タグ:強制執行

 個人の方の相談を受けているときに多い質問に、「金銭の支払いを求める裁判を起こそうと思っているのですが、裁判で勝ったら、裁判所が相手のお金を探して、取り立ててくれるのですか?」というものがあります。

 このような質問が出てくるのは、裁判所が相手に対して金銭の支払いを命じる判決を出すことから、当然それを実現してくれるのだろうという期待が生まれるためだと思いますが、実際のところ、残念ながら裁判所が相手の財産を探してくれることはありません。

 金銭の支払いを命じる判決が出た場合、原告は、強制執行という手続きを取り、相手の預金や給料を差押えて相手の代わりに弁済を受けたり、相手の財産を換価してその代金の一部を受け取ったりすることでお金を回収することができるようになるのですが、この強制執行の対象になる財産は、原告自身が裁判所に申告しなければなりません。
 つまり、預金を差押えたい場合には、どの銀行・支店に相手の銀行口座があるのかを、給料を差押えたい場合には、相手がどの会社に勤めているのかを、車を差押えたい場合には、相手の車がどのような車種・ナンバーでどこにあるのかといったことを、裁判所に申告する必要があります。

 裁判所はこの申告に従って差押命令を出すことになり、申告された財産が本当に存在しているのか、申告された以外の財産が存在しているのではないか、といったことの調査はしません。(申告どおりに財産が見つかった場合には、申立人はその財産からお金を回収できますし、申告された内容の財産が存在しない場合には差押えは空振りに終わり、費用だけがかかることになります。)

 ですので、訴訟を起こす前に、仮に勝訴判決が出た場合に備えて、強制執行できそうな財産があるか洗い出しておくことが重要になります。

 このとき、真っ先に見つかりやすいのが、不動産や車といった大きな(?)財産なのですが、これらを強制執行の対象とする場合には相当な費用がかかるので注意が必要です。不動産の場合は40~100万円程度、車の場合は10万円程度のお金を、強制執行の申立の段階で裁判所に預け入れるように求められることが多いです。このお金は強制執行の費用等に充てられ、費用に充てられた分は後に相手から取り立てることができるのですが、相手からの取立がうまくいかなければ申立人の負担になってしまいます。

 ですので、このような費用がかかる財産だけでなく、預金や給料といった債権がないかも確認しておいたほうが良いでしょう。(一部金融機関については、勝訴判決を得た後に、弁護士会照会によって預金の有無を確認できる場合があります。)

 訴訟を起こす人にはそれぞれ目的があり、相手に反省を促したい、訴訟を起こすことで和解に繋がる可能性がある、といった事情があることもありますので、相手の財産が見つからないからといって訴訟提起を諦めなければならないわけではありません。ですが、強制執行可能な財産がありそうかどうかということは金銭の支払いを求める訴訟を起こすべきかどうか判断する上で重要な要素になります。
 訴訟を検討する場合には、ぜひ参考にしていただければと思います。

3月末から4月頭にかけて何かと忙しく、すっかりブログの更新が滞ってしまいました。ブログのup体制を整える必要がありますが、新しい記事を仕込むには時間がかかりますので、今回は、3月号の弊事務所メルマガに掲載した記事をちょっと修正してアップさせていただきます。

私は、企業法務(General corporate)と不動産(Real property)を専門にしていますが、この両者の範囲がかなり広いので、顧問先の会社等から、それこそ種々雑多な相談が持ち込まれ、リサーチに難儀することがあります。ちょっと前のことになりますが、こんなケースの相談を受けました(かなりデフォルメしています。)。

(相談内容)
ある会社の従業員の給料について、裁判所から差押通知書が送られてきて(消費者金融の会社が、強制執行により差押えをしてきたとのことです。)、その後に、さらに税務署から差押通知書が送られてきました(この従業員は税金を払っていなかったので、税務署が滞納処分に基づき差押えをしてきたのです。)。
このような場合、どのように処理すればいいのでしょうか?


ある程度実務の経験を積んだ弁護士であれば、この種の問題はよくありますので、比較的「答え」を見つけ出すことは簡単です。強制執行による差押えと滞納処分による差押えが競合しているので、こういうときには、「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律」(以下「滞調法」といいます。)という法律を調べてみようということになり、その法律を調べると、第36条の61項に、はじめに強制執行による差押えがあって、その後に滞納処分による差押えがあったときには、第三債務者(本件の場合は会社)は、債権の金額を供託所に供託しなさいと書いてあります。したがって、弁護士の回答としては、「供託すればよいです。」などと答えることになるでしょう。

