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2011年に発覚したオリンパスの粉飾決算について、2017年4月27日になって、ようやく東京地方裁判所で株主代表訴訟の判決が出ましたね。

以下、2017年4月28日の日本経済新聞朝刊42頁の「旧経営陣に590億円賠償命令」という見出しの記事から引用。

「オリンパスの粉飾決算事件にからみ、会社に損失を与えたとして、同社と株主の男性が旧経営陣16人に損害賠償を求めた訴訟の判決が27日、東京地裁であった。大竹昭彦裁判長は、菊川剛元社長(76)ら6人の賠償責任を認め、総額約590億円をオリンパスに支払うよう命じた。株主代表訴訟の判決が命じた賠償額としては過去2番目に高額とみられる。」

このブログでも、2012年当時、オリンパスの粉飾決算の問題については何回か触れましたので(記事1記事2記事3記事4記事5記事6)、少々不謹慎な言い方かもしれませんが、「懐かしいな」というのが当初の感想です。

それにしても、オリンパスの粉飾決算事件については、2012年に第三者委員会が事実を調査して報告書を出し、また、2013年7月には、旧経営陣3名についての刑事事件が終了していますので、ある程度事実については明らかになっていたように思われ、どうして株主代表訴訟の審理に約5年間もの時間がかかったのかが良くわかりません。5年以上前ということになると、今やひと昔前ですから、判決が出ても世の中に与えるインパクトは小さくなってしまいます。こんなに時間がかかると、裁判所(司法)が事件を解決したのか、そうではなく時間が解決したのはよくわからなくなります。(私を含めてですが)法曹関係者は反省しなければならないと思います。

ちなみに、記事の中で私が興味を惹かれたのは、次の部分。

「このほか、オリンパスが受けた罰金の一部や、疑惑を指摘した英国人のマイケル・ウッドフォード元社長の解職で信用を損なった点についても3人を含む計6人の責任を認定。」

まだ判決が手元にないので断定的なことはいえませんが、これは、マイケル・ウッドフォード元社長の解職に関する取締役会の判断が善感注意義務違反だったということなのでしょうか。この点は、このブログでかなり詳しく検討したので、私としては少々嬉しいですね(まだ判決を読んでいないので的外れなことを言っているのかもしれませんが)。判決が判例誌等で公表されるようになったら、また検討してみたいと思います。
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報道によると、巨額の損失隠しが発覚したオリンパスで、420日に臨時株主総会が開催され、旧経営陣11名が退任し、半数以上を社外出身者が占める新取締役11名が選任されたとのことです。
この総会には、この件について社内で追及しようとして解任されてしまった元社長のマイケル・ウッドフォード氏も株主として出席し、解任理由について質問したところ、係争中であることを理由に会社側から回答を拒否されたため、総会決議無効の訴えを提起する可能性を示唆する場面があったり、取引銀行出身の2名の新取締役については、外国のファンドが反対したようであり賛成票が6割台と他の取締役に比べて低かったりしたこと等があったようですが、一応、損失隠しとは切り離された新経営陣が選任されたことで、この問題は一段落したということになるかと思います。 
 

サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件解任 (ハヤカワ・ノンフィクション)

ところで、ここに来て、この問題をFACTAでいち早く取り上げて、問題発覚のきっかけを作ったジャーナリストの山口義正氏が『サムライと愚か者 暗闘 オリンパス事件』(講談社)という本を出し、また、ウッドフォード氏自身も『解任』(早川書房)という回想録を出しましたので、興味に駆られて読んでみました。
この2つの本から、私が関心を持った点は次のとおりです。


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1. オリンパスの危機対応の進捗状況 
   オリンパス事件は、どんどん進展してゆきます。
 1月17日に、オリンパスの監査役等調査委員会が、監査役や監査法人の責任を調査し、調査報告書を公表しました。これを受けて、同社は、同日、元・現監査役5人に計10億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたことが報道されています。
 また、1月18日には、同社の高山社長が会見を行い、4月後半に臨時株主総会を開催し、高山社長が臨時総会で辞任する方針であることを正式に表明したことが報道されました。
 さらに、1月20日には、東京証券取引所がオリンパスの上場を維持することを発表しました。

 昨年12月6日に公表された第三者委員会の報告書では、「サラリーマン根性の集大成」などと批判された同社ですが、近時の危機対応を見ていると、さすが「世界のオリンパス」といった感じです。「サラリーマン根性」も、悪い方に働くと、今回の損失隠しのようなことになってしまいますが、良い方向に働くと、こんなにもスピード感をもって高い水準の危機対応ができる、ということなのかもしれません。

2. 本エントリーの検討課題 
   ところで、今回のエントリーでは、ちょっと前に戻って、1月10日に公表された、取締役責任調査委員会の調査報告書107頁~114頁に記載されている、マイケル・ウッドフォード氏の代表取締役解職等の取締役会決議に賛成した各取締役の善管注意義務違反の問題について取り上げたいと思います。ご承知のとおり、ウッドフォード氏は、昨年10月14日に開催のオリンパス取締役会での決議により、代表取締役等の役職を解職されたわけですが、その決議に賛成した取締役(とはいっても、出席した取締役の全員が賛成し、反対者はいませんでした。)に、善管注意義務違反があったのか、それともなかったのか、という問題です。

