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2018年11月19日の日本経済新聞に、「旧基準の大型建物、25年までの回収難しく」との見出しの、興味深い記事がありました。この記事によると「旧耐震基準の大規模建物で、震度6強以上の地震により『倒壊・崩壊する危険性が高い』と診断された全国1千棟のうち、耐震改修・除却計画の策定が4割弱にとどまっている」「国は2015年までに全ての建物で耐震性不足の解消を目指しているが、達成は難しい状況だ」とのことです。

 

地震大国である我が国では、建物の耐震性は非常に重要な問題ですので、平成7年に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」を制定し、さらに最近の改正では、ホテル・旅館・百貨店・映画館などの大保建築物のオーナーに対し建物の耐震診断を行い、自治体にこれを報告することを義務づけました。そして、自治体にこれを公表することを義務づけ、倒壊・崩壊の危険性が高い建物については、建物のオーナーが、耐震改修・除却計画を作成することを促進しています。今回の報道は、この耐震改修・除却計画が進んでいないことを報道したものなのです。

 

ところで、私はこの問題が報道されるたびに思うのが、建物にテナントが入居している場合に、建物のオーナーが耐震改修または建て替えのため賃貸借契約を解除できるか?ということなのです。耐震診断が義務化されている建物は大型建物なので、多くの場合テナントが入居しています。はたして耐震改修や建て替えのためにそのテナントを立ち退かせることができるのでしょうか?ということです。法的には、借地借家法という法律があって、賃貸人が賃貸借契約の更新拒絶をしたり、中途解釈をするには「正当な事由」が必要とされますので、その「正当な事由」が認められるか?という問題として定式化されます。

 

この点、弊事務所の馬場弁護士の協力を得ながら、これまでの耐震と正当事由の関係を調査したところ、次のような判例の傾向にあることがわかりました。

(1)老朽化がかなりの程度進行し、崩壊の危険性を有する場合や構造上の安全性を確認できない場合には正当事由が認められる。

(2)建物の改築の必要性が差し迫っていない場合であっても、早晩改築が必要となるときや、消防法上の改善指導を受けているような場合であれば、立退料の補完があれば正当事由が認められる。(耐震改修の必要性があるというだけではダメで、立退料の支払が必要であるところがポイント)

(3)建物が老朽化しておらず、崩壊の危険性が認定できない場合には、正当事由が認められない。

 

で、今回の報道により「倒壊・崩壊する危険性が高い建物」とされたといっても、震度6強以上のかなり大きな地震が起きることが前提ですし、現時点で実際に使用されている建物がほとんどですので、上記の分類からすると、(2)に分類されるものが大部分だと思われます。そうすると、弁護士的には、現行法上、立退料に関する金額の基準がなく、まさにケース・バイ・ケースの判断になるので、賃借人と立ち退きについて合意するまでにかなりの費用と時間を要することになるという点が頭の痛いところなのです。本当は急いで耐震改修をしなければならないのに、賃借人の立ち退きがうまくいかなくて、なかなか耐震改修ができないということも起きてきます。

 

そもそも借地借家法上の賃貸借契約を終了させるためには「正当事由」が必要との建て付けは、太平洋戦争後、住宅供給が逼迫して、賃借人保護が強く叫ばれたときにつくられたもので、現時点では、時代にマッチしないものとなっています。また、「立退料の補完」などといわれても、肝心かなめの立退料の算定基準が定められておらず、ゴネ得を許す(つまり、賃借人が居座って時間をかせぐと賃貸人が困って立退料を上げざるを得ない)ようなシステムになっています。

 

私は、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」を作っておきながら、借地借家法の「正当事由」について手当をしていないのは手落ちだったと思います。この点はいずれ必ず問題になってくると思います。国全体で耐震問題を考えなければならないときなので、この問題は何とかしなければならないでしょう。

私は数年前に賃料保証会社の仕事を比較的多く行っていたことがあります。
その際に、問題となっていたのが、借家人が賃料の延滞を開始してから、どのタイミングで賃貸借契約を解除するか?ということでした。
賃料保証会社では、借家人から一定の保証料を支払っていただき、借家人の家主に対する賃料の支払いを家主に対して保証します。
たとえば、借家人が一時的にお金がなく、家主に月末に賃料を支払えなくても、翌月の15日あたりに賃料保証会社が家主に賃料を立替払い(代位弁済)をしてくれるわけです。これにより、借家人としては、賃貸借契約を解除されて、借りている部屋から退去しなければならない、というような事態を避けることができます。

しかし、当然のことながら、賃料保証会社としても、ビジネスとして保証をしているわけですので、保証期間には限度がありますし(一般的には6か月?)、1度でも延滞すれば賃料保証会社から借家人に督促が入り、3ヶ月も延滞すれば、(通常、賃料保証会社と家主との間で合意書が締結されているのが普通ですので)賃料保証会社の主導のもと、賃料保証会社が用意した弁護士が賃貸人の代理人となり、賃貸借契約の解除の通知が送られるということになります。また、言うまでもありませんが、借家人は賃料保証会社が立て替えた賃料を、賃料保証会社に支払わなければなりません。

しかし、ここに難問がありました。

賃貸借契約書には、借家人が1回でも(又は2回以上)賃料の支払いを怠ったときは賃貸人は賃貸借契約を解除することができる、などという条項があるのが通常ですので、この場合、当然解除が認められるのではないかと思いがちなのですが、賃料保証会社が翌月には賃料の代位弁済をしている関係から、賃貸借契約自体は債務不履行となっていない(または債務不履行状態が常に解消される。)とも考えられるのです。
そこで、裁判所に建物明渡訴訟を提起すると、20件に1件くらいの割合ですが、裁判官から、「賃貸借契約が債務不履行になっていないのだから、解除は認められないのではないか?」ということを言われたことがあったのです。このような裁判官の見解は、契約書に基づく解除の問題と、民法541条に基づく債務不履行解除の問題と、いわゆる信頼関係破壊の議論とがごっちゃ混ぜになっており、本来的にはおかしいと思うのです。
しかし、1審で論争して、2審でさらに結論をいただくなどということをしていては、コストがかかってしかたありませんので(その間借家人は無償で住み続けるのが通常です。)、実務では、3ヶ月延滞後はいったん保証会社の立替払いを止め、債務不履行状態を発生させてから賃貸借契約の解除通知を送付するとか、月末から翌月15日ころまでに債務不履行状態が生じている期間を狙って、解除通知を送付する、などという工夫を行っていました。


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