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定年後の再雇用と労働契約法20条の問題が争われた事案の控訴審(東京高裁)判決が、2日に出されました。運送会社のトラック運転手が、定年前と同じ業務であるにもかかわらず、賃金を引き下げられたのは違法であるとして、会社を訴えた裁判です。

 

私は、今年5月の労働者側が勝訴した第一審(東京地裁)判決も、メルマガ+ブログの記事に取り上げさせていただきました。

http://blog.tplo.jp/archives/47690816.html

この記事の中で、私は、第一審判決の判断について、以下のとおり、コメントしておりました。

「若干疑問に感じたのは、財務・経営状況(に問題がないこと)についての考え方です。定年後の継続雇用は、本来定年で退職になるけれども、年金との接続を図るため雇用を確保することを目的とするものですから、仮に危機的な財務・経営状況でなくとも、賃金コストを一定程度圧縮することは不合理とまではいえないと思われます。そこを圧縮しない(できない)とすると、継続雇用制度は非常に大きな負担になりますし、新たな人材採用等(新しい人材の雇用を確保することや現役の正社員等の待遇を確保・向上させること)が難しくなりますよね。

もちろん、同一の労働であれば同一の待遇を与えるべきであるというのは賛成なのですが、単なる有期雇用ではなく、定年後の再雇用という事情を考慮しながら、判断要素に従って、慎重に不合理性を判断すべきだと思います。

(中略)労働条件の相違が『不合理と認められる』と本当にいえるのかどうかが慎重に判断されなければなりません。

菅野教授も指摘しているとおり、労働契約法20条は、『合理的と認められるものでなければならない』と規定されているのではなく、『不合理と認められるものであってはならない』と規定されていることからすれば、不合理かどうか判断できない場合には、違法とはならないと考えるべきであり、同条の解釈としては『本条の趣旨に照らして法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものであってはならないとの意味』と理解するのが適切でしょう(菅野和夫著『労働法 第11版』337頁以下参照)。」

 

さて、今回の東京高裁の控訴審判決は――。

結論としては、控訴審判決は、第一審判決を取り消し、労働者側の請求を棄却しました。要するに、第一審判決をひっくり返したことになります。

 

判決文を確認できていないため、報道レベルですが、控訴審判決は、以下のような考慮・判断をし、「不合理とは言えない」と結論づけたようです(ちなみに、杉原則彦裁判長とのことなので、東京高裁の第12民事部です。)。

 

・定年前と同じ仕事内容で賃金が一定程度減額されることについて、一般的で、社会的にも容認されている

・企業は賃金コストが無制限に増大することを避け、若年層を含めた安定的な雇用を実現する必要がある

60歳以降に賃金が低下した場合に補填する制度(高年齢雇用継続給付など)がある

・定年後の再雇用は、いったん退職金を支給した上で新規の雇用関係を締結するという特殊な性質がある

・会社が再雇用の労働者に「調整給」を支払うなど正社員との賃金差を縮める努力をしたことや、退職金を支払っていること、会社の運輸業の収支が赤字になったとみられることなどを考慮。

・賃金が定年前と比べて約2024%下がったことは、同規模の企業が減額した割合の平均と比べても低い。

 

第一審判決よりも、継続雇用制度の特殊性を考慮したものであると感じました。もっとも、同判決も、継続雇用制度による再雇用であれば、いかなる条件であっても労働契約法20条に反しないと判断しているわけではありません。今回の控訴審判決は、上記の報道レベルからもわかるとおり、会社の経営状況や賃金の減額の程度等の具体的事情を踏まえての判断であることは明らかですので、「定年後の再雇用は労働契約法20条の問題は生じない」というようなミスリードをしないよう、注意が必要であると考えます。

 

労働者側は、上告するとのことですので、最高裁がどのような判断をするのか、引き続き注目したいと思います。

1 はじめに

 前回の私の記事(http://blog.wisdom-law.com/archives/2754293.html)では、高年齢者雇用安定法の改正にかかわる建議についてご紹介いたしました。

 その際、「継続雇用をする際に、労働条件の合意ができず、結果として継続雇用に至らなかった」というケースに関し、私見も述べさせていただきました。

 実は、この問題は、現行の高年齢者雇用安定法の中でも問題となるケースです。そこで、この問題について今回はさらに丁寧に私見をまとめてみたいと思います。

 

2 問題の所在

 まずは、事案を設定します。

 

60歳定年制のX株式会社に勤める正社員Yさん。Yさんは、60歳を迎え、定年退職することになりました。もっとも、Yさんは、X社が就業規則に定めている継続雇用制度に沿って、継続雇用を希望しました。

Yさんは、就業規則に定められた継続雇用対象者基準を満たすのですが、X社は、継続雇用する者の雇用形態は契約社員と就業規則で定めており、Yさんに対しても期間を1年とし(更新前提)、契約社員として採用する旨打診しました。

