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 皆様、先日のNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20190602)をご覧になりましたか?ネットでもかなり話題になり、再放送もされたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
 この番組は、安楽死を希望する日本人女性が、スイスで安楽死するまでの過程に密着したもので、彼女が亡くなる瞬間も含めて放映されています。私もこの番組を見ましたが、実際に人が安楽死するまでの過程を映像で見るとかなり衝撃的で、改めて多くを考えさせられました。

 

 ところで、安楽死には、「積極的安楽死(直接的安楽死)」、「間接的安楽死」、「消極的安楽死(尊厳死)」の三種類があるとされています。
 積極的安楽死(直接的安楽死)とは、患者を苦痛から解放するために、患者の意思により生命を断つこと、間接的安楽死とは、患者の苦痛の除去・緩和が間接的に死期を若干早めること、消極的安楽死(尊厳死)とは、無益で苦痛をもたらすにすぎない延命措置を中止すること、のことを言います(山口厚「刑法総論 第3版」177ページ)。
 上の定義で言うと、NHKスペシャルの事例は、積極的安楽死(直接的安楽死)に当たりますね。

 

 法律の世界では、安楽死は、死に関する自己決定をどこまで尊重すべきかという文脈で登場することが多く、具体的には、安楽死を実行したり助けたりした医療従事者・家族等を処罰することができるかという形で問題になることが多いです。

 

 日本には、現在、安楽死に関する明確な法制はなく、関連するいくつかの判例があるにとどまっています。
 代表的なところでは、最判平成2112 7日(刑集 63111899頁)、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)、名古屋高判昭和371222日(高刑159674頁)などがありますが、例えば、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)は、安楽死が許容される要件として、①患者に耐え難い激しい肉体的苦痛が存在すること、②患者について死が避けられず、かつ死期が迫っていること、③患者の意思表示があること(間接的安楽死の場合は推定的意思で足りるが、直接的安楽死の場合は明示の意思表示に限る。)を挙げています。

 

 もっとも、上記いずれの事例についても、患者本人の意思に基づくとは認められないなどの理由で、結果的に被告人(医師)には罪が成立するとされていますので、一般論として、安楽死許容の要件は挙がっているものの、具体的にどのような状況であれば、安楽死を実行・手助けしても刑事責任が問われないのかは、はっきりとは分からないままになっています。
 この点は、今後、明確な法制やガイドラインを作るなどして、医療関係者等が混乱しないようにしていく必要があるように思います。

 

 なお、最近、時たま作成の依頼をいただくことがあるのですが、現在、公証役場で作成できる公正証書の類型に、「尊厳死宣言公正証書」というものがあります。(http://www.koshonin.gr.jp/business/b06/q0603
 これは、公正証書の嘱託人が、将来病気にかかり、回復見込みのない末期状態に至ったときは、尊厳死を望む、すなわち死期を延ばすためだけの延命措置を差し控え、中止する旨等の宣言をし、公証人がその宣言を公正証書の形にするものです。
 この公正証書があることで、患者本人が尊厳死を望んでいることが明確となるため、医療現場としても尊厳死を容認しやすくなると言われています。将来的に、尊厳死を望まれる方は、この公正証書を作成することも検討されると良いのではないかと思います。

 

 今回、番組を通じて社会で話題になったこともあり、安楽死に関しては、今後、日本でもますます議論が進んでいくと予想されます。まだご覧になっていない方には、ぜひNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」のご視聴をおすすめします。

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(ウイズダム法律事務所は、銀座にありますが、お隣の築地にも近いです。初めてこの

建物を見たときは、このモダンな建物はなに?と思いましたが、浄土真宗の築地本願

寺でした。とても風格があっていいデザインですね。)


5月にある金融機関のご依頼で私的整理の考え方についてセミナーをさせていただきましたが、その中で、私的整理の原理原則について考えたことを記載してみたいと思います。私的整理の原理原則といわれているものの根拠を遡り、その原理原則がどれだけカチッとしたものなのか、例外が許されないのかを考えてみるというマニアックな試みです。

 

ここで「私的整理」といっても、かつてのように、裁判所の関与がないところで任意に倒産処理が行われる手続一般というような広い意味の「私的整理」のことではありません。①「私的整理に関するガイドライン」に基づく手続、②中小企業再生支援協議会のスキームに基づく手続、③株式会社整理回収機構RCC)の再生支援スキームに基づく手続、③事業再生実務家協会の事業再生ADRに基づく手続などのいわゆる「公表された私的整理手続」のことを意味しています。

 

この公表された私的整理手続は、平成13年9月に策定された「私的整理に関するガイドライン」(以下「私的整理ガイドライン」)が一番早く世に登場していますので、その原理原則を考えるにあたっては、私的整理ガイドライン策定の歴史的経緯をおさえておくことが重要です。


私的整理ガイドラインの歴史的経緯は次のとおり。
 

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