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2019年7月7日の朝日新聞デジタルに、次の記事が上がりました。

 

「JASRAC、音楽教室に『潜入』2年 主婦を名乗り

音楽教室での演奏から著作権料を徴収しようとしている日本音楽著作権協会(JASRAC)が、職員を約2年間にわたって『生徒』として教室に通わせ、潜入調査していたことが分かった。9日には、両者の間で続く訴訟にこの職員が証人として出廷する予定だ。…JASRAC側が東京地裁へ提出した陳述書によると、職員は2017年5月に東京・銀座のヤマハの教室を見学。その後、入会の手続きを取った。職業は『主婦』と伝え、翌月から19年2月まで、バイオリンの上級者向けコースで月に数回のレッスンを受け、成果を披露する発表会にも参加した。」

https://www.asahi.com/articles/ASM756DFSM75UTIL041.html?iref=pc_extlink

 

 この訴訟の争点について、上述の朝日新聞の記事では「訴訟では、教室での講師や生徒の演奏が、著作権法が定める『公衆に聞かせる目的の演奏』に当たるかどうかが争われている。」と書かれていますので、JASRACは、音楽教室で講師や生徒が曲を演奏することが、著作者の「演奏権」(著作権法第22条)の侵害に当たると主張し、その証拠として、教室に潜入した職員の証言を提出しようとしているようです。

 

 著作権法第22条には「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上映し、又は演奏する権利を専有する。」との規定があり、著作権者以外の者が、無断で「著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上映し、又は演奏する」ことは、原則としてできないことになっています。

 

 もっとも、既にお気付きのとおり、著作権者以外の者が一切著作物を演奏できないというわけではなく、「公衆に直接…聞かせることを目的として」演奏する場合に限って著作権侵害になりますので、おそらく、上記訴訟では、①音楽教室の講師や生徒が「公衆」に当たるか、②授業内での演奏が「公衆に直接…聞かせることを目的にして」に当たるか、といった点が争われているものと予想されます。

 

 これらについて、訴訟の中で具体的にどう争われているのか分かりませんが、私としては、講師の演奏にしろ生徒の演奏にしろ、授業内での演奏は、その曲を他の出席者に聞かせることが目的ではなく、その曲に使われている楽器の奏法を練習したり伝達したりすることが目的になっていることが多いと思うのです。そのため、音楽教室での演奏を「公衆に直接…聞かせることを目的にし」たものと考えるのには、原則として、かなり違和感があると思います。

 

 いずれにしても、音楽教室での曲の演奏については、著作権法上グレーゾーンが多いとされてきましたので、今回、裁判所がどのような判断をするか注目されます。

 

 ところで、なぜ今回この事件を取り上げたかと言いますと、実は、私も今、ヤマハの音楽教室に通っていまして、通い始めて1年半くらいになります。通っているのは銀座の教室ではないのですが、事務所が近いので、銀座の教室を見に行ったこともあります。

 それだけに、このニュースを初めて見たときは結構ショックで、同じクラスの仲間がJASRACの調査員だったらどうしよう、実は私も演奏権を侵害していた?などと考えてしまいました。それに、講師の立場で見てみれば、2年も指導した挙げ句、実は裁判の証拠集めに利用されていただけと知るとは、かなりショックが大きかったでしょう。

 法的な問題を超えて、印象に残った事件だったので、今回のテーマにしました。

 

 JASRACとヤマハの訴訟については、一弁護士としても、一ヤマハの音楽教室の生徒としても、興味深いと思っていますので、今後も動向を注視したいと思います。

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夫又は妻が相手方(つまり妻又は夫)と離婚したいのに、話し合っても離婚の合意に至らない、つまり協議離婚ができない場合、それでも離婚したければ、家庭裁判所で離婚調停をしなければなりません(調停前置主義。家事事件手続法257条)。調停でも離婚の合意ができず、それでも離婚したければ、離婚訴訟をすることになります。
 

ところで、離婚調停では、調停を申し立てられた相手方(夫または妻)が、おうおうにして調停期日に出頭してくれない、ということが起こります。そもそも、任意の話し合いで離婚に応じなかった相手方ですので、裁判所における話し合い(調停)も拒否するというのが主な理由のようです。調停では、調整役の調停委員が、申立人と相手方の間に入って話し合いを進めてくれますが、最終的に、申立人と相手方の双方が、離婚に合意しなければ調停は成立しませんので、相手方が期日に出頭してくれなければ、手続き自体が無駄に終わってしまうことになります。

 

この点、法的に説明すると、一般的に、調停を申し立てられてた相手方には、調停に出頭する義務があると解釈されており、正当な理由がなく出頭しない当事者に対しては、家庭裁判所が5万円以下の過料(罰金みたいなものです。)を課すことができます(家事事件手続法第258条第1項、第51条第3項)。しかし、私の経験上、家庭裁判所が、この過料の制裁を発動したケースを知りません。おそらく、裁判所としては、そこまで「おおごと」にするよりも、離婚訴訟の方に移行してくれということなのでしょう。裁判所によっては、書記官から相手方に電話をするなどして出頭を促していただけるときもありますが、裁判所によって運用はまちまちであり、また、そのような電話があっても出頭しない相手方もいます。

 

では、そのような場合はどうするか?というと、結局、調停を不成立(不調)にさせて、速やかに、離婚訴訟を提起するしかないと思っています。離婚訴訟では、被告が欠席していたとしても、手続きを進めることは可能であり、裁判官が、原告提出の証拠により、「離婚事由」(民法第770条第1項)があると判断すれば、離婚の判決を得ることができます。

ちなみに、少々専門的になりますが、離婚訴訟では、通常の訴訟とは異なり、被告(相手方)が答弁書も提出せずに欠席した場合に、訴状に記載した原告(申立人)の主張した事実について、認めることが擬制されるという擬制自白の制度はありませんので(人事訴訟法第19条第1項)、被告の不出頭が見込まれるときでも、離婚原因(民法第770条第1項に規定されている不貞行為、悪意の遺棄など、婚姻関係を継続しがたい事由のことです。)について、しっかりした証拠を提出しておく必要があります。

 

というわけで、結論としては、相手方が調停に出頭しなくても、調停を不調にして離婚訴訟を提起し、最終的には訴訟で「離婚事由」の存在を立証することで離婚することができます。

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