ただし、その労働条件は、他の契約社員の平均月給(手取り18万円)やYさんが継続雇用後担当する業務の内容や時間を考慮したうえで、手取り18万円を提案しました。

 

Yさんとしては、定年退職直前の平均月給(手取り30万円)を基準とすると大幅に下がることから、納得しかねるということで、X社に対して、条件を上げるように求めました。

X社とYさんは、何度か面談をし、交渉をしたのですが、結局条件の点で折り合えませんでした。

Yさんは、X社が継続雇用を拒否したとして、X社に対して地位確認請求、賃金支払請求及び損害賠償請求の労働審判の申立てをしました。

 

 このような事案で、Yさんの請求について、どのように考えたらよいでしょうか。

 

 確かに、Yさんの給料が40%も減額されてしまいます。ただ、業務内容や時間からしたら不相当ともいえないのであれば、会社が提示した条件も合理性があると考えられますよね。それに加えて、例えば、このX社の経営環境は厳しく、定年退職者を継続雇用しないという訳にはいかないもののその労働条件はかなり低いものを提案せざるを得ないという事情があるとしたら、ますますX社に言い分があるように思われます。

 

 この継続雇用の問題は、会社の経営に大きな影響を及ぼす問題(若年者雇用の妨げになる等も議論されていますよね)であり、何が何でも継続雇用、とりわけ労働条件も下げてはいけないという考えは、究極的には、会社経営を逼迫させ、今まさにその会社に勤められている労働者全員の雇用さえを失う危険性を帯びております。

 このような考え方から、(私も継続雇用を安易に拒否していいとまでは全く思っておりませんが、)せめて、使用者側に、労働条件を柔軟に決定できる強い裁量が認められてしかるべきなのではないかと考えています。

 

3 政府見解及び裁判例

 政府や裁判所はどう考えているのでしょうか。

 

 厚生労働省は、ホームページ上で「改正高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」を公開しており、下記のような見解を示しています。http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/qa/ 


Q8 本人と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反になるのですか。

A8 改正高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、改正高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。

 

 つまり、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示しているかどうかがポイントということになります。

 

 裁判所はどうでしょうか。2つの裁判例を紹介いたします。 

  • 西日本電信電話定年制事件控訴審判決(東京高裁平成221222日判決・判時2126-133)では、「同法〔雇用安定法〕912号の継続雇用制度は、年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保という同法の目的に反しない限り、各事業主において、その実情に応じ、同一事業主による継続雇用に限らず、同一企業グループ内による継続雇用を図ることを含む多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解される。また、賃金、労働時間等の労働条件についても、労働者の希望及び事業主の実情等を踏まえ、各企業の実情に応じた労使の工夫による多様で柔軟な形態を許容するものと解される」と判示されています。
     そして、同判決では、労働者側の「最大3割の賃金削減は労働者に著しい不利益を課すものである」との主張につき、①激変緩和措置が存在する、②会社においては人件費の削減を含むコスト構造の見直しなど経営合理化が必要であった、③労使の利害を調整した上で本件制度導入が合意された、④本件制度は、必ずしも従前と同一水準の賃金を確保することまで要求されるものではないことを勘案し、「賃金水準が被控訴人〔労働者〕在職時より下がることをもって同一労働・同一賃金の原則に反するとはいえない」として斥けています。

  •  NTT東日本事件控訴審判決(大阪高裁平成221221日判決・労経速2095-15)においても、「高年雇用安定法912号の継続雇用においては、高年齢者の60歳以降の安定した雇用を確保するための措置を講じることによって、年金開始年齢までの間における高年齢者の雇用を確保するとともに、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことを可能とする労働環境を実現するという、同法9条の趣旨に反しない限り、各事業主がその実情に応じて多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解すべきものであり、上記継続雇用によって確保されるべき雇用の形態は、必ずしも労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用であることを要せず、従業員の希望や事業主の実情等を踏まえた多様な雇用形態を含むと解するのが相当である」とされています。
     そして、同判決では、労働者側に「再雇用型を選択した従業員が転籍先の地域会社で受領する賃金は、転籍前の賃金から20ないし30%ダウンする」等の不利益があることを認定しながらも、会社が「安定した経営の継続が危ぶまれる状況」であったことから、労働者側に課せられる「本件不利益は、その必要性や合理性が認められる以上、再雇用型が本件不利益をその内容とするからといって、これが高年雇用安定法の継続雇用制度の趣旨に反するものと認めることは躊躇せざるを得ない」としました。

 

4 私見

 これらの裁判例においては、「裁量」というワードは用いられておりません。

 上記東京高裁判決の「賃金、労働時間等の労働条件についても、労働者の希望及び事業主の実情等を踏まえ、各企業の実情に応じた労使の工夫による多様で柔軟な形態を許容」という表現からは、裁量が認められるのか不明瞭です。

