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高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を必要とする業務に就いている一定の年収(年収1,075万円以上 ※現在)の労働者のうち、その労働者の同意があること等を前提に、労働基準法に定められている労働時間、休日及び深夜の割増賃金等の規定が適用されないという制度で、労働基準法の改正により、平成3141日に施行予定の新しい制度です。

それでは残業代が発生しない制度は今までなかったのか?というとそういうわけではなく、現行の制度でも、みなし労働時間制度を定めた「裁量労働制」という制度があります。
裁量労働制には①「企画業務型」裁量労働制と②「専門業務型」裁量労働制という2種類のパターンがあり、「企画業務型」裁量労働制(①)は、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を対象業務とし、「専門業務型」裁量労働制(②)は、新聞記者、デザイナー、金融商品の開発や建築士、公認会計士、証券アナリストなどの専門的な業務が対象業務となっています。
この裁量労働制が適用されると、労働者は実際に働いた時間とは関係なく、労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなされます。高度プロフェッショナル制度も、労働者が実際に働いた時間を算定しない制度です。 

また、「専門業務型」裁量労働制(②)の場合は、そもそもの業務の性質上、その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性がある業務に適用されるものですので、同じく業務の性質上労働時間の設定が難しい専門的業務を対象とする高度プロフェッショナル制度と、対象業務が重なる場合があります。

このように、高度プロフェッショナル制度と専門業務型裁量労働制は一見すると似ていますが、以下の点で異なっています。


1)みなし労働時間

専門業務型裁量労働制は、労使協定で決めた時間を働いたものとみなす制度ですので、労使協定で決めた時間がもともと法定労働時間を超えている場合には、その超えた時間分の時間外手当を使用者は支払わなければなりません。 
一方、高度プロフェッショナル制度は、労働時間に制限はなくあらかじめ労働時間を設定するわけではないので、みなし労働時間という概念はありません(法定労働時間が適用されないので、時間外手当という発想はありません)。


2)深夜勤務手当と休日手当

専門業務型裁量労働制においても、深夜労働(午後10時~午前5時の労働)や法定休日の休日労働については、みなし労働時間制は適用されず、使用者は実労働時間の把握を行い、深夜勤務手当と休日手当の割増賃金を支払う必要があります。また、所定休日(法定外休日)の休日労働においても、労働時間と同じ週の他の日の労働時間の合計が、法定労働時間である週40時間を超えた場合、時間外手当の支払いが必須となります。
一方、高度プロフェッショナル制度においては、たとえ深夜労働や休日労働を行ったとしても、労基法上の深夜労働や休日労働の制度の適用はないので、使用者は深夜勤務手当と休日手当の割増賃金を支払う必要はありません。


3)休憩時間

専門業務型裁量労働制においても、休憩時間制度(労基法第34条第1項)の適用がありますので、労使協定で定めた労働時間に対応する休憩時間(6時間を超え8時間以内なら45分以上、8時間を超えるなら60分以上)を労働者に与えなければなりません。
一方、高度プロフェッショナル制度においては、休憩時間の適用はありませんので、使用者がわざわざ休憩時間を与える必要はありません。


4)年収要件

高度プロフェッショナル制度には専門業務型裁量労働制とは異なって、適用するためには、業務内容の要件以外に年収要件(年収1,075万円以上)があります。

 

使用者にとっては、上記(1)~(3)を考えなくてよいため、業務要件(アナリスト業務やコンサルタント業務等)と年収要件(4)をいずれも充たすのであれば、専門業務型裁量労働制よりも、高度プロフェッショナル制度のほうが使い勝手が良いと思います。
また業務要件・年収要件を充たすような労働者にとっても、深夜労働禁止・休日労働禁止されて労働時間を制限されると、かえってやりにくい方もいると思われますのでので、そういう方は専門業務型裁量労働制よりも、高度プロフェッショナル制度のほうを選択することになるのではないでしょうか。

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馬場弁護士の「高度プロフェッショナル制度のメリットは?」という記事に刺激を受けての投稿です。

