タグ:財産分与

離婚をする際の金銭的な問題としては、

① 未成年の子供がいる場合の養育費の問題

② 結婚期間中に夫または妻のどちらか一方で築いたいわゆる夫婦共同財産の清算(財産分与)の問題

③ 浮気(不貞行為)など、離婚の責任が夫または妻のどちらか一方にある場合の慰謝料の問題

の3つがあります。

そこで、今回は財産分与について説明いたします。

 

たとえば、結婚後は、もっぱら夫が働きに出て、妻は専業主婦、働いてもパート程度という夫婦の場合、自宅や預金は夫名義で行われているパターンが多いのではないでしょうか。しかし、夫が外に働きに出て財産を形成できたのは、妻の協力があったからこそ、と法律は考えます。そこで、離婚の際には、結婚期間中に夫名義で築いた自宅や預金などの財産も、実質的には半分は妻のものであるとして、その2分の1を妻に譲渡しなければなりません(2分の1というのは原則で、正確にいうと、財産に対する貢献や寄与度によって異なる可能性がありますが、今の実務では、相当なことがない限り、2分の1の割合となります)。これを財産分与(民法7681項)と言っています。

 

たとえば、結婚中に築いた夫名義の財産として、自宅(2000万円)と預金(200万円)があり、他方、妻がパートやへそくりからためた妻名義の預金(100万円)があるとします。

この場合、財産分与の基礎となる財産は、自宅2000万円+夫預金200万円+妻預金100万円ですので、2300万円ということになり、これを夫と妻で1150万円ずつになるよう分けることになります。したがって、この場合、(後述の自宅の問題がなく、お金で清算するとすれば)財産分与の問題としては、夫が妻に1050万円を支払え、ということになるのです。

 

ただ、ここで問題があります。

それは自宅には往々にして住宅ローンがついている(住宅ローンの抵当権が設定されている)、ということです。

 

まず、住宅ローンは、夫婦共同生活のための負債ですので、財産分与の算定では、マイナスの財産として評価されることになります。自宅の評価額から控除されますし、地価等の下落により、住宅ローンの残高の方が自宅の評価額よりも大きい場合(いわゆる「オーバーローン」状態)には、自宅の評価を超えて、財産分与の基礎財産から控除されることになります。

たとえば、自宅2000万円、住宅ローン3000万円、夫預金200万円、妻預金100万円の場合、プラスの財産は2300万円ですが、マイナスの財産が3000万円ですので、財産分与がないどころか、下手をすると、妻が夫に350万円(=(3000万円-2300万円)÷2)を支払えとか、(妻が有する財産の限度ということで)100万円を支払え、などと判決が出ることがあります。妻に収入がない場合、この結論は非常に厳しいので、私としては問題があるのではないかと考えておりますが、残念ながら、以上が一般的な理解です。

 

次に、住宅ローンがついた財産の分け方ですが、(a)売却して、住宅ローン支払い後に残った残金を夫婦で分ける、というのが一番公平な感じがしますが、オーバーローン状態であったり、妻側に住む場所がなかったりする場合などには、売らずに(b)名義を妻に移して、(実質的に)妻がローンを返済する方法や、(c)名義は夫名義のままにして、妻は夫に賃料を支払うというような方法などが考えられます。しかし、(b)(c)などは、夫と妻の関係が、離婚後も続くことを前提としますので、(夫と妻が対立している)裁判離婚の際の和解の際には避けられる傾向にありますし、判決になった場合には、このような複雑な分け方を記載することには技術的な問題があり、出来ません(判決主文に反映できない。)。

結局、自宅に住宅ローンがついていて、オーバーローンだったりすると、(オーバーローンの金額次第により)妻は財産分与で何も得られないし、住む場所も失われるのに対し、夫側は、毎月の収入により、銀行ローンも返済していけるので、自宅を維持できてしまうという、妻側にかなり不利になる結論が導かれるというのが私の印象です。

 

以上の不公平感は、結局、結婚中に形成された夫と妻の収入を得る力の格差が、離婚の財産分与の場面では何も評価されていないことに起因しているように思います。

この点は、今後の理論の展開により克服されるべき問題ではないでしょうか。

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マグロ

(本文とは全く関係がありませんが、先日築地市場に行ってきました。
銀座にあるウイズダム法律事務所からは歩いて10分ほどで意外に
近いのです。今度は早朝にマグロの競りを見に行きたいと思います。)

よくあるケースだと思いますが、今回の記事では、例えば、夫婦が合意の上で、または妻が夫に内緒で、子供の将来の学費や生活費の蓄えとするために、子供名義で預金をしている場合、この夫婦が離婚するときは、この子供名義の預金も財産分与の対象にしなければならないの?という問題を検討してみたいと思います。

ちょっと復習すると、財産分与(民法768条)の対象になるのは、結婚期間中に夫婦が協力して形成した財産です。したがって、結婚前から有していた財産(いわゆる嫁入り道具etc.)や相続で得た財産(相続財産)などのいわゆる特有財産は対象になりませんが、それ以外の財産は、「夫婦が協力して形成した財産」と評価される限り、財産分与の対象になります。続きを読む
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ドレス写真
(本文とは関係がありませんが、某ホテル地下のウエディングドレス屋さんの写真です。

このドレスを着ようとする人は、この以下の記事は読まないで良いです。幸せな結婚に

なることをお祈りいたします。)


今日は、離婚事件の財産分与について、実務上最も苦労する点について書いてみたいと思います。

1. 
財産分与とは、夫婦が、結婚してから協力して築いた財産を清算することです(財産の名義人から非名義人への分与という形をとる。)。例えば、夫が働きに出て、妻が家庭に入っているような場合、家や車や預金などの財産は、多くの場合、夫名義で築かれているのが通常ですが、そのような場合、夫から妻に対し、結婚してから協力して築いた財産の分与が行われます。

民法の根拠条文としては、次のとおり。

768
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

ところで、上記第768条第3項は、財産分与の額及び方法について、「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、〔中略〕定める」と規定しているだけで、どのような割合で財産を分与したらよいのか等について何も規定していません。

この点について、かつては、専業主婦であれば34割、共稼ぎや妻が夫の事業に協力している場合は5割などと言われていました。しかし、現在の実務では、専業主婦であっても原則5割の割合で財産分与額が算定されるのが通常です。

実務上、この辺のところで争っても、何か特別な事情がない限り、労多くして実少なしというところでしょう。


2. 
それよりも、実務上最も重視されるのが、いかにして相手の財産を探り当てるかというところです。

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