タグ:労働法務

弊事務所の馬場悠輔弁護士が、Webメディア「スモビバ!」にて
「【新型コロナ】契約キャンセルや支払遅延、休業要請でも発生する店舗賃料...個人事業主を法律は守ってくれる?弁護士が解説!」(https://www.sumoviva.jp/trend-tips/20200525_1834.html)と
「従業員への賃金支払いや出社命令、取引先との契約トラブル対処など法人の新型コロナにまつわる悩みを弁護士が解説!」(https://www.sumoviva.jp/trend-tips/20200525_1835.html)と題する記事を2つ執筆し、公開されました。

是非、「スモビバ!」で記事をご覧くださいませ!
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新型コロナウイルスを理由として、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定しましたが、従業員の時差出勤を促したり、在宅勤務に切り替えたりと労働環境にも大きな影響を及ぼしています。旅客事業を営む会社では需要の落ち込みから、従業員に休業してもらう措置を講じているところもあります。

 

会社による従業員の賃金補償(休業手当)については、労働基準法第26条に定められており、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
この休業手当を支払う必要があるかは、新型コロナウイルスを理由とした休業が「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?という点を検討する必要があります。

 

政令によって、新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」として定められたため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」といいます。)によって、新型コロナウイルスの感染者だけでなく、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」や「感染症の無症状病原体保有者」に対して、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことが可能となりました(第7条、第18条)。
ただし、この就業制限は、厚生労働省令で定める業務(飲食物の製造・販売、接客業等)に限られていますので、その他の業務に就いている方には、感染症法に基づく就業制限の対象とはなりません。

 

感染症法に基づく就業制限の対象とならない場合について、この点について、厚生労働省のWebページでは不明確なのですが、新型コロナウイルスは、労働安全衛生法施行規則第6111号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に該当するとして、新型コロナウイルスに罹患した場合は、同法第68条に基づいて、事業者はその従業員の就業を禁止させる法的義務を負うと考えます。
(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQA」「6安全衛生 問1」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q6-1 
「感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません。」とありますが、反対解釈として、感染症法により就業制限が行えない場合には、労働安全衛生法第68条の適用対象になると読めるのではないでしょうか。)

 

そのため、従業員が新型コロナウイルスに罹患した場合には、法律に基づいて従業員の就業が制限・禁止されるので、これによる休業は「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。
仮に、労働安全衛生法第68条が適用されないと解釈したとしても、使用者は他の従業員に対する伝染予防の義務(安全配慮義務)があるでしょうから、罹患した従業員を業務命令により休業させることは、いずれにしても「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられるでしょう。

 

問題になるのは、従業員が新型コロナウイルスに罹患した「疑い」がある場合の取扱いです。
この場合は、労働安全衛生法第68条の適用はなく(同条は罹患した場合の規定です。)、また感染症法に基づく就業制限がされないときは、どのようにして「使用者の責に帰すべき事由」かを判断するのかが問題になります。

 

この点について、厚生労働省のQA(問2843)によれば、a.風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)、又はb. 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、「帰国者・接触者相談センター」での相談を促しており、この症状が1つのメルクマールになると考えられます。
これらの症状がある従業員に休業してもらう場合には、他の従業員に対する感染予防の観点から、「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。

 

もっとも、今の時期は、使用者も敏感になり、上記a.又はb.の症状がなく軽い発熱程度の従業員にも休業してもらうことが多いと思いますが、このような場合の休業は、使用者による自主的判断であるとして、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたる(=休業手当を支払う必要がある)と考えられ、厚生労働省QA44)でも同じ解釈がされています。
使用者による自主的判断といっても、もし従業員が新型コロナウイルスに罹患していた場合には、会社(場合によっては会社が入っているビル全体)を長期間閉鎖せざるを得ず、後で罹患が判明したときの経済的リスクや社会的非難を受けるリスクを考えると、使用者は従業員に休業してもらうのもやむを得ないように思います。しかし、休業手当は従業員の生活補償の意味合いが強いので、このような場合でも、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたると考えられます。
(この意味で、民法上の「使用者の責めに帰すべき事由」(民法536条)については、過失責任主義に基づく帰責事由があると解される可能性は低いと考えられ、全額補償する必要はないと考えられます。)

 

以上をまとめますと、次のとおりとなると思います。もっとも以下は原則論で、就業規則に別段の定めがあれば、それに従うことになります(ただしその内容の合理性については解釈の余地は有り得るでしょう。)。

 

①新型コロナウイルスに罹患した従業員自ら会社を休んだケース

②新型コロナウイルスに罹患した従業員に会社を休むよう命令したケース

・法律上の就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・法律上の就業制限がない場合→休業手当を支払う必要なし

 

③新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるとして従業員が自ら会社を休んだケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・感染症法に基づく就業制限がない場合→(通常の病欠と同じ扱いとして)休業手当を支払う必要なし

※ただし、会社が、上記a.又はb.に至らない症状(業務ができる状態)でも休むように指示を出していた場合には、休業手当を支払う必要あり。

 

④新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるので従業員に会社を休むよう命令したケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がない場合→休業手当を支払う必要あり

※会社が指示を出す、方針を打ち出す程度でも、現状従業員は従わざるを得ないので、ここでいう「命令」に含まれると考えられます。

 

いわゆる新型コロナ特措法が成立し対策本部が設置され、オーバーシュートやロックダウン等の普段耳慣れない言葉も使われ始め、不安な日々が続きますが、早く収束していくことを祈ります。

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