タグ:土地区画整理組合

 今回は、「組合員である株式会社の代表者が死亡したが、実は、その会社が休眠会社らしく、新しい代表者が選任されない場合、組合はどうしたらいいのか?」という問題を扱いたいと思います。組合としては、その会社に(代表取締役ではないが)平取締役がいる場合、その取締役に対して通知することで、事業を進めたいところですが、果たしてそれで良いのか?という問題です。

 

 このような問題が実際にあるのか?という方がいらっしゃるかもしれません。
 ところが、実務をしていると、ちょくちょく出くわすのです。
 たとえば、地元の小さい不動産会社が土地区画整理事業の始まる前に、施行地区内の土地を買って分譲して売ったが、一部形の悪い土地が売れ残っており、そうこうするうちに、その不動産会社は休眠状態に陥り、社長が死亡後も後継者もいない、といった事案です。

 

 まず、この株式会社が、取締役会が設けられている取締役会設置会社の場合はどうなるでしょう。取締役会設置会社の場合、代表権を有する代表取締役以外の平取締役には業務執行権が認められておらず(会社法348条1項括弧書)、組合の行う換地処分等の行政処分を受領する権限もありません。そこで、この会社の取締役会が新しく代表取締役を選任しないのであれば、組合としては、会社法351条2項に基づき、裁判所に一時代表取締役の選任するよう申立てなければならないということになります。

 

 次に、その会社が、取締役会を設置していない会社の場合はどうでしょうか?このような株式会社の形態は、平成18年に新会社法が施行されることにより認められるようになりましたが、有限会社から株式会社に移行した会社や、新会社法施行後に設立された小規模な会社には多い組織形態です。
 この場合、会社法の定めでは、各取締役が原則として会社の業務を執行し(会社法348条1項)、会社を代表する権限を有しますので(会社法349条1項・2項)、他に取締役がいれば、その取締役に通知することができそうにも思うのですが、実は、代表取締役を選任した場合には、他の取締役は代表権を有しないこととなっており(会社法349条1項但書)、仮に選任された代表取締役が死亡したとしても他の取締役の代表権が復活することはないと解釈されています(相澤哲編『立法担当者による新・会社法の解説』103頁)。
 したがって、取締役会を設置していない会社にあっても、代表取締役が選任されている場合には、その代表取締役が死亡した場合には、新たに株主総会等で代表取締役を選任してもらわなければならないということになります。選任されないのであれば、結局、会社法351条2項に基づき、裁判所に一時代表取締役を選任してもらわなければならないということになるのです。

 

 では、裁判所に一時代表取締役を選任してもらうにしても、その手続きにはどれくらいの費用と時間がかかるのか?というのを知りたいですよね。
 これについては、私の経験から、各管轄裁判所においてスポット申立てという簡易な申立てを認めているかによる、ということが言えるかと思います。スポット申立てというのは、裁判所によって選任された一時代表取締役には、組合からの書類の受領と、もし将来的に清算金の交付が見込まれるのであれば、その清算金の受領をしていただきたい(ほかの業務はありません)と一時代表取締役の職務を限定して申立てをするのです。その際に、一時代表取締役候補者として地元の弁護士を推薦することができると、裁判所の手間が省けますのでスムーズになります。この辺は、裁判所にいかに事案を理解していただき、手続きを円滑に進められるかという問題ですので、まさに弁護士の腕の見せ所だと思います。

 

 弊事務所ではスポット申立ての経験がありますので、もし類似案件にお困りのときは、遠慮なくご相談いただければと存じます。

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このブログで何度か取り上げた岩手県滝沢市の滝沢村室小路土地区画整理組合の破産案件ですが、平成26年3月26日に盛岡地方裁判所から「本件破産手続を終結する」との終結決定が出て、土地区画整理手続としても、同年3月28日付で岩手県知事より解散認可決定が出ていました。

破産手続の終了により、法人としての土地区画整理組合は消滅するはずですので、あえて解散認可決定を出す必要があったのかちょっと疑問に思いましたが(破産の終結決定が確定するまでは組合は存在しており、その間に行政手続としても組合が解散したことを明確にしておきたいということなのかもしれませんね)、いずれにしても、これで土地区画整理組合の破産第1号案件は終了したことになります。

はじめてということもあり、関係者の皆さんはさぞ大変だったのではないかと想像しますが、土地区画整理組合に破産手続利用の途を開いたという意味で、この案件の意義は非常に大きいと思います。 
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専門的な話になって大変恐縮ですが、私の取扱業務の一つに「土地区画整理組合の破綻処理」というものがあります。実は、その分野で、かなり影響の大きな出来事がありました。それは、このブログの1月15日の記事で紹介しましたが、土地区画整理組合について現実に『破産』事例が発生したということです。

土地区画整理組合というのは、土地区画整理法という特殊な法律によって設立される法人で、「街づくり」という公共的な役割を担っていますので、長い間、破産によって消滅させてもいいの?ということが議論されていました。学問的には、「土地区画整理組合に破産する能力があるのか?」という「破産能力」の問題になります。

かつては、土地区画整理組合は公法人だから破産できないというのが通説でした。しかし、バブル崩壊後、経済的に破綻する組合が沢山発生するようになり、それを補助する立場の市町村などの地方公共団体も、支援するだけの体力が無くなっていて、いわゆる“凍結組合”といわれるような組合も発生している事態になっていましたので、最近では、もはや破産させざるをえないのでは?という論調が強くなっていたかと思います。

そこで、私は、2011年ころのことですが、この問題について、破産法の大家の大学教授に相談しに行ったことがあります(その先生は弁護士もされていました。)。その学者先生は、きっぱりと「土地区画整理組合だからといって破産できないということはない。」とおっしゃられ、私としては、(土地区画整理組合にも破産手続が利用できるのが適当と考えていましたので)意を強くして帰ってきましたが、実はその後も土地区画整理組合が破産手続を利用したという実例が出ない状態が続きました。

ところが、昨年12月、ついに新潟県の白根第一土地区画整理組合について、新潟地方裁判所が破産手続開始決定を出したのです。しかも、このことを報道する新聞記事によれば、岩手県の土地区画整理組合でも破産手続開始決定が出ており、全国で2例目ということでした。