3. 報告書の結論 
    報告書では、今回の損失隠し等に関与し、又はこれを認識していた3名の取締役及び1名の監査役については、そもそも違法行為を隠蔽せずに解消すべき義務があるのに、①2011年9月以降のウッドフォード氏による疑惑指摘について取締役会できちんと議論しようとせず、②損失先送りについて認識がない取締役に対し事実を隠蔽し、③ジャイラスや国内3社のM&Aに関しては違法と言われるような問題は何もないとの虚偽の説明を続け、④ウッドフォード氏と付き合いが浅く同人のことを良く知らない取締役に対してウッドフォード氏のことを非難して解職に賛成する方向に導いたとして、善管注意義務違反を認定しています(報告書110頁)。これはいわば故意犯ですので、誰にとっても異論がないところでしょう。 
   しかし、今回の損失隠し等に関与又は認識していなかった者以外の取締役(11名 以下「非関与・不認識の取締役」)については、「ウッドフォード解職に賛成した理由は、その認識の当否は別にして、ウッドフォードの社長としての適性に疑問を持ったためであり、指摘されている疑惑についてどう対応してゆくかを取締役会等の場で議論してゆくことについては、ウッドフォード解職とは別問題として、その必要性を認識しており、そうする意思はあったものとして認められる。」(報告書113頁)と認定し、「損失先送りの事実を認識していない各取締役が、ウッドフォード氏による疑惑指摘後にとった行動は、取締役としての善管注意義務(違法行為の疑いを指摘された場合には調査する義務)に違反するものであるという評価まではできないと考える。」(報告書113頁)と結論付けているのです。


4. 私の感想 
    しかし、報告書だけからしか事実関係がわからないのであまり軽々しく言うべきではないのですが、この非関与・不認識の取締役の善管注意義務違反を認定しなかった判断については、ちょっと違和感を覚えたというのが私の率直な感想です。前回の更新から少々間があいたのは、仕事が忙しかったということもありますが、この問題について自分の考えがまとまらなかったという面が大きいです。以下、報道等からしか本件を知らない外部の見解に過ぎませんが、私の考えを述べてみたいと思います。  


5. 違和感の原因 
   私が報告書の結論に違和感を覚えた原因としては2つあります。1つ目は、善管注意義務違反を認定する際の『判断基準』がそれ以前の「国内3社の株式取得に関する取締役の善管注意義務違反」及び「ジャイラス買収に係るFA報酬支払に関する善管注意義務違反」の検討の際のものとは違うのではないかという点、2つ目は、非関与・不認識の取締役らがウッドフォード氏の解職決議に賛成した理由についての事実認定がちょっと不自然なのではないかという点です。


 6. 報告書が認定する解職決議に至るまでの経緯 
   まず、報告書が認定する、ウッドフォード氏の代表取締役解職決議に至るまでの経緯について見てみましょう(ちょっと省略しますので、詳しい内容を知りたい方は、報告書に直接あたってみてください。)。

 報告書によれば、

 (1)    2011年7月31日、ウッドフォードは知人から、「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」と題するFACTA8月号の翻訳記事を入手し、本件国内3社の取得額及びジャイラス株式取得に関するFA報酬額について疑念を抱いた。  

(2)    ウッドフォードは、菊川会長、森副社長らにFACTAの記事の真相を問い質したが、期待するような返答を得られなかった。  

(3)    9月20日には、「オリンパスの『尻尾』はJブジッリ 巨額M&Aの闇を暴く調査報告第2弾」と題するFACTA10月号が発行され、ウッドフォードは翻訳記事も読んだ。  

(4)    9月23日から28日にかけて、イギリスにいるウッドフォードから森又は菊川に対し、連日EメールでM&A疑惑に関する質問や資料提出(英語への翻訳も含む。)要請がなされた。このやり取りは、CCで他の役員にも送付されるとともに、日本、欧州及び米国のアーンスト・アンド・ヤング(会計事務所)にも送付された。  

(5)    9月30日定例取締役会が開催され、ウッドフォードは、前日来日して、菊川、森と会談したうえで、この取締役会に出席した。この取締役会では、もともと予定されていた議案の他に、10月1日付でウッドフォードをCEOに任命すること、第1階層及び第2階層の人事に関する取締役会への提案権をウッドフォードに与えること、10月1日以降の経営執行会議には菊川は出席しないこと等が決議された。その際、ウッドフォードは、 
・   FACTAが指摘する内容をきちんと確認しておきたいというのが、Eメールでのやり取りを行った理由である。 
・   昨日、菊川及び森と話し合うことによって、非常に建設的な理解に達した。
・   誰も個人的な利益を得たりしていないことは確信できたので、前向きに未来に目を向けていくつもり。 
といったことを述べた。  

(6)    10月3日、イギリスに戻ったウッドフォードは、資料をプライスウォーターハウスLegal LLP(「PwC」)に渡して調査を依頼し、10月11日に、「不適切な行為が行われた可能性を排除することはできない。」「不適切な会計処理や財務アドバイス、取締役の忠実義務違反を含む、他の違法行為の可能性もある。」等と記載された中間報告書を入手した。  

