宅建業者であるクライアントから、「自殺が重要事実に含まれることは知っているが、では、隣の家で自殺があったことも、重要事実(宅建業法4711号ニ)として説明しなければならないのか?」との趣旨の質問を受けることがあります。

 確かに、裁判例では、いわゆる「心理的瑕疵」の有無について、「目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥があるのか否か」、という基準に判断されており(東京地裁平成7531日判決など)、典型的には、建物の売買の際に、その建物「内」で過去に自殺があったといったケースで、心理的瑕疵が認められた例が多く存在します(大阪高裁平成26918日判決など)。

 しかし、ご質問のように、その建物自体ではなく、隣の家で自殺があったような場合はどうでしょう。これについては、自殺のあった建物自体ではないため、自殺のあった不動産から離れて、どこまで「心理的瑕疵」が認められるか否かが問題となります。

 この点について、裁判例をリサーチしたところ、1件だけ、土地上にかつて存在した建物内で、過去に殺人事件があったケースで、その隣地にも心理的瑕疵ありと認定されたケースがありました(大阪高裁平成181219日判決)。

 しかし、このケースは、

 ・自殺ではなく、殺人事件のケースであったこと

 ・報道によって殺人事件として近隣住民にも広く知れわたっていること

 ・殺人事件を理由に、別の購入希望者との土地売買の話が破談になった経緯がある
  こと(つまり、一般的にも、事件を知ったら、取引を中止する程に買いたくない
  土地、と認識されている)

 ・売買取引としても、事件があった土地と隣接地を合わせた、いわばセット(一
  括)での売買取引であったこと(つまり隣地ではあるが売買の対象にはなってい
  る)

 ・土地自体も比較的狭いものであったこと

という特殊な事例であり、ご質問のケースとは事案の性質が異なるものようです。
 これ以外に、自殺等と不動産の心理的瑕疵については、例えば、末尾のような裁判例がありますが、基本的に、自殺のあった物件以外で心理的瑕疵が認められるとしても、あくまで、自殺等のあった建物の敷地程度が限界であり、自殺によって隣地まで心理的瑕疵が認められたものはないようです。

 さらに、事案は若干異なりますが(売買契約ではなく、競売での取得の事案)、競売にて取得した土地建物の隣地で、その所有者が自殺していたことが判明した事案で、買主が売買の取り消しを求めた事案において、裁判所は、「交換価値の著しい減少があったものとまで解することができない」として、売買の取り消しを否定しました(仙台高裁平成835日決定。仮に、競売ではなく、通常の契約による売買の事案であれば、心理的瑕疵の問題として議論されていた論点かと思います。)。


以上を踏まえると、隣接地で自殺があったからといって、心理的瑕疵があるとは認められない(告知は不要)と考えられます。

【自殺等と不動産の心理的瑕疵に関する裁判例】

〇肯定例

①土地上にかつて存在した建物内での火災死傷事故(東京地裁平成2238日)

 土地の心理的瑕疵と認定

  ※自殺ではなく、事故のケース

②土地上の物置での自殺(東京地裁平成7531日判決)

 土地建物の心理的瑕疵と認定

③建物からの飛び降り自殺(東京地裁平成20428日判決)

 建物・土地売買に際して、告知しなかったことに関し、不動産業者の告知義務違
  反肯定
 ※この裁判例では、「瑕疵」という用語は用いられていませんが、実質的に、心理
  的瑕疵を肯定したものと考えられます。


〇否定例

①建築中のマンションのエレベーターシャフト内での作業員の死亡事故(東京地裁平
 成23525日判決)
 →マンションの心理的瑕疵否定

②土地上にかつて存在した建物内での焼身自殺(東京地裁平成1975日判決)
 →土地の心理的瑕疵否定
 ※8年前の事件で、建物も解体され、事件としても風化している点を指摘

③土地上にかつて存在した建物内での首吊り自殺(大阪地裁平成11218日判決)
 →土地の心理的瑕疵否定