土地区画整理組合の破産を考えるときは、換地処分という土地区画整理事業の最大のイベントを終える前なのか、終えた後なのか、というところが非常に重要ですが、これら2つの事案については、まだ詳細がわからないため、あまりコメントができません。しかし、少なくとも、これまでタブー視されていた土地区画整理組合の破産が現実にあり得ることが明らかとなりました。個人的には、新年早々から、少々閉塞感のあった土地区画整理組合の破綻処理に新たな可能性を感じさせるビックニュースでした。

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「土地区画整理組合は破産できるのか?」という問題(いわゆる『土地区画整理組合の破産能力』として議論されている問題)については、「できない」という見解(従来の通説)と「できる」という見解(最近の有力説)とが対立しているが、実務的には、これまでに土地区画整理組合の破産事例は一例も存在しない、という理解でした(詳しくは、こちらをご覧ください。)。

ところが、遂に最近発生したようです。

クライアントから教えていただきましたが、昨年(平成25年)12月19日に、新潟の白根第一土地区画整理組合について、新潟地方裁判所が破産手続開始決定を出したようです。そして、この事実を報道する新潟日報の平成25年12月20日の記事によると、「土地区画整理組合が破産開始決定を受けたのは、岩手県の組合に続き全国で2例目」ということですので、既に岩手県でも土地区画整理組合の破産事例が発生していたようです。

上記の破産事例が、換地処分まで終了した組合なのか? 仮換地指定によって移転が発生していたり、保留地予定地の売却をしている組合の場合、どのように破産管財業務を進めるのか、特に換地処分前の組合の場合、破産管財人が換地処分まで行うのか等々、興味がつきないところですので、注目していきたと思います。
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大野屋
(弊事務所から見ると、三原橋の交差点のちょうど向かいにある足袋、手ぬぐいを売っ

ている大野屋さんです。HPによると明治元年から創業しているとのこと。店のたたず

まいから、伝統的な銀座が感じられますね。


土地区画整理組合の事業資金が不足する場合、組合は組合員から賦課金を徴収して、事業資金にあてることができますが(土地区画整理法40条1項)、組合員に賦課金を課すには、組合員で構成される総会の決議を経なければなりません(土地区画整理法31条7号。なお、総代会制をとっている組合では、総代会決議を以て総会決議に代用できます。土地区画整理法36 条1項・3項参照)。
つまり、総会の決議がない限り、組合は組合員に賦課金を課すことができないのです。そこで、組合の執行部が賦課金を課すことによって、資金不足の問題を解決しようとする場合、まず総会で賦課金決議が通るように組合員を説得する必要があります。
ただ、実は、組合員とはいっても大部分は事業に積極的に関わっている人ではありませんし、中には、事業に反対している人もいますので、組合員を説得するのは大変です。
そこで、私の経験から、賦課金の負担について組合員を説得する論理・方法というものを考えてみたいと思います。

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私は、経済的に立ち行かなくなった土地区画整理組合の代理人として、地方公共団体(市町村)に助成をお願いしたり、金融機関に債権放棄をお願いしたりする仕事をよくやらせていただいております。

その際、地方公共団体からよく言われることが、「組合に助成(補助金)を支出すると、市長が住民訴訟で訴えられて、多額の損害賠償金を負わなければならなくなるから、助成できない。」というものです。

このような発言の背景には、地方公共団体が、組合救済のために助成したところ、(市政の動きに敏感な)市民から市長等を被告として住民訴訟が提起されることが多くなったことが挙げられます(確度の高い統計資料を有している訳ではありませんが、私の実感としてそう感じます。)。
誰でも、裁判で被告にされて、損害賠償を請求されるのは気持ちが良いことではありませんので、このような住民訴訟の頻発という現象を受けて、地方公共団体が組合の助成に消極的になっている現在の傾向には、やむを得ない面もあるでしょう。

しかし、組合救済のために助成(補助金の支出)したからといって、本当に住民訴訟で負けて、市長等が損害賠償を負わなければならないのでしょうか?
答えは、No です。
もちろん、絶対に、というわけではありませんが、今のところ、組合に対する金銭的な補助金の支出が違法と判断されたケースを私は知りません。

個々のケースを説明すると長くなりますので、基本的な考え方を説明しましょう。

まず、地方公共団体は、「その公益上必要がある場合」に、寄附又は補助をすることができますが(地方自治法第232条の2)、何が「公益上必要か」否かについては、様々な行政目的を斟酌した政策的な考慮が求められるため、各公共団体の判断によるべきであり、その判断に特に不合理又は不公正な点のない限りこれを尊重すべきと考えられています。そのため、「公益上必要がある場合」の要件に該当するかどうかの判断については、地方公共団体の長等に権限付与されており、その権限行使に逸脱、濫用がない限り、適法と解されているのです(判例・通説)。

他方、おそらく住民訴訟を提起する市民側は、組合施行の土地区画整理事業は、施行地区内の地権者が、農地等を宅地に変えて、土地の値上がり益を享受しようとする事業というようなイメージでいるのかな?と思いますが、法律上はそうではなく、(確かに、「宅地利用の増進」という地権者側の利益もありますが、それ以外に)、道路、公園、上下水道等の公共施設の整備改善や健全な市街地の造成を図るといった公的な目的を有している事業なのです(土地区画整理法第1条、第2条参照)。

この点で、忘れてはならないのが、我が国では、市街地の造成等の街づくりを行う場合、地方公共団体が直接行うと反対住民等の矢面に立ち、事業がなかなか進まないため、地域住民に土地区画整理組合を設立させて、土地区画整理事業を行わせる場合が多いということです。その場合、(今は少なくなりましたが)市町村の職員が組合事務局に派遣されて、事業が進められることが多かったため、実質的には、市町村施行と変わらないわけです。このような市町村が主導し、強く関与している組合については、一層強い公的な目的を有しているということができるでしょう。