(7)    PwCの中間報告書を入手したウッドフォードは、菊川宛10月11日付書簡で、「私の見解では、ジャイラスをはじめ、実質的に価値のない企業を買収したという問題は、オリンパスの下級職員ではなく、最上級管理職員によって取引が行われたことから、さらに悪い事態だと言えます。」「現状に至ってはもはや擁護できない事態であることが明白であり、これから前向きに進む上での対策として、あなた方両者(菊川・森)が役員会を辞職することが必要です。」「もし、あなたに辞任の意思がないということであれば、私の代表取締役の責務として、当社のガバナンスに関して私が持つ基本的な懸念をしかるべき団体に提起することになります。」等と述べて、菊川及び森の辞任を求めるとともに、同書簡とPwCの中間報告書を、全ての役員及び日本、欧州及び米国のアーンスト・アンド・ヤングにEメールで送付した。  

(8)    これを受け、10月13日夜に、菊川は、ウッドフォード以外の取締役を集めて、これまでの経緯を説明し、「9月30日の取締役会では一緒に前を向いてやっていこうというようなことで終わったと思っていたのに、社長とはいえ、独断でPwCに資料を持ち込んで調査を依頼しておりけしからん。」「独断専行に過ぎ、社長として任せておくこことは問題だ。」といったようなことを述べ、明日の臨時取締役会でウッドフォードを解職する予定であることを告げた。  

(9)    10月14日午前9時の臨時取締役会の議題は、「過去のオリンパスの買収案件について」であったが、当日、議案変更ということで、ウッドフォードの解職等が審議され、特別利害関係者たるウッドフォードを除く出席者全員の賛成で可決された。所要時間は5分足らずであった。  

(10)   10月14日のウッドフォード解職決議に賛成した(非関与・不認識の)取締役は、自身の経験として、あるいは伝聞として、ウッドフォードについて、以下のような思いを抱いていた。  

①     オリンパスはメーカーであり、中・長期的視野が必要であるが、ウッドフォードは短期的な業績を重視し、理解が得られないことが多い。  

②     製品に一つでもミスがあると致命的になるので、製造現場は本当に大変な苦労をしてやっているのであるが、社長に就任してからも製造現場(工場)に足を運んでくれず、製造現場の苦労を理解してもらえないように感じる。  

③     欧米流ということなのかもしれないが、事業の進め方や人事施策において、理解しにくい面がある。  

④     日本にいないことが多く、十分なコミュニケーションがとりにくい。 

⑤     9月30日の取締役会では、社内の関係者が個人的な利益を得たというようなことはないことが確信できた、非常に建設的な理解に達した、前を向いて進んでいこうというような趣旨の発言をしており、FACTA指摘の疑惑に関してどう対応するかは引き続き取締役会等の場で議論していくということであろうと理解していたのに、その後、議論の提案はなく、すぐにイギリスに戻って資料をPwCに提供し調査依頼をし、いきなり10月12日に、PwCの中間報告書を添えて、菊川に対し、菊川及び森が辞任しないのであれば、しかるべき機関に訴えるという書簡が送付されてきた。今後、取締役会等で議論していくものであるはずなのに、何の呼びかけもなく、日本からも離れ、しかも、不正の事実を断定しているわけでもない中間報告書を根拠に、辞任しなければしかるべき機関に訴えるというのは、ちょっとやり方として違うのではなかろうか。

   以上のような経緯を認定したうえで、報告書は、「損失先送りを認識していない各取締役は、それぞれ差はあるものの、自らの経験から、あるいは伝聞情報から、ウッドフォードの社長としての資質に疑問を持ち、このままウッドフォードが代表取締役でいることは会社のためにもならないのではないかと思い、10月14日の臨時取締役会において、海外にいたため欠席であった渡邉及び来間を除く全員が、解職に賛成した。」(報告書112頁)とか「損失先送りの事実を認識していない取締役がウッドフォード解職に賛成した理由は、その認識の当否は別にして、ウッドフォードの社長としての適性に疑問を持ったためであり、指摘されている疑惑についてどう対応していくかを取締役会等の場で議論していくことについては、ウッドフォードの解職とは別問題として、その必要性を認識しており、そうする意思はあったものとして認められる。」(報告書113頁)とか述べて、「菊川、森、山田らの事実隠蔽に基づく虚偽説明を信用し、ウッドフォードによる疑惑指摘を軽視してしまったという結果については、コーポレートガバナンスの視点からは十分反省すべきものではあるが」と断りつつも、「損失先送りの事実を認識していない各取締役が、ウッドフォード氏による疑惑指摘後にとった行動は、取締役としての善管注意義務(違法行為の疑いを指摘された場合には調査する義務)に違反するものであるという評価まではできないと考える。」(報告書113頁)と結論付けたのです。 

