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最近話題の働き方改革ですが、このテーマに関して、先日、株式会社ワーク・ライフバランスの代表取締役である小室淑恵社長が弁護士会で講演をされ、この内容に大変感銘を受けましたので、この講演内容について少し話したいと思います。

小室社長が推進されているワーク・ライフバランスの考え方は、多くのメディアで取り上げられ、小室社長自身、テレビ等に出演されています。小室社長は、「働き方改革関連法」に関する国会審議の場に参考人として招かれ、安倍内閣の産業競争力会議の民間議員にも就任されています。

 

「ワーク・ライフバランス」という言葉を聞いて多くの人が勘違いしているのが、この言葉を、「仕事」と「家庭」の両立、と捉えてしまうことだそうです。このように捉えてしまうと、家庭(配偶者、子ども)のある人に配慮しましょうということで、独身者に多くの仕事を課してしまい、家庭のある人と独身者との間の対立構造を生む結果となり、結局組織として一つになれず、業績はマイナスになっていくとのことです。

そうではなく、「ワーク・ライフバランス」の「ライフ」はもっと広い意味で、「家庭」だけでなく、自己研鑽や運動、遊び、婚活なども含まれており、こう捉えることで、従業員のインプットや多様性に繋がって付加価値を生み出すことになり、結果的に業績にプラスになるというのです。

 

日本は現在GDP世界3位の先進国ですが、先進主要国の中で最も労働生産性が低い(21年間連続最下位)というのは有名な話です。労働生産性の算定は、付加価値を金銭だけで計算しているので色々と議論はあるところですが、とにかく先進主要国の中で日本が最も労働者一人あたりの就業時間が多いというのは事実です。

 

今後は少子高齢化が進み、国際競争力が低下することになり、このままでは日本はジリ貧になっていきます。このような日本が抱える課題を解決するには、今の時代がどうなっているのかを正確に把握する必要があります。ここで小室社長は、説得力のある根拠として、ハーバード大学のデービットブルーム教授の研究を挙げます。

 

一つの国の社会では、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」(※onus:重荷、負担)の2つの時期があります。

「人口ボーナス期」は、若者が多く人口構造が経済的にプラスになる時期で、安い労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方で、社会保障費が嵩まないので爆発的発展をするのは当然という時期のことをいいます。日本では、1960年頃~1990年代半ばがこの時期にあたり、中国はもうすぐこの時期が終わり、インドはもうしばらく続くそうです。

もう一つの「人口オーナス期」ですが、これは働く人よりも支えられる人が多くなることで、社会保障制度の維持のためにどんどん国民全体が貧しくなっていく時期をいい、日本は既に人口オーナス期に突入しています。重要なのは、一度人口オーナス期に入ると、二度と人口ボーナス期には戻れないという点です。

 

さて、日本よりも早く欧米諸国はこの人口オーナス期に入りましたが、欧米諸国とは異なり、日本は対策をとれず少子高齢化も進んでどんどん深刻化していっています。

それでは、どうすればこの状況を打開できるか?というと、人口オーナス期特有の働き方にシフトする必要があるとのことです。

 

時代と共に頭脳労働の比率がどんどん上がっていき、使える労働力を使おうと思ったとき、日本が持っている潜在的な国力に目を向ける必要があります。この潜在的な国力というのが「女性」であり、人口オーナス期で経済発展するためには男女共に「短時間で」働く必要があるとのことです。

日本は男女共に同じ教育を受けるシステムができあがっており、現在の大学進学率も男女共に50%前後で、このような高度教育を受けた女性を家庭の中に留めておくのはもったいないという発想です。これにいち早く気づいた欧米諸国は女性の社会進出を進め、フランスでは女性の就業率が8割を超えています。

 

ここで素朴な疑問が湧く方もいると思います。女性の社会進出を進めると少子化がますます進んでしまうのでは?というものです。この点、気になったので調べて見ると、フランスの出生率は1.922016年)と日本の1.442016年)よりも高く、長年2.00前後で推移しているというから驚きです(先進国の理想的な出生率は2.01です。2018年のフランスは1.88とちょっと下がったようですが)。

なぜフランスは女性の社会進出が進んでいるのに、出生率も高いのかというと、労働生産性が高いからというのがその理由になります。なお、夫婦が2人目の子どもを作りたいかどうかは、夫が育児に関わる時間が多いほどその割合が高くなるという結果が出ているそうなので、女性だけでなく、男性も労働生産性を上げて早く帰ることができれば、少子化対策にもなるのです。

 

労働生産性を上げる方法は色々とあるとのことですが(詳しくは小室社長の著書参照)、まず評価方法として、「期間あたりの生産性」ではなく「時間あたりの生産性」が高い人を評価するような仕組みを作らないと、労働生産性が上がりません(上げようと思わない)。