このことを更に法律的に説明すると、土地区画整理組合には公共性があるからこそ、その施行地区内に土地を有する地権者は、たとえ事業に反対していたとしても、自動的に組合員とされ(土地区画整理法第25条第1項)、土地区画整理事業のために、土地の減歩を強制される等の財産権の制限を受けることになりますし、また、土地区画整理組合の設立には都道府県知事の認可が必要とされるとともに(同法第14条)、都道府県知事に監督権が認められ(同法第125条)、さらに、都道府県及び市町村が、組合に技術的援助をするものとされているのです(同法第123条第1項)

実は、国土交通省は、バブル経済崩壊後の地価の下落の影響で経済的に破綻する土地区画整理組合が増加している状況を受け、破綻組合に対する地方公共団体の技術的助言のあり方を整理するために、平成18628日付「組合施行による土地区画整理事業及び市街地開発事業の経営健全化に向けた対応方策について(技術的助言)」を公表しています。
この組合経営ガイドラインでは、組合の経営再建の基本的な考え方として、「土地区画整理事業は極めて公共性の高いものであり、また施行地区内の地権者の権利関係を不安定にすることは避けなければならないため、土地区画整理事業を中途で頓挫させるわけにはいかず、できる限りの手段を講じ、事業の完遂を図るべきである。」とし、①組合側の自助努力策として再減歩・賦課金等が、②地方公共団体の支援策として助成等が、③債権者による支援として特定調停等による支援等が、それぞれ紹介され、さらに、「土地区画整理事業は、その性質からも、事業の完成を目指し再建を図ることが望ましい。このため、組合自らが事業を継続することが困難となった場合に、土地区画整理法第128条の規定に基づき、第三者が事業を引き継ぎ事業を完了させることも考えられる。事業を引き継ぐ主体としては、地方公共団体や地権者等が出資する区画整理会社が想定される。」として、地方公共団体の『事業の引継ぎ』にまで言及しているのです。

以上から明らかなとおり、土地区画整理組合は、法律上公的な事業を行っている公的な存在であり、組合が経済的破綻の危機に瀕しているときには、むしろ地方公共団体が救済することが期待されているのであって、公益上の必要性(地方自治法第232条の2)の該当性判断については、まず問題ないように思います。

土地区画整理組合を救済する必要性は、このような抽象的な必要性にとどまりません。
仮に土地区画整理組合を救済しないとすると、施行地区内の地域の発展の停滞・荒廃化を招きますし、いずれ事業は事実上停止状態に追い込まれ、いつまでも土地の形状と登記が一致しない状態が続き、その結果、施行地区内の土地の流通も制限され、土地利用が進まず、ますます地域が荒廃する可能性があります。

さらに仮換地や保留地購入者の不満は、監督権者であり、かつ技術的助言をしていた地方公共団体に向かうことが予想されるのです。このようなことは結局、地方公共団体に対する不信感の蔓延につながり、地方公共団体の業務に対し直接又は間接的に悪影響を及ぼすと考えられます。

それに対して、土地区画整理組合を救済する場合のメリットは、仮に、地方公共団体が組合を救済し、土地区画整理事業が完成した場合、地域に良好な住宅地ができることになるため、人口が増え、人の活動が活発化し、それに伴い、住民税、固定資産税・都市計画税等の税収が増えることにもつながります。

以上のとおり、救済しないことのデメリット、救済することのメリットを見ても、公的目的を有する土地区画整理組合を救済し、そのことにより、公的な性質を有する土地区画整理事業を完成させることが、地方自治法232条の2に定める公益上の必要性を判断するうえで、著しく不合理などと解させる余地はかなり少ないということが言えるでしょう。

ただ、一点付け足すと、組合の自助努力も必要だということは強調したいと思います。
これは、単に行政のみが負担し、組合員側が何もしないということになると、(事業による土地の価値の増加という側面はあるため)補助金の支出が、施行地区内の市民を過度に優遇する結果になる場合があるからです。
しかし、私のような弁護士のところまで持ち込まれる案件は、相当程度、組合の財産状況が悪化し、事態が深刻化しているのが通常で、その反面として、組合員側も何か対策はないかを検討し、再減歩や賦課金による自助努力を行ってるところがほとんどです。つまり、市町村が助成しても、一部の組合員の利益になるなどということは、起きない場合が殆どです。

もっとも、実際の実務では、地方公共団体側もこの辺の事情はわかっていて、本音は、地方公共団体自体が財政が苦しいから助成できないが、それを正面からは言えないため、住民訴訟のことを理由にすることが多いようです。

複雑ですね。

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よく顧問先の土地区画整理組合から組合の文書開示について相談を受けることがあります。
組合員の方から正当な権利行使として組合に文書開示の要請がある場合には、当然のことながらその文書を開示しなければなりませんが、中には、事業に反対する組合員の方が、突然、組合事務所を訪問して、「全ての理事会議事録をコピーさせろ!直ぐにさせろ!」と騒ぎ立てるような、嫌がらせとしか思えないケースもあり、組合の事務局が対応に困っているという話がよくあるのです。

ところで、この文書開示について、土地区画整理法はどのように定めているのでしょうか?

まず、土地区画整理法上、個々の組合員に閲覧謄写請求権が認められる(注1)のは、以下の書類です。
(1)  定款、事業計画に関する図書、換地計画に関する図書(土地区画整理法841項)
(2)  土地区画整理事業に関し、組合が受けた行政庁の許可その他処分を証する書類(同法施行令731号)
(3)  組合員名簿、総会及び総代会の議事録並びに通常総会の承認を得た事業報告、収支決算書及び財産目録(同法施行令732号)(注2)
(4)  施行地区内の宅地について権利を有する者(所有権以外の登記のない権利で土地区画整理法851項及び2項の申告のない権利または同法853項の移転・権利削減の届出のない権利を有する者は含まれない)の氏名(法人にあっては名称)及びその権利の内容を記載した簿書(同法施行令735号)

(注1) ただし、「正当な理由」があれば閲覧謄写請求を拒否することができます。

(注2) なお、事業報告書、収支決算書及び財産目録については、過去のもの以外に、これから通常総会の承認を求めようとするものについては、通常総会の5日前までに主たる事務所に備え置かなければならないとされ、それらの書類についても、組合員に閲覧謄写請求権が認められています(土地区画整理法32条)。

