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職場でのパワーハラスメント(以下、パワハラ)を防ぐため、企業にパワハラの防止策を義務づける関連法案が、先月の参院本会議で可決され、成立しました。パワハラの規制に関する部分の法律名は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」となっています。
(日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45402610Z20C19A5EAF000/

 

今までパワハラは、特に法律上定義されていたわけではなく、厚生労働省のワーキング・グループが、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義らしきものを報告書にまとめていたので、実務ではこれをパワハラの判断基準として使っていました。

 

今回成立した改正法は、パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と従来よりもやや広げて定義付けています。
さらに、パワハラの防止策をとることを企業に義務付け、これに従わない企業には、厚生労働省が改善を求め、これにも応じない場合には企業名を公表する場合があるとのことであり、これは企業のレピュテーションに直結しますので、パワハラの抑止につながることが期待されています。

 

なお、今回争点となっていた企業への罰則は見送られることになりました。
結局のところパワハラは、業務上必要な範囲の指導との境界が曖昧であり、明確な線引きが難しいため、企業側に配慮したといわれています。
とはいえ、最近は会社の事後対応の悪さについても、独自に不法行為ないし安全配慮義務違反として損害が認定されているケースも増えてきており、少なくともパワハラが起こってしまってから(またはそのおそれがあることを認識してから)の事後対応(調査や配転等の人事措置)を怠った場合の罰則については規定しても良かったのではないかと考えています。

 

例えば、備前市社会福祉事業団事件(岡山地判平26.4.23)では、会社に代わり指揮監督を行うべき上司が、過度な叱責状況や被害職員の精神状態の悪化を認識していたにもかかわらず、結局人事異動等を行わず何の対処もしなかったことについて、会社の安全配慮義務違反が認定されています(被害職員は精神疾患を発症し、後に焼身自殺)。
この事件では約5700万円の損害賠償請求が認められており、会社の規模によっては会社が潰れかねないほどの金額です。パワハラは事後対応の悪さによっても、重大なことになるおそれがあることを啓蒙ないし警告する意味で、罰則もあり得ると思います。

 

ところで、このパワハラの損害額ですが、細かく項目に分けて整理すると以下のとおりになります。(セクハラ等の他のハラスメントにも共通)

①治療費、通院費用等の実費

②慰謝料

③休業損害(休業したために得ることができなくなった収入)

④逸失利益

⑤弁護士費用

⑥過失相殺、素因による減額

⑦損益相殺(労災保険給付金など二重取り禁止)

 

慰謝料(②)の基準は特にないですが、数万円の場合や、前記判例のように被害者が亡くなった場合には極めて高額になります。家族や遺族が多大な精神的苦痛を受けた場合には、家族や遺族にも固有の慰謝料が認められる場合があります。
逸失利益(④)については、被害者が亡くなった場合だけでなく、パワハラによって精神疾患を発症した場合や、退職を余儀なくされたような場合に、パワハラがなければ得られたはずの収入がここで計算されます。
被害者の素因による減額(⑥)は、例えば過度に落ち込みやすい性格の方だったような場合には一定の金額を相殺するという考え方で、中にはこれを認める裁判例はあります。もっとも、電通事件(最判平12.3.24)ではこれを認めず、「労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」被害者の素因を過失相殺として考慮することはできないとしており、前提として使用者は労働者各人の性格を把握した上で適切な指導を行うことが求められていますので、(余程の事情がある場合は別として)被害者の性格を積極的に過失相殺の適用場面と見ることには違和感があります。

 

パワハラは被害者だけでなく、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼすおそれがあり、企業にとっても、貴重な人材の損失につながるおそれがあります。
デスクワーク、医療現場、工事現場等と業種によって職場環境は異なるので、適切な指導かどうかの線引きは難しいところですが、少なくとも指導する前には、本人の性格や立場等を常に考える必要があるでしょう。
相手の性格や立場等を知ることは、使用者・労働者双方に言えることで、お互いにコミュニケーションを重ねていくことがハラスメントの解決の糸口になるのではないでしょうか。
難しい問題ですが今後も注視していきたいと思います。

