説得の論理3つの技法 (日経ビジネス人文庫)

草野弁護士が昨年12月に出版された『会社法の正義』を読んで、その高度な内容に感銘を受けたことは以前の書評に書かせていただきましたが、再び草野弁護士の本を読みたくなり、アマゾンで購入してみました。

この本は、草野弁護士が、1997年5月(今から15年も前です。)に講談社より刊行された『日本人の知らない説得の技法』という本を、2003年1月に改題のうえ文庫化したものとのことです。実は、私が弁護士登録したのは、1997年3月ですので、ちょうどそのころに出版されていたことになります(全然知らなかった。)。

で、どうだったか?ですって。

この本も素晴らしい! とても高度な内容なのに、非常にわかりやすくて、失礼ながら弁護士とは思えない。人を説得しなければならない職業に就いている人にとってはバイブルとなり得る本ですし、そうでない人にとっても、一般教養本として十分に楽しめる本だと思います。(どれくらい売れたのかは知らないのですが)この本は、もっと人々に読まれるべきだと思いました。

この本の「あとがき」(314頁)によると、そもそも草野弁護士は、学生時代に、自らが選択した法律学が科学でないことについて知的コンプレックスを感じていたとのことです。法律解釈額は、真実の発見を目的とした営みではないため、自分と違う「答え」を出した人に対し、その答えが間違っていることを示す絶対的根拠は存在しない。数学や物理の勉強に慣れ親しんだので、そのような法律学の「非科学性」に強い失望をいだいた、というのです。

実は、(私は数学や物理のことはわかりませんが)私も法律学について同じ思いを抱いていました。このことは、『会社法の正義』の書評に記載したとおりです。

しかし、草野弁護士は、この本を書いた当時において、次のように述べています。

「法律家となって18年目を迎えた今日、私は自分の仕事に知的コンプレックスを感じてはいない。〔中略〕率直に言えば、実社会での経験を通じて、人間の知性ないしは理性の果たす役割についての視野が広がったからだと考えている。」

「たしかに法律家は真理の発見に仕えるものではない。しかし人間が発見しうる真理とはしょせんわずかなものであり、我々は、真理と呼ぶにはほど遠い不確かな知識や、それ以上に不確かな「価値」の問題をあれこれ考えながら日々の生活を送っている。人間はそのような日常の営みにおいてもできる限り理性を働かせたいと願っており、理性の力をその表現手段である言語を用いて他人に及ぼしたいと考えている。説得とはこのような営みであり、法律家の仕事の中心もまたここにある。法律家は法律という巨大な行為規範の体系を手掛かりとして説得を行うものである。法律解釈学の任務は、法律家が行うこの説得の技法を研究することだ。それは決して科学ではないが、人間の理性の営みとして十分な存在意義を持つに違いない。そう考えるようになったのである。」

そして、草野弁護士は、余暇にラテン語の勉強をするようになり、古代西洋で盛えた説得の技法(Ars Persuadendi)の魅力や歴史等を知り、「現代社会に生きる人々の役に立つような説得の技法を私なりに体系化してみようと考えるに至〔り〕」、この本を書いたというのです。

いやいやいや、この本で、説得の技法がもつ、科学には包摂しえない豊饒な説得の技法の世界を勉強させていただきました。

実務の世界では、何を言ってもダメ、という相手によくぶち当たりますが、この本の技法を応用して、説得を楽しみたいと思います。

是非是非皆様にもお勧めいたします。

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