次に、(個々の組合員からではなく)組合員から、総組合員の10分の1以上の同意を得て請求があった場合には、上記の書類以外にも、組合員には広く「会計の帳簿及び書類」の閲覧謄写権が認められます(同法28条9項)。

以上が法律の定めですが、組合施行の土地区画整理事業は、直接的には、組合員のために行っている事業ですから、組合の事業に支障が生じたり、組合員のプライバシーや個人情報保護の問題と抵触したりしない限り、上記にない文書についても開示に応じても良いし、むしろ積極的に応じるべきと考えます。手続的には、法律で開示しなければならない文書以外の文書については、理事会において開示又は非開示を判断するのが適当です。

ただし、前述のとおり、組合員が突然組合事務所を訪れ、大量の文書開示を要求するような事態も現実に発生していますので、文書開示について一定のルール作りが必要でしょう。多くの組合では定款で、そのようなルールを理事会で定めることができることになっていますので、

① 文書開示の申込方法(所定の申込書の提出等々)

② 開示・非開示の判断(理事会又は理事会から委任を受けた理事長が申込みから〇日以内に判断する。期間内に判断しなかったときは開示の判断があったと見做す。等々)

③ 文書閲覧・交付の方法(組合事務所で閲覧・交付又は組合員の住所に郵送、等々)
④ 料金(コピー1枚〇円)

というような文書開示規程を定めておくことをお勧めします。

以上

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1.土地区画整理組合とは何か?

 土地区画整理事業とか土地区画整理組合とかいうと馴染のない方も多いかもしれません。そこでまず、土地区画整理事業とか土地区画整理組合とは何かというところから説明しましょう。

 土地区画整理事業とは、土地区画整理法に基づき施行される事業のことです。土地区画整理法第1条によると、「公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、土地の区画形質の経項及び公共施設の新設又は変更を行う事業」と定義されていますが、イメージ的にいうと、一面田んぼで土地の区画もばらばらな地域を市街地化するために、道路、上下水道、公園等の公共施設を整備し、田んぼを宅地化して、さらに土地の区画を整備しなおす(土地登記の区画も整備もする)事業のことなのです。よく郊外や地方にいくと駅前などで「○○土地区画整理事業」などと看板が掲げられているところが見られますが、そのようなところで土地区画整理事業が行われているのです。

 土地区画整理事業のやり方としては、施行地区内に土地を持っている地権者が少しずつ土地を供出して(これを「減(げん)歩(ぶ)」といいます。)、その供出された土地で、道路、公園等の公共施設を整備するとともに、「保留地」を作って事業資金の調達のために第三者に売却するという方法をとります。他方、もともとの地権者に対しては、通常、もともとの土地(「従前地」といいます。)の価値に応じて仮換地の指定がなされて、工事や保留地の売却が終了した後に換地処分が行われ、登記上も区画が整備された土地を取得することになるのです。

 このような土地区画整理事業は、市町村などの地方公共団体が施行主体となることもあれば(同法3条3項)、一定の地区の地権者が、その地区の地権者の3分の2以上の同意を得た上で、都道府県知事の認可を受けて組合を設立し、その組合が施行主体となって行われることもあります(同法3条2項、14条、18条参照)。この場合の組合が「土地区画整理組合」です。ちなみに、土地区画整理組合は、民法上の「組合」とは違い、自らが権利を有し義務を負担することができる「法人」です(同法22条)。  

2.地方公共団体と土地区画整理組合との関わり

 ところで、市町村等の地方公共団体が土地区画整理事業の施行者となる場合を「公共団体施行」、組合が施行者となる場合を「組合施行」などと呼ぶことがありますが(法的にはこの区別ははっきりしているものの)、実態的には、この区別が曖昧な場合が多いのです。

 というのは、地方公共団体側がある一定の地区を市街地化しようとする場合に、自らが地権者側と対立的な立場に立たされることを回避するために、その地区の自治会等に働きかけて、地権者に土地区画整理組合を設立させ、土地区画整理事業を行わせることがあるからです。

 形式的には組合施行ですが、実質的には、公共団体が主導して組合が設立され、事務局の運営も公共団体の職員又はOBによって行われ、地権者(組合員)側の意識としても、自らが事業を行っているという意識が希薄である場合が多くあります。そのため、ひとたび組合が破たんし、組合員に責任の分担が求められるようになると、組合員の公共団体に対する不満が噴出し、公共団体に強く支援(助成)要請がなされることになります。この点は後述します。  

3.土地区画整理組合の窮境の原因
 では、どうして土地区画整理組合が、現在、経済的破綻に陥っているのでしょうか。

 その原因は、多くの場合、バブル経済の崩壊に伴う地価の下落に求められます。すなわち、組合では、農地を宅地化したり、区画を整備したりするための事業資金が必要になりますが、その事業資金は前述した通り、組合員である地権者の土地を減歩し、保留地予定地を作り出して、これを第三者に売却することによって調達されます(土地区画整理法96条1項参照)。

 しかし、保留地予定地が販売できるようになるまでには工事等に時間がかかるので、それまでの繋ぎの事業資金として、金融機関からの借入が利用されているのです。かつての右肩上がりの土地神話が有効であった時代には、このような借入れをしても何ら問題はありませんでしたが、バブル期に設立された組合は、高騰した地価を基礎に事業計画が立てられているにもかかわらず、バブル崩壊によって保留地予定地をかなり安く売らざるを得なかったため、結局、事業資金に不足が生じ、金融機関に対する返済資金ができなくなっています。

 これまでは、利息を支払うことによって、何とか問題の解決を先延ばしにしてきましたが、近時は利息すら支払えない組合も多く、金融機関が組合を相手方として裁判所に貸付金返還訴訟を提起するなどして、この問題は表面化してきています。実数を掴んでいるわけではありませんが、全国的には経済的に破綻し、事業が事実上凍結状態にある組合がかなり存在すると聞いています。  