私は、実はこの「高度プロフェッショナル制度」を好意的に考えています。それは、私の経験に基づきます。

私は2000年から2010年まで10年間大手法律事務所で働いていましたが、そのときの状況はまさに「高度プロフェッショナル制度」が適用されるにふさわしい状態だったと思います。自分が任された案件をどのように進めるかについてはかなり裁量が認められている反面、最終的には結果が求められますので、かなり緊張感があり、拘束時間も長かったのです。が、その反面、今とは比較にならないくらい高い給料を貰っており、仕事も日経新聞の1面を飾るような案件がゴロゴロしていたので、日本経済のために頑張るというような気概もありました。月に300時間を超えて働くことはザラにありましたが、それでも、嫌でやっていたというよりは好きでやっていたという感じであり、今思い返してみてもあまりネガティブな気持ちはないのです。まして残業代が欲しいと思ったことは1度もありません。そもそも貰っている給料が残業代を欲しがるようなレベルではなかったからです。当時は高度プロフェッショナル制度などというものはなかったので、残業代のことを言い出せば請求できたかもしれませんが、誰も残業代のことなど問題にしません。このような職場においては、基本的に労働時間のみで管理される従来の雇用制度には相当違和感があり、まさに高度プロフェッショナル制度がふさわしい制度だと思います。

馬場弁護士は、一般的に言われている高度プロフェッショナル制度のメリットとして、効率的に仕事を進めることができれば、残業しないでも仕事を終えられることを紹介しながら、高度プロフェッショナル制度の対象となる業種がいずれも長時間労働で有名なことから、実際はそうならないのではないか、と反論していました。
この点、私も、高度プロフェッショナル制度の対象となるような労働者は、実態としては、かなりの長時間労働をしているのではないかと思います。なぜなら、良い成果を出すにはある程度時間が必要ですし、何より、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人は、仕事が面白くて、良い成果を残すために、自己研鑽の時間を含め惜しみなく時間を使うタイプの人が多いと思われるからです。しかし、これは仕事に集中したいというポジティブな気持ちからであって、特にデメリットとして考える必要はないのではないかと思います。
逆に言えば、「定時に帰りたい。」「もし定時を過ぎて働くのであれば残業代が欲しい。」というマインドの人は、高度プロフェッショナル制度の対象とすることに向かない人であり、そういう人を高度プロフェッショナル制度の対象にできるような制度設計は適切ではないということになるでしょう。

馬場弁護士の記事の中に、「(高度プロフェッショナルに向いているような)方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いた方が良いのではないか」という文章がありますが、良いポイントを付いていると思います。

つまり、高度プロフェッショナル制度の対象とするにふさわしい人は、会社に頼らずフリーランスとしてもバリバリにお金を稼げる人であるが、企業側に、その人を囲い込んで他社では仕事はさせたくない等の思惑があり雇用契約で縛らざるを得ない、というイメージで考えるのがわかりやすいと思います。だからこそ、高度プロフェッショナル制度のもとでは、普通のサラリーマンより高額の年収を保証しなければならないのです。会社の社長よりも高給取りということも珍しくないでしょう。

以上のように考えると、現状の1075万円という年収要件はちっと低いのではないかという気がします。

大企業などでは、通常のサラリーマンでも1075万円くらいの年収を得ている方はそれなりにいますし、また、法律事務所のような専門職の職場では、新人弁護士で1075万円を貰っていることがあるとも聞きます。これらの方のマインドがサラリーマン的なものであれば、高度プロフェッショナル制度を適用するのは気の毒と言わざるを得ません。

したがって、私としては、高度プロフェッショナル制度の年収要件としては2000万円が良いのではないかと思っています。2000万円の年収があれば、1つの会社からしか収入を得ていないサラリーマンであっても確定申告が必要であり、税務的にももはや普通のサラリーマンではありません。残業代が欲しいという年収額でもないでしょうから、高度プロフェッショナルとして認める一つの指標になると思うのです。

皆さんはどう思われますか?

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