2022年10月29日 日経新聞夕刊7頁

「佐藤九段マスク外し反則負け」「将棋の規定違反」との見出しの記事から。

「28日に東京都渋谷区の将棋会館で指された将棋の第81期名人戦A級順位戦、永瀬拓矢王座(30)-佐藤天彦九段(34)戦で、佐藤九段が対局中にマスクを着用しない臨時対局規定違反をしたため、反則負けとなった。」
「日本将棋連盟は、新型コロナウイルスの流行を受け、臨時対局規定で健康上のやむを得ない理由を除いて、対局中はマスクを着用しなければならないと定めている。」


(飛田コメント)

 おそらく佐藤九段は積極的にこの対局規定に違反してやろうと思っていたのではなく、コロナ収束に向かいつつある最近の状況や他の棋士もマスクを外して対局をし続ける例がないわけでもないこと、負けという結論が出る前に注意があってから然るべきと思われることから、終盤の難所に差し掛かっていることもあって、ついマスクを外していたということなのではないかと推測します。
法律家的にこの問題を争うとすると

1.まず、この臨時対局規定の文言が、これに違反した場合、直ちに負けという効果を
   導くものと解釈できるのか?

というところから始め、

2.条文の文言が直ちに負けという効果を導くものであった場合、そもそもそういう規
   定自体がおかしい、すなわち無効なのではないか?


というところを問題にするのでしょう。しかし、この臨時対局規定に対する上位規範(法律の世界でいう憲法)は存在しないと思うので、このような争い方は難しいのでしょう。

3.そうであれば、
 1)他にもマスクを外して対局を続ける例があるのに、それらはお咎めなしで、自分
         の対局だけ罰せられるのは不平等である。
 2)何の警告もなしに、いきなり罰するのは手続保障に反しないか?
 3)コロナの初期の時期であればまだしも、ほとんど皆がコロナワクチンを数回打
         ち、世の中全体としてもコロナ収束に向かいつつある現在において、うっかりマ
         スクを外していたら負けとするのは、罪と罰の均衡がとれていないのではない
         か?

などと理屈をつけて、何とか法的な土俵に乗るように努めますが、将棋連盟内部の規定に関することなので、(上記のような平等原則とか、手続保証とか、罪と罰の均衡などの諸原則を定める内部規定はないように思うので)、なかなか論理を組み立てるのは難しいでしょう。
 しかし、いち将棋ファンとしては、将棋ではなく、マスク着用の有無で決着がついてしまったのは非常に残念です。