しかし、このケースの問題は、「差押禁止財産」に関連していました。
強制執行による差押え(裁判所による差押え)は、民事執行法という法律に基づいて行われ、滞納処分による差押え(税務署等による差押え)は、国税徴収法という法律に基づいて行われるものなのですが、両法は、差押えを受ける人の最低限の生活にも配慮して、差押えをすることができない財産(一般にこれを「差押禁止財産」と言います。)についても定めています。本件の差押対象財産である給料(債権)についても、当然のことながら給料(債権)は、最も生活保障に直結するものですので、差押禁止の範囲を定めています。

しかし、あまり知られていないのですが、民事執行法と国税徴収法とでは、給料(債権)について、差押禁止の範囲が異なっているのです(理由はよくわかりません)。

どういうふうに異なっているのかと言うと、民事執行法上は、給料の4分の3は差押えることが禁止されますが(ただし「4分の3」が月額33万円を超えるときは、33万円を超える部分は差押えることができます。民事執行法第152条第1項、同法施行令第2条)、逆に言えば、どんなに給料の額が少なくても、4分の1については差押えることができるのです。
それに対して、国税徴収法の方は、①月額10万円及び②生計を一つにする配偶者や子供等の親族がいる場合には一人当たり45000円、さらに③給料から所得税等の法定控除額を控除した額の100分の20の合計を差押禁止財産にしているため(国税徴収法第76条第1項、同法施行令第34条)、給料の額が少ないと全額差押えができないということも生じるのです。

本件がまさにそのようなケースでした。強制執行による差押え(消費者金融の差押え)の方は、たしか23万円は差押えできる部分がありましたが、滞納処分による差押え(税務署による差押え)の方については、差押え可能額はなかったのです。
しかも、問題はさらに根深いのです。
このケースの場合、強制執行による差押えが過去半年ぐらい続き(実務上、「請求債権が完済されるまで」という表示をして、1回の差押えでその後の給料をずっと差押えすることが認められています。)、今回でようやく完済できるところでした。しかし、今回、滞納処分による差押えもあったということで、これを滞調法第36条の61項に基づき供託しなければならないとすると、供託したお金については、裁判所によって配当表が作られ、差押債権者に対し配当が実施されるわけですが(滞調法第36条の101項)、この場合、租税債権優先の原則(税金は、一般の債権よりも優先して弁済しなければならないという原則のことです。国税徴収法第8条)から、常に税務署の方が優先しますので、消費者金融の債権は完済にならず、いつまでたっても差押状態が続くということです。単独で差押えれば、差押可能財産がないとして不奏功だったはずなのに、たまたま消費者金融の差押えが先行していたということで、税務署としては、「棚から牡丹餅」的な利益を受けることになります。会社としては、今回で差押えは終わりだと思っていたのに、税務署の差押えがあったばかりに(しかも、その税務署の差押えは単独の差押えであったら、差押可能部分がないので無視できたのに)、今後23年間税金が完済されるまで毎月供託をしなければならないというはめに陥ります。

そこで、私がリサーチすることになりました。テーマは、「先行する強制執行による給料債権の差押えには差押可能部分があるが、後行する滞納処分による差押えには差押可能部分がない場合、滞調法第36条の61項の適用があるか?」ということになります。

しかし、弊事務所の少ない蔵書の中には、この問題の手掛かりとなる文献はありませんでした。そこで、弁護士会の図書館に行き、滞調法や供託法関係の文献をあたってみたのですが、やはりこのテーマを扱っている文献は見当たりません。さらに、最近ではネットから有益な手がかりを取得できることがありますので、ネット上も調べてみましたが、残念ながら、この問題に直接回答するような情報は得られませんでした。そこで、関係する行政機関に電話で問い合わせをしてみたのですが、行政機関により、結論が違っていたりして、余計にわからなくなってしまいました。

私としては、「ちょっと困ったぞ」という感じでしたが、事務所で考えていても始まらないので、思い切って、最終的に九段下にある東京法務局の窓口相談に行き、聞いてみたところ、既に廃刊となっている「登記インターネット」という雑誌の20091月号(109号)102頁~106頁にこの問題が論じられていることを教えていただきました。このような資料を知っているのは、まさに、東京法務局供託課だなと感心した次第です。そこには、TMというイニシャルの筆者がこの問題を論じており、差押可能額の重なり合いがなければ、滞調法第36条の61項の適用はないとの解釈論が展開され、さらに、その結論が、昭和61年度全国供託課長会合における協議問題決議や昭和55年名古屋高裁管内民事事件担当裁判官等協議会議結果とも一致していることが示唆されていました。
そこで、私は、単に「私がそう思うから、こうだ」などとアドバイスするのではなく、文献を示しながら、自信を持って「滞調法第36条の61項の適用がない」とクライアントにアドバイスすることができました。

なかなかお目にかからないような問題でしたので、紹介させていただく次第です。ご参考になれば幸いです。

↑このページのトップヘ