会社法の正義

私が司法試験を受験していた頃、論文試験のために、ひたすら論証パターンを覚えた。これは、ある条文についてAという解釈とBという解釈がある場合、まず、その条文の趣旨を説明して、「この条文の趣旨からすると、Aという解釈をとると趣旨が没却されるからB説が適当である」と論証するものである。この論証パターンの変形として、「Aという解釈をとると、そこに登場する甲さんにとってあまりにも酷だから、Bという解釈が適当である」などというものもあった。
しかし、よく考えてみると、「没却される」とか「酷である」などと言われても、本当に趣旨が「没却される」のか、本当に甲さんにとって「酷である」のかはよくわからないし、そもそも、条文の趣旨自体に対立があり、果たしてどちらの趣旨が正しいのかすらわからないときがある。何かカチッとした判断基準がないのだ。数字による定量化が図られているわけでもないし、多くの場合、趣旨が没却されていることや、甲さんに酷であることについて実証的な研究が行われているわけでもない。「何でそうしなければいけないの?」と問われると、「みんなが選挙で決めた代表者で構成される国会で決まったルールだから」とか、「判例でそう言っているから」とか、「コンメンタールにそう書いてあるから」などと形式論的な説明をする他なく、その法律や解釈の正しさの実質的論拠を説明できていないように思うのだ。
というわけで、何か底の浅い学問だなあという印象を受けたことを覚えている。弁護士になってからも、そういう印象は変わっていない。

ところが、この本はスゴイ。法の善し悪しを判断する基準として、ある法が存在する社会とそうでない社会を比較して、その優劣を決めるという「規則帰結主義」の立場をとり、その規則帰結主義の判断において、「法と経済学(Law & Economics)」の成果を活用するのだ。これによって、(私にとっては)何かあやふやなイメージのあった会社法の解釈に、一貫した柱、明確な根拠が与えられたように感じた。
「法と経済学」などというと、難しい数式が並んでいるのでは?と思うかもしれないが、嬉しいことに、あまり数式を使わないで易しく説明してくれている。「替え歌で覚える会社法」というユーモアたっぷりのコラムもあり、「笑い」もあるのだ。
こんなに内容の濃い本なのに、たった2600円。法律の専門書としては破格だろう。会社法の深い世界を知りたい人には、是非お勧めしたい本である。

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