 他方、大阪高裁の判決は、「各事業主がその実情に応じて多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容している」と表現しており、使用者サイドの裁量を前提にしているように感じます。

 私としては、大阪高裁の判決の方にシンパシーを感じますし、さらに進めて明示的に「裁量」を認めるべきであると考えています。

 もちろん、使用者側に裁量が認められるとしても、無制限に許されてはいけませんので、上記判例が行っているように、①その労働条件により労働者が被る不利益と、その労働条件を示す必要性や合理性との利益衡量(具体的事実を検討しながらどっちに天秤がふれるか)、②手続面(交渉過程)についても労使間の交渉を踏んだかどうかという方法で、使用者側の行為が許容されている裁量の範囲から逸脱しているか否かを判断すればよいのではないかと考えています。

 使用者側の代理人となったら、裁判所に対して、しっかりと主張していきたいと思っています。

 

 今後、高年齢者雇用安定法が改正され、希望者全員が継続雇用されるようになったら、ますます使用者側から提示する労働条件は低くせざるを得ない状況になりますので、「継続雇用と労働条件」に関する問題が今以上に増えてくるでしょう。

 使用者としては、まず、自らが提示する労働条件について、その合理性及び必要性をしっかりと労働者にプレゼンし交渉していくことが(後々紛争となった場合には、裁判所に対して説得的なプレゼンをしなければならないという観点からも)大切だと思います。

 

 今年(平成24年)1月6日、労働政策審議会が、厚生労働大臣に対して、厚生労働省設置法第9条第1項第3号の規定に基づき、「今後の高年齢者雇用対策について」と題する建議を行いました( http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001zl0e.html  )。 
 本ブログでも取り上げました、昨年12月の「有期労働契約の在り方」に関する建議に続き、これも注目すべき建議といえます。

 建議は、以下の2点について、法的整備も含め所要の措置を講ずることをその内容としています。

 1 希望者全員の65歳までの雇用確保措置 
 2 生涯現役社会の実現に向けた環境の整備

 このうち、1の「希望者全員の65歳までの雇用確保措置」に関して、建議の内容を、補足しながら、わかりやすく紹介しておきたいと思います。そして、単なる紹介にとどまることなく、法改正後にも生じることが予測される「交渉決裂ケース」について、私見を発表しておきたいと思います。
 建議の全文を把握されたい方は、下記URLにアクセスしてください。

 ご存知の方も多いと思いますが、現在の高齢者雇用安定法(正確な名称は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S46/S46HO068.html )は、その第8条で「事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、60歳を下回ることができない。」と定めています。

 この法定定年年齢(60歳)を65歳に引き上げて継続雇用を実現すべきであるという意見もありうるところですが、建議では、
(1) 直ちに法定定年年齢を引き上げることは困難である。この問題に関しては、……中長期的に検討していくべき課題である。
として、いわば「見送り」となっています。

 現行制度においても、高年齢者雇用確保措置として、定年年齢を65歳としている会社もありますが、ほとんどの企業は「継続雇用制度」を導入していると思われます。その根拠となっているのが、高年齢者雇用安定法第9条です。

第1項 定年(65歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
 ①  当該定年の引上げ
 ②  継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
 ③  当該定年の定めの廃止
第2項  事業主は、当該事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、前項第2号に掲げる措置を講じたものとみなす

 上記第9条第2項は、事業主が「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」(いわゆる「対象者基準」)を定めることを許容しています。 現在の実務では、この条項に基づき、継続雇用の対象を限定的にしていることが多いです。
 建議は、この点に触れ、
(2) しかし、現行制度では65歳までの希望者全員の雇用を確保することとなっていない。これにより、2013年度からの老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の引上げに伴い、無年金・無収入となる者が生じることのないよう、……雇用と年金を確実に接続させるため、現行の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は廃止することが適当である。
と提言しています。ただし、(2)に関して、
就業規則における解職事由又は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する者については、〔希望者であっても〕継続雇用の対象外とできるとすべきである(この場合、客観的合理性と社会的相当性が求められると考えられる)。  ※〔〕部分は私が補記
と述べており、「何が何でも継続雇用の対象となる」と言うわけではなく一部の例外を認めています。
 また、対象者基準の廃止という基本的な立場に対して、
使用者側委員から、①現行法9条2項に基づく継続雇用の対象者基準は、……安定的に運用されていることや、基準をなくした場合〔つまり、希望者全員が継続雇用の対象となるとすると〕、若年者雇用に大きな影響を及ぼす懸念があるから、引き続き当該基準制度を維持する必要がある、②仮に、現行の基準制度の維持が紺案な場合には新しい基準制度を認めるべき、との意見が出された  ※〔〕部分は私が補記
ことから、
(3) 老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢の段階的引き上げを勘案し、雇用と年金を確実に接続した以降は、できる限り長期間にわたり現行の9条2項に基づく対象者基準を利用できる特例を認める経過措置を設けることが適当である
とも述べています。一定の経過措置がとられることになると思われます。
 なお、継続雇用の受け入れ先に関しては、
(4) 同一の企業の中だけでの雇用の確保には限界があるため、〔当該企業に限られず、〕①親会社、②子会社、③親会社の子会社(同一の親会社を持つ子会社間)、④関連会社など事業主としての責任を果たしていると範囲  ※〔〕部分は私が補記
に拡大すべきとしています。確かに、これは一定の規模を持つグループ企業には有効ですが、中小企業の多くは、その"恩恵”を受けにくいように思われます。
 制裁や罰則に関しては、
(5) 全ての企業で確実に措置が実施されるよう、指導の徹底を図り、指導に従わない企業に対する企業名の公表等を行うことが適当
とされています。
 その他、政府の責務についても提言していますが、基本的には上記以上のことは提言されていません。例えば、継続雇用する場合の労働条件は定年を迎える前と同一でなければならないといったようなことは書かれていないわけです。