次に長時間残業の是正を行い、休業・時短を経ても継続就業できる制度を整備し、それからようやく女性を積極採用するという手順が重要であるそうです。

ちなみに小室社長は(よく言われるそうですが)フェミニストというわけではなく、日本に勝って欲しいから啓蒙活動をされているそうです。

 

今は女性活躍推進法によって、一定規模の企業は、男女別離職率や女性管理職比率、平均残業時間も公開されるようになっています。最近は人手不足で売り手市場ですが、就職活動では、企業のブランドやネームバリューなどよりも、男女共に、育休産休の取得の有無・期間、残業時間等も見て企業を選ぶようになってきています。

そうすると、良い人材を採れる企業とそうでない企業は今後二極化することになることが予想されますので、いち早く労働生産性に着目し、ワーク・ライフバランスの確保の重要性に気が付いた企業が生き残るのではないかと考えられます。

 

「働き方改革関連法」の施行により、残業代の上限規制が設けられましたが、勤務間インターバル制度(終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定する制度)は、まだ努力義務に留まっています。労働生産性を上げるためにも、勤務間インターバル制度についても早く法的義務になるべきと考えています。

労働生産性を上げるためには、まずは休息することが大切ですので、とりあえず今日は早く帰って休みましょう(私もこれを書き終えたので帰って休むことにします)。
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2018年10月12日の日本経済新聞朝刊に「兼業・副業「許可せず」75% 労研機構調べ 政府推進も進まず 」との見出しの興味深い記事がありました。
以下、記事の抜粋です。

「政府が推進する会社員の兼業、副業について、独立行政法人労働政策研究・研修機構が企業や労働者にアンケートをしたところ、企業の75.8%が「許可する予定はない」とし、労働者も56.1%が「するつもりはない」と回答したことが分かった。
政府は2017年3月にまとめた働き方改革実行計画の中で、兼業や副業を「新たな技術の開発、起業の手段、第二の人生の準備として有効」としたが、浸透していない実態が浮き彫りになった。
〔中略〕
許可しない理由を複数回答で尋ねたところ、「過重労働となり、本業に支障を来すため」が82.7%で最多。「労働時間の管理・把握が困難となる」も45.3%を占めた。」

この記事を読む限り、日本では、将来的に人口減少による様々な社会制度の崩壊が叫ばれているところですが、まだまだ人々の生活は安定していて、現業・副業を具体的に考えているわけではないということでしょうか。

ところで、この記事によれば、現業・副業を許可しない企業側の理由として「労働時間の管理・把握が困難となる」というものがありますが、これはどういうことでしょう?

実は、労働基準法第38条第1項は、

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定していて、この「事業場を異にする場合」とは、同一事業者の下で事業場を異にする場合のみならず、別使用者の下で事業場を異にする場合も含まれると解釈するのが通説・行政解釈(昭23・5・14基発769号)なのです。

つまり、Aさんが、事業者Bさんのもとで4時間働いて、事業者Cさんのもとで5時間働いたとすると、Aさんの一日の労働時間は9時間となるので、後で雇ったCさんは、1時間の残業代を支払わなければならない、という結論になるのです。

しかし、Aさんからしてみれば、Bさんのもとで働いていることを隠しておきたいというのが多いのではないかと思いますし、Cさんとしても、労働時間の計算がややっこしくなるので、Aさんの兼職のことを知ると、採用に消極的になるのでしょう。

そこで、上記の行政通達(昭23・5・14基発769号)でも、次のように質問がなされます。

「<事業場を異にする場合の意義>
問 本条において事業場を異にする場合においても」とあるが、これを事業主を異にする場合も含むと解すれば、個人の側からすれば1日8時間以上働いて収入を得んとしても不可能となるが、この際、個人の勤務の自由との矛盾を如何にするか〔中略〕。」

で、それに対する回答がこれなのです。とても冷たい。
「答 「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含む。」

したがって、行政解釈は、労働者がある職場で8時間以上働いている場合、事実上、どの労働者が兼業や副業により別に収入をえることが事実上不可能になっても良いと考えると言えるように思います。

しかし、今の安倍政権が兼業・副業を推進していることからも明らかのように、少子高齢化、人口減少が進む将来において、我が国の労働者が兼業・副業ができるようになることは不可欠であるということがいえるでしょう。
学説でも、労働法の大家である菅野和夫教授は「私としては、週40時間制移行後の解釈としては、この規定は、同一使用者の下で事業場を異にする場合のことであって、労基法は事業場ごとに同法を適用しているために通算規定を設けたのである、と解しても良かったと思っている。」(菅野『労働法第11版』464頁)と述べています。
労働者が副業・兼職をしたいと希望しているときに、法律が、労働者保護を理由に副業・兼職を事実上制限するのは適当ではありません(個人の勤務の自由に対する過度は制約)。

したがって、私としては、早く上記の行政通達(昭和23・5・14基発769号)を廃止し、労働者が兼業・副業を行うにつき法的障害がないようにしてあげなければならないと考えております。

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