけるといった問題です。

 

経営者の皆さまに対して私が今更申し上げるまでもないことではありますが、会社は、人、人材が命といっても過言ではありません。

いかに自社にとって良い人材を確保するのか、ということは経営上極めて重要な課題です。少し前に出たものですが、Googleの人事(採用等)に関する書籍もすごい人気でしたよね。

http://amzn.to/2bNnQhb

 

良い人材を確保するためにという一心で、「自社にぜひ来てほしい。(が故に)他社の就職活動は終わってほしい。」という気持ちを抱いてしまうこともわからなくはありません。むしろ、その気持ちはとてもよく理解できます。

このオワハラに関して、会社側が、社会通念上の相当性を逸脱するような態様(例えば、脅すなど)で圧力をかけ、強要する行為が行われた場合には、内定者の職業選択の自由を不当に侵害したものとして、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになりうると考えられます。ただし、法的な問題として顕在化するのはほんとに限られたケースのみであると思います。

ここで問題になるのは、こういう法的なリスクというよりも、レピュテーションリスクの方が大きいですね。

今や、SNSで、会社側の対応は、かなり拡散されていきます。「○○会社から、○○で○○って言われた。オワハラ、マジ必死すぎwww」なんて、つぶやかれて拡散されていったら、会社は社会的に概ねマイナス評価を受けるでしょう。

オワハラではなく、他に工夫を行っていく必要があると思います。やはり、同業他社に比べて、入社したい、と思わせる施策を打てるかが必要であると思います。内々定や内定を出した後にも、ポジティブに思ってもらえるようなフォローをしたり(他に就職活動をさせないようにがんじがらめにフォローするとネガティブなので要注意)、そもそも内々定や内定を出すときに熱いメッセージで思いを伝えるなど。

採用プロセスには時間も費用も労力もかかりますので、そう簡単ではないのは重々承知していますが、それでも、「自分が納得するまで就職活動を続けてもらって構わない。そのうえでぜひうちに来てほしい。」と言える方がきっと好印象です。

 

ここで今回のメルマガも終わり、とも思いましたが、一応「法律問題を少しだけ考えてみた」というタイトルに名前負けしないように、内定辞退について考えてみます。内定者が、内定辞退をする場合に、会社に対して損害賠償責任を負うのかどうかという問題です。会社側からみると、内定辞退者に対して損害賠償請求できるのか、という問題です。

内定辞退の法的性質は、労働契約の解約と考えられます。労働契約の解約については、法律上、労働者の自由が保障されており(民法6271項)、労働者は法定の予告期間(原則2週間。完全月給制の場合には当月の前半まで。年俸制の場合には3か月前まで。同条1項ないし3項)をおいて解約をする限りにおいて法的責任は負わないと考えられています。

ちなみに、民法改正法案は、同条2項および3項を使用者からの解約の場合に限定して適用するものとし、労働者からの予告期間は一律2週間とするものとなっています。

また、内定辞退の事案ではありませんが、会社が、退職者に対して、入社後1週間で突然退職したため、これにより損害を被ったとしてその賠償を請求した事案において、「そもそも、期間の定めのない雇用契約においては、労働者は、一定の期間をおきさえすれば、何時でも自由に解約できるものと規定されている」ことから、遵守しなかった予告期間中の損害についてのみ責任追及できると判断された裁判例があります(ケイズインターナショナル事件 東京地裁 平4.9.30判決 労判61610ページ)。

以上からすると、内定者が入社予定日(始期)の前日を基準として遅くとも2週間前まで(見解が分かれるかもしれませんが、始期が到来していないため、完全月給制又は年俸制にかかわらず、このように解し得ると思われます。なお、前記の民法改正法案にも留意)に内定を辞退する旨通知した場合には、就労義務も消滅し(または発生せず)、会社に対して何ら法的責任を負わないと考えられます。

例外的に、内定辞退が、著しく信義則に反する態様でなされた場合には、内定者は新たな採用活動に要した費用等の損害を賠償する責任を負うと解されますが(菅野和夫『労働法 第11版』226ページ、土田道夫『労働契約法』186ページ)、内定者が会社に損害を与える目的で内定辞退をしたような限定的な場合にのみ「著しく信義則に反する態様でなされた」と評価されると考えておくべきでしょう。

