タグ:著作権侵害

2022年11月18日 日経新聞朝刊2頁

「ファスト映画 賠償5億円」「無断で短縮版 再生1回200円算定」「東京地裁命令 利益大幅に上回る額」との見出しの記事から

2人は2020年に日活や東宝など13社が著作権を持つ映画54作品を編集、動画投稿サイトで公開し約700万円の利益を得たとされる。
判決は映画会社側の主張に沿い、動画再生1回あたりの被害額を200円に算定。2人に請求全額にあたる5億円の賠償を命じた。2人は刑事でも有罪が確定している。


(飛田コメント)
 インターネット時代になり、安易な著作権侵害が横行し、それによってクリエイターが稼ぐことができず、結局、優秀な人たちが映画界に集まらず優れた作品もできなくなって、最終的に(回りに回って)損をするのは我々一般の人間ではないかと思いますので、著作権侵害については厳しい対応が必要ですね。この判決が安易なファスト映画編集やアップロードに対する抑制として働けば良いと思います。
 我々見る側も、安易に動画投稿サイトに違法にアップロードされている映画を見たりすることはやめなければなりませんね。
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(当事務所の11月号のメルマガに載せた記事ですが、ブログにもupさせていただきます。)

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27日の日経新聞に、作家の東野圭吾さん、浅田次郎さん、漫画家の弘兼憲史さんら7名が、本や漫画を私的に電子化する「自炊」(じすい)を請負う自炊代行業者7社を、著作権侵害を理由に東京地裁に訴えたことが報道されていました。昨年の12月にも、東野圭吾さんらは、自炊代行業者2社を訴えましたが、このときは、業者側が要求を受け入れたため、訴えを取り下げたとのことです。しかし、今回の7社は、前回の提訴後も事業を継続しているので、「極めて悪質」と判断して、今回の訴え提起になったとのことでした。

「自炊」とは、何かというと、書籍や雑誌の背表紙と真ん中の頁と頁を繋げている部分(ノリがついた部分)を裁断して、1頁ずつばらばらにしたうえで、スキャナーにかけて、PDF等の電子データにすることです。電子データ化された書式は、コンピューターやipadkindleなどで読むことになります。

むかしは、このようなことができるとは夢にも思いませんでしたが、スキャナーとPDFソフトの進化により、素人でも簡単にできるようになりました。

まず、この問題を法的に説明すると、自炊する際には、複写の方法により有形的に再製することが伴いますので、著作権法第第2条第1項第15号が定義している著作物の『複製』に該当し、本来的には、著作権者(著者)の許諾がなければできないはずです(著作権法第21条参照)。

しかし、著作権法第30条は、

「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、〔中略〕その使用する者が複製することができる」
と例外を定めていますので、私的使用目的のために、自分自身が自炊を行う分には、適法と理解されています。

では、自分で自炊するわけではなく、自炊代行業者にやってもらう場合はどうなるのでしょう。

この点については、自炊代行業者が行うときには、①「その使用する者が複製」していないから違法であるという見解と、②自炊代行業者はその使用する者の単なる手足に過ぎず、その使用する者が複製していることには変わりがないから、適法であるという見解に分かれ、今はまだ判例はないものの、どちらかというと違法説の方が強く主張されているという感じであります。

ただ、ちょっと私が不思議に思うのは、自炊代行業者の存在は作家にとって本当に有害なのか? という点です。

確かに、紙の本が電子データ化され、それが違法又は不正に流通するようになると(電子データなので紙より違法又は不正に流通しやすいため)、紙の本が売れなくなったり、また、(既に電子データが出回っているため)将来、紙の本が電子化されたときにその電子書籍が売れなくなったりする可能性が考えられます。

しかし、これからの世の中、紙の書籍は確実に電子書籍化されて、kindleipadで読まれるようになっていくはずです。そのような流れの中で、一般の家の本棚の中にある書籍も、一部のマニアは別にして、電子化されなければ捨てられていく運命にあるのではないでしょうか(かつて一般家庭にあった大きなステレオとレコードのコレクションが小さなコンポとCDのコレクションとなり、いまやipod一つになったように・・・)。

作家の目からすれば、どうせ捨てられてしまうのであれば、作品が電子化され、一人でも多くの人の目に触れるような状態にしておいた方が、作品が再評価される可能性もあるのだし、幸せなのではないか?と思うのですが、いかがでしょう?

そんなに自炊をしたいのであれば、自分で自炊すれば良いと言うのかもしれません。しかし、実は、自炊は大変なのです。

私は、20108月に西村あさひ法律事務所を退職したとき、事務所の部屋に置いていた法律雑誌と書籍を電子データ化しようとして、当時一番性能がよいと言われていた裁断機とスキャナーを買い込み、自宅でせっせと自炊を始めました。しかし、1PDF化するのに、裁断の時間も含めると、少なくとも1015分位はかかりますので、1時間で多くて6冊、110時間やって60冊くらいが限界です。法律雑誌と書籍とで合計1000冊以上はありましたので、結局私が全てを自炊し終わるのに、まるまるひと夏をつぶしてしまったという経験があります。

実質的な論点としては、著作権法第30条が私的使用目的による例外を認めているのは、私的使用目的の複製であれば著作物の複製が著作権者に与える影響は少ないと考えられるからですので、「自炊代行業者を野放しにしておくと、紙の本が売れなくなり、将来電子化されたときに電子書籍も売れなくなる」というような可能性が、どれだけ客観的に認められるのか、というところで勝負が決まるように思われます。この点を科学的、定量的に証明する方法はないですかね?
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