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来年(2020年)4月1日から施行される改正民法の151条には、「協議を行う旨による時効の完成猶予」の条文が新設されています。
長くなりますが、条文を引用すると次のとおりです。



(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から1年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第1項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第1項の合意がその内容を記載した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を準用する。
5 前項の規定は、第1項第3号の通議について準用する。

このような時効完成猶予事由を新設した理由については、法務省で民法改正を担当していた筒井・松村著『一問一答 民法(債権関係)改正』49頁によれば、「旧法の下においては、当事者が権利をめぐる争いを解決するための協議を継続していても、時効の完成が迫ると、完成を阻止するためだけに訴訟の提起や調停の申立てなどの措置をとらざるを得ず、当事者間における自発的で柔軟な紛争解決の障害となっていた。そのため、このような協議を行っている期間中は、時効が完成しないように手当をする必要がある。」とのことです。

また、単に協議をしているという事実状態のみでは足りず、当事者間で協議を行う旨の合意をしていることが必要なのは、同書によれば、「どのような状態に至れば協議といえるかは不明瞭であるのに対して、協議を行うことを対象とした合意の存否であればその判断は比較的用意であり、事後的な紛争を招きにくいから」ということのようです。

さらに、書面又は電磁的記録による合意を要件にしたのは、「事後的に時効の完成猶予がされたか否か等をめぐり分省が生ずる事態を避けるため」とのことです。もっとも、書面又は電磁的記録の様式自体には制限はないから、署名や記名押印が必要であるということではなく、「また、一通の書面である必要もない。例えば、電子メールで協議の申し入れがされ、その返信で受諾の意思が表示されていれば、電磁的記録によって協議を行う旨の合意がされたことになる。」とのことです。

で、ここからは私の意見ですが、この「協議を行う旨による時効の完成猶予」は、実務で使われるようになるでしょうか?

実は、私は、あまり使われないのではないか、と思っています。

売掛金の請求などの権利の存在がはっきりしているものは、まずは、請求書や内容証明を送付して、支払いの催告をするでしょうから、催告による時効の完成猶予の効力が発生し(第150条1項)、その後に、支払いのスケジュールのために協議を行おうということになっても、第151条第3項により、この合意による時効完成猶予の効力を有しません。したがって、この制度は、当事者間で権利の存在について争いがあるような場合に利用されるのかな、と思うのですが、そもそも権利の存在について債務者側が争っている場合には、債務者側は協議にはのってこないでしょうし、さらに協議に時効完成猶予効があるなどと知ったら、一層、協議をすること自体を拒否してくると思うのです。強いて言えば、権利の存在自体には争いはないが、その金額について争いがあるような場合には、「権利についての協議」ができそうですが、その場合にも、通常は、まずは債権者側が内容証明等で権利主張をするでしょうから、はじめに催告が行われることになるのではないかと思うのです。

まぁ、使われるか使われないかは、実際に改正民法が施行されて数年たたないと分かりませんが、実務家としての経験からすると、「使われないんじゃないかな~」と思います。
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森友学園、加計学園、共謀罪といったニュースに押されて世間的にはあまり大きなニュースにはなりませんでしたが、去る平成29年5月26日に改正民法案(債権法関係)が国会で成立いたしました。

 実は、今の民法(債権法関係)は、明治29年(1896年)4月に成立したもので、今回の改正は約120年ぶりの大改正だったのです。1896年というと、まだ日清戦争が終わった1年後で、アメリカではユタ州が45番目の州になり(ちなみに、ハワイがアメリカの自治領になったのは1898年のこと)、アテネでは第1回夏季オリンピックが開催され、日本の東北には明治三大大津波が押し寄せてきて2万人の死者が出ています。日本で鉄道(新橋・横浜間)が初めて走ったのは1872年(明治5年)と比較的早いのですが、電話回線(東京・熱海間)が初めて敷設されたのが1893年、自動車が作られるようになったのは1910年代になってからです。今は平成29年ですが、私なぞはまだ昭和の気持ちで生活していますので、おそらく明治29年当時もまだ江戸時代の気持ちで生活していた人も沢山いたことでしょう。

 というわけで、今の民法はとてつもなく古いので、「錯誤」とか「瑕疵」とか古めかしい言葉が残っているし、その後の時代の変化によって条文の文言どおり解釈するとうまくいかなくなったところを判例で補っているので、条文だけを読んでも結論がよくわからないなどという不都合があります。さらに、民法制定時には想定していなかったようなインターネットなどというものの発達もあったり、もうかなり時代遅れな法律になっていたのです。そこで、一般の人が読んでも意味がとれるようにしたり、これまで判例でつぎはぎ的に補ってきた解釈を条文だけで解釈できるようにしたり、さらに新しい時代に対応する制度を設けたりしたのが、今回の大改正なのです。

 ちょっと一例をあげると、債権を行使しないと債権が消滅してしまう消滅時効期間。これまで原則として10年でしたが、飲食代金や弁護士報酬などは何故か2年であったりとバラバラだったのです。そこで今回の改正で一律5年に統一されました。

 次に、履行遅滞の場合の利率。これまでは5%でしたが、デフレの低金利時代には高すぎますので3%に引き下げられました。また、3年ごとに見直す変動制がとられることになります。

 さらに、連帯保証制度の見直し。「他人の保証人にはなるな!」を家訓としている家があるように、良かれと思って保証人になってしまうと人生を狂わせるような過酷な事態が生じることがよくあります。そこで、これからは、公証人が保証人の意思を確認しないと、保証は認められないことになります。公証人の確認というプロセスで一息入れることで、本当に保証人になっていいものか考える機会を与えるのです。

 加えて、敷金返還のルール。これまで、民法には敷金に関する規定がたったの1条(619条2項)しかなく、しかもとてもざっくりしたものだったのですが、この改正により経年劣化に伴う修繕費については賃借人が負担しなくても良いことなどが明文化されました。

 また、インターネット通販など不特定多数の消費者に提示される「約款」に関する規定も新たに設けられました。消費者の利益を一方的に害すると認められる内容のものは無効とすると定められて消費者保護が図られています。

 この民法改正案は、2009年に法制審議会に諮問されてから、5年以上かけて改正要綱案にまとめられ、2015年3月に国会に法案が提出されました。しかし、安保法案とか、その時々の政局があって、審理が延び延びになっていたものが、ようやく先日可決されたものです。法曹関係者の中には、現在の民法を変える必要がないなどという人もいましたが、やっぱり古かったと思います。改正民法は、公布から3年以内に施行されるとのことですので、まだまだ我々の生活に適用されるようになるのは先ですが、法曹の一人として、この民法の運用を通じて少しでもより良い社会を実現していかなければと思います。

 我々の事務所でも、契約書のひな型の見直しや新しい民法の適用に関する情報を適宜発信していく予定です。こうご期待!

 

 

 

 

 

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