 具体的なケースとして、対象者が継続雇用を希望した場合に、会社も継続雇用を前提に一定の労働条件を示したときに、対象者が「その条件は嫌です。」といって交渉が決裂した場合はどうなるか、私は、この点が実務的に非常に重要な問題であると考えています
 この問題に対する直接的な解答を、上記建議は与えてはいないと考えられます。

 そこで、現段階における私の意見を簡単に述べておきたいと思います。
  1.  まず、法律が改正されたとしても、「継続雇用をする際に、その労働条件は定年前と同一でなければならない」という規定は置かれないと思います。というのは、そのような規定は、実質的には、上記建議にて見送られている「法定定年年齢の引き上げ」にほかならないからです。

  2.  そうすると、会社が強いて「継続雇用後の労働条件は同一とする」といった就業規則等を定めていない限り、原則として会社には、同一の労働条件で労働契約を締結する義務はなく、労働条件を決定する自由(裁量)があると解すべきです。

  3.  つまり、継続雇用を希望する労働者が、会社が提示した労働条件を拒否して、結果的に継続雇用契約が成立しなかった場合でも、会社は継続雇用義務を果たしているとして、会社の行為が無効とされ(労働者の希望する労働条件での継続雇用契約が成立し)たり、不法行為になったりすることはないと考えるべきであると思っています。

  4.  もっとも、会社が提示する労働条件が(相対的又は絶対的に)あまりに低すぎる場合、労働者との交渉が非誠実であるなど手続的に問題がある場合等は、実質的にみて会社が法の要求する継続雇用義務を果たしていると評価しえず、会社の行為が裁量逸脱ないし権利濫用であるとして、違法無効とされ(労働者の希望する労働条件又は一定の合理的な労働条件での継続雇用契約が成立し)、不法行為を構成することになると考えられます。

  5.  紛争になり、裁判所が、上記3なのか4なのかを決する場合には、会社が提示した労働条件はどういう内容であったのか、他方労働者が提示した労働条件はどういう内容だったのか、当該労働者がそれまで受給していた給与の額や将来受給する予定である年金受給額、会社と労働者との交渉経過、他の継続雇用者との比較、継続雇用制度の運用状況や慣行、会社の経営状況等が考慮要素になると考えられます。

  6.  したがって、会社側は、労働者に提示する労働条件は、上記5の考慮要素に気をつけながら決定することが望まれます。そして、労働者との交渉は、面談するとしても書面も併用し、万が一紛争となった場合に備えて証拠化しておくのが望ましいと考えられます。

  7.  一点補足説明しておくと、私は、労働条件で交渉が決裂して労働契約が成立に至らなかった場合には「解雇権濫用法理の類推適用」ないし「雇止め法理」による判断枠組みは適用されるべきではないと考えています。というのは、(実質的に「継続雇用の拒否」と評価できる労働条件を提示している場合は別として、)会社側は雇用契約の締結自体を拒否しているわけではないからです。上記の法理による判断枠組みのような厳格な判断はなじまず、一定の合理的な労働条件を提示したにも労働者側が承諾しなかったのであれば、何ら違法ではないという緩やかな判断をすべきであると考えています。

 以上の点は、反論が十分にあり得るところですし、私の個人的な見解にすぎません。この点は、現行制度下における現在の裁判例に関する検討を含めて、別の機会に記事として取り上げられたらと思います。

 なお、会社側の意思表示及び労働者側の意思表示のどちらを、「申込み」「承諾」と解するかについて、私なりの見解をまとめているところです。これもまた、別の機会に発表できたらと考えています。

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