この本は、フロイトやユングと並ぶ「心理学の三大巨頭」と称されるアルフレッド・アドラーの思想(アドラー心理学)を、先生と青年の対話形式で解説した本です。
私は、友達から勧められて読んでみましたが、非常にわかりやすいし、はっとして、考えさせられるようなところもありました。

(以下、ネタバレなので注意してください。)
私なりにこの本に書かれたアドラー心理学を要約(かなりの意訳)してみると、

1.我々の判断とか行動は、過去の経験によって決定されるのではなく、我々が経験に与えた意味により決定されているのだ。結果の前に原因がある(原因論)のではなく、まず目的があって、それに都合のよい原因をつくりだしているのだ(目的論)。たとえば、引き籠りの人は、「不安だから」外に出れないのではなく、「外に出たくないから」不安という感情を作り出しているのだ。この意味で、過去のトラウマが自分の思考を決定しているというような考え方は断固否定する。自分が不幸なのに変われないと思っている人は、実は、不幸のままでいることを自ら選んでいるのだ。自ら変わるかどうかは勇気の問題に過ぎない。

2.我々のすべての悩みは対人関係についてのものだ。他人より優れたいとか他人に認められたいというところから発生している。これに対処するには、自分の課題と他者の課題を分離することだ。他者の課題には介入せず、逆に自分の課題には誰一人として介入させてはいけない。このような「課題の分離」をすると、他人から嫌われるかもしれないが、自由とは、他者から嫌われることでもある。他者の評価を気にせず、他者から嫌われることを恐れず、承認されないかもしれないコストを払わない限り、自分の生き方を貫くことはできない。

3.しかし、「変わらないもの」と「変われるもの」はある。それは見極めて、そういう自分を受容(自己受容)しなければならない。そして、他者を仲間とみなし、そこに居場所をつくり(他者信頼)、他者に貢献する(他者貢献)。そこに人間の幸せがある。普通であることを認める勇気を持つ必要がるし、未来のために今頑張るというような生き方ではなく、今という刹那刹那にスポットライトをあてて、今を全力で生きなければならない。

通常の自己啓発書では、上記の1.と2.の記述で終わるのでしょうが、自己啓発本好きの人はよくお分かりのとおり、1.と2.があれば、自分がドラスティックに変われるかというとそうではありません。しかし、この本は、それに対する処方箋として、3.もあるのが新鮮に思いました。
私自身は、精神が体に影響を与えることは確かにあるものの、体の方が精神に影響を与えることもあると考えていますので、すべてアドラー心理学で説明ができるという訳にはいかならいだろうなと考えています(たとえば、会社を休みたくてうつ病になった人もいるのでしょうが、本当に脳のホルモンバランスの異常が原因でうつ病になっているケースも現実にあります。)。
しかし、最近のトラウマ全盛のような傾向には辟易していますし、過去の経験が現在を決定するかのような決定論的な考え方には確かに希望がありませんので、アドラーの考え方はとても魅力的だなと思います。
また、目的論的に考えると、すべての失敗の原因は自分自身にある(自己責任)ということになり、実は非常につらいわけですが、上記の3.のように考えれば、このつらさからも解放されるかもしれませんね。
私は、まだまだ競争に駆り立てられる資本主義的な生き方を否定できないのですが、この本のように考えられれば、ずいぶんと気持ちが楽になるのではないかと思いました。

ちょっと違う角度から物事を考えることができて、とても面白い本でした。
興味のある方には是非お勧めします。