一昨日(1月5日)にアップした記事の続報になりますが、昨日(1月6日)の夕刊に、マイケル・ウッドフォード元社長が、3月~4月に開催予定のオリンパスの臨時株主総会で仕掛けようとしとしていた委任状争奪線を『断念する』と正式に表明したことが報道されています。その理由としては、自らの議案を提出させるために必要な支持を主要株主(特に日本国内の機関投資家)から得られないと判断したことと、ウッドフォード氏の奥様にとって、衆目を集める争いによる不安定さや家族に向けられる敵意が耐え難いものとなっていることが挙げられています。ただし、昨年10月の取締役会で、オリンパスの代表取締役を解任されたことについては、不当解雇として提訴を求める方針であるとも報道されているところです。

 以上は、昨日(1月6日)午後のウッドフォード氏の記者会見に基づく報道とのことですので、これから更に続報が続くものと思われますが、さしあたって、(あくまでも報道からしか事態を知り得ない第三者的な感想ですが)感想を述べると次のとおりです。

1.昨年12月にウッドフォード氏が取締役を自ら辞任したことについて、下の記事では、「実は大株主等の有力なスポンサーがいて、かなり高い勝算があるのか、明確な勝算はないが、とにかく正義心からそうせざるをえなかったのかのどちらかだと思います。」と述べましたが、今回の件で、少なくとも大株主等の有力なスポンサーがいなかったことは明らかになったと思います。

2.ウッドフォード氏は、昨年10月に代表取締役を解任された件で、オリンパスを不当解雇として訴える方針のようですが、そうであれば、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を自ら辞任してしまったことについては、戦略として適当なものであったのか疑問が残ります。

 というのは、この種の紛争でよく行われる訴訟類型としては、(代表取締役を解任した)取締役会決議の効力を争い、依然として代表取締役の地位にあることの確認を求める訴え(又は仮処分)なわけですが、ウットフォード氏が、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を辞めてしまったことにより、取締役会決議の効力が無効となっても、もはや代表取締役には復帰できないため、そのような訴訟類型を選択する余地がなくなったと思われるからです(訴えても、訴えの利益なしとして却下されるものと思われます。)。

 したがって、提訴するとすれば、代表取締役を解任されたことが民法第709条の不法行為にあたるとして、損害賠償請求をするということになりそうですが、ただ、その場合、①不当な解任決議をしたのは当時のオリンパスの個々の取締役なので、訴える相手は、オリンパスという会社ではなく、(不当な解任決議に賛成した)個々の取締役になるのではないか?②自ら取締役を辞任してしまった昨年12月以降の分については、役員報酬の減額等について、代表取締役解任に伴う「損害」として観念し得ないのではないのか?という問題があるように思います。

 下の記事で触れたように、そもそも今回の件ではウッドフォード氏に、役員報酬の減額があったのか自体が問題になるところですが、仮にそれがあるとしても、上記②の論点で、取締役辞任後の役員報酬の減額等については損害を請求できないという結論になった場合には、ウッドフォード氏の損害の内容は、代表取締役解任やそれに伴うプレス発表により名誉等を傷つけられたことによる精神的損害が主なものということになそうです。しかし、精神的損害ということになると、せいぜい数千万円単位の請求金額に過ぎませんので、(もちろん我々にとっては大きな金額ですが)企業のトップにいたような方にとってはそれほど実益のある金額ではないかもしれません。

 今後、ウッドフォード氏がどのような訴訟を提起するかについても注目していきたいと思います。