本

作家橘玲(たちばな あきら)氏の最新作『臆病者のための裁判入門』(文春新書)を読んでみました。橘玲氏といえば、近時、『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』とか『(日本人)』などの話題作を世に出した人気作家です。さすがに、この本も、我々の常識を覆すような情報が満載されており、弁護士である自分自身が読んでもとても面白かったです。以下、3点ほど感想を書いてみたいと思います。

1. この本の前半部分は、橘玲氏が、外国人の友人の損保会社に対する少額の損害賠償請求訴訟等に、補佐人等として関与した体験をまとめたものです。簡易裁判所の民事調停が役に立たなかったり、訴訟(裁判)提起にあたり簡易裁判所と地方裁判所をたらい回しにされたり、地方裁判所で当事者が争点としていない点について不意打ち的な判決を受けたりと、様々な気の毒な体験をしますが、これらの部分については、弁護士である私にとっては、「さもありなん。」という感じでした。しかし、裁判の経験のない人にとっては、とてもリアルで面白いでしょう。

2. この本の冒頭に出てくる『本人訴訟』のデータには驚きました。弁護士が代理人に付かずに当事者本人が訴訟を遂行する訴訟のことを『本人訴訟』といいますが、昨年終結した事件のデータで、地方裁判所の通常事件の30%しか原告・被告双方に弁護士の代理人が付いた事件がなく、あとの70%は、原告・被告のいずれか又は双方に弁護士が付いていない本人訴訟とのことです。これが簡易裁判所になると、全体の97%超の事件で、原告又は被告のいずれかが本人であり、60%近くが原告・被告双方とも本人。さらに、簡易裁判所で行われている少額訴訟手続の97%が原告・被告双方とも本人訴訟であるといいます。業界では、今「弁護士の数が増えて仕事が無くなった」などと言われているのですが、実は、実は、司法の世界には、弁護士未踏の広大な領域があることになります(ただ、この分野を仕事に結び付けることはとても難しい…)。

3. この本の後半部分には、何故、弁護士代理人を付けるような裁判があまり利用されていないのか?という疑問に対する答え(もしくはヒント)が書かれています。それは、

① 米国におけるディスカバリーのような制度がなく、当事者に事実調査の方法がない(真実追求に対する当事者の満足が得られない)

② 強制執行制度が機能しておらず、判決を得ても、相手方が財産の名義を変えてしまうような不誠実な人であると、「判決はケツ拭く紙ほどにも役に立たない」と言われてしまう(判決を得ても実効性がない)

③ 弁護士と依頼人とのマッチングができていない(これは、弁護士法により弁護士紹介業が禁止されていることが大きいと思います。)

というような分析がなされています(もちろん、この本自体は、このような疑問に直接答える形をとっていないので、あくまでも私がそのように読んだということです。)。

これらの問題点については、既に議論されているところだと思いますが、至極もっともな意見であるように思いますので、民事訴訟法学者には大いに研究してほしい分野ですし、我々も声を大にして改正を求めていかなければならないと思っています。

以上