20171119日付日経電子版において、厚生労働省が、未払い賃金債権の時効期間を2年から5年へと延長する方針であることが報道されました。年内に、学識経験者らによる検討会を設置し、来年夏に労働政策審議会にかけて、法改正が必要となれば、2019年に法案を国会提出、20年施行を目指すとのことです。

どの条項の見直しを検討するのかというと労働基準法115条(のはず)です。同条は、

 ・賃金、災害補償その他の請求権は2年間

 ・退職手当の請求権は5年間

行わない場合には消滅することを規定しており、(現行)民法の特則として位置付けられています。
すなわち、民法では、一般の債権の時効は10年(民法167条)とする、と同時に、短期消滅時効として、月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権は1年(民法1741号)と定めていましたところ、月給や日給などの労働者にとって重要な給与(賃金)債権の消滅時効が1年では短すぎるだろう、ということで、「2年(退職手当については5年」という特則を設けていたのです。

今回見直しが検討されることとなったわけですが、そのきっかけは、既に成立した民法改正です。
民法は、改正によって、今まで細かく規定されていた短期消滅時効の制度は廃止され、非常にシンプルに、「債権者が権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年間、「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年間行使しないときは消滅すると整理されました(改正民法1661項)。
そうすると、今まで、賃金債権の消滅時効について、

  労働基準法2年 > 民法(短期消滅時効)1

と規定されていたのが、

  労働基準法2年 < 改正民法5年(10年)

という構図に変わってしまうことになります。逆転してしまうのです。

そこで、今回、改正民法に併せて、

  労働基準法5年 = 改正民法5

と見直すことが検討されるに至ったのです。

仮に5年に延長された場合の実務への影響ですが、改正民法の経過措置と同様に、法改正前に発生した賃金債権については遡及しないと思われますので(法改正時に要チェック)、今回の見直しによって未払い残業事件が増加する、といった事態は生じないと考えます(過払い金事件のような現象は生じないでしょう)。
私が、影響としてパッと思いつくのは2点。
1つは、年休への影響です。労働基準法115条は、(争いがあるものの)行政通達や裁判例によれば、年休請求権にも適用されると解されますので(それ故、年休は年度の繰り越しが認められる)、これが5年まで延長されるのか否かは改正時の検討にも含まれるべき論点であると思います。
もう1つとしては、M&Aのデューデリジェンスにおける労務関係の調査時に、2年ではなく5年間遡って、債務の有無を確認する必要が出てくるといった影響が生じるように思います。

冒頭の日経電子版の記事の中では、英・仏は2年、ドイツは3年となっており、一般的な債権の時効期間より短めであることが紹介されておりますので、民法の債権の時効期間より短く設定する(2年間を維持する)という結論になる可能性もゼロではないですが、私としては、その結論を維持する理由(例えば、取引の安全、債務者側の負担など。)に乏しいと思われますので、5年に延長されるのではないかと推測しています。