7.善管注意義務違反の判断基準について 
   前述したように、私の第一の疑問点は、善管注意義務違反有無の判断基準です。
   報告書では、ウッドフォード解職よりも前に検討されている「国内3社の株式取得に関する取締役の善管注意義務違反」及び「ジャイラス買収に係るFA報酬支払に関する善管注意義務違反」の問題の箇所では、この基準について次のように述べられています。 

「会社経営は、時々刻々変化する諸々の要素を的確に把握して総合評価し、短期的・長期的な将来予測を行ったうえ、時機を失することなく経営判断を積み重ねてゆかなければならないことから、取締役には、その職務を遂行するにあたり、広い裁量が与えられているものと解されている(経営判断の原則)。そのため、取締役の経営判断に関する善管注意義務違反の責任に関しては、 
① 経営判断をする前提となった事実の認識の過程(情報収集とその分析・検討)に不注意な誤りがあり合理性を欠いているか否か 
② その事実認定に基づく判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なものであったか否か 
という観点から、取締役の判断に許容された裁量の範囲を超えた善管注意義務違反があるか否かを判断する」 (報告書71頁)

   この判断基準は、過去の判例において確立されてきたものであり、学説においてもほぼ異論のないところだと思います(江頭憲治郎『株式会社法 第4版』437頁)。 

   ところが、ウッドフォードの解職決議の箇所では、この基準に言及されていません。すなわち、非関与・不認識の取締役らが今回の解職決議に賛成する前提となった事実について、「ウッドフォードの社長としての資質に疑問を持ち、このままウッドフォードが代表取締役でいることは会社のためにもならない」との取締役の認識を認定後、そのような認識に至った情報収集と検討に不注意な誤りがないか、その事実認定に基づく判断の推論過程及び内容に明らかに不合理な点はないか、などの上記の基準による篩(ふるい)をかけないまま、直ちに、「損失先送りの事実を認識していない取締役がウッドフォード解職に賛成した理由は、その認識の当否は別にして、ウッドフォードの社長としての適性に疑問を持ったためであり、〔中略〕取締役としての善管注意義務(違法行為の疑いを指摘された場合には調査する義務)に違反するものであるという評価まではできない」と結論付けているのです。

   もし上記の判断基準が採用されているとすれば、取締役らが、解職決議に賛成した判断の前提となった事情、すなわち、①ウッドフォードは短期的な業績を重視し、中長期的視野について理解が得られないこと、②製造現場(工場)を訪問せず、製造現場の苦労を理解しくれないこと、③事業の進め方や人事施策において、理解しにくいこと、④日本にいないことが多く、十分なコミュニケーションがとれないこと、というような事情については、(イ)どこから収集した情報で、本当に事実なのか?(ロ)事実だとしても、ウッドフォードの方針や進め方にはデメリットしかないのか?(ハ)コミュニケーションの問題は、英語が使えるというメリットもあるのではないか?(ニ)そもそもウッドフォードの資質はオリンパスの業績を低迷させていたのか?というようなことを検討しなければならないのではないかと思われます。 

   また、取締役らの認識の⑤については、取締役会としての「和」を乱すな的な、手続に関する不満であると思われますが、今回の問題は、国内3社及びジャイラスのM&Aを進めてきた取締役らの責任追及という面を孕むのですから、取締役会の「和」を重視して事にあたることなど不可能なように思われます。FACTAの記事やPwCの中間報告書が存在していたにもかかわらず、自らは何も調べもしないで、ウッドフォードの今回の行動(独自に調査して責任追及をした行動)を社長としての適性に問題があると捉えた推論過程に合理性があると言えるのか、少々疑問が生じます。 
   したがって、仮にウッドフォードの解職決議に賛成することの善管注意義務違反の認定について、報告書が国内3社買収についての善管注意義務及びジャイラス買収の際のFA報酬についての善管注意義務違反を認定したときと同じ「判断基準」を使っていたら、結論は異なってきたのではないかと思います。 

   しかし、今回改めて考えてみると、代表取締役の解職決議については、会社の業務に関する決議とは異なって、上記の判断基準は使われないと考える理論的な余地があるのではないかと考えた次第です。というのは、代表取締役の交替自体は、ただちに会社に損害をもたらす性質のものではありません。例えば、ジャイラス買収に関する多額のFA報酬の支払に賛成すれば会社に直ちに損害が発生しますが、オリンパスの社長がウッドフォードから高山氏に変わっても(その間に菊川氏が社長になっていますが)直ちにオリンパスに損害が発生するわけではありません。また、法律論としても、株主総会が取締役を解任するには、特に理由は必要なく、ただ正当な理由がないときは、取締役に発生した損害を賠償しなければならないと定められています(会社法第339条)。そうであれば、取締役会が代表取締役を解職する場合も、特に理由は必要ない、いちいち、情報収集、その検証及びこれに基づく推論過程について不合理なところがなかったか、などと考える必要はない、と考えることができそうです。 

   何冊かの基本書にあたってみましたが、このようなことを言っているものはなかったので、私の一人説かもしれませんが、報告書の記載を合理的に説明するには、このように考えるしかないだろうと思った次第です。
 皆さんは、どのように考えますでしょうか?


