最近、外資系企業に転職した友人から、アメリカ(本社)の法律が適用されると書かれた労働契約書にサインしたが、たとえ日本で働いているとしても、日本の労働法は守ってくれないのかという趣旨の質問を受けました。そこは飲み会の席だったのですが、サインをしたかに関わりなく、そもそも外資系企業には日本の労働法の適用はないので例えばアメリカの法律に従ったら解雇などは簡単にされてしまうのではないかと考えている人もいました。

 

日本の労働法には解雇権濫用法理(合理性と相当性を充たしていないと解雇ができない法理論)という労働者を保護する規定がありますが、もし外資系企業に就職してしまうと、このような日本の保護規定が労働者に適用されないのでしょうか?

 

ご承知のとおり日本には「労働法」という名称の法律はなく、労働基準法、労働組合法、労働契約法等と労働に関する法律がいくつかあり、これらをひっくるめて単に「労働法」と一言で表したりします。

労働法の中は、私法という私人間の関係を規律する法律と、公法という国家と私人との関係を規律する法律とに分かれており、一般的には、労働基準法や労働組合法は公法、労働契約法は私法というように区分されています。

公法に当たる労働基準法等は、属地主義といって、たとえ外国に本店を置く外資系企業であったとしても、労働者が日本国内の事業に使用されていれば、労働契約書にどう記載されていようが、適用されることになります。

 

一方、私法にあたる労働契約法等の場合においては、どこの国の法律を適用するのかということを予め当事者(使用者と労働者)との間で取り決めた場合は、その国の法律が適用されることになります(法の適用に関する通則法第7条)。

もし当事者間でどこの国の法律を適用するのかを決めなかった場合には、「最も密接な関係がある地の法」(最密接関係地法)によるとされています(通則法第8条)。

なお、労働契約法が先に述べました解雇権濫用法理を定めた法律になりますので(第16条)、日本は労働者を解雇するのが難しいという話は、私法である労働契約法の話になります。

 

さて、日本の解雇権濫用法理は労働者に有利ですので、労働者としては日本の労働契約法を適用させたいと思うところでしょう。

ところが、例えば上の話のように、本店をアメリカに置く外資系企業の日本現地法人に就職する際に、働く場所は日本であるにもかかわらず、「この労働契約には本社のある米国の○○州法が適用される」という内容の契約書を渡された場合、サインしないと就職できないし、かといってアメリカの法律は分からないし…と悩むと思います。

 

実はこの点は、仮にサインしてしまったとしても、労働者は自分が働く場所の強行法規(当事者の合意では排除できない法規)を適用すると意思表示した場合には、その強行法規が適用されることになるという労働者保護の規定が法律上定められています(通則法第12条第1項)。もし適用される法律を当事者間で合意していなかった場合には、労務提供地の法律が最密接関係地法と推定されることになり、労務提供地の法律が適用されることになります(同条第3項、第8条)。

上の例であれば、たとえアメリカの州法が適用されるという内容の労働契約書にサインしたとしても、労働者は強行法規である解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用を求めることができますし、この強行法規には判例も含まれると考えられているので、労働者は日本の労働法(のうち強行法規)によって保護されることになります。

 

したがって、たとえ外資系企業に就職したとしても、日本で働いていれば日本の労働法の適用はあり、また、たとえ外国法が適用されるという内容の労働契約にサインしたとしても、日本の労働法(のうち強行法規)の適用を求めることができますので、外資系企業だから日本の労働法の保護が及ばずに解雇が認められやすい、というのは誤りということになります。

 

それでも、外資系企業は一般に解雇が認められやすいといわれておりますが、このことは別の理由になります。

例えば外資系企業は、成果主義を取り入れていることが多く、また中途採用者も多いので、採用時に具体的な成果目標が決められていたり、元々それなりに重い責任を負った役職で採用されていたりするので、日本の新卒一括採用などのゼネラリスト採用とは異なった視点で解雇の有効性が判断されることになります。具体的な目標を定められ、地位を特定して採用されたほうが、目標に到達しなかった場合に解雇が有効と判断されやすくなります。ただし、そのような重い責任に見合った給与が支払われていることが前提となり、年収1,075万円以上(労基法第14条第1項の「高度の専門的知識を有する労働者」として厚生労働大臣が定める基準)が実務上の一つの目安とされています。外資系企業は高給だが解雇されやすい、というのはこういう理屈になります。

 

最近は売り手市場となり転職業界が活気づいてきており、また副業を解禁する企業も増えてきたことから人材交流が今後も盛んになっていくと予想されます。それに伴い働き方や働かせ方のバリエーションも増えてきますので、日本的企業がいいのか外資系的企業がいいのか、はたまた従来とは異なった企業形態がいいのかについて、使用者と労働者は一緒に考えて作り上げていければ良いのではないでしょうか。