各都道府県労働局に設置されている総合労働相談センターへの労働相談は、10年連続で100万件を超えており、内容は「いじめ・嫌がらせ」(ハラスメント)が6年連続トップになっています。
厚生労働省の統計データによれば、解雇に関する相談は10年前に比べて2分の1に減少していますが、「いじめ・嫌がらせ」(ハラスメント)に関する相談は、ここ10年で2倍になっています。(厚生労働省「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf


最近では女子レスリングや体操のパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)問題が世間を賑わせたこともあり、パワハラ問題に関するニュースが多くなっている印象です。
もっとも取り上げられるニュースはその時期の「流行り」という面がありますので、ニュースとして取り上げられることが多くなることと、実際にハラスメント行為が増えていることとは別問題ですが、年々、特にパワハラは増加の一途を辿っています。

パワハラは昔からあったはずですが、ネットやニュースで「パワハラ」という言葉が一般に認知され、「パワハラ=悪」という印象が世間的にも広がり、パワハラ被害を受けた人が声を上げやすい世の中になってきていると思います。一方で、いじめや嫌がらせの類を強いものから弱いものまで十把一絡げに「パワハラ」だと認定してしまっている傾向もあるでしょう。その意味で、パワハラが本当に増加しているかは簡単には判断できないでしょう。

「パワハラ」は、法律上定義されているわけではありませんが、厚生労働省円卓会議ワーキング・グループが、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義らしきものを報告書にまとめており、実務上はこれをパワハラかどうかの一つの基準にしています。

またワーキング・グループは、パワハラの行為類型として、以下の類型を挙げています。

①身体的な攻撃(暴行、傷害等)
②精神的な攻撃(脅迫、名誉毀損、侮辱、暴言等)
③人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視等)
④過大な要求(業務上明白に無理なこと・不要なことを要求等)
⑤過小な要求(仕事を与えない等)
⑥個の侵害(私的なことに立ち入る等)

個人的には、暴行や傷害、脅迫などは明確な犯罪行為であり、「ハラスメント(harassment)」(嫌がらせ)の語義から外れていると思いますので、単に暴行罪・傷害罪・脅迫罪と言えば足り、「パワハラ」という言葉で曖昧・抽象化する必要はないと思っています。

少し嫌な思いをしたら、何でもパワハラになるのではなく、上記の基準に当てはまるかを考える必要があります。この基準のうち特に「業務の適正な範囲を超えて」という部分がキーワードになります。

業務の適正な範囲を超えた行為とは、例えば、自分の考えを長時間にわたって「指導」と称して押し付けることや、自分の納得しない報告は受け入れず、ダメ出しを繰り返すことなどがあります(過度のダメ出しなんかは役所に多いので、個人的にはハラスメント行為だと思っています)。

またパワハラに当たるかは、時代(特にテクノロジーの発達)によって変わっていきますので、注意が必要です。
昔はネットやメールがなかったので、休日に上司等から連絡が来ることはなく、休日になれば仕事から完全に解放されたと聞きます。今では休日でも連絡がメール等でできてしまうので、パワハラと認定されるかはさておき、それが問題となり得る時代になっていることは認識しておくべきだと思います。
タイミング的に休日にメールを送らざるを得ないとしても、メールのタイトルに【月曜日に見ること】などの言葉をつける配慮をしている方もいます。

上司が部下に行った「叱咤激励」が、部下にとっては「パワハラ」に感じるということはよく聞く話ですが、コミュニケーション不足に原因があると思います。コミュニケーションが不足しているから、部下としては現れた言葉や行為しか見れなかったり、上司としても意味もなく強い言動をとってしまったりするのではないかと思います。
時代が違う、世代が違うから仕方ないと片付けてしまうのではなく、お互いに置かれた環境なども考慮しながら、言葉だけでなく言葉以外のノンバーバルな部分にも注意を傾けていく必要があるでしょう。

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