8.事実認定について

    私のもう一つの違和感は、事実認定についてです。既に見たように、報告書は、(非関与・不認識の)取締役らは、ウッドフォードの社長としての資質に疑問を持ったから解職に賛成したのであり、指摘されている疑惑について調査する必要性と意思は有していた、との趣旨の事実認定をしているのですが、どちらもピンと来ませんでした。 

   第1に、ウッドフォードは、2011年4月1日付で社長執行役員に就任、同年6月29日の株主総会後に代表取締役社長執行役員・COOに就任し、解職決議のわずか14日前の取締役会(9月30日)において、CEOに就任しています。9月30日の取締役会でのCEO就任には、何となく、菊川氏、森氏とウッドフォードとの間で、これ以上責任を追及しないかわりにCEOにするというようなバーター取引のにおいがしますが、非関与・不認識の取締役らは、そのようなことを認識しえないはずですから、社長としての資質があると思ってCEOの就任決議に賛成したということでしょう。
   したがって、10月14日の解職決議に賛成した理由としては、ウッドフォードの社長としての資質ではなく、上記の取締役の認識⑤の今回の問題について「和」を乱すようなやり方が適当でないと思ったというところが大きかったのではないでしょうか。 

   第2に、非関与・不認識の取締役らに、「指摘されている疑惑について、どう対応していくかを、取締役会等で議論していくことについて〔中略〕必要性を認識しており、そうする意思はあった」という認定についてですが、非関与・不認識の取締役らは、菊川氏、森氏らの提案を受け入れて、ウッドフォード解職に賛成したのであり、菊川氏、森氏が国内3社やジャイラス買収を進め、何も不正はなかったとの立場であったことからすれば、そこでいう「対応」とは、更に深く調査するというような対応では『ない』と考えられます。つまり、これ以上調査するつもりはなく、せいぜい、マスコミ等で騒がれたときに、それを静める方向で対応するということのように思えるのです。 

   報告書では、非関与・不認識の取締役について、調査の意思があったことを補強する事実として、「少なくとも、損失先送りの事実を認識していない取締役の中に、第三者委員会を立ち上げて、指摘されている疑惑について調査してもらうことについて消極的な意見を表明する者がいたという事実は認められず、10月21日にはプレスリリースで第三者委員会の設立準備を進めていることも明らかにし、相応のスピード感で11月1日には第三者委員会を設立し、それが11月8日の真相判明につながっている。」(報告書113頁)と認定しているのですが、これは、10月14日に解職された後、ウッドフォード社長がマスコミのインタビューに応じ、マスコミが騒ぎ始め、オリンパスが不正はないと説明したにもかかわらず、あまりにも買収価格やFA報酬等の金額が巨額で疑わしかったため、企業が存続するために、第三者委員会を立ち上げざるを得なかったというのが本当のところではないでしょうか。むしろ、第三者委員会が立ち上がってから、1週間ちょっとしか経過していないのに、不正が明らかになるほど疑わしい事実だったのに、何故、取締役会として解明できなかったのか?というところが重視されるべきではないでしょうか。 

   ただ、報告書を作成する立場からすれば、本人たちが調査をする意思はあったと述べているときに、客観的な証拠がない中で、事実経過だけで、「非関与・不認識の取締役らは、菊川氏、森氏の説明を不注意に信じたので、調査をする意思はなかった」などとは認定できなかったかもしれませんね。また、そのような認定をした場合、現取締役のほとんどに善管注意義務違反があったということになり、今後の対応もやりにくくなるという配慮も事実上影響したかもしれません。
   皆さんはどう思われますか?

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 企業法務を行っている弁護士からすると、オリンパス事件は、『企業の危機管理の生の教材』というべきものであり、自分が相談を受けたらどのように助言するかという観点でみると、とても考えさせられます。

 1月10日に公表された同社の取締役責任調査委員会の報告書によると、現取締役11名のうち高山社長を含む6名について、(今回の損失隠し等の問題には直接の関与又は認識がなかったものの)国内3社の株式買収金額を決めた取締役会や、ジャイラス買収のFA報酬等を決めた取締役会において、職務上要請される調査を尽くさずに承認してしまったことに善管注意義務違反があると認定しました。これに基づいて、オリンパスは、高山社長を含む現取締役6名に対しても、1月8日に東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したとのことです。そして、今後の対応について、同社は、「責任ありと判断され提訴されるに至った現取締役は、当社の業務執行に支障をきたさないよう、業務の引継を完了させた上で、平成24年3月から4月を目途に開催する予定の臨時株主総会時をもって、全員取締役を辞任する予定であります。」とのプレスリリースをしています。

 

 ただ、1月9日の当ブログの私の記事でちょっと触れましたが、今後、責任があるとされた者が過半数を占める取締役会で、少なくとも3月から4月開催予定の臨時株主総会までは業務を行い、経営体制の刷新案(陣容と意思決定の仕組み等)などを作成することの問題については特に触れられていません。この点は、同社と利害関係を有しない社外の有識者で構成される経営改革委員会による指導・勧告や、次期株主総会への提案事項について同委員会の事前の審議・承認を受けることによって、ある程度はカバーされるということなのかもしれませんが、同委員会の委員は、これまで同社に関与したことのない『社外』の有識者ですので、どうしても原案は、現取締役会や(現取締役のもとで業務を行っているオリンパスの)担当部署が作っていかざるをえないものと思われ、現経営陣の意向がある程度反映される可能性はあるように思います(もちろん、反映されることが直ちに悪いと言っているわけではありません。)。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       