こんにちは。弁護士の萩原です。
以下は、今月発行のメルマガからの転載です。
賃金体系について労働契約法20条の観点から見直してみていただくきっかけとなれば幸いです。


平成28727日の日経朝刊によれば、正社員と契約社員の手当格差(労働契約法20条)に関する大阪高裁判決が、同月26日に言い渡された。

物流会社の有期契約の運転手が賃金格差の是正を求めた事案であり、一審(大津地裁彦根支部)は、「通勤手当」の不支給につき違法と判断していたが、控訴審である大阪高裁は、正社員に支給されている7種類の手当のうち、「通勤手当」のみならず「無事故手当」など4種類の手当の不支給について違法と判断したとのこと。その他の賃金の格差については、契約社員と正社員との間で、転勤や出向がないという事情を考慮したうえで、是正の必要性はない(適法)と判断したようだ。

先月、弊事務所ブログに「定年後の再雇用と労働契約法20条に関する判決」(東京地裁平成28513日判決)をテーマにした記事をアップしたばかり。

http://blog.tplo.jp/archives/47690816.html

労働契約法20条は、平成25年施行であるため、徐々に浸透し、現在も各地でさまざまな訴訟が係属しているだろう。和解で解決する事案ももちろんあるだろうが、訴訟上は当事者である当該労働者のみの賃金格差の話であるものの、その結果によっては事実上全社レベルでの賃金体系の変更が問題となってくる(今回の物流会社についても大阪高裁の判断に従う場合には、訴訟当事者である運転手以外にも同様の有期契約の運転手の賃金を見直す必要がある)。そのため、和解にならずに判決も出るケースが今後も続くのではないか。

こうした判決(裁判例)の集積が実務へ影響を及ぼすことは間違いない。とくに、今回は、高裁レベルで、しかも、「大阪」高裁の裁判例ということでその影響度は大きいと思われる。

判決文を入手できていないので推測になるが、今回の大阪高裁は、通勤手当以外の各手当の性質や位置づけを詳らかに検討したうえで、不合理性を判断したものと思われる。たとえば、無事故手当の性質は、運転業務において安全を奨励し、かつ安全を維持した社員に対する報奨であることからすると、契約社員も正社員同様の運転業務を担っており当然ながら無事故(安全)であることも求められていることに照らし、契約社員についてのみ不支給とすることは不合理と言わざるを得ない、といった具合に。

なお、行政解釈(厚生労働省)では、「とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されるものであること。」とされており(基発08102号)、手当については、「通勤手当」が例示されたうえで、その相違は特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されるという見解が示されている。

通勤手当は言わずもがなであるが、その他の手当についても、正社員のみ支給対象としているものがある場合には、その合理性(不合理ではないか)を検討した方がよい。

正社員にのみに支給している○○手当は、どのような性質のものであり、なぜ正社員にのみ支給しているのかという趣旨に立ち返って検討するべきである。 

(こんにちは、弁護士の萩原です。本記事は、今月の弊所メールマガジンからの転載に、裁判例の整理を追加したものです。)

平成28627日付のインターネットニュースで、岡山県津山市にある農協(JAつやま)の正職員の3分の2にあたる200人超が、未払残業代の支払いを求めて訴訟を提起したという情報に接した。請求している未払残業代の額は約3億円にのぼるとのことだ(その他付加金も請求しているため、請求額全体は約6億円)。

団体交渉もしてきたようだが、結局、支払いの実現には至らず、訴訟提起になったようである。ニュースの中では、訴状(つまり労働者側の主張)によると、被告であるJA側は、原告の一部を「管理監督者」に一方的に変更し、残業代の支払義務を否定しているとのこと。

私は、このニュースに接して、ここまで徹底抗戦になってしまっていることに驚いたが、「管理監督者」性が問題となっていることが気になった。

確かに、労働基準法412号の「管理監督者」(監督若しくは管理の地位にある者)は、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用が除外されるため、時間外労働や休日労働の割増賃金の支払いは要しない(深夜業は別)。しかしながら、世間の認識でいう管理職と「管理監督者」は、イコールではない。というよりも、かなり乖離しているというのが実感だ。

この「管理監督者」の問題というと、遡ること平成20年のマクドナルドの事件で、店長の「管理監督者」性が否定されたことを想起される方もいらっしゃると思うが、今回は、古くからあるこの問題を取り上げたい。