4.再建の方向性

 土地区画整理組合の再建には、一般事業会社の再建のように、企業の永続性を考慮する必要がないため(つまり、土地区画整理をやり遂げれば、あとは解散となる)、比較的単純です。組合には、保留地予定地という財産があるので、まず何よりも、これを売却して資金化することが必要です。その上で土地区画整理事業を完成するのに足りない事業資金は、再減歩または賦課金により、組合員の自助努力で賄うことが原則になります。

 ただし、ここで念頭に置いている破綻組合の多くは、設立から相当の年数が経過しており、既に施行地区内の土地利用が進んでいて、改めて再減歩を行うことが事実上不可能である場合が多いため、具体的な自助努力の方策としては、賦課金が選択される場合が多いと思われます。そして、それでも足りない事業資金については、地方自治体に助成を求めたり、金融機関に債権放棄を求めたりすることで解決を図ることになります。

 この、

① 保留地予定地の売却

② 組合員からの賦課金の徴収

③ 地方公共団体への助成要請

④ 金融機関への債権放棄要請

 の4点が再建策の柱になるのです。
5.法的手段の選択

 このような土地区画整理組合の破綻案件を処理するのに、どのような法的手段を選択するのが適当でしょうか?実務家として真っ先に思い浮かぶのが破産手続です。

① 破産手続

 学説では、そもそも土地区画整理組合が破産をすることができるか否かを巡って争いがあります。かつては公法人である土地区画整理組合には破産能力がないとする見解が通説でしたが、今日では、破産清算の結果、法人格を消滅させることを是認できない国や地方公共団体の他、その法人限りで資産・負債の精算の必要のないものを除き、広く破産能力を認めるべきであるというのが有力な見解です。

 しかし、これまでの実務では、土地区画整理組合に破産手続が利用されたことは報告されていません。

 私としても、理論の点は措くとして、実務的な観点からすると、破産手続では、土地区画整理組合の破綻を適切に処理することは難しいと考えています。

 なぜなら、第一に、経済的に破綻している組合の大部分は、換地処分に至る前に、金融機関に対し借入金を返済できず、事業が頓挫している組合だからです。したがって、組合の唯一の財産というべき保留地は、まだ保留地『予定地』の段階にあり、未だ組合の所有物ではなく(土地区画整理法 104条11項参照)、破産管財人がこれを換価しようとしても、換価のしようがないのです。つまり、この時点での組合には、自己の資産がないので、破産手続を利用すること自体に無理があるのです。

 第二に、仮に破産管財人が事業を継続して、換地処分を行うことを前提にするとしても、換地処分を行うには、調査設計費などに数千万単位でお金がかかるので、その資金をどこから調達するかという問題が生じます。組合員から賦課金を徴収するには、組合員で組織される総会の決議が必要ですが(同法31条7号)、組合員との間に地縁的な繋がりのない破産管財人が、組合員に賦課金の負担を説得するのはかなり難しいでしょう。

② 民事再生手続

 では、民事再生手続であればどうでしょうか?民事再生手続であれば、組合事業の継続を前提としますし、かつ、(管財人ではなく)組合自身が事業を遂行できますので、破産手続よりは破綻処理に適しているものといえます。実際にこれまでに、二つの土地区画整理組合の破綻処理において民事再生手続が利用されているようです。

 ただし、一部に誤解があるようですが、民事再生手続を利用すれば、組合員が賦課金を負担しなくてもよくなるというわけではありません。民事再生手続においても、金融機関側は、組合員の賦課金による負担を求めるのが通常であって、それがなければ債権者集会で再生計画に賛成してもらうことは難しいのです。

 そもそも、通常の組合にとって、取引銀行は1行~5行程度(しかも、地銀、信金、信組、農協が殆ど。)であって、民事再生手続を利用しなければ処理できない債権者数でもありません。

 したがって、私としては、特に金融機関側から民事再生を利用するようにとのリクエストがある場合や、多数決原理によって再生計画の成立を強制できる見込みが立っているような場合を除いて、民事再生手続を選択することは適当ではないのではないかと考えています。

③ 私的整理・特定調停

 以上から、土地区画整理組合の破綻処理には、手続が柔軟な私的整理や特定調停が適当なのではないかと考えています。ただし、最近の実務の傾向として、行政や金融機関は、手続きの透明性を担保のため裁判所の関与を求めてくる傾向があるため、その意味では、特定調停の利用が最も適当なのかもしれません。組合が金融機関から訴えられている場合には、訴訟の中で和解をすることが考えられます。  

6.再建のポイント

 最後に、私が考える土地区画整理組合再建のポイントについて触れることにします。

① 賦課金について

 まず、なんといっても賦課金についてです。ここでの法律関係を説明すると、金融機関は、組合員に対して、直接、組合に対する貸付金の返済を請求できるわけではありません。まして、個々の組合員に対し、組合に賦課金を納付するよう請求できるわけではありません。組合員は、組合の総会で、賦課金の額及び賦課金徴収方法が決議されない限り、組合員に対して賦課金納付義務を負わないのです(土地区画整理法31条7号)。

 それにもかかわらず、金融機関側が、賦課金決議を求めてくるのはどうしてでしょうか。それは、金融機関にとってみれば、金融機関から借り入れた資金によって施行地区内が整備され、それによって個々の組合員の土地の価値が増加したのですから、その増加によって得た利益のいくらかでも、借入金の返済のために吐き出してもらいたいということでしょう。そうでなければ、金融機関の犠牲のもとで組合員のみが利益を得ていることになり、金融機関側としては到底容認できない結論なのだと考えられます。実際、私が調べた限り、組合員が賦課金を決議せずに、金融機関が債権放棄に応じた案件はないようです。

 ただ、ここで問題となるのが、果たして賦課金の額をいくらにしたらよいかという問題と、組合員に対し賦課金の負担をどのように説得するかです。

 前者については、組合員が得た利益とはいっても具体的な金額で表せるようなものではなく、一義的な答えがあるわけではありません。結局、組合の借入金総額、施行地区内の土地の時価水準、組合員の負担能力、他の同規模の組合との比較などを勘案して、適当な落とし所を求めるしかないのでしょう。