 そこで、私などは、①一見して不自然な株式購入やFA報酬の問題性を見破ることができず、②月刊誌FACTAで問題が指摘されたにもかかわらず特に動かず、③反対に、問題を指摘したマイケル・ウッドフォード元社長を(出席した取締役の)全員一致で解職してしまった現取締役会に、経営体制刷新案(特に、次期の取締役候補が重要)が提案できるのか、また、そのような現取締役会の提案を、はたして株主が承認してくれるのかということが心配になってしまいます。


 しかし、「では、今すぐにでも臨時株主総会を開催して、新たに取締役を選任しなおすというドラスティックな対応が適当なのか?」と言われれば、それはそれでちょっと考え込んでしまいます。理想論としてはそうなのでしょうが、結局、候補者をどうするのか等々、問題も多く、仮に現取締役会の推薦する候補者対ウッドフォード元社長の擁立する候補者で委任状獲得合戦が行われるような展開になるとかなりの混乱も予想されます。「サラリーマン根性の集大成」などと批判されたオリンパスの閉鎖的な企業体質では、(外部から取締役を連れてきて経営させるというような)ドラスティックな改革では、かえって組織自体がもたない可能性がある、という認識もあり得るかもしれません。つまり、現実的な選択肢ではないとも考えられるということです。


 危機管理的には、臨時株主総会で新取締役(新体制)について承認が得られるようにすることが最重要課題であると考えられますので、臨時株主総会まで混乱がなく、かつ総会で主要株主からも承認も得られそうなやり方がベストと言うことになりそうです。この種の問題は、法的な問題というよりは、オリンパスという会社の体質や、オリンパスの株主である国内の主要な株主の動向をどう読むかの「読み」の問題が重要なのです。そして、現在、オリンパスで危機管理についてアドバイスしている専門家の読みとしては、今のようなやり方が最も混乱がなく、かつ、これで臨時株主総会の承認も得られるということなのでしょうね。私のような潔癖症の人間は、責任がある者が過半数を占める現取締役会に次期取締役候補者を選ばせること等にはちょっと抵抗がありますが、報道を見ても、確かにこの点はあまり問題視されていませんので、今のところ、うまくいっているとは言えそうです。

 ただ、オリンパスの企業体質は、温存されてしまうかもしれませんが・・・・

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オリンパス事件は、どんどん進行していきますね。
今日(1月9日)の日経新聞の朝刊には、8日に、オリンパスが、菊川前社長らに損害賠償を求めて東京地方裁判所に訴訟を提起したことが載っています(8日は日曜日なので、裁判所の宿直の窓口に訴状を提出したということなのか、郵便で訴状を裁判所に発送したということなのか、それとも先週中に訴えを提起して、そのことを8日に発表したということなのかちょっと記事からではわかりません。)。損失隠しに関する新旧取締役の責任を調べていた取締役責任調査委員会がまとめた報告書を踏まえて提訴したということのようです。
注目すべきは、訴えを提起した対象者として、損失隠しを主導したと言われている菊川氏、森前副社長、山田前監査役の他に、「高山修一社長〔中略〕も対象としたももようだ。」と書かれている点です。
この記事にもあるとおり、高山社長は、「経営債権にめどをつけたうえで、自身を含む現経営陣が交代する方針を示している。」ところであり、少なくとも、3月~4月に開催予定の臨時株主総会までは、オリンパスの代表取締役(及び取締役)にとどまり、同社の改革案(原案)を作成していくことが予定されています。そうすると、過去の損失隠しに責任のある人が改革案(原案)を作成していくということになり、その正当性に疑問が生じないのかなという気がします(経営改革委員会でチェックするといっても、経営改革委員会の委員の人選もオリンパスの現取締役会で決められたものですので・・・)。可能性としては、高山社長の責任は、損失隠しを見破れなかったことであり、損失隠しを主導していた人たちほど責任は重くないので、しっかりした改革案を作ることはできるというような説明なのでしょうか?
「オリンパスは報告書の全文と提訴の内容などを10日に開示する」ということですので、このあたりをオリンパスがどのように説明するかがポイントとなりそうです。
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 一昨日(1月5日)にアップした記事の続報になりますが、昨日(1月6日)の夕刊に、マイケル・ウッドフォード元社長が、3月~4月に開催予定のオリンパスの臨時株主総会で仕掛けようとしとしていた委任状争奪線を『断念する』と正式に表明したことが報道されています。その理由としては、自らの議案を提出させるために必要な支持を主要株主(特に日本国内の機関投資家)から得られないと判断したことと、ウッドフォード氏の奥様にとって、衆目を集める争いによる不安定さや家族に向けられる敵意が耐え難いものとなっていることが挙げられています。ただし、昨年10月の取締役会で、オリンパスの代表取締役を解任されたことについては、不当解雇として提訴を求める方針であるとも報道されているところです。