管理監督者の定義及び該当性の判断基準に関しては、確立した最高裁判例はない。もっとも、おおむね、実務的には、「労働条件の決定その他労務管理等の重要な職務・権限を有し、それに伴う責任も負うなど経営者と一体的な立場にある者」などと定義され、その判断に際しては、以下の3点を中心に総合的に考慮したうえで判断していると分析される。

① 職務内容、権限および責任の重要性

② 勤務態様(労働時間の裁量・労働時間管理の有無、程度)

③ 賃金等の待遇

ただし、この判断の結果、「管理監督者」であるとされるケースはかなり限られている。非常に、非常に、ハードルが高い。予防法務(賃金の設定、賃金体系の設計)の際には、楽観的に「管理監督者」であるから残業代の支払義務を不要とすることは、危険なので要注意だ。

「うちは、係長になったら管理監督者として扱っています、お金も払っているし、、、」というお話をお伺いすることがあるが、残念ながら肩書といった形式で決まるものではなく、実態として、経営者と一体的な立場にあるといえるかどうかが勝負。「お金も払っているし、、、」という点も、あまり決め手にならない。

お金の面は、上記でいうと③の要素にあたる。この点、上記①②③のウエイトが気になるところであるけれども、裁判官の論考では、①と②が中心で、しかも、①、②の順で検討すべきであり、①、②の点において管理監督者性を肯定するのが難しい場合には、③を検討するまでもなく、管理監督者性を否定するのが相当な場合もあると考えられる、という趣旨のことが述べられている(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』135頁以下)。

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報道によると、平成28513日、東京地裁にて、労働契約法20条を適用し、賃金格差が不合理であるとした判決がありました。佐々木宗啓裁判長とのことですので、労働専門部民事第11部の判決ですね。

事案としては、定年後に嘱託社員として再雇用されたトラック運転手3名が、職務の内容は変わっていないのにもかかわらず、約3割の賃下げを受けたことは不合理であると、会社(運送会社)を訴えたものです。

問題になったのは、平成25年施行の改正労働契約法20条。
同条は、次のように規定しています。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

長いですが、ざっくり申し上げると、

1)有期労働契約者と無期労働契約者の労働条件を比較して、期間の定めがあることにより相違する場合、その相違は不合理と認められるものであってはならない

2)不合理の判断要素は、
①業務の内容
②業務に伴う責任の程度
③上記①及び②並びに配置の変更の範囲
④その他の事情

と定めています。

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(公開会社ではない)株式会社の経営者のみなさま。役員の変更(重任を含みます。)の登記をお忘れでないでしょうか?

法務省からもアナウンスされており(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00091.html)、つい最近、業務でも遭遇したテーマでしたので、記事として取り上げるのですが、会社法が平成1851日に施行され、今年の5月で10年を迎えることになります。

会社法では、原則として、取締役及び監査役の任期は、それぞれ選任後2年以内及び4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされていますが(3321項、3361項)、公開会社でない株式会社では、定款によって、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することが可能です(3322項、3362項)。

10年の伸長については、会社法の施行とともに導入されましたので、株式会社のみなさまの中には、この頃、定款を変更し、任期を10年と伸長したところが少なくないと思います。

ちなみに、いわゆる有限会社では、取締役の任期の制限はありませんでした。そのため、取締役が続投し続ける限りにおいて、役員の変更の登記を意識する必要はなかったということになりますが、特例有限会社ではなく、商号変更して株式会社になった際に、やはり、定款にて、上記のように任期10年として定めたケースも相当数あると思われます。

以上のような場合、役員が任期満了・再任(重任)しているにもかかわらず、その旨の登記を忘れている、又は近いうちに任期満了するにもかかわらず、その手続を忘れてしまう可能性があります。もしも、忘れてしまっている場合には、遡って登記する必要があります。

例えば、既に任期満了のうえ再選されているにもかかわらず、その登記を忘れた状態で、今後辞任することになった場合に、辞任の登記を申請しようとしても、そもそも任期満了のうえ再選されていること自体が登記上表れていないため、辞任の申請のみでは法務局は受け付けてくれません。遡って任期満了のうえ再選(重任)の登記の申請も併せて行う必要があります。

