タグ:無期転換ルール

大手予備校(福岡校)が、長年講師として働いてきた労働者(有期労働契約)を、無期転換ルールの適用直前になって雇い止めを行い、その雇い止めについて、福岡労働局が「雇い止めが無効の可能性がある」と指摘したというニュースがありました。
(毎日新聞:https://mainichi.jp/articles/20181024/k00/00m/040/210000c

「無期転換ルール」とは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルールです。このルールは労働契約法第18条で規定され、同条は平成2541日以後に締結した労働契約に適用されます。

この無期転換ルール「逃れ」のために、今後雇い止めが増えるのではないかと懸念されていましたが、やはりこのようなニュースが出てきました。

私がこのニュースを見て気になったのは、①労働者の年齢と②今までの契約更新事情という点です。

①まず労働者の年齢について、今回雇い止めされた労働者は68歳であり比較的高齢の方ですが、実は無期転換時の年齢については注意する必要があります。
というのも、仮にこの方に無期転換ルールが適用されて、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換した場合には、定年の問題が生じることになるからです。

無期転換後の労働者に適用される就業規則を準備していない場合には定年の規定が適用されませんし、仮に60歳定年の規定がある就業規則が適用されたとしても、無期転換時に60歳を超えている労働者については、60歳定年の定めは適用がないものとして扱われてしまいます。

これはどういうことかというと、無期転換時に60歳を超えている労働者については、いわば「定年なし」の状態になり、会社は、労働者自身が退職を申し出るか、心身の故障等の解雇事由が発生しない限り、その労働者を雇用し続けなければならないことになってしまうのです。

このような事態を回避するにはどうすればいいか?というと、無期転換後の労働者に適用される就業規則をきちんと準備しておく必要があります。

無期転換後の労働者に適用される就業規則に60歳定年の規定を定めておき、さらに、例えば「無期転換権を行使した有期雇用労働者で、無期雇用契約開始時に満60歳以上の者については、無期転換後2年間で定年とする。」といった内容の定年規定を置くことで、事前に対処が可能です。

今回の大手予備校はきちんと就業規則を整備していなかったと予想していますが、定年だけでなくその他の労働条件についても、会社の運用に沿った内容を定めた無期転換用の就業規則を作成しておくことが望ましいでしょう(無期転換後の就業規則の作成については当事務所で扱っておりますので遠慮なくご連絡ください。)。

②次に今までの契約更新事情についてですが、今回ニュースになった方は、29年間も講師として働いており、雇い止めの直前は1年契約を6回更新しており、また今回雇い止めされるまで特に会社から指導等はなかったという事情があります。

このような事情があったため、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるとされた結果、雇い止めの無効の指摘がなされたので、無期転換ルール適用直前の雇い止めであれば、全て無効になるという判断が今回なされたわけではありません。
すなわち、無期転換ルール適用直前の雇い止めであっても、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」がないのであれば(かつ同条1号に該当しない場合)、雇い止めは有効になりますのでこの点は留意する必要があるでしょう。

とはいえ、そもそも無期転換ルールが作られた趣旨は、労働者が雇用の安定している無期労働契約に転換できるという労働者保護の観点が大きいため、この無期転換ルールがあるために雇い止めが助長される等、契約更新の足枷となってしまっては本末転倒です。また今回労働局も「無期転換ルールを意図的に避ける目的で雇い止めをすることは、法の趣旨に照らして望ましくない」と指摘しています。

したがって、今後の無期転換ルール適用直前の雇い止めについては、従来では契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるに至らないとされる段階であったとしても、今までよりも労働者保護の判断(雇い止め無効)に行政・司法とも移行していくものと予想しています。

今年の41日から、労働契約法第18条に規定されている無期転換ルールが開始されました。
まだ始まったばかりなので、実際に無期転換の申込みがどの程度行われているのか、使用者と労働者との間で何らかの問題が生じている等の報告やデータは集まっていませんが、今後使用者と労働者との間で生じるおそれのある問題を挙げていきます。

①業務形態の偽装

有期雇用契約から無期雇用契約に転換できるいわゆる「無期転換申込権」は、労働者側にイニシアチブがあるので、無期転換申込権の行使を防ぎたいと考えている使用者がいるかもしれません。
無期転換申込権は、有期労働契約が通算5年間を超えた場合に発生しますが、「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約」であることが前提なので、無期転換申込権が発生しないように、間に派遣会社を入れて派遣契約にシフトすることや、請負契約にチェンジすることが考えられます。

すなわち、派遣契約にすれば、使用者は派遣会社になるので、「同一の使用者」との間で有期労働契約を締結していることにはならず、この場合には形式的には無期転換申込権は発生しないようにも思えます。
しかし、そもそも派遣契約では特定目的行為(派遣労働者を特定する行為)は禁止されているところですが(労働者派遣法第26条第6項)、形式的に使用者を変えるだけの行為を行ったとしても、結局通算契約期間の計算上の「同一の使用者」とみなされることになると解されます。
(厚生労働省・平成24810日付基発08102号「労働契約法の施行について」では、このような行為は「法を潜脱するもの」であると指摘しています。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002hc65-att/2r9852000002hc8t.pdf)

また、仮に請負契約にチェンジしたとしても、「労働者性」の有無は、あくまでも実質的に判断されますので、実態としては労働契約であるとして、「同一の使用者」との間で有期労働契約があったとみなされることになるでしょう。

②無期転換申込権の不行使条項

無期転換申込権の行使を防ぐために、有期労働契約に無期転換申込権の不行使を定めることや、無期転換申込権の不行使を契約更新の条件にして更新することが考えられます。

労働者が同意をしているのだから許されるのではないか、というわけにはいかず、雇止めを恐れる労働者の足元を見て得られた同意であり、実質は使用者が無期転換申込権の放棄を強要しているに過ぎないと裁判所にみなされる可能性があります。

このような行為は、結局労働契約法第18条の脱法行為であり、無期転換申込権の不行使条項や、更新の条件である無期転換申込権の不行使条件は、公序良俗に反して無効になると解されます。

③無期労働契約の労働条件の低下

労働者が無期転換申込権を行使すると、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)になるに過ぎず、その他の労働条件は従前と同一となります。

もっとも、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能であり、労働契約法第18条も「別段の定め」があれば可能であると明記しております。この「別段の定め」は、就業規則や労働協約、個別の労働契約が該当します。

この部分を利用して、事実上無期転換申込権の行使を防ぐために、例えば無期転換行使後に適用される就業規則が、従前適用されていた就業規則の労働条件から著しく低下するような内容にすることが考えられます。

結局そのような就業規則は、労働契約法第18条で無期転換申込権を定めた趣旨を没却するものとして、就業規則に要求されている合理性を満たさず(労働契約法第7条)、当該就業規則の適用がなされないと考えられます(それ以外の既に規定されている就業規則のほうが適用される)。

無期転換ルールが開始された今、なんとか無期転換申込権の行使を防ぎたいと考えている方がいるかもしれませんが、立法経緯からすると現状では難しいと思います。
無期転換ルールについては、上記の想定される問題や、その他の問題が生じる可能性があり、今後もその動向に注目していきたいと思います。

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