 次に、後者も難問です。法律的には、組合員が賦課金を負担せず、金融機関との間で再建計画の合意が成立しないのであれば、組合はいつまでたっても換地処分ができず、組合員は換地に応じた登記を取得できません。いわば半完成品のような土地を取得したままの状態が続くことになります。

 しかし、単に仮換地を使用するだけでよいと考えている組合員にとっては現状のままでも何らかの不利益があるわけではありません。したがって、そのような組合員にとっては、賦課金を負担するインセンティブを欠くこととなり、賦課金決議に反対することが多いのです。私としては、それはそれで仕方がないので、組合員にありのままの法律関係を誠実に説明し、その判断を仰ぐしかないと考えています。

 実際の案件では、賦課金の総会を開催するまでに、何度も賦課金に関する説明会を開催し、また、組合員から寄せられた典型的な質問にはQ&Aを作成して、これを配布するなどして、賦課金に関する理解を深めていただくことになります。さらに、総会直前には、理事や総代に各組合員を個別に訪問していただき、総会への出席や賦課金への賛成を説得していただくことになります。組合員といっても、大きな組合では1,000人を超えることもあり、その多くはサイレント・マジョリティなので、このようないわば選挙活動のようなことをしなければ、実際には、総会で賦課金決議を得ることは難しいと感じています。

② 保証人の取り扱いについて

 保証人の取り扱いは、土地区画整理組合の再建にとって難問中の難問の一つです。組合の借入れについて、一般に理事が連帯保証人となっていることが多く、金融機関との間で和解等を行うには、この理事の保証の問題をどのように取り扱うかが問題です。

 一般の会社の再建案件であれば、代表取締役等が保証人になっている場合、保証人である以上、自己破産していただくか、自分には財産がないことを証明してもらうか(あれば金融機関への配当にあてていただく)ということになるでしょう。

 しかし、土地区画整理組合の場合、理事は、公共事業に協力するつもりで保証人になっていることが多く、本当に保証意思があったといえるか疑問があるケースが多々見受けられます。それに加えて、理事には、金融機関との和解が成立した後も、組合員からの賦課金の徴収等で働いてもらわなければならず、その理事に自己破産をするのと同じ程度の個人負担を求めることは期待できません。多くの組合において理事の高齢化が進んでおり、新たな理事の担い手もいないことも問題を複雑にしているのです。

 そこで、組合の連帯保証人(理事)については、あえて責任を追及しない取り扱いや、一律一定額までの負担で保証を解除するような柔軟な取り扱いができないか、という点が今後の課題となると考えています。

③ 地方公共団体の助成

 前述のとおり、多くの組合では、市や町といった地方公共団体が設立や運営に深く関与しており、組合員からも、地方公共団体側の責任を問う声が強いのが普通です。

 私としても、法的責任の有無は別にして、行政側が組合の設立及び運営に積極的に関与しているような組合については、行政の助成がなされることが適当であると考えています。なぜなら、土地区画整理事業には、公共施設を整備し、健全な市街地を造成することにより、公共の福祉の増進に資するという公共目的が含まれているのであって(同法1条参照)、単に施行地区内の地権者の利益だけのために行われているわけではないからです。また、地方公共団体側が事態をこのまま放置し、地域の荒廃を招くとすれば、全体にとってより大きな不利益になるでしょうし、設立や運営を主導していた行政が、何らの負担もしないことになれば、行政への信用が失われ、無形のダメージが発生すると考えられるからです。

 ただ、近時、市民オンブズマンなどの活動により、地方公共団体が組合救済のために助成金を支出すると、地方公共団体の長に対して住民訴訟が提起される傾向があります。私としては、日韓高速船事件の最高裁平成17年11月10日判決の示す基準からして、議会決議等の一定の手続きを踏めば、そのような住民訴訟を提起されても、地方公共団体側が敗訴する可能性はほとんどないと考えていますが、住民訴訟が頻発していること自体により、現実には、行政に対して相当の委縮効果がもたらされているのでしょう。

 組合側の弁護士としては、地方公共団体側が、組合を助成しやすいように、裁判所を関与させ、あえて裁判所から和解勧告を出してもらったり、調停手続きでは、いわゆる17条決定を出してもらったりするなどの手段を講じることが有効であるように思われます。 
弁護士 飛田 博
2010年12月8日

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1. はじめに

  土地区画整理組合の仕事(特に再生の仕事)をしていると、よく組合員の方から「土地区画整理組合は破産できるでしょうか?」という質問を受けます。何故こんな質問を受けるかというと、組合の財政が苦しくなり、組合員に賦課金の負担を要請しなければならない段階になると、組合員の方でも、「いっそのこと、組合は破産してしまえばよいのではないか?そうすれば自分たちが賦課金を負担する必要がないのではないか?」との発想になるからのようです。つまり、賦課金を負担するぐらいなら、組合を破産させてしまおうと考えての質問であることが多いようです。

  では、初めの質問に戻って、そもそも土地区画整理組合は、破産できるのでしょうか?この問題は、講学上は「土地区画整理組合の破産能力」というテーマで論じられています。「破産能力」というと、「破産するのに何か特別な能力を要求されるのか」などと、変な感じがしますが、法律用語で「破産手続開始決定を受け得る資格」とか「債務者が破産者たり得る資格」とかいう意味です。一般には、個人、法人、法人でない社団等に破産能力が認められ(破産法第13条、民事訴訟法第28条、第29条)、さらに、破産法上、相続財産や信託財産にも破産能力が認められています(破産法第10章、第10章の2)

  一介の実務家である私がこの問題を論じてもあまり影響力はないかもしれませんが、よく質問される問題なので、自分自身のためにも、ここで整理しておきたいと思います。私が知る限り、いまだ土地区画整理組合が破産手続を利用した実例はないので、ここでの議論は、判例上どうなっているかではなく、理論的にどのように考えるべきかという問題になります。 

2. 破産法学者の見解

  この問題は、伝統的には、「公法人に破産能力が認められるか?」という論点の応用として考えられてきました。公法人とは、「国家のもとに特定の国家的・公益的事業を行うために設立された法人」と定義され(注釈民法〈新版〉(2) 15頁〔林良平〕)、土地区画整理組合も土地区画整理法という法律のもとで公益的事業を行う公法人と考えられているからです。

