タグ:土地区画整理法

1.土地区画整理組合の施行地区内に法人(企業)の大地主(組合員)がいる場合などに、よく「法人を理事にすることができますか?」という質問を受けることがあります。土地区画整理組合としては、大地主であるその法人に理事になってもらい、組合運営に積極的に参加してほしいと思ってのことですが、しかし、株式会社の例などで、法人が取締役になっているような例を聞いたことがないので、はたして法人を組合の理事にすることができるのか?という疑問が生じるわけです。

 

2.実は、この問題については既に立法的に解決されています。
土地区画整理法第27条第3項は「理事及び監事は、定款で定めるところにより、組合員(法人にあってはその役員)のうちから総会で選挙する。」と規定していますが、「組合員(法人にあってはその役員)」という部分が重要で、法人自体は理事になれないが、その法人の役員個人は理事になれる、と解釈されているのです。
 詳しく説明すると、法人の役員は、その法人が組合員であるという資格のもとで個人として組合の理事となる被選挙権が与えられます。したがって、その役員個人が、組合の組合員(地権者)である必要はありません。
しかし、あくまでも(いわば)法人組合員枠で理事となったので、その理事が法人の役員でなくなったときは、自動的に理事の地位を失います(土地区画整理法第27条第3項)。
ただし、理事となるのは役員個人であり、法人ではありませんので、その役員の後任として法人の新たな役員を理事にしたいときは、別途、組合の総会で選挙をしなければなりません(土地区画整理法第27条第1項)。
 以上は、どの文献をみても、法人の理事についての確定した解釈・運用であり、特に異論はないかと思います。

 

3.問題は、どうしてこんなに七面倒くさい規定になっているのかということです。
端的に、法人自体を組合の理事にすることができなかったのかな?と思います。この点を理解するには、日本では一般的に法人の役員は自然人でなければならない(または、できない)と原理主義的に考えられていた点が影響しています。

 例えば、会社法第331条第11号では法人は取締役になれないことになっています。この「法人取締役の不許」については、会社法の教科書として最も権威のある江頭憲治郎著「株式会社法」によれば、

「法人取り締役を認めない理由として、取締役の職務は個人的性質のものであること(田中耕・下386頁)、または個人に民事責任を課すことにより経営の適正を図る必要があること(河本・443頁)があげられている。」と説明されています。つまり、株式会社における取締役は自然人でなければあり得ないし、自然人とすることで適正なものとなると考えられていたのです。

 しかし、最近はこのような原理主義的な考え方は否定されています。すなわち、江頭教授は、上記の説明に続けて、

「しかし、外国には法人の取締役資格を認める例が少なくなく、〔中略〕わが国でも、〔中略〕法人に会計監査人、更生管財人等の資格が認められる(会社3371項、会更法672項)ことに鑑みると、立法論として、少なくとも閉鎖型のタイプの会社については、法人の取締役資格を認める余地はあろう。」

と記載しているのです。

 したがって、私としては、土地区画整理組合は施行地区内の地権者で組織される閉鎖型の法人ですので、法人を理事とすることを認めてもよかったのではないかなと思います。

 

4. いずれにしても、この法人組合員は理事になることができず、その法人の役員が理事になれるにすぎないという制度設計は、前述の法人の理事は自然人でなければならないし、そうするのが適当だとする考え方があったから、いわば立法的な妥協の産物として作られたものなのです。この点を理解すると、この分かりにくい土地区画整理法第27条第3項の規定がよく理解できると思います。 

 

◆弁護士 飛田 博

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よく顧問先の土地区画整理組合から組合の文書開示について相談を受けることがあります。
組合員の方から正当な権利行使として組合に文書開示の要請がある場合には、当然のことながらその文書を開示しなければなりませんが、中には、事業に反対する組合員の方が、突然、組合事務所を訪問して、「全ての理事会議事録をコピーさせろ!直ぐにさせろ!」と騒ぎ立てるような、嫌がらせとしか思えないケースもあり、組合の事務局が対応に困っているという話がよくあるのです。

ところで、この文書開示について、土地区画整理法はどのように定めているのでしょうか?

まず、土地区画整理法上、個々の組合員に閲覧謄写請求権が認められる(注1)のは、以下の書類です。
(1)  定款、事業計画に関する図書、換地計画に関する図書(土地区画整理法841項)
(2)  土地区画整理事業に関し、組合が受けた行政庁の許可その他処分を証する書類(同法施行令731号)
(3)  組合員名簿、総会及び総代会の議事録並びに通常総会の承認を得た事業報告、収支決算書及び財産目録(同法施行令732号)(注2)
(4)  施行地区内の宅地について権利を有する者(所有権以外の登記のない権利で土地区画整理法851項及び2項の申告のない権利または同法853項の移転・権利削減の届出のない権利を有する者は含まれない)の氏名(法人にあっては名称)及びその権利の内容を記載した簿書(同法施行令735号)

(注1) ただし、「正当な理由」があれば閲覧謄写請求を拒否することができます。

(注2) なお、事業報告書、収支決算書及び財産目録については、過去のもの以外に、これから通常総会の承認を求めようとするものについては、通常総会の5日前までに主たる事務所に備え置かなければならないとされ、それらの書類についても、組合員に閲覧謄写請求権が認められています(土地区画整理法32条)。

次に、(個々の組合員からではなく)組合員から、総組合員の10分の1以上の同意を得て請求があった場合には、上記の書類以外にも、組合員には広く「会計の帳簿及び書類」の閲覧謄写権が認められます(同法28条9項)。

以上が法律の定めですが、組合施行の土地区画整理事業は、直接的には、組合員のために行っている事業ですから、組合の事業に支障が生じたり、組合員のプライバシーや個人情報保護の問題と抵触したりしない限り、上記にない文書についても開示に応じても良いし、むしろ積極的に応じるべきと考えます。手続的には、法律で開示しなければならない文書以外の文書については、理事会において開示又は非開示を判断するのが適当です。

ただし、前述のとおり、組合員が突然組合事務所を訪れ、大量の文書開示を要求するような事態も現実に発生していますので、文書開示について一定のルール作りが必要でしょう。多くの組合では定款で、そのようなルールを理事会で定めることができることになっていますので、

① 文書開示の申込方法(所定の申込書の提出等々)

② 開示・非開示の判断(理事会又は理事会から委任を受けた理事長が申込みから〇日以内に判断する。期間内に判断しなかったときは開示の判断があったと見做す。等々)

③ 文書閲覧・交付の方法(組合事務所で閲覧・交付又は組合員の住所に郵送、等々)
④ 料金(コピー1枚〇円)

というような文書開示規程を定めておくことをお勧めします。

以上

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