私が早稲田大学の任意サークル『ルポルタージュ研究会』に入っていたときに、一緒に活動していた長谷川さんの新刊本です。
今回は、4つの章立てがあり、野茂英雄、王貞治、福本豊、伊藤智仁という4人のプロ野球のレジェンドたちの物語を、彼らをとりまく人たちのインタビューによって浮かび上がらせています。
簡単に私の感想をコメントすると、
(1)野茂英雄
野茂のフォークは、実は回転していて、途中までストレートかフォークかわからないそうです。その技術について、野茂は次のように述べています。
「みんなが言っていたように、僕の指は短く、あまり開きません。そして、手首をロックするのはボールに回転をかけるためでした。回転をかけた方がボールは落ちると思っていたし、バウンドしたときにキャッチャーが止めやすいですし。特にシュート回転気味だとバウンドする方向がだいたい予想できるんです。」
この本には、このような一流選手の細かい技術のこだわりが書かれてあって痺れます。
野茂の章では、鈴木啓示のインタビューも私には心に残りました。鈴木啓示は、野茂が近鉄でプレーしていた時の最後の監督で、野茂とうまくいかなくて、それも一因で野茂がアメリカに行ったといわれています。
「もう少し選手のことをわかってやらなきゃいけなかったね。でも、そこまで降りていく勇気はなかった。自分を捨てなければできないのが監督という仕事。だけど、いつも《鈴木啓示》がどこかにあった。自分を捨てきることができなかった。よくしたいという気持ちがあってのことだけど、自分がやってきたことに自信があったから少し押しつけすぎたかもしれない。もっと選手の声を聞いてあげればよかった。そこは申し訳なかったと思う」
よくここまで聞けたな、と感心しました。
(2)王貞治
王の一本足打法を巡る物語を書いたものですが、王を中心に書いたものではなく、王にあこがれ、又はコーチなどの勧めもあって一本足に挑戦した、片平晋作、大豊泰昭、駒田徳広らに焦点をあてて、一本足打法を主人公にした物語です。
王の
「ホームランってね、球場中の時間が止まるんですよ・・・」「・・・時間が止まっている中で、自分だけがただ1人ベースをゆっくりと回る快感。相手ピッチャーはもうどうしょうもないんだから。その中で1人だけ動いている。その快感を1回でも多く味わいたいから、僕は練習にものめり込むことができたんだよね」
という言葉には、またまた痺れます。
大豊が、日本のプロ野球に入りたくて、台湾での兵役免除の証明書が取れる20歳まで待って来日し、さらに、プロ野球には外国人枠があるため日本人への帰化が認められる25歳まで待って、中日ドラゴンズに入ったというエピソードには感心した。よく挫けなかったな。
(3)福本豊
福本豊の盗塁があったため、クイックモーションなど同時代の投球法や牽制球が進化したという点が面白かった。
とりわけ、東尾のインタビューは面白い。
「そもそも、僕に対する彼の盗塁成功率は90%以上だった。ウエストしたってセーフになるんだから。だったら、もうボークでもいい。ボークなら盗塁の数は増えない。そのうち彼もイヤになってくる。一か八かだね。審判の目をごまかす技術を磨いていったし、キャンプのときには審判を集めて自分で何度も手本を見せて、“目の錯覚だろう。実際には方は入っていないだろう”と説明してみることもやった」
福本が2塁にいるときは、福本の足をめがけて牽制していた、などという凄い発言もあります。
東尾さんは悪人ですね(笑)
(4)伊藤智仁
最近、TVで伊藤智仁の物語が取り上げられて(youtubeでみれます。)、大反響だったようですが、そのネタ元は長谷川さんのようです。
私も、大学時代に伊藤智仁の(短期間だったけど)全盛期を実際にTVで見ていたけど、ほんとムチのように右腕がしなる投げ方で、凄いピッチャーでした。
彼の勝負球である高速スライダーの話がメインで展開され、野球好きにはたまらない。
よろしければ年末年始の読書の1冊に!