  そして、従来、破産法学者の世界では、公法人に対しては破産能力を否定するのが通説的見解でした。その理由としては、「破産の宣告があれば、債務者の総財産は破産管財人の占有管理に移され、債権者のために換価処分に附されるので、公法人はその公共的機能を果たすことができなくなる。債権者の私的利益のために公法人の公共的使命の達成を不可能にすることは許されない。」(兼子一著『破産法』142頁(青林書院新社))というのです。しかし、この通説的見解は、総論としては公法人の破産能力を否定しながらも、各論として、土地改良区、土地区画整理組合、健康保険組合等の公共組合については、「公共的色彩の薄い公共組合などは別途考慮すべきものがある。」とし、これを規律する各法律の定めを検討することにより破産能力の有無を検討すると考えます。では、土地区画整理組合はどうなるのかというと、実は、あまり深く論じられていません。結局のところ、土地区画整理組合に破産能力が認められるか否かは判然としませんでした。

  しかし、最近では、「公法人の事業がいかに公共的であっても、支払不能や債務超過に陥り、清算の必要があるときには、破産手続の開始を認めるのが合理的である。」とする有力な見解が見られるようになりました。これは、「いわゆる本源的統治行為と呼ばれる国家や地方自治体などについては、破産清算の結果、法人格が消滅することを法秩序上是認しえないから、破産能力が否定されるが、それ以外の公法人については、破産能力を肯定できないものは、その法人限りで資産・負債の清算をする必要のないものだけである。」(伊藤眞著『破産法・民事再生法(第4版)』60頁(有斐閣))と考え、法に特別の規定がない限り、公法人にも破産能力を認めるとするものです。この近時の有力説からは、「土地改良区や土地区画整理組合についても同様である。」(伊藤・前掲書61頁)とするので、(土地区画整理組合の場合、債務超過に陥っても国や地方公共団体が当然に債務を引き受けてくれるわけではなく、その土地区画整理組合限りで資産・負債の清算をする必要があるということになりますので)土地区画整理組合の破産能力は認められることになるでしょう。 

3. 土地区画整理の実務家の見解

  しかし、このような土地区画整理組合の破産を認める考え方は、土地区画整理の実務家の間では、あまり評判がよくありません。おそらく、実務に鑑みると、次のような不都合があるからだと思います。

①      経済的に破綻している組合の大部分は、換地処分に至る前に、金融機関に対し借入金を返済することができず、事業が頓挫している組合です。したがって、組合の主要な財産というべき保留地は、いまだ保留地『予定地』の段階にあり、組合の所有物ではなく(土地区画整理法第104条第11項参照)、破産管財人がこれを換価しようとしても、換価しようがないと思われるのです。したがって、換地処分前の組合には、預金、多少の事務用品などを除けば、ほとんど資産が無い状態なので、この時点で破産手続によって清算を行うことは、意味がないということになりそうです。それどころか、破産管財人は、既に道路や宅地造成等の工事が行われた部分、建物等の移転が行われた部分、販売済みの保留地予定地部分(購入者の家が建っていることが多い)等について、(換地処分が行われる見込みがなく、従前の権利関係が維持されるので)現状を土地区画整理事業が開始される前の状態に戻す必要があると解するとすれば、組合の資産はほとんど無いのですから、およそ破産手続の遂行自体が不可能な場合も多いということになります。

②      また、仮に管財人が裁判所の許可を得て事業を継続し(破産法第36条)、少なくとも換地処分まで事業を行うことを試みるとしても、換地処分を行うには、未払工事費と(換地処分のための)調査設計費などに数億円から数千万単位でお金がかかることが想定されますので、その資金をどこから調達するかの問題が発生します。保留地予定地を売るにしても、破産した組合から、しかも換地処分ができるか否か不透明な組合から購入しても良いと考える買主は普通はいないように思われますし、組合員から賦課金を徴収しようとしても、賦課金の聴衆には、組合員で組織される総会の決議が必要なので(同法第31条第7号)、組合員との間に地縁的な繋がりのない管財人が、組合員に賦課金の負担を説得することはかなり困難であるということが言えると思います。

③      さらに、破産管財人は、弁護士が選任されるのが通例ですが、多くの弁護士は土地区画整理事業のことを知らないので、そのような者にたとえ換地処分までであったとしても、土地区画整理事業をまかせて大丈夫かとの心配もあるでしょう。事業の進捗に従い必要となる行政の許認可の取得についても、行政との事前の綿密な打ち合わせが必要とされるので、弁護士の破産管財人では支障が生じる心配もあります。

  そこで、(土地区画整理法について多くの著書がある)大場民男弁護士は、「土地区画整理組合が事業執行中においては、総会(総代会)、理事、監事等の機関のもとで事業目的を達成させるべきであって、破産管財人に事業の執行を委ねるべきでないので破産を認めるべきではない。」(大場民男『土地区画整理組合に対する融資・回収上の諸問題(11)』銀行法務21・612・72)と主張されています。条文上の根拠としては、平成18年6月の公益法人制度改革による改正前の民法第81条第1項は「清算中に法人の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続の申立てをし、その旨の公告をしなければならないと規定されていたところ(現在は、一般社団・財団法人法第215条に受け継がれている。)、土地区画整理法にその種の規定がないのは、土地区画整理組合の破産を否定したからであると考えることになります。

  しかし、大場弁護士も、土地区画整理法第45条1項4号が定める「事業の完成又はその完成の不能」により解散に至る場合についても、破産があり得ないのかという問題については、「賦課金の決議を得ることは容易ではなく、借入金があるときはその債権者の同意がなければ解散も出来ず、仮に解散しても債権放棄がなければ清算結了もできないということでは、好ましくない状態が永続することになる。解釈論として破産ができるとの説に与し得ないが、立法的に破産を考えるべき時代が到来したように思う。」(大場・前掲論文(11)72頁)とも述べており、破産手続きの利用を認めるべき場合もあるとも考えているようです。