 以上は、昨日(1月6日)午後のウッドフォード氏の記者会見に基づく報道とのことですので、これから更に続報が続くものと思われますが、さしあたって、(あくまでも報道からしか事態を知り得ない第三者的な感想ですが)感想を述べると次のとおりです。

1.昨年12月にウッドフォード氏が取締役を自ら辞任したことについて、下の記事では、「実は大株主等の有力なスポンサーがいて、かなり高い勝算があるのか、明確な勝算はないが、とにかく正義心からそうせざるをえなかったのかのどちらかだと思います。」と述べましたが、今回の件で、少なくとも大株主等の有力なスポンサーがいなかったことは明らかになったと思います。

2.ウッドフォード氏は、昨年10月に代表取締役を解任された件で、オリンパスを不当解雇として訴える方針のようですが、そうであれば、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を自ら辞任してしまったことについては、戦略として適当なものであったのか疑問が残ります。

 というのは、この種の紛争でよく行われる訴訟類型としては、(代表取締役を解任した)取締役会決議の効力を争い、依然として代表取締役の地位にあることの確認を求める訴え(又は仮処分)なわけですが、ウットフォード氏が、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を辞めてしまったことにより、取締役会決議の効力が無効となっても、もはや代表取締役には復帰できないため、そのような訴訟類型を選択する余地がなくなったと思われるからです(訴えても、訴えの利益なしとして却下されるものと思われます。)。

 したがって、提訴するとすれば、代表取締役を解任されたことが民法第709条の不法行為にあたるとして、損害賠償請求をするということになりそうですが、ただ、その場合、①不当な解任決議をしたのは当時のオリンパスの個々の取締役なので、訴える相手は、オリンパスという会社ではなく、(不当な解任決議に賛成した)個々の取締役になるのではないか?②自ら取締役を辞任してしまった昨年12月以降の分については、役員報酬の減額等について、代表取締役解任に伴う「損害」として観念し得ないのではないのか?という問題があるように思います。

 下の記事で触れたように、そもそも今回の件ではウッドフォード氏に、役員報酬の減額があったのか自体が問題になるところですが、仮にそれがあるとしても、上記②の論点で、取締役辞任後の役員報酬の減額等については損害を請求できないという結論になった場合には、ウッドフォード氏の損害の内容は、代表取締役解任やそれに伴うプレス発表により名誉等を傷つけられたことによる精神的損害が主なものということになそうです。しかし、精神的損害ということになると、せいぜい数千万円単位の請求金額に過ぎませんので、(もちろん我々にとっては大きな金額ですが)企業のトップにいたような方にとってはそれほど実益のある金額ではないかもしれません。

 今後、ウッドフォード氏がどのような訴訟を提起するかについても注目していきたいと思います。

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弁護士の飛田です。昨年末の弊事務所のメルマガに載せた文章ですが、時事ネタなので、今の時期にブログにもアップさせていただきます。

 企業法務の世界における今年(2011年)の最大の事件は、何と言ってもオリンパス事件でしょう。

 読者の皆さんの方が詳しいかもしれませんが、簡単に振り返ってみると、今から2ヶ月くらい前の10月14日の夕刊紙で、突然、オリンパスのマイケル・ウッドフォード社長が、同社取締役会で代表取締役を解職されたと報道されたのが発端です。当初のオリンパスの発表では、ウッドフォード氏が日本の文化的風土に配慮を欠いた経営をしたことが原因という説明でしたので、外国人経営者によくありがちな問題だな、などと考えていましたが、同氏のインタビュー等により、実際には、2008年に同社が実施した英国の医療機メーカーの買収に伴いFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払われた手数料や、同年に国内3社を買収したときの買収金額があまりにも多額であったことが問題であり、ウードフォード氏が、買収を進めた菊川会長や森社長の辞任を要求したところ、逆に解職されてしまったことが明らかになりました。

 そこから、何か裏にありそうだということで騒ぎが大きくなり、10月26日付で、菊川会長兼社長と森副社長が、(騒ぎの責任をとってと言うことだと思いますが)退任し、新たに高山専務が社長に就任しました。

 ただ、その時点では、まだオリンパスの説明では「買収の手続も金額も訂正」ということでしたが、11月1日に同社内に弁護士・会計士等から構成される第三者委員会が設置されて調査に乗り出したところ、11月8日には、手数料や買収額が多額だったことは過去の損失隠しと関連していたことが発表されたのです。すなわち、オリンパスでは、1990年代の財テクの失敗により金融資産の含み損が1000億円を超えていたところ、2001年の時価会計の導入によりそれが表面化することを回避するため、2000年ころ、含み損を抱えた金融商品を海外の投資ファンドに移す「飛ばし」が行われ、それがそのまま解消されないまま逆に膨らんできたので、2008年に行われた企業買収の手数料や買収代金を多額にして、それを損失解消のために使ったということでした。

