私は数年前に賃料保証会社の仕事を比較的多く行っていたことがあります。
その際に、問題となっていたのが、借家人が賃料の延滞を開始してから、どのタイミングで賃貸借契約を解除するか?ということでした。
賃料保証会社では、借家人から一定の保証料を支払っていただき、借家人の家主に対する賃料の支払いを家主に対して保証します。
たとえば、借家人が一時的にお金がなく、家主に月末に賃料を支払えなくても、翌月の15日あたりに賃料保証会社が家主に賃料を立替払い(代位弁済)をしてくれるわけです。これにより、借家人としては、賃貸借契約を解除されて、借りている部屋から退去しなければならない、というような事態を避けることができます。

しかし、当然のことながら、賃料保証会社としても、ビジネスとして保証をしているわけですので、保証期間には限度がありますし(一般的には6か月?)、1度でも延滞すれば賃料保証会社から借家人に督促が入り、3ヶ月も延滞すれば、(通常、賃料保証会社と家主との間で合意書が締結されているのが普通ですので)賃料保証会社の主導のもと、賃料保証会社が用意した弁護士が賃貸人の代理人となり、賃貸借契約の解除の通知が送られるということになります。また、言うまでもありませんが、借家人は賃料保証会社が立て替えた賃料を、賃料保証会社に支払わなければなりません。

しかし、ここに難問がありました。

賃貸借契約書には、借家人が1回でも(又は2回以上)賃料の支払いを怠ったときは賃貸人は賃貸借契約を解除することができる、などという条項があるのが通常ですので、この場合、当然解除が認められるのではないかと思いがちなのですが、賃料保証会社が翌月には賃料の代位弁済をしている関係から、賃貸借契約自体は債務不履行となっていない(または債務不履行状態が常に解消される。)とも考えられるのです。
そこで、裁判所に建物明渡訴訟を提起すると、20件に1件くらいの割合ですが、裁判官から、「賃貸借契約が債務不履行になっていないのだから、解除は認められないのではないか?」ということを言われたことがあったのです。このような裁判官の見解は、契約書に基づく解除の問題と、民法541条に基づく債務不履行解除の問題と、いわゆる信頼関係破壊の議論とがごっちゃ混ぜになっており、本来的にはおかしいと思うのです。
しかし、1審で論争して、2審でさらに結論をいただくなどということをしていては、コストがかかってしかたありませんので(その間借家人は無償で住み続けるのが通常です。)、実務では、3ヶ月延滞後はいったん保証会社の立替払いを止め、債務不履行状態を発生させてから賃貸借契約の解除通知を送付するとか、月末から翌月15日ころまでに債務不履行状態が生じている期間を狙って、解除通知を送付する、などという工夫を行っていました。


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