私は、経済的に立ち行かなくなった土地区画整理組合の代理人として、地方公共団体(市町村)に助成をお願いしたり、金融機関に債権放棄をお願いしたりする仕事をよくやらせていただいております。

その際、地方公共団体からよく言われることが、「組合に助成(補助金)を支出すると、市長が住民訴訟で訴えられて、多額の損害賠償金を負わなければならなくなるから、助成できない。」というものです。

このような発言の背景には、地方公共団体が、組合救済のために助成したところ、(市政の動きに敏感な)市民から市長等を被告として住民訴訟が提起されることが多くなったことが挙げられます(確度の高い統計資料を有している訳ではありませんが、私の実感としてそう感じます。)。
誰でも、裁判で被告にされて、損害賠償を請求されるのは気持ちが良いことではありませんので、このような住民訴訟の頻発という現象を受けて、地方公共団体が組合の助成に消極的になっている現在の傾向には、やむを得ない面もあるでしょう。

しかし、組合救済のために助成(補助金の支出)したからといって、本当に住民訴訟で負けて、市長等が損害賠償を負わなければならないのでしょうか?
答えは、No です。
もちろん、絶対に、というわけではありませんが、今のところ、組合に対する金銭的な補助金の支出が違法と判断されたケースを私は知りません。

個々のケースを説明すると長くなりますので、基本的な考え方を説明しましょう。

まず、地方公共団体は、「その公益上必要がある場合」に、寄附又は補助をすることができますが(地方自治法第232条の2)、何が「公益上必要か」否かについては、様々な行政目的を斟酌した政策的な考慮が求められるため、各公共団体の判断によるべきであり、その判断に特に不合理又は不公正な点のない限りこれを尊重すべきと考えられています。そのため、「公益上必要がある場合」の要件に該当するかどうかの判断については、地方公共団体の長等に権限付与されており、その権限行使に逸脱、濫用がない限り、適法と解されているのです(判例・通説)。

他方、おそらく住民訴訟を提起する市民側は、組合施行の土地区画整理事業は、施行地区内の地権者が、農地等を宅地に変えて、土地の値上がり益を享受しようとする事業というようなイメージでいるのかな?と思いますが、法律上はそうではなく、(確かに、「宅地利用の増進」という地権者側の利益もありますが、それ以外に)、道路、公園、上下水道等の公共施設の整備改善や健全な市街地の造成を図るといった公的な目的を有している事業なのです(土地区画整理法第1条、第2条参照)。

この点で、忘れてはならないのが、我が国では、市街地の造成等の街づくりを行う場合、地方公共団体が直接行うと反対住民等の矢面に立ち、事業がなかなか進まないため、地域住民に土地区画整理組合を設立させて、土地区画整理事業を行わせる場合が多いということです。その場合、(今は少なくなりましたが)市町村の職員が組合事務局に派遣されて、事業が進められることが多かったため、実質的には、市町村施行と変わらないわけです。このような市町村が主導し、強く関与している組合については、一層強い公的な目的を有しているということができるでしょう。

このことを更に法律的に説明すると、土地区画整理組合には公共性があるからこそ、その施行地区内に土地を有する地権者は、たとえ事業に反対していたとしても、自動的に組合員とされ(土地区画整理法第25条第1項)、土地区画整理事業のために、土地の減歩を強制される等の財産権の制限を受けることになりますし、また、土地区画整理組合の設立には都道府県知事の認可が必要とされるとともに(同法第14条)、都道府県知事に監督権が認められ(同法第125条)、さらに、都道府県及び市町村が、組合に技術的援助をするものとされているのです(同法第123条第1項)

実は、国土交通省は、バブル経済崩壊後の地価の下落の影響で経済的に破綻する土地区画整理組合が増加している状況を受け、破綻組合に対する地方公共団体の技術的助言のあり方を整理するために、平成18628日付「組合施行による土地区画整理事業及び市街地開発事業の経営健全化に向けた対応方策について(技術的助言)」を公表しています。
この組合経営ガイドラインでは、組合の経営再建の基本的な考え方として、「土地区画整理事業は極めて公共性の高いものであり、また施行地区内の地権者の権利関係を不安定にすることは避けなければならないため、土地区画整理事業を中途で頓挫させるわけにはいかず、できる限りの手段を講じ、事業の完遂を図るべきである。」とし、①組合側の自助努力策として再減歩・賦課金等が、②地方公共団体の支援策として助成等が、③債権者による支援として特定調停等による支援等が、それぞれ紹介され、さらに、「土地区画整理事業は、その性質からも、事業の完成を目指し再建を図ることが望ましい。このため、組合自らが事業を継続することが困難となった場合に、土地区画整理法第128条の規定に基づき、第三者が事業を引き継ぎ事業を完了させることも考えられる。事業を引き継ぐ主体としては、地方公共団体や地権者等が出資する区画整理会社が想定される。」として、地方公共団体の『事業の引継ぎ』にまで言及しているのです。

以上から明らかなとおり、土地区画整理組合は、法律上公的な事業を行っている公的な存在であり、組合が経済的破綻の危機に瀕しているときには、むしろ地方公共団体が救済することが期待されているのであって、公益上の必要性(地方自治法第232条の2)の該当性判断については、まず問題ないように思います。

土地区画整理組合を救済する必要性は、このような抽象的な必要性にとどまりません。
仮に土地区画整理組合を救済しないとすると、施行地区内の地域の発展の停滞・荒廃化を招きますし、いずれ事業は事実上停止状態に追い込まれ、いつまでも土地の形状と登記が一致しない状態が続き、その結果、施行地区内の土地の流通も制限され、土地利用が進まず、ますます地域が荒廃する可能性があります。

さらに仮換地や保留地購入者の不満は、監督権者であり、かつ技術的助言をしていた地方公共団体に向かうことが予想されるのです。このようなことは結局、地方公共団体に対する不信感の蔓延につながり、地方公共団体の業務に対し直接又は間接的に悪影響を及ぼすと考えられます。

それに対して、土地区画整理組合を救済する場合のメリットは、仮に、地方公共団体が組合を救済し、土地区画整理事業が完成した場合、地域に良好な住宅地ができることになるため、人口が増え、人の活動が活発化し、それに伴い、住民税、固定資産税・都市計画税等の税収が増えることにもつながります。

以上のとおり、救済しないことのデメリット、救済することのメリットを見ても、公的目的を有する土地区画整理組合を救済し、そのことにより、公的な性質を有する土地区画整理事業を完成させることが、地方自治法232条の2に定める公益上の必要性を判断するうえで、著しく不合理などと解させる余地はかなり少ないということが言えるでしょう。

ただ、一点付け足すと、組合の自助努力も必要だということは強調したいと思います。
これは、単に行政のみが負担し、組合員側が何もしないということになると、(事業による土地の価値の増加という側面はあるため)補助金の支出が、施行地区内の市民を過度に優遇する結果になる場合があるからです。
しかし、私のような弁護士のところまで持ち込まれる案件は、相当程度、組合の財産状況が悪化し、事態が深刻化しているのが通常で、その反面として、組合員側も何か対策はないかを検討し、再減歩や賦課金による自助努力を行ってるところがほとんどです。つまり、市町村が助成しても、一部の組合員の利益になるなどということは、起きない場合が殆どです。

もっとも、実際の実務では、地方公共団体側もこの辺の事情はわかっていて、本音は、地方公共団体自体が財政が苦しいから助成できないが、それを正面からは言えないため、住民訴訟のことを理由にすることが多いようです。

複雑ですね。