つきましては、現在の登記の内容と定款を確認して、必要な登記(役員の改選・重任)をお忘れでないかを確認していただくことをおすすめします。

本来は、変更が生じたときから2週間以内に登記しなければならず9151項)、登記を懈怠した場合の制裁も一応定められていますが(9761)、意外と忘れがちなので、今回のみならず、今後も確認するように努めていただければ、と思います。

なお、今回確認される際には、役員の変更のみならず、その他の登記の内容が現状に合致しているかの確認もお勧めします。というのも、ご存知のとおり、マイナンバーの施行に伴い、法人にも法人番号が付与・通知されるところ、所在地の移転をしたにもかかわらず変更登記がされていない場合には、変更前の所在地に通知がいってしまうことがある、インターネット上において変更前の情報が公表されるといった事態が生じるおそれがあるからです。法務省からも注意喚起がなされています(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00087.html)。

弊事務所でも登記申請のご依頼を受け付けています。登記申請書類となる株主総会議事録や取締役会議事録又は互選書等の作成・ご案内から、実際の登記申請(法務局への代理提出)まで、一括してお受けしていますので、お気軽にご相談ください。

◇◆◇【どのような事件だったの?】◇◆◇

少し前になりますが、東日本大震災でシンガポールに避難したフランス国籍の元NHKスタッフ(フランス人女性)が、NHKを被告として訴訟提起した事案の判決がありました(東京地裁平成271116日判決)。

フランス人女性は、判決後、記者会見にて、「日本の司法制度は、人への敬意を重んじる国であることを証明してくれたと思います」「ダビデが巨人ゴリアテを倒したのです。どんなに強大な組織であっても、職員を大事にすることは企業の責任であること、個人に保障されている適正手続を否定する権利はないと思い出させてくれました」と語ったとのことです。

本件は、フランス人女性が、NHKに対して、

(1) NHKとの間で“労働契約”を締結しており、東日本大震災に際して業務を行わなかったことを理由に不当に解雇された(解雇無効)と主張して、労働契約上の権利を有する地位確認、賃金及び損害賠償金の支払を求め、

(2) (1)の請求が認められず、NHKとの間の契約が“業務委託契約”であったとしても、解除及び更新拒絶は無効であると主張して、業務委託料及び損害賠償金の支払を求めたという事案です。

続きを読む

弁護士の萩原です。今回の記事に入る前にご紹介です。

労務関係に携わる法曹実務家必携というべき、菅野和夫先生の「労働法」(弘文堂)第 11 版が先月25日に発売となりました !!

第 10 版は 948 頁ありましたが、第 11 版はなんと 1166 頁にパワーアップしています。両版の差分の詳細については確認しておりませんが、取り急ぎご紹介でした。





▼休職制度に関する問題

さて、今回のテーマは、休職制度です。

ある社員が重い病気に罹患し、会社には、傷病で勤務に堪えない場合に最長 1 年間の休職を認める「私傷病休職制度」があるところ、医師の診断によれば 1 年以内に復帰するのは絶望的という状況の場合、休職制度を適用せずに解雇することは可能かどうかという問題を考えてみます。


▼結論(私の見解)

「 1 年以内に復帰するのは絶望的」であっても、休職期間中に傷病が治癒する余地が少しでもある場合、休職制度を適用しないままなされた解雇は、解雇権を濫用したものとして違法・無効と判断される可能性がある。実務上は休職制度を適用し、仮に休職期間満了時までに治癒しない場合に当然退職として労働契約を終了させるのが妥当。


▼ 1 .休職制度と解雇の関係

就業規則等で定められる「私傷病休職制度」は、一般的には、従業員が業務外の傷病により労務に従事することが不能になった場合において、当該従業員に対する解雇を猶予し、休職期間中に傷病が治癒すれば復職し、他方治癒しなかったときには、当然退職(自然退職)ないし解雇とするものです。

この私傷病休職制度の趣旨は、解雇を猶予し労働者を保護するという点にあります。

裁判例においても「この期間中の従業員の労働契約関係を維持しながら、労務への従事を免除するものであり、業務外の傷病により労務提供できない従業員に対して6 カ月間にわたり退職を猶予してその間傷病の回復を待つことによって、労働者を退職から保護する制度である」と判示されています(北産機工事件 札幌地裁 平11.9.21 判決 労働判例 769 号 20 ページ)。