4. 私の見解

  では、どのように考えるべきでしょうか。私は、かつてこの問題を問われたときに、上記のような実際上の難点を考慮して、「換地処分前は破産能力が認められないが、換地処分後は(保留地・換地の登記も終了しており、組合を破産させても大きな混乱はないと思われるので)破産能力を認めることができるのではないか。」などと回答しておりました。

  しかし、破産能力が換地処分の前後であったりなかったりするのは理論的にはすっきりしません。したがって、最近は、「理論上は、土地区画整理組合には破産能力は認められるが、時期によっては破産手続の利用が適当でない場合がある。」というふうに説明するようにしています。このように考えるに至ったのは、一律に破産能力を認めないよりも、認めた方が適切な解決を導くことができるケースもあることに気が付いたからです。

 例えば、

①      設立後まだ間もなく、工事があまり進んでいない段階で、財政的な事情により事業が頓挫したような場合には、破産手続を利用し、事業自体を止めるのが適当でしょう。まだ工事もあまり行われておらず、保留地『予定地』の販売も行われていないような場合には、地域に混乱を引き起こすことなく、破産手続の遂行が可能であるとも考えられるからです。

②      ある程度事業が進んだ組合であっても、組合の執行部において不正が行われているようであるが、外部からはよくわからないというような場合(例えば賦課金等の組合財産が隠匿されていそうな場合)には、債権者としては、色々な困難が伴うとしても、裁判所が選任した破産管財人に関与してもらって、(少なくとも換地処分までは)公明正大に事業を進めてほしいという場合があると思います。この場合には、債権者申立てによる破産を認めるのが適当でしょう。

③      さらに、財政的に破綻し、組合員から賦課金を徴収できる可能性もなく、行政の助成金も、銀行等の債権放棄も期待できず、事実上、事業が凍結しているような組合の場合でも、破産管財人が関与すれば何とか工事を完成させ、換地処分まで到達できそうなケースの場合、事業を凍結したままの状態にしておくよりも、破産手続を利用した方が組合員にとっても、債権者(銀行)にとっても適当なのではないかと思います。

  上記②及び③の場合には、裁判所の事業継続についての許可を得て、破産管財人のもとで換地処分まで事業を進捗させることが必要になりますので、はたして残工事や調査設計費等の資金を調達できるのか、また弁護士の管財人に、実際問題として、土地区画整理事業を適正に行うことができるのか、などが問題となってきますが、資金調達の問題については、残保留地『予定地』の売却(換地処分が行われることを条件にして業者に一括して売却するようなスキームにすることになるでしょう。)、行政の助成金、組合員の賦課金等を利用することにより、(それぞれハードルは高いものの)不可能とまでは言えないと思います。また、破産管財人が具体的な区画整理事業や行政との交渉ができるかとの問題については、コンサル等の専門家を雇えばよいだけの話のようにも思うのです。

  要するに、私としては、土地区画整理組合の多くの案件では、破産手続の利用は適切ではないと考えるものの、前記の例のとおり破産手続でしか処理できない(又は破産手続きを利用した方がうまく処理できる)ケースもあるのであって、それにもかかわらず、破産能力を否定することによって、土地区画整理組合に破産手続利用の道を閉ざしてしまうのは適当ではないと考えている次第です。

  ただし、理論としては以上のとおりですが、(土地区画整理法関係の著作も多い)坂和章平弁護士が指摘されているとおり、土地区画整理組合の破産能力が認められることによって、「赤字を抱えて解散できないでいる土地区画整理組合や市街地再開発組合が、破産すればこと足りると考える風潮が蔓延することは妥当ではない」(土地区画整理実務研究会編『問答式土地区画整理の法律実務』1110ノ31頁(新日本法規、平成11年3月))ということはいえると思います。

  したがって、賦課金を負担したくない等の安易な理由から破産手続が利用されることは適当ではないし、あくまでも破産手続の利用は、行政による公的支援、組合員の賦課金負担、債権者の債権放棄などの手段が尽きたときの最後の手段と考えるべきであると思います(注)

 

(注)

 土地区画整理組合の破産能力を認めることによって懸念されるのは、事業に反対の組合員や、賦課金の負担に反対の組合員から、濫用的に破産の申立てがなされないかということだと思います。しかし、具体的に考えてみると、破産法上、破産の申立権を認められているのは、原則として「債権者」と「債務者」です(破産法第18条第1項)。組合員自身は、組合の債権者ではなく、また、この条文にいう「債務者」とは、破産する者自身(つまり組合自身)のことをいいますので、通常の組合員は、組合に対する破産申立権を有していないということになりそうです。

 そうすると、次に懸念されるのは、破産法上、理事に破産申立権が認められていますので(破産法第19条第1項第1号、同条第4項)、理事会に内部対立などがあり、組合員に賦課金を課すことに反対の一部理事から、組合の破産が申し立てられるような場合でしょうか。

 この点で参考になりそうな判例は、広島高裁岡山支部平成14年9月20日決定(判タ1905-90)です。事案は、岡山市にある窮境に陥ったある再開発組合について、県の是正処理案に基づいて、行政の助成、債権者の債権放棄、組合員の賦課金の負担を柱とする清算スキームが進行中のところ、これに反対する一部理事から、組合の破産が申し立てられたというものです。これについて、広島高裁岡山支部は、①債権放棄をすることになる債権者が上記スキームによる弁済を希望しており、破産手続きによる清算を望んでいないこと、②そのほかの債権者も上記スキームの実行に同意しており、破産宣告の必要性に乏しいこと、③本件スキームは組合が窮境に至った原因を踏まえて総会で決議されたものであり、組合員の多数の同意を得ていること、を認定して、理事の破産の申立てを「申立権の濫用」として認めませんでした。

 したがって、仮に、まだ債権者や行政との間で再建に関する話し合いが続いているにもかかわらず、一部の理事から、破産が申し立てられたような場合には、このような破産申立権の濫用(破産法第30条第1項第2号)という理屈で対抗すべきなのではないかと考えています。

弁護士 飛田 博
2011年4月18日

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