 その後、12月6日に、第三者委員会は最終報告書(オリンパスのホームページで読むことができます。)を提出し、翌7日には、オリンパスから、その報告書を踏まえた今後の対応が発表されています(とても手際が良い!)。この対応では、取締役会の委嘱機関として、オリンパスとは利害関係のない有識者で構成される経営改革委員会を設置し、経営体制の見直し等について指導・勧告・答申を受けるということと、来年3月から4月にかけて、臨時株主総会を開催して、経営体制を刷新することが骨子となるようです。新聞報道では、この臨時株主総会において、役員は総退陣するような報道がなされていますが、会社の発表を見る限り、そこまで突っ込んだコミットメントはなされていないようです。現在は、この経営改革委員として、弁護士らが選任されたこと等が報道されています。

 オリンパス事件では、その他に、今後、東京証券取引所がオリンパスの上場を廃止する判断をするのか、他社による買収があるのか、増資をするのか、旧経営陣らに対する刑事責任の追及はどうなるのか等々、様々な動きがあるところです。この問題が表面化した約2ヶ月前から、怒涛の勢いで事態が動いているという感じで、この案件に関わっている、弁護士・会計士の方はさぞ大変なのではないかと思いますし、初期のころを除いて、結構、タイムリーかつ適切な対応がなされているように思いますので、「かなりやるな」という感想を持っています。
  
   ところで、ようやく本題です。

 このように、オリンパスを巡っては、現在、様々な動きがあるわけですが、私が最も注目しているのは、マイケル・ウッドフォード氏の動きです。同氏は、取締役会で代表取締役を解職されたものの、株主総会で取締役であることの解任決議されたわけではありませんので、代表取締役解職後も、オリンパスの取締役にとどまっていました。代表取締役を解職された後、様々なところでマスコミの取材に応じていましたので、動向を注目していましたが、11月30日の日経新聞の報道では、同氏がトップ復帰に改めて意欲を表明したとの趣旨の記事がでていましたので、このまま内部にとどまって改革を進めるのかなと思っていました。しかし、12月1日には、自ら申し出て、オリンパスの取締役を辞任してしまいました。その際、「新たな経営陣を構成する取締役の候補者を提案すべく、あらゆるステークホルダーと連携していく。現経営陣に直ちに臨時株主総会を招集することを求める。」との声明を出しています。したがって、外部の大株主と連携して、臨時株主総会で取締役に選任してもらうという形で外部からオリンパスを改革していくものと考えられ、一部では、臨時株主総会で、オリンパスの現経営陣とウッドフォード氏との間で委任状取得合戦が行われるのではないかという報道もなされているところです。
  
    どうしてウッドフォード氏の動向に注目しているのか?ですって。一般にはちょっとうっかりするところなのですが、企業法務の観点からすると、取締役報酬がいったん具体的に定められたら、その金額は取締役と会社間の契約内容となるので、代表取締役を解職されていわゆる平取締役になっても、本人の同意がない限り、株主総会等の決議等によっても、その金額を変更できないというのが最高裁判例(平成4.12.18民集46巻9号6006頁)です。下級審の中には、あらゆる場合について本人の同意が必要というのではちょっと厳しすぎると思ったのか、取締役の報酬等が個人ごとではなく、役職ごとに定められ、任期中に役職の変動が生じた取締役に対し当然に役職につき定められた報酬等の額が支払われている会社において、当該報酬等の定め方・慣行等を了知した上で取締役に就任したような場合は、任期中の役職の変動に伴う報酬等の減額に黙示に同意したものと判断するものもあります(東京地判平成2.2.20判時1350号138頁)。しかし、会社法第339条第2項が、(取締役会よりも更に上位の機関である)株主総会が(正当な理由がなく)取締役を解任したような場合にすら、(解任自体は認めるものの)損害(残任期の報酬額合計と解釈されている。)を賠償しなければならないと定められていることとの均衡から、このような黙示の同意は簡単に認められるべきではないと解されています(安易に黙示の同意を認めなかった最近の判例として、福岡高判平成16.12.21判タ1194号271頁)。

 何が言いたいかというと、オリンパスとウッドフォード氏との間でどのような(取締役報酬に関する)契約が締結されていたかがわからないので安易な推測はできませんが、オリンパスの2011年の有価証券報告書によると、12人の(社内)取締役の報酬額の上限が約6億2900万円ですので、単純に12で割ったとしても約5200万円になり、ウッドフォード氏は、アメリカの企業のプロのCEOまではいかないにしても、それなりに高い報酬を貰っていたものと思われます。そして、その報酬は、ウッドフォード氏が自ら辞めない限り、残任期中は保障されていた可能性が高かったのです。それを投げ打って、外部からオリンパスの改革を図ろうとするのは、ちょっと生き方として感じるところがあります。実は大株主等の有力なスポンサーがいて、かなり高い勝算があるのか、明確な勝算はないが、とにかく正義心からそうせざるを得なかったのか、のどちらかだと思いますが、ウッドフォード氏は、イギリスのオリンパスの子会社から、本社の社長になった人で、いわゆる会社から会社を渡り歩くプロの経営者ではないようですので、私としては後者のような感じがしております。いずれにしても、この先も、オリンパス事件、特にウッドフォード氏の動向には注目してきたいと思います。

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