他方で、就業規則等には、「職務遂行能力または能率が著しく劣り、改善の見込みがないと認められたとき」「精神または身体の障害もしくは病弱のため、業務の遂行に支障があると認められたとき」等の解雇事由が定められているのが通常です。

そこで、このような解雇事由に該当し得る従業員について、休職制度を適用しないまま解雇することができるか否か(労働契約法 16 条により「権利を濫用したもの」として無効と判断されてしまうか否か)が問題となります。


▼ 2 .検討

[ 1 ]解雇が有効となる場合

上記 1 で説明したとおり、休職制度は、休職期間中の解雇を猶予し、傷病の治癒を待ち、復職のチャンスを与えるもので、休職制度の利用により傷病が治癒する可能性があることが前提となっています。

このことからすると、休職制度を利用しても、その休職期間中に傷病が治癒する可能性がまったくないような場合には、休職制度を適用する前提を欠きますから、休職制度を適用せずに解雇をすることも許容されると考えられます。(農林漁業金融公庫事件[東京地裁平成 18 年 2 月 6 日判決・労判 911 号 5 頁]では、低酸素脳症による高次脳機能障害を負った職員について、「短期的に回復することがあっても、長期的には、大幅な回復が見込まれないものであるから、…就労能力の回復する可能性を十分に勘案していなかったとしても、そのことが被告の判断についての相当性を失わせる理由とはならない」とし、「客観的に就労能力のないと認められる原告について、…客観的な原告の症状、就労能力とも一致する資料に基づいて、原告に就労能力はないと判断し、休職命令を発しなかったことが相当でないということはできない」と判断されています)。


[ 2 ]解雇が無効となる場合

しかし、休職期間の利用により傷病が治癒する可能性が少しでもある場合には、解雇を猶予して、まずは休職制度を適用すべきであり、休職制度を適用しないままなされた解雇は、違法・無効と判断される可能性が高いと考えられます。

裁判例においても、「原告の躁の症状について、程度が重く、治療により回復する可能性がなかったということはできないから、…原告について、本件解雇当時、就業規則」に該当する解雇事由があったとはいえない旨判断されています( K 社事件東京地裁平成 17 年 2 月 18 日判決・労判 892 号 80 頁。本件解雇は解雇権を濫用したものとして無効とされました)。

東京地裁労働部におられた渡邉和義裁判官も、この K 社事件判決の存在を指摘し、「休職制度は、労働者の福利厚生の観点からの解雇猶予制度であるが、使用者が労働者に休職制度を適用する余地があるのにこれを適用せず、労働者を解雇した場合には解雇権の濫用として違法となることに留意しなければならない」と述べています(白石 哲編著『労働関係訴訟の実務』[商事法務] 211 頁)。


[ 3 ]実務対応

休職制度を適用する余地があるか否か、すなわち、休職制度を利用した場合の治癒可能性の有無の判断が重要となります。

しかし、この判断は、専門的な知識に基づく将来の予測判断となりますので、極めて難しいと言わざるを得ないでしょう。

また、従業員ごとに個別に治癒可能性の判断をする場合には、従業員間の公平性を担保しなければなりません(前掲 K 社事件判決においても、「被告は、 C 型肝炎から肝癌を患い、ラッシュ時の通勤及び 8 時間労働ができない者と遅くとも平成 15 年4 月以降平成 16 年 9 月までの間自律神経失調症を患っている者の雇用を継続している」ことを指摘し、「原告の症状の程度に照らすと、原告のみを解雇するのは、平等取扱いに反するというべきであり、本件解雇は解雇権を濫用したものと解される」とされています)。

そこで、実務上は、治癒可能性がまったくないことが明らかであるような極めて例外的な場合を除き、直ちに解雇するのではなく、まずは休職制度を適用するのが妥当といえます。


▼ 3 .まとめ

「 1 年以内に復帰するのは絶望的」と思われる場合であっても、実務対応としては、治癒可能性がまったくないことが明らかであるような極めて例外的なときを除き、傷病の治癒可能性が少しでもあるような場合には、直ちに解雇するのではなく、まずは休職制度を適用し、仮に休職期間満了時までに治癒しなかった場合には、当然退職として労働契約を終了させるのが妥当といえます。休職期間中に傷病が治癒した場合には復職させ、他方で治癒しなかった場合には、当然退職